懐かしのキネマ その90 【アラビアの女王】

20世紀初頭、イラク(Iraq)とヨルダン(Jordan)両国の国境線を決めてイラク建国の立役者となり、“砂漠の女王”と呼ばれたイギリス人女性ガートルード・ベル(Gertrude Bell) の生涯を描いた映画【Queen of the Desert】です。【アラビアのロレンス】と同様、中東における列強の植民地支配の駆け引きに疑問を抱いて活躍した女性の物語です。

ガートルードはイギリスの富裕な両親の娘です。頭脳明晰だった彼女はロンドンのクイーンズ・カレッジ(Queens College)で進んで教育を受けます。当時、ベル家のような社会階層の女子教育はもっぱら個人的な家庭教師によって担われていました。さらに珍しいことに彼女は17歳でオックスフォード大学(Oxford University)に進んで、近代史を勉強します。

Gertrude Bell

ガートルードは、ロンドンのエリート層が楽しむ社交生活に関心がありません。舞踏会、レセプション、特権的な会合に出席することは嫌いでした。有意義な人生を求めていたガートルードは、テヘラン(Tehran)で外交官をしていた叔父のところへ行くことを決心します。中近東の国に魅了されるだけでなく、ヘンリー・キャドガン(Henry Cadogan)という大使館の書記官と恋に陥ります。彼は知的な読書家であり熱心なスポーツマンで、ガートルードと同じく歴史に興味を持っていました。2人は惹かれあうようになり、ガートルードは求婚を受けます。しかし、両親は結婚相手として認めず、そのロマンスは長続きしません。

ガートルードは、持ち前の好奇心と博識によって中近東の国々の歴史を調べ、著作に専念していきます。アラビアを広範囲に旅し、アラビア語(Arabic)、ペルシャ語(Persian)、フランス語、ドイツ語に堪能になり、イタリア語とオスマン語 (Osmanlıca)を話するすようになります。彼女の知識と築いた人脈により、探検や地図作成を行い、イギリス帝国の政策立案に大きな影響力を持つようになります。アラビアのロレンスといわれたロレンス(Thomas.E.Lawrence)、オスマン帝国領事であったチャールス・ドーティワイリー(Charles Doughty-Wylie)らに出会います。やがて、共に現在のヨルダンやイラクのハーシム朝(Hashim Dynasty)を支援していきます。

彼女は、中東各地を旅して築いた部族の指導者たちとの絆から、独自の視点で中東の将来を考えていきます。そしてイラクにおける近代国家の確立とその運営に役割を果たしていきます。彼女の思想はイギリス政府関係者から高く評価され、絶大な力を発揮していきます。彼女はその後、「国王陛下の政府の代表でアラブの人々が愛情に似たものを覚えた数少ない一人」と評されるようになります。

1921年3月、カイロ(Cairo)でイギリスの植民地大臣チャーチル(Winston Churchill)の主宰により、ガートルード・ベル、コックス(Percy Cox)、そしてロレンスなどの「東洋学者」の選りすぐりのグループを招集してオスマン帝国の分割とイギリスの委任統治、イラクのような新興国家の境界を決定するためのカイロ会議 (Cairo Conference) が行われます。この会議でベル、コックス、ロレンスは第一次大戦中にアラブの反乱の扇動者で、フランスによってダマスカス(Damascus)を追放されていたファイサル(Faysal)をイラク国王とし、その兄のアブドゥッラ(Abdullah) をヨルダン(Jordan) の首長とした新国家の建設を精力的に推進します。

懐かしのキネマ その89 【理由なき反抗】

親の子に対する無理解や無関心といったテーマ性が多くの共感を呼んだのが【理由なき反抗】という映画です。大人や社会に対しての不満のはけ口を探していた当時の若者の姿を描いた作品です。

親の都合でロスアンジェルス(Los Angels) に引っ越してきた17歳の少年ジム(Jim Stark)は、真夜中に路上で泥酔していたところを警察に連行されます。彼は、そこで夜間外出で保護を受けた少女ジュディ(Judy)や、仔犬を撃ち殺したといって連れてこられたプレイトウ少年(Plato)と知り合います。3人はそれぞれ説諭され帰宅を許されます。 ジムの一家は転居続きで、つい最近この街へ来たばかりでした。彼の父親は意志薄弱で、家庭は気の強い母親がとり仕切っています。

Plato, Jim & Judy

翌朝、新しい学校であるドーソン・ハイスクール (Dawson High School)へ登校の途中、ジムはジュディに会います、彼女は不良学生のバズ(Buzz)、ムーズ(Moose)、クランチ(Crunch)らと一緒でした。その日の午後、学校の校外学習でプラネタリウムに出掛けたのですが、不良仲間に目をつけられたジムは彼らのリーダーのバズに喧嘩を売られるのです。2人はプラネタリウムの建物の外でナイフを手に喧嘩を始めますが守衛に見つかり止められたため、その夜チキン・ラン(Chickie Run)と呼ばれる度胸試しをすることになります。

崖の周りに少年たちが集まり、ジムとバズは、盗んだ中古自動車に乗って崖に向かってフル・スピードで車を走らせる命がけのチキン・ランが始まります。ジュディやバズの不良仲間が見守る中、ジムは巧く落ちる直前に車から脱出しますが、飛び出しそこねたバズは、自動車ごとそのまま谷底へ落ちていきます。呆然自失となったジムはプレイトウとジュディとともに家へ戻ります。 ジムは警察へ届けようとしますが、両親は激しく反対します。

両親を振り切って警察に出向いたジムは、少年保護係レイ(Ray)の不在を知り、警察を出て、ジュディを連れ秘かにプレイトウに教えてもらった空き家へ行きます。ムーズとクランチはジムが警察に届けるのを恐れ、プレイトウを脅してジムの居所を知ります。プレイトウはジムに警告するため、父親の拳銃を持って家を飛び出していきます。プレイトウも空き家に着ます。プレイトウを1室に残し、ジムとジュディとは空き家の別室で激しい抱擁を重ねます。

やがてジムを追うムーズたちが空き家を見つけます。一人で残されたプレイトウが見つかり追い回されます。 信頼しかけたジムとジュディに一人にされ、見放されたと思い込んだプレイトウはパニックに陥り、家から持ち出した拳銃を追手に放ち、クランチを撃ちます。間もなく空き家についた灯りに巡回中の警官が気付き、ジムの家族やプレイトウのメイド、少年保護係のレイも駈けつけます。ジムとジュディは近くのプラネタリウムに駈け込んだプレイトウを制止しようとします。

半狂乱のプレイトウはジムに拳銃を向け、警官に射殺されるのです。ジムの両親は死体に寄りすがって泣き叫ぶ我が子を慰め、この悲劇によってお互いを理解し合うのです。

懐かしのキネマ その88 【欲望という名の電車】

原題【A Streetcar Named Desire】は、劇作家テネシー・ウイリアムズ(Tennessee Williams)の傑作といわれます。それを基にした名画です。港湾都市ニューオーリンズ(New Orleans)のうらぶれた下町が舞台です。「欲望通り行き」(Desire)と表示された路面電車から、孤独な未亡人ブランシュ・デュボワ(Blanche DuBois)が降り立ちます。ブランシュは、父の死と共に南部の家を失い、アルコールに身を持ち崩して、妹ステラ(Stella)が結婚しているニューオーリンズのフランス街 (French Quarter) の家にやってきます。

ステラの夫スタンリー・コワルスキー(Stanley Kowalski) は粗暴な男で、カードと酒に狂ってはステラに暴力を振るうのですが、それでも彼女はこの男に全身を捧げています。そのような妹夫婦の日常を見るにつけ、ブランシュはスタンリーのカード仲間ミッチ (Mitch) に次第に関心を持つようになります。ミッチは母と2人暮らしの純情な独身者で、真面目にブランシュとの結婚を考え始めます。彼女もミッチに、年若の夫を失った暗い過去を打ち明けて、将来への希望を語るのです。しかしスタンリーは街の仲間から、ブランシュは17歳の少年を誘惑するなど大変なあばずれで、故郷を追われてきた女だということを聞き出して、ミッチにぶちまけます。

Tennessee Williams

ブランシュの誕生日にミッチは顔を見せず、しかもスタンリーは彼女に贈り物として故郷へ帰る片道切符を渡します。その夜ステラが俄かに産気づき、スタンリーと病院に出かけたあと、ブランシュは訪ねてきたミッチに結婚を迫りますが、彼はもはやその言葉に動かされはしません。夜更けて帰ってきたスタンリーはブランシュが1人妄想に酔っているのを見ると暴力で彼女を犯します。完全に発狂したブランシュは、紳士が自分を迎えに来たという幻想を抱いて、精神病院へ送られていくのです。

懐かしのキネマ その87 【草原の輝き】

原題は【Splendor in the Grass】といいます。青春映画の代表作の一つともいわれています。ここで紹介することにします。1928年、カンサス(Kansas) に住むバッド(Bud)と、ディーン(Dean) は高校3年生。ディーンの母親は保守的な倫理観の持ち主で「男は尻軽な女を軽蔑する、そういう女とは結婚したがらない」というのが信条で、母親にバッドを会わせづらいディーンです。

Bud & Angelina

バッドの父で石油業者のエイス(Ace) は息子がフットボールの選手であることが大自慢で、イェール大学(Yale University) に入れたがっていますが、バッドには父親の期待が心の負担になっています。父は理解あるように振舞うのですが、本能的には暴君で、姉のジェニー(Ginny)が家出して堕落してしまい、大学を追われたのも、こんな父がたまらなかったからです。バッドはひたむきなのだが、ジェニーはそれを受けとめてくれないのです。父は「女には2種類あって、時々気晴らしに遊ぶ女と、結婚する女だ。感情に任せて、責任取らされるようなことはするな」と口癖で言っています。そんなことでイライラした気持を、バッドは折にふれて乱暴な行動で爆発させるのです。ついに同級生でコケティッシュな女性の誘惑に負けてしまいます。

Splendor in the Grass

青春の悩みに苦しんでいるディーンはこの事件でショックを受け、ワーズワース(Wordsworth)の詩の授業の途中に教室を抜け出し、川に身を投げるのです。滝に落ちかける手前で、救助に飛び込んだバッドのおかげで死を免れたディーンは精神病院に入院します。父の希望通りイェール大学に入ったバッドは、勉強にも身が入らず、酒ばかり飲み、あげくにアンジェリーナ(Angelina) というイタリア娘と結ばれてしまいます。大学は退学寸前のところまできています。

おりしも、1929年の世界大恐慌(Great Depression)がやってきます。エイスは恐慌からの大打撃を隠して息子に会い、女をバッドの寝室に送り込んだりします。その夜窓から飛びおりて自殺するのです。ディーンは病院で知り合ったジョニー(Jonny)という若い医師と婚約します。退院してから、ディーンはバッドが田舎へ引込んで牧場をやっていることを知り訪ねて行きます。バッドがアンジェリーナとつつましく暮らしているのに接し、2人は穏やかな気持ちで再会するのです。

懐かしのキネマ その86 【エデンの東】

原題は【East of Eden】といい、旧約聖書(Old Testament) の創世記(Genesis) に登場するカイン(Cain)とアベル(Abel)の物語を下敷きにしたジョン・スタインベック(John Steinbeck)の同名小説を映画化した作品です。創世記における最初の夫婦であるアダム(Adam)とイヴ(Eve)の息子がカインがです。カインは農業に従事していましたが、彼の捧げた作物を神は喜ばず、神はカインよりもアベルを寵愛します。嫉妬によりカインは弟を殺します。後にカインは人類最初の殺人者として呪われます。

1917年、アメリカ合衆国カリフォルニア州(California) サリナス(Salinas)が舞台です。アダム・トラスク家(Adam Trask)には二人の息子がいます。キャル(Cal) とアーロン(Aron)です。キャルは反抗的で野性的です。他方アーロンは忠実で真面目な子どもです。アーロンにはアブラ(Abra Bacon)という恋人がいます。キャルは、秘密を探っていました。無賃乗車して、モントレー(Monterey)の港町でいかがわしい酒場を経営している中年女性ケート(Kate)を尾行していたのです。彼女が、死んだと聞かされている自分の母かもしれない人物だったと思っていたからです。

Cal & Abra

ある日、キャルは「父から愛されていないのではないか」という自分の悩みを兄、アーロンの恋人であるアブラに打ち明ける。すると、彼女も同じ悩みを抱えていたことがあったことをキャルに打ち明け、二人の心が近づいていきます。キャルは父アダム(Adam Trask)の企画していたレタスの冷凍保存に使用される氷を屋外に滑らせ砕いてしまいます。そのことで父から聖書の一説を引用した叱責を受ける中、「自分のことを知りたい、そのためには母のことを知らなければ」と母のことを問い質すのです。アダムは母との不和を話し、彼女は死んだということを伝えます。キャルはケートの店に向かい、彼女と直接対面するも話には応じられず追い返されてしまいます。その後、キャルはアダムの旧友である保安官から両親が結婚した時の写真を見せられ、ケートが自分の母だと確信するのです。

アダムは商取引で失敗し、損失を蒙り一家の財産がなくなります。キャルが軍隊に大豆を大量に卸すことによって得た利益、15,000ドルを得て感謝祭の日にそれを父アダムに渡そうとするのですが、戦争に悪感情を抱き、戦争を利用して大金を得たことをアダムは叱責して金を受け取りません。アーロンとアブラが婚約を伝えたように清らかなものが欲しかったと告げるのです。キャルは大声で泣き「父さんが憎い」と叫んで出て行きます。嘆くキャルをアブラが慰めているのを目撃したアーロンは激昂し、アブラにキャルのところに行くなと厳しい口調で伝えます。それに対してキャルは父への憎しみがいつしか兄への憎しみに変わり、母であるケートの酒場にアーロンを連れていき初めて彼に母と対面させます。驚いたアーロンを母と二人きりにさせてキャルが帰宅します。

James Dean as Cal

アダムにアーロンの行方を問われたキャルは「知らないね、僕は兄さんの子守りじゃないんだ」と返し、ケートが家を出た理由にも触れて父との決別を告げます。アーロンは、最も軽蔑する女が自分の母であったことを知って激しいショックを受け、自暴自棄になってその日のうちにヨーロッパ戦線に出征します。そして終戦の前年に戦死してしまいます。

アブラは自分の心の中にキャルがいることに気づき、心臓発作で病身のアダムのベッドの傍で必死に看病します。そしてキャルが父の愛を求めていたことを語り、キャルに何か頼み事をしてほしい、そうでないと彼は一生ダメになってしまうと訴えます。アブラは、絶望して病室に入りたがらないキャルを説得して父のベッドで再び許しを請うように促すのです。アダムの目が訴えるようになり、キャルがアダムの口元に耳を寄せると、微かな声で「代わりの看護婦は要らない。お前が付き添ってくれ」と告げるのです。確かな言葉で父の愛を知ったアブラとキャルとは涙します。そしてキャルは父のベッドの傍らに座るのです。

懐かしのキネマ その85 【スリ】

原題は「PICKOCKET」。「スリ」という意味です。1960年にフランスで作られた名画です。社会の中で行き場を見失った貧しく寡黙な一人の青年が、スリという行為に生きがいを求め、その所業にのめりこんでいく一方で、現実の営みから離脱し、人としての感情も希薄になっていく様を描いた作品です。フランス映画はアメリカ映画と違った風趣があります。是非観ていただきたい作品です。

Michel

貧しい大学生ミシェル(Michel)は、母から離れ安アパートで暮しています。ふとしたきっかけで、ロンシャン競馬場(Longshan Racecourse)で、女性のバッグから金をスリ取ります。自分にスリの才能があることを発見します。一度は刑事に捕まったものの、証拠不十分で釈放されますが、再び他人の財布を狙い出します。母にその金を届けた時、隣室の娘ジャンヌ(Jeanne)に会います。小才のきく真面目な友人ジャック(Jacques) に、ミシェルは仕事の世話を頼みます。

ミシェルは、仕事へ行く地下鉄でスリの犯行を目撃し惹き付けられます。練習ののち最初の犯行は成功します。時には失敗しますが、ジャックと喫茶店にいる時、かつて尋問されたペレグリ警部(Pelegri)に会います。彼はミシェルになぜか目をつけています。やがてその手口は、仲間を引き込んだ組織的なものになっていきます。本もののスリが彼をアパートの出口で待っています。見込まれた彼は種々の手口を教えられ銀行の前でスリをし、駅では三人で組んでかせいでいくのです。

ミシェルの母が亡くなります。葬儀にはジャンヌも参列しています。警部のペレグリがアパートを訪ね、盗んでいたお金を所持していたことを伝えます。彼はその金がミシェルが稼いだものと考えます。しかし、ミシェルを告訴しません。

カメラは「スリ」の行為について、その手の動きをクローズアップさせ、青年と仲間が連係プレーで繰広げる数々の華麗なる手口を流れるようとらえています。青年の淡々と抑揚のないモノローグを朗読し、若干の台詞のやり取りがあるだけです。その台詞も棒読みに近い語りかけですで、登場人物たちの動きも必要最小限にとどまっています。フランス映画の名作といえるのではないでしょうか。

懐かしのキネマ その84 【カッコーの巣の上で】

原題は【One Flew Over the Cuckoo’s Nest】といいます。この題名の意味は少し勉強しないと理解できそうにありません。荒筋を紹介することにします。主人公のマクマーフィー(Patrick McMurphy)は刑務所の重労働から逃れるために、偽って精神病院に入院してきます。向精神薬を飲んだふりをしてごまかし、ラチッド婦長(Mildred Ratched)の定めた病棟のルールに次々と反抗していきます。グループセラピー(group therapy) などをやめてテレビでワールドシリーズを観たいと主張し、他の患者たちに多数決を取ったりなどします。最初は患者たちは決められた生活を望むのですが、マクマーフィーのやり方に賛同するようになります。

Patrick McMurphy

他の患者と無断で外出しボートに乗せて、マクマーフィーの女友達とともに海へ釣りへ行ったりします。こうした反抗的な行動が管理主義的なラチッド婦長の逆鱗に触れ、彼女はマクマーフィーが病院から出ることができないようにしてしまいます。ある日患者が騒動を起こした際、止めようとしたマクマーフィーも一緒に、お仕置きである電気けいれん療法(electroconvulsive therapy) を受けさせられてしまいます。マクマーフィーは、しゃべることのできないネイティブアメリカン(native American)であるチーフ(Chief)とともに順番を待っていますが、実際は彼がしゃべれないフリをしていることに気づき、一緒に病院から脱出しようと約束します。しかしチーフは、自分は小さな人間だとその誘いを断るのです。

Mildred Ratched

クリスマスの夜、マクマーフィーは病棟に女友達を連れ込み、酒を持ち込んでどんちゃん騒ぎを始めます。一騒ぎ終わった後の別れ際になって、ビリー (Billy)が女友達の一人を好いていることに気がつきます。ビリーはマクマーフィーに可愛がられています。マクマーフィーは、女友達にビリーとセックスをするよう頼み込み、二人は個室に入っていきます。二人の行為が終わるのを待っている間、マクマーフィーは酒も廻りつい寝過ごしてしまいます。翌朝、乱痴気騒ぎが発覚し、そのことを婦長からビリーは激しく糾弾され、母親に報告すると告げられます。そのショックでビリーは自殺してしまいます。マクマーフィーは激昂し、彼女を絞殺しようとします。婦長を絞殺しようとしたマクマーフィーは他の入院患者と隔離されてしまいます。

チーフはついに逃げ出すことを決意し、マクマーフィーを待っています。戻ってきたマクマーフィーは病院が行った治療ロボトミー治療(lobotomy)によって、もはや言葉もしゃべれず廃人のような姿になっています。チーフはマクマーフィーを窒息死させ、窓を破って精神病院を脱走するのです。

懐かしのキネマ その83 【追想】

1956年制作の歴史ドラマ映画です。ロシア帝国(Russian Czar)のアナスタシア皇女(Anastasia Romanov)が実は生存しているという伝説を下敷きにして作られた映画で原題は【Anastasia】となっています。

Anastasia Romanov

10代の若き皇女アナスタシアを含めて、ロシア皇帝ニコライ2世(Tsar Nicholas II) の一家が十月革命(Russian Revolution)の後に赤軍のボリシェヴィキ(Bolsheviks) によって殺害されたと推測されてから10年が経過します。ロシア革命で反ボリシェヴィキである白軍(White Russian) の将軍ボーニン (General Bounine)はニコライ2世が4人の娘のためにイングランド銀行(Bank of England)に預金した1000万ポンドのロマノフ家の遺産に目をつけます。ボーニンは街で出会った記憶喪失(amnesia)の女性アンナ・ニコル(Anna Nicholas)を、生存が噂されるアナスタシア皇女に見立てて遺産を手に入れようと、彼女に各種のレッスンを施して「本物」らしく仕立てます。

デンマーク(Denmark)で甥のポール公(Prince Paul) と余生を過ごす皇太后フェドロヴァナ(Empress Marie Feodorovna)は、アンナと涙の対面をします。ふとした妙な咳から皇太后は彼女が本物のアナスタシアであることに気付いたのです。資産目当てでボーニンに協力するポール公とアンナの数週間後の婚約発表も決まるのですが、ボーニンのアンナへの想いも「本物」になってしまい、二人が愛し合うという誤算が生じてしまいます。

ポール公とアンナの婚約発表当日、披露の場にボーニンとアンナの姿はありません。孫娘が行方不明となる事態に、全てを承知していた皇太后は「芝居は終わった。家にお帰りください」と招待客に告げるためにポール公を伴って会場に向かうのです。

懐かしのキネマ その82 【お熱いのがお好き】

1958年に製作されたコメディ映画の傑作の一つといわれます。原題は【Some Like It Hot】。なんといってもマリリン・モンロー(Marilyn Monroe)が、酒場で「I Wanna Be Loved by You」を歌う場面が一世を風靡します。偶然殺人事件を目撃してしまった2人のバンドマンは、追われる身になります。カツラと化粧を施し女性バンドの中に潜り込み、ギャングの目を欺こうとすることからシーンは始まります。

1929年2月のシカゴの麻薬街です。ジョー(Joe)というサキソフォーン(saxophone)演奏者とジェリー(Jerry)というベース(double bass)演奏者がいます。2人は、ギャングスターであるスパッツ(Spats Colombo)が経営するもぐり営業の酒場で働いています。チャーリー(“Toothpick” Charlie)という男の密告で警官が酒場を強襲します。ジョーとジェリーは逃走します。二人は、チャーリーが聖ヴァレンタインデイ(St. Valentine Day)の虐殺のように、撃たれてしまうのを目撃します。スパッツとギャング仲間は2人が逃走したことを知ります。ジョーとジェリーは街を抜け出し、変装してジョセフィーンとダーフィン(Josephine and Daphne)と名乗り、スウィートスー&シンコペーター(Sweet Sue and her Society Syncopators)という女性バンドに潜りこみます。そこで2人は、女性歌手でウクレレ奏者であるシュガー・ケイン(Sugar Kane)に出会います。

Sugar Kane

ジョーとジェリーは変装しながらもシュガーに惚れていきます。シュガーは、ジョーに自分を利用しようとした男性のサキソフォーン奏者と縁を切っていると伝えます。そして、フロリダ(Florida) で優しそうで眼鏡をかけた百万長者の男と出会いたいというのです。フロリダヘの列車の中で、禁止されたパーティが開かれ、ジョセフィーンとダーフィンはシュガーと親密になります。しかし、女性の変装をしており、シュガーに言い寄ることができないのが残念です。

マイアミ(Miami)に着くと、ジョーは二度目の変装をして、自分は百万長者でシェル石油の御曹司だといってシュガーに求婚します。彼女には無関心を装うのです。そこに百万長者でマザコンの年いった男、オズグッド・ジュニア(Osgood Fielding III)がダーフィンを追いかけ回します。ダーフィンが断るたびにオズグッドの食欲は増すといった塩梅です。オズグッドは自分のヨットでのシャンパンディナーにダーフィンを招待します。

ジョーはジェリーをオズグッドの相手をさせておいて、自分がオズグッドのヨットにシュガーを載せて楽しみます。ヨットの上で、ジュニアに変装したジョーは、自分には心理的なトラウマがあってインポであるが、自分を癒してくれる女性なら喜んで結婚するとシュガーに言い寄るのです。

シュガーはジュニアの精力をかなり掻きたてます。他方、ダーフィンはオズグッドとタンゴ「ラ・クンパルシータ(La Cumparsita)」を終日踊るのです。ジョーとジェリーがホテルにもどると、ジェリーは、ダーフィンに扮した自分にオズグッドが求婚したのでそれを受け入れたというのです。オズグッドの計略を暴いて、即時に離婚し多額の慰謝料をせしめるつもりであることも語ります。

Josephine, Sugar & Daphne

ホテルでは「イタリアオペラのフレンド」(Friends of Italian Opera) と題する会議が開かれます。実はこの集まりは、リトル・ボナパルト(Little Bonaparte)という大物の出席による全米の犯罪組織の集会です。その会場で、スパッツとその一味は、長い間探し続けていたジョーとジェリーを発見します。恐れた2人はバンドを辞め、ホテルから去ろうとします。ジョーは、シュガーに打ち明け、自分は父親の選んだ女性と結婚するためにベネズエラ(Venezuela) に行かなければならないと告げます。

ジョーとジェリーは犯罪組織の晩餐会でテーブルの下に隠れスパッツから逃れます。リトル・ボナパルトはスパッツとその一味を晩餐会で殺します。ジョーとジェリーはその場の目撃者となりホテルから逃れます。ジョセフィーンに変装したジョーは、ステージ上で失恋の悲しみを歌うシュガーを見上げます。そしてステージにのぼり、シュガーにキスをします。シュガーはようやくジョーがジョセフィーンであり、ジュニアであることを知ります。

ジェリーはオズグッドに彼のヨットでジョセフィーンとダーフィンをつれ出すようにと説得します。シュガーは、演奏しているステージを飛降りて、今しもジェリー、ジョー、オズグッドを乗せて出帆するオズグッドのヨットに飛び乗るのです。 ジョーはシュガーを欺いていたこと、彼女の意に添えなかったことを謝ります。シュガーもジョーと別れると伝えます。一方、ジェリーは、ダーフィンとオズグッドが結婚できない理由が喫煙と不妊症のためであるといいます。オズグッドはジョーとジェリーを解雇します。そして、自分はダーフィンと結婚するつもりだと主張します。憤慨したジェリーはかつらをとり、自分は男であると宣言します

懐かしのキネマ その81 【捜索者】

原題は【The Searchers】。南北戦争で南軍(Confederacy)に従軍したイーサン・エドワーズ(Ethan Edwards)は終戦後、テキサス(Texas) で牧場を営む弟アーロン・エドワーズ(Aron Edwards)の許に戻ってきます。出迎えたのはアーロンやその妻マーサ(Martha)、18歳の娘ルシイ(Lucy)、14歳になる息子ベン(Ben) 、9歳の娘デビー(Debbie) です。他にチェロキー族(Cherokee)との混血で、一家がコマンチ族(Comanches)に皆殺しにされたため引取られた若者マーティン・ポウレイ(Martin Pawley)にも会います。

翌日、牧師も兼ねるテキサス警備隊長(Texas Rangers) サム・クレイトン大尉(Captain Sam Clayton) の一行がやって来きます。隣人の牧場主ジョーゲンセン(Lars Jorgensen)の牛がインディアンに盗まれたので追跡するためです。イーサンとマーティンは隊に加わります。出発した捜索隊は途中、白人男子を家から誘い出すためのコマンチ族の仕業と知り、二隊に別れて捜索します。その間、エドワーズ(Edwards) 一家は皆殺しされ、ルシイとデビーは誘拐されます。犯行はコマンチ酋長スカー(Scar) と部下の仕業です。捜索隊はコマンチ族を追跡しますが劣勢のため退却します。復讐の念に燃えるイーサン、マーティンそしてルシイと愛し合っていた20歳になるブラッド・ジョーゲンセン(Brad Jorgensen) の3人だけ追跡を続けることになります。

数ヵ月後、3人はコマンチ族に追いつき、イーサンはルシイの死体を発見し埋葬します。インディアン宿営地近くでそれを知ったブラッドは狂気のようにコマンチ族目掛けて馬を飛ばし、非業の最期を遂げます。イーサンの敵慨心は更に硬くなります。やがて捜索2年目も過ぎイーサンは、デビーと血縁もないマーティンに平和な生活へ戻れとすすめるのですが、彼はきき入れません。その頃、イーサンは交易所の経営者から、報酬と引換えにデビーの居所を教えてもらいます。イーサンとマーティンは、誘拐されているデビーは酋長スカーと北方の保留地に向ったと聞いて直ちに出発します。やがてコマンチ族の交易所に立寄った時、マーティンはコマンチ娘ルック(Look)に惚れ込まれてしまい、珍妙な夫婦ができるのです。イーサンは酋長スカーらの居所を聞き出します。姿を消したルックは軍隊に襲撃された集落で死体となって発見されます。

アメリカ西南部を踏破した二人は、ニュー・メキシコ地帯(New Mexico) でメキシコ人エミリオ(Emilio)の案内から遂に目指すスカーの許に着辿り着きます。白人を憎悪するスカーです。その天幕には一人前の娘に成長したデビーの姿があります。ですが彼女は二人に気がつきません。怖気づいたエミリオは、スカーは全部知っているのだと言い立去ります。二人が去りあぐんでいる処に駆けよったデビーは「私は今ではコマンチです。帰って下さい」と言います。拳銃を手にしたイーサンはコマンチの狙撃に傷つき、マーティンの助けで辛うじて牧場へ戻ります。

折しも牧場では、警備隊員チャーリイとローリイの結婚式が行われようとしています。怒ったマーティンは花婿と拳銃で応酬し、結婚式はおじゃんとなります。やがてクレイトン指揮の警備隊はスカーのキャンプを急襲し、単身潜入したマーティンはデビーを救いスカーを射殺します。長年コマンチの許で暮したため、白人に敵意を持つようになったデビーをイーサンは殺そうと決意します。デビーを追いつめて銃口を向けますが、無邪気な表情に射つのを止め、馬上に抱き上げてブラッドの牧場に帰り着きます。愛するマーティンを迎えるローリイ。ジョーゲンセン夫人の胸にすがるデビー。6年間の使命を果したイーサンは満足気に一人去って行くのです。