高度経済成長の一断面を描いた映画「学校」には、懸命に学ぶ若者からお年寄りまでが登場する。製作されたのは1993年である。舞台は夜間中学校。そこに勤める教師の黒井は、古狸と呼ばれるくらい長く生徒と付き合っている。「そろそろ異動、、」との校長の肩たたきに見向きもしない。生徒は皆、学習に苦戦するものばかりである。
読み書きに苦労する日雇い労働者で酒好きのイノさん、焼肉屋の働き者で在日韓国人のオモニ、清掃業の肉体労働に励む勉強嫌いのチャラチャラ少年のカズ、鑑別所から出てきた派手でヤンキー風のみどり、言葉の不自由なおさむ、不登校になったえり子、社会に馴染めない中国人の張さんなど、一癖も二癖もある生徒だ。
孤独に生きてきて初めて「学校」という和の中で生活することになるのがイノさんがこの物語の主人公である。字が書けることの喜びを実感し、女性教師に初恋をし、修学旅行でクラスメートとはしゃぐ。誰もがとっくに経験している学校生活を50代になってからようやく体験する。
この映画のクライマックスはイノさんの死である。イノさんははたして幸せだったのか、不幸だったのか、幸福とは何なのか?ということを授業で皆で話し合う。生徒は皆それぞれ違う境遇から、ユニークな発言をする。「そんなこと難しくてわかんない」、「お金じゃないか、、」、そして友情などの話題に発展する。
少なくとも学校に通っている時のイノさんは幸せそうだったことは皆が納得する。だがイノさんが幸せか不幸かなんていうのは他人が決めることではなく、イノさん自身で決めることではないか、という結論のようなことになって生徒は夜道を帰っていく。