懐かしのキネマ その100 【史上最大の作戦】

この映画の題名は「The Longest Day」といいます。第二次大戦末の1944年6月6日に、米英仏加の連合軍がノルマンディ(Normandy)に上陸した日が「最も長い一日」、Dデイ(D-Day) といわれます。ヨーロッパにおいてナチスドイツはロシア東部戦線(Eastern Front)が膠着状態の中で、連合軍がフランス北部に上陸するとの予測が強まり、大西洋沿岸に地雷や障害物などを埋めて上陸作戦に備えていました。北アフリカから戻ってきたドイツ陸軍B軍団団長ロンメル元帥(Erwin Rommel)は、イギリスに面した海岸線で地雷の敷設が400万個と聞いて、600万個に増やすよう檄を飛ばしていました。その時ロンメルは「大軍を水際で撃滅させること、上陸する最初の24時間が極めて重要で、その時は連合軍にとっても我々にとっても一番長い日となるだろう」と語ります。

Erwin Rommel

ドイツ軍情報部は、占領下のフランスにイギリスのBBC放送が送っている各メッセージの分析を行いながら、ヴェルレーヌ(Paul Verlaine)の詩『秋の歌』が放送されたことに注目していました。その一節「秋の日のヴィオロンの ためいきの」が数日間にわたって放送されて、次の後半の一節が放送された時は24時間以内に連合軍の上陸が始まる事を、レジスタンスから捕獲した資料で知っていました。そして西部軍参謀総長ブルーメントリット大将(Günther Blumentritt)から西部軍最高司令官ルントシュテット元帥(Gerd von Rundstedt)に警戒情報を出すように要請しますが、元帥はラジオから流されるヴェルレーヌの詩だけでは警戒情報は出せないと却下します。ロンメルは6月に入ってから悪天候が続きで連合軍の上陸はないと判断してベルリンに戻ります。

6月6日午前0時、ノルマンディ上陸作戦は、英軍第6空挺師団率ハワード少佐(Major Howard)が率いる部隊によるグライダー降下で始まります。オルヌ川(Orne)にかかる橋を確保するため、橋を夜襲で無傷で確保して、昼に海岸からやって来る本隊が合流するまで死守するのが任務でした。レジスタンスのメンバーはフランス国内の通信網の破壊活動に入ります。 空挺師団が降下を開始します。その中には自由フランス軍の部隊もおり、レジスタンスと協力して走って来た軍用列車を爆破します。兵士人形を吊り下げたパラシュートが降りてきたことが伝えられ、マルクス大将(Erich Marcks) は、この兵士人形は陽動作戦ではないかと疑うのです。ここではノルマンディー上陸作戦の戦況は詳しくは記しません。

後に、ノルマンディ上陸作戦を予想できなかったのがドイツ敗因の根本であるといわれます。Dデイとノルマンディ上陸を予想できず、臨機に処すべき機甲師団の移動は、ヒトラー睡眠中のために具申さえできませんでした。ロンメル元帥も、北アフリカのエルアラメイン(El Alamein)おの時と同じく、悪天候を理由に休暇をとっていました。ルントシュテット元帥も陰に回るとヒトラーをボヘミア(Bohemia)の伍長(corporal)よばわりしながら、表では正面からの衝突を避けます。連合軍の上陸地点がカレー(Calais)でなくノルマンディが主力だと最初から見抜いていたのは、第7軍参謀長のマックス・ペムゼル少将(Max-Josef Pemsel)とノルマンディ全体を統括する第84軍団長のエーリッヒ・マルクス大将(Erich Marcks)くらいといわれます。

懐かしのキネマ その99 【ハドソン川の奇跡】

原題は【Sully】といいます。Sullyとは、機長のニックネームです。 2009年1月15日、ラガーディア空港(LaGuardia Airport) 発、シャーロット(Charlotte)空港行きのUSエアウェイズ1549便は離陸直後、巡航高度に向かう途中に鳥の群れに遭遇し(bird strike)、鳥がエンジンに吸い込まれ、両エンジンが停止してしまいます。1549便の機長サリー・サレンバーガー(Chesley “Sully” Sullenberger)(愛称サリー)と副操縦士のジェフ・スカイルズ(Jeff Skiles)は、推力を失った機体を出発地ラガーディア空港に引き返えそうと試みます。しかし、高度が低すぎたために、近くにあるテーテボロ空港(Teterboro)にも着陸は不可能と考えます。やむを得ず眼下に流れるハドソン川(Hudson River)に不時着水することを決断します。

Chesley “Sully” Sullenberger

サリーの巧みな操縦によって着水の衝撃で機体が分解することもなく、乗務員の迅速な避難誘導や救助が早かったことなどもあり、大型旅客機の不時着水という大事故ながら、1人の死者も出さなかった奇跡的な出来事となります。このニュースは全米はおろか世界中で「ハドソン川の奇跡」と呼ばれ、サリーは一躍ヒーローとなります。しかし後日、National Transportation Safety Board:NTSBという事故調査委員会の調査によりシミュレートを行った結果、1549便はラガーディアにも他の空港にも着陸が可能だったという報告を突き付けられるのです。サリーとスカイルズは「あり得ない」と否定しますが、二人は疑惑の人物となってしまいます。議論の場は公聴会で行われることとなります。果たして機長の行動は正しかったのか、それとも乗客の命を危険に晒す行為だったのかが明かされていきます。

調査委員会の報告によれば、機体の左エンジンは僅かに動作しており、理論上はラガーディア空港に戻ることは出来たと主張します。いくつかのコンピュータによるシュミレーションでも同様な主張です。機長と副操縦士は、それに反論し、二つの意見が対立していきます。事故調査委員会は、二人のパイロットのミスが事故原因であると考えます。もしそうなれば、機長の資格は剥奪されます。そこで機長は、再度公の前でシュミレーションを実施するように求めます。シュミレーションでは機体は空港に戻ることができました。しかし、機長はシュミレーションの操作者が事前に事故を想定し、緊急事態に備えることが出来ていたので、非現実的なシュミレーションだったと反論します。

事故調査委員会は、機長の反論を受けて再検証します。そして、不時着までの35秒間、機長等がとった対応を加えるとラガーディア空港への引き返しでは、滑走路の手前で落下すること、さらにテーテボロ空港への緊急着陸も不可能で、手前のビルなどに激突したかもしれないと結論づけます。ハドソン川より引き揚げられたエンジンを調査した結果、バードストライクによって、エンジンが損傷していたことが判明します。機長等の判断は正しく、機長の「衝撃に備えて(brace)」の放送で緊急事態であることを即座に告げ、乗客に安全姿勢をとるよう促し、また着水後は迅速な避難誘導を行ったことで、全ての乗客の命が救われたと結論づけます。

懐かしのキネマ その98 【足ながおじさん 】

原題は【Daddy Long Legs】。億万長者と孤児の恋を描いたジーン・ウェブスター(Jean Webster)の同名小説を、フレッド・アステア(Fred Astaire)とレスリーキャロン(Leslie Caron)による華麗なダンスとともに描いた名作ミュージカルです。

【足ながおじさん 】は幾度も映画化、舞台化されますが、その中でもとりわけ愛されているのが本作といわれます。ミュージカル映画最大のスターとして戦前から君臨してきたフレッド・アステアが、『巴里のアメリカ人』(An American In Paris) でデビューした女優レスリー・キャロンをエスコートします。アステアは衰えを知らぬキレの良いダンスと大ベテランならではの風格を表しています。

Julie Andre & JervisPendleton

フランスを訪れたアメリカの富豪ジャービス・ペンドルトン三世(JervisPendleton III)は、車の故障でジャンヌダルク(Jeanne d’Arc)という孤児院で助けを求めます。そこで出会った快活な少女ジュリー(Julie Andre)は、子どもの相手の仕方が非常に上手なので、ジャービスは彼女の能力に興味を持ちます。そして友人の駐仏大使を通して、彼女をマサチューセッツ州(Massachusetts)のウォルストン大学(Wallstone College)で勉強させるよう手配します。しかし、ジャービスは、ジュリーには自分の正体を明かさず、彼女が卒業までの生活を手紙に書いて匿名の「ジョン・スミス」(John Smith)宛てに送らせることにします。

大学ではフランス人留学生として好成績をおさめるジュリーです。彼女は学園生活を満喫し、まだ見ぬ紳士スミスを「足ながおじさん」と呼んで憧れます。沢山の手紙をスミス氏宛に書くのですが、一度も返事が来ないのです。ようやく数年後に、ジャービスは自分の本名を隠したまま大学を訪れてジュリーに会います。父親と娘のような年の違いなのですが、やがて二人は恋に陥ります。

懐かしのキネマ その97 【チャイナ・シンドローム】

原題は「The China Syndrome」といって、原子力発電所の取材中に事故に遭遇し真実を伝えようとする女性リポーターの活躍サスペンス映画です。1973年7月に公開されますが、たったの12日後にスリーマイル島(Three Mile Island)原子力発電所事故が発生します。ずさんな発電所管理の実態に気づき、事故を防ぐために命を懸ける原発管理者や不祥事を揉み消そうとする利益優先の経営者との対立を描いた問題作でもあります。「チャイナ・シンドローム」とは、 冷却装置の事故で、核燃料が高熱によってメルトダウンして放射能などが原子炉の外に漏れ出すことを意味する用語です。

アメリカの地方テレビ局の女性リポーター、キンバリー・ウェルズ(Kimberly Wells)は、原子力発電所のドキュメンタリー特番の担当となり、カメラマンのリチャード・アダムス(Richard Adams)とともにベンタナ(Ventana)原子力発電所の取材に赴きます。中央制御室を二人が見学中、原子力発電所は何らかのトラブルを起こしたような振動を発します。そこは撮影禁止の場所だったのですが、アダムスは密かにそのときのコントロールルームの様子を撮影していました。

Kimberly Wells

後日、そのフィルムを原子力の専門家に見せると、専門家からはこれは重大な事故が起きる寸前であったと伝えられます。技師で制御室の責任者のジャック・ゴデル(Jack Godell )が計器の表示間違いに気づき、危ういところで大惨事を免れていました。ゴデルは過去の安全審査資料を調べ直し、トラブルに繋がる重大な証拠を発見します。検査にかかる費用を削減するため、定期検査の結果に不正が施されていたのをゴデルは発見するのです。

危機感を訴えるゴデルですが、原発管理者側は原子力発電の安全性を信じて疑わず、多額のコストがかかる検査など不要であるとして、ゴデルの訴えをはねつけます。そこでゴデルはキンバリーを通じ、検査に不正が施されていることをマスコミを通じて世間に告発しようとします。しかし、会社側から自分がねらわれていることをカーチェイス(car chase) で知ります。

Kimberly Wells & Jack Godell

ゴデルは追手を振り切って原子力発電所に駆け込みますが、原子炉が一刻の猶予もない状態まで進行しているのを知ります。そして制御室からテレビ中継を通じて原発事故に繋がるトラブルを世間に告発するか、制御室からの操作で汚染物質をばら撒き発電所を使用不能にすると叫びます。原発管理者側は警察の突入部隊を呼び出し、またいつでもテレビ中継を中断できるよう、電力供給を断つための工作活動を開始します。キンバリーによるテレビ中継が始まった直後、原発管理者側によって電力供給が絶たれ、原発事故が発生します。警報の作動により深刻な事態を悟ったゴデルは死に物狂いで原子炉の停止を試みますが、彼は警察の突入部隊によって射殺されます。しかし、ゴデルの努力で原子炉は停止します。

原発管理者側は駆けつけたテレビ中継の取材に対し、一連の騒動はゴデルが酒に酔って錯乱して起こしたものであると主張し、原発が安全であることを強調して事故の隠蔽を図ります。しかしゴデルの同僚のテッド・スピンドラー(Ted Spindler)はテレビ中継の前でゴデルを擁護する発言を行い、キンバリーも視聴者に対してゴデルの正当性を訴えるのです。

懐かしのキネマ その96 【クロコダイル・ダンディ】

オーストラリア(Australia) で製作された映画は珍しいのですが、その1つがこの【Crocodile Dundee】です。コメディ映画ですが、十分娯楽作品として楽しめます。この映画の後に【Crocodile Dundee II】も製作されます。

スー・チャールトン(Sue Charlton)は、父親が経営するニューズデイ(Newsday)という新聞社の記者です。リチャード・メイスン(Richard Masons) という男性と付き合っています。彼女は、取材でウオークアバウト・クリーク(Walkabout Creek)という北オーストラリアの小さな部落を訪れ、そこでマイケル. J(Michael J)、別名クロコダイル・ダンディ(Crocodile Dundee)という先住民(bushman)に会おうとします。 クロコダイル・ダンディはワニに片足をもぎとられたことがある、という噂の人物です。

Crocodile Dundee and Sue Charlton

ウオークアバウト・クリークに着きますが, ダンディに会うことができません。そこで、彼女はそこのバーでダンディのビジネス共同経営者というウオルター(Walter Reilly)に会います。 その夜、スーはダンディに会います。しかし、ダンティの足は片足ではありませんが、大きな切り傷を持っています。ダンディは自分で「咬まれた愛の印」(love bite)と呼んでいました。スーがダンディと踊っているとき、カンガルー狩をする男達から「クロコダイルハンター」とからかわれます。ダンディは一発のパンチでグループのリーダーを倒すのです。

スーが始めてダンディをみたとき、それまでいわれていた伝説的な人物とは違った印象を受けます。人なつこい性格と立ち振る舞いなのです。水牛をてなずけ、アボリジニー(aboriginal)の踊りに加わり、素手で蛇を殺し、カンガルー狩の人間を酒場で追い出すなどの行為にスーは驚きます。

スーはオーストラリアの奥地に入ったときのことです。スーは一人でライフル銃を持参して沼地にやってきます。大きなワニに襲われます。ダンディはそっと後を付け、そのワニを撃退するのです。スーはやがてダンディに好意を抱くようになります。

やがてスーはオーストラリアでの取材の延長でダンディをニューヨークへ招待します。 ダンディはニューヨークの街でアメリカ人の行動や習慣に困惑します。ポン引きや強盗等に遭遇するのですが撃退します。二人は気心が合いキスをする仲となります。スーの父親の家で、彼女とダンディの訪問を祝うパーティが開かれます。スーの以前の恋人リチャード(Richard)がスーにプロポーズをします。リチャードが以前の自己中心的で酒で酩酊する時期かあったことをスーに打ち明けるのです。スーはいやいやながらポロポーズを受け入れます。

ダンディはスーの婚約にがっかりし、アメリカ国内を旅することにします。やがてスーは自分は結婚しないことに決心し、ダンディを追って地下鉄の駅に向かいます。プラットホームの乗客の混雑でダンディを見つけることがきません。しかし、乗客が彼女のメッセージを次々にリレーしてくれます。ダンディは 梁をつたってスーのところにかけより抱擁を交わします。乗客等は喜びの拍手で二人を祝福するのです。

懐かしのキネマ その95 【三十四番街の奇蹟】

1947年に制作されたファミリーストーリーが(Miracle on 34th Street)です。サンタクロース(Santa Claus) は実在するか否かの考え方が主題です。舞台はニューヨーク(New York)マンハッタン(Manhattan) 三十四番街のスクェアに位置する百貨店メイシーズ(Macy’s)の旗艦店です。クリスマス商戦の開始を告げる感謝祭(Thanksgiving)の仮装パレードの準備中に酔いつぶれたサンタ役を叱りつけた老人ークリス・クリングル(Kris Kringle)が人事係のドリス(Doris Walker)の判断で代役を努めます。パレードは成功、芸達者な彼はユーモアと思いやりによって、おもちゃ売り場で子どもたちの人気者になります。メイシーズもクリス人気に便乗します。

Parade of Christmas

しかし、クリスはドリスとの面接の際に、自分が本当にサンタだとする彼は妄想癖があるとみなされてしまいます。そこでメイシーズ専属の医師ソーヤー(Granville Sawyer)に彼の診察をさせた結果、異常はありません。ソーヤーは妻と不仲でそのことを診察中にクリスに指摘され苛立ち、彼に異常があると偽りの診断をし、今すぐに精神病棟に入れたほうがいいと進言します。だが、クリスが入所している老人ホームの医師ピアース(Pierce) は彼には異常がないとして精神病棟に入れる必要はないと主張します。

その直後にメイシーズで働いている若い従業員のアルフレッド(Alfred) が子どもたちに親切すぎることを理由に、ソーヤーがアルフレッドに精神障害であると発言したことをクリスは知り、憤った彼はソーヤーを非難して杖でソーヤーの頭を叩いてしまいます。そして、ソーヤーの企みでクリスは精神病棟に閉じ込められるのです。

過去の痛みからサンタクロースを信じられないドリスと、彼女の心を知る健気な娘スーザン(Susan) は老人が二人にとってかけがえのない存在だったことを知ります。クリスにとってもスーザンがサンタクロースを信じてくれることが何よりの望みでした。クリスが本当のサンタクロースであると訴えて裁判が開かれます。

ドリスの隣人で弁護士のフレッド(Fred Gailey)はクリスの弁護をかって出ます。事件はクリスが精神的に正常かどうかで争われるのです。正直な老人を助けたいニューヨークの人達は街角の店先やアパートのベランダに「私たちはサンタクロースを信じます」というオピニオンボードを掲げ始めます。裁判はクリスの主張が不利なまま進行します。法を曲げられない判事のハーパー(Harper)は「奇蹟が起こらない限り」老人を助けられないだろうと密かにフレッドに伝えます。そして結審の日を迎えのです。

判事ハーパーの机の上に弁護士のフレッドが、郵便局で刻印された山積みの郵便物を置きます。すべて「サンタクロース様」という宛名書きです。判事はこうした手紙を見て,クリスはサンタクロースであると宣言するのです。

懐かしのキネマ その94 【頭上の敵機】

第二次対戦中、1942年の秋はイギリスにおけるアメリカ空軍が最も苦戦した時代といわれます。ドイツ空軍による迎撃で多くの爆撃機が撃墜され、乗組員を失うのです。それを映画化したのが【頭上の敵機】(Twelve O’Clock High)です。イギリスのアーチベリー飛行場(Air Force Station Archbury)は、アメリカ空軍第918爆撃隊 (918th Bomb Group) の基地です。在英爆撃隊の司令官プリッチャード将軍(General Pat Prichard) は、ドイツの戦力の源泉となっている軍需工場を壊滅させるために、危険と知りつつも指揮下の部隊に昼間爆撃を敢行させるのです。

General Savage

第918爆撃隊は航空士ツィンマーマン中尉(Col. Zimmerman)の誤算により、敵の集中攻撃を受けて、4分の1以上の未帰還機を出します。この爆撃隊は、「ツキに見放された部隊」(bad luck group)と呼ばれます。温情家だった隊長のダヴェンポート大佐 (Colonel Keith Davenport) は、これを味方の不運として表沙汰とせずにいましたが、指令部付きのサヴェージ准将(General Savage) は、親友である大佐の心境を見るに忍びず、率直にプリッチャード司令官にダヴェンポート大佐の更迭を進言します。

こうして、918爆撃隊はサヴェージ准将が代わって指揮をとることになります。サヴェージは隊の士気が著しく弛緩していることを知ります。責任を感じたツィンマーマン中尉は自殺してしまいます。その他の責任者に対し彼は容赦なく賞罰を課し、全員に猛訓練を要求します。ダヴェンポート大佐のときと全く違うサヴェージの対応に、搭乗員の間に激しい不満が湧き起こり、転属を申し出る者が多数のぼります。隊付の古参であるストーヴァル副官(Major Stovall)の骨おりによって、転属騒ぎは次第に収まっていきます。

B17 bombers

サヴェージは出撃の都度、先頭機で指揮をとり、部隊の責任者として全力を尽くします。その意気が隊員に行き渡り、918爆撃隊の成果は目立って上昇するとともに、転属希望を撤回する者が続出します。手傷い攻撃をうけたドイツは戦闘機を増強してこれに立ち向かい始めたので、米空軍の消耗も増加の一途を辿ります。918爆撃隊も例外ではなく、ドイツ軍の戦闘機や高射砲にさらされます。サヴェージは次第に精神的にまいり、ダヴェンポートの心境が始めてわかるような苦しい立場に追いこまれます。部下を死地に追いやる悩みに追われながら部隊に任務命令を与えなければならなかったからです。

こうした心身ともに彼に襲いかかる激務のため「戦闘ストレス反応」を起こし、ついにドイツ奥地にあるベアリング製造工場への爆撃行の先頭機に搭乗できないほどに疲労してしまいます。爆撃を終えた帰還機の爆音をサヴェージは1つ、2つと数えます。21機のうち19機が帰還してきます。それを確認したサヴェージは安心したかのように深い眠りに就くのです。

懐かしのキネマ その93 【眼下の敵】

【眼下の敵】(The Enemy Below)は、 1957年制作の作品です。第二次大戦中の南大西洋が舞台です。ドイツのUボート (U-boat) 狩りをやっていたアメリカの駆逐艦ヘインズ号(USS Haynes) のマレル艦長(Commander Murrell)は着任以来自室に閉じこもりきりでした。そこで乗組員たちは彼が民間出身のため船酔いで苦しんでいるのだろうと噂し合っています。しかし、彼は彼が着任する直前乗っていた貨物船が魚雷攻撃(torpedo)を受け、愛する新妻が自分の前で死んでいくのを見て憔悴していたのです。

フォン・ストルバーグ艦長

ある日、駆逐艦のレーダーがUボートを捕らえます。初めて彼は乗組員の前に姿を現わし、夜通しの追跡を始めます。一方Uボートの艦長フォン・ストルバーグ(Von Stolberg) は、味方が手に入れた敵の暗号書を本国へ持ち帰るという重大な使命をもっていました。彼は沈着で勇敢な男でしたが、2人の息子を戦争で失い、無益な戦争を呪っていました。こんな2人が海上と海面下で虚々実々の駆け引きを始めます。

しかし、お互い一面識もないもかかわらず、いつしか2人の心にはそれぞれの戦術について、尊敬の念が沸いてくるのです。再び行動を開始したUボートは、とっときの魚雷4本で見事ヘインズ号を射止めます。直ちに浮上したストルバーグ艦長は、マレル艦長に5分以内に離艦するよう要求します。これを見たマレル艦長は全員を退艦させ、自らも離艦すると見せかけ、最後の力をふりしぼってUボートに体当たりを敢行します。

マレル艦長

2隻の艦は沈没しそうになります。その中で敵味方の別なく、海上では彼我の乗員たちが助け合います。全員の脱出を認めて離艦しようとしたストルバーグ艦長は、永年の部下で副官であったシャウファー(Heini Schwaffer)の姿が見えないのに気がつきます。水につかった艦内からシャウファーを救い出したストルバーグ艦長は、これ以上の救出が無理なことを知って艦橋に残ります。そしてUボートに仕かけられた時限爆弾の爆発を待つのです。その時、マレル艦長からストルバーグ艦長へロープが投げられます。2人の海の男の心は今やはっきりと交わり合います。傷ついたシャウファーをロープにむすびつけるストルバーグ艦長、これを引くマレル艦長、この2人のところに生き残った両艦の乗組員が殺到します。

翌日、救援にやってきたアメリカ駆遂艦の甲板で、ストルバーグ艦長とマレル艦長が立ち会い部下の葬儀が行なわれます。ドイツ乗組員により副官の遺体が海に葬られるのを全員が厳粛な気持で見送るのです。

懐かしのキネマ その92 【八十日間世界一周 】

フランスの作家、ジュール・ヴェルヌ(Jules Verne)の同名小説【Around the World in 80 Days】を原作とする映画です。主人公が20,000ポンドの賭けに勝利するため、気球・鉄道・蒸気船などを利用して80日間での世界一周を目指すのです。日本を含む世界各国の多彩な風景をカラー撮影で楽しめるアドヴェンチャー映画でもあります。主演のフォッグ役(Fogg)には、イギリス紳士的風貌の持ち主である名優デヴィッド・ニーヴン(David Niven)、パスパルトゥー役(Passepartout)には「カンティンフラス」(Cantinfla)の愛称で知られた世界的コメディアンのマリオ・モレノ(Mario Moreno)、アウダ妃(Princess Aouda)をシャーリー・マクレーン(Shirley MacLaine)が演じていいます。

Cantinflas & David Niven


1872年、英国人紳士のフォッグ(Phileas Fogg)は、80日間で世界一周ができると宣言します。リフォームクラブ(Reform Club)という社交場にて4名の懐疑的なメンバーとで当時の価値で2万ポンド、今の価値で1,800万ポンドで賭をするのです。80日後の丁度その夕方8時45分に社交場に戻れるかどうかです。

パスパルトゥーという下男を連れ、フォッグは大枚をはたいて目指す目的地へより早く到着するために蒸気汽船などを借り上げます。出発地点はパリで、ラコンケッタ(La Coquett)という気球に乗り込みます。山越えの汽車のトンネルがふさがれたのを知ったからです。二人はスペインにやってきます。パスパルトゥーは奇妙な闘牛士となり牛と闘います。

次はイタリアのブリンディジ(Brindisi)に行きます。ところがフォッグはイングランド銀行(Bank of England)から4,900万ポンドの金を盗んだという疑いをかけられスコットランド警察(Scotland Yard)の警部フィックス(Fix)に追われます。フィックスはスエズ運河(Suez Canal)の近くの英国領の港町で二人を待ち受けるのです。逮捕を逃れた二人はインドに着きます。そこでアウダという女性を知ります。夫の葬式で、彼女は火葬用の薪の上で生け贄にされようとします。計略を思いついたパスパルトゥーは、薪の中から突然起き上がり、夫のふりをして恐怖におびえている僧たちを尻目にアウダを助けだすのです。

香港に到着します。パスパルトゥーは追いかけてくる警部フィックスの計略で阿片を吸わされ、意識朦ろうとなりながら、どうにか横浜行きの蒸気船に乗り込みますが、主人のフォッグに船の出航が繰り上げになったことを伝えられませんでした。フォッグは日本への移動手段が絶たれたことに気づきます。彼は次の目的地である横浜へ向かう船を探し、小さな水先案内船を見つけ、船長に大金を握らせてフォッグとアウダ、そして警部フィックスは横浜経由でサンフランシスコ行きの大型船の出発地、上海へ向かいます。洋上で時化に遭うも横浜にたどり着きます。そこでフォッグは、サーカス団の団員としてアメリカへ渡ろうとしていたパスパルトゥーを偶然に発見するのです。

サンフランシスコで一行はニューヨーク行きの大陸横断鉄道に乗り込みますが、列車がインディアンの襲撃を受けます。襲撃でパスパルトゥーと他の2人の乗客が人質として拉致されますが、フォッグは旅よりもパスパルトゥーの救出を優先し、砦の近くの兵士たちとインディアンの集落に向かい、無事人質たちの解放に成功します。

12月21日に一行はイギリスのリバプール(Liverpool)へ到着します。警部のフィックスは横浜で受け取っていた逮捕令状をもってフォッグを逮捕してしまうのですが、本物の銀行強盗は3日前に逮捕されていたことを知ります。フォッグは急いでロンドンへ向います。そして賭で決めていた予定から5分遅れた午後8時50分にロンドンへ到着します。フォッグは賭けに負けたと思い、フォッグは下男のパスパルトゥーに、翌日にアウダとの結婚のために、教会での式の準備を依頼します。

ところがパスパルトゥーは結婚式の日は、復活祭(Salvation)の日曜日であることを告げられます。そこでフォッグは日付変更線(international date line)により、一日遅れていることに気が付くのです。そして期限の8時45分前にリフォームクラブへ行き、自分が賭に勝ったことを宣言します。そこへパスパルトゥーとアウダがリフォームクラブにやって来ます。そこにいた紳士連中は驚愕します。なぜなら、それまでクラブは長い間女人禁制だったからです。

懐かしのキネマ その91 【レオン 】

1994年のフランス・アメリカのアクション映画【レオン 】(The Professional)を紹介します。アクションとはいえ、貧しい境遇の中で生きる少女と一人暮らしの男との助け合う姿を描く名作です。

ニューヨーク(New York)で孤独に生きるイタリア系移民のレオン(Leon) は、プロの殺し屋(hitman)として日々を送っていました。ある日、「仕事」帰りのレオンはアパートの隣室に住む12歳の少女マチルダ(Mathilda)と知り合います。マチルダは実父であるジョセフ(Joseph)から虐待を受けています。

Leon & Mathilda

その翌日、ジョセフの麻薬密売組織の「商品」を横領したことを見抜いた麻薬取締局の捜査官のスタンスフィールド(Norman Stansfield)とその同僚らがジョセフの部屋に押し掛け、ジョセフと一味は銃撃戦となります。マチルダの家族は4歳のマイケル(Michel) も含め皆殺しにされますが、マチルダは運良く難を逃れ、とっさに隣室のレオンに助けを求めます。レオンはしばし逡巡した後に彼女を保護するのです。

レオンに共感を覚えるマチルダは、弟の復讐のため殺しの技術を教えてほしいとレオンに頼みます。「ボニーとクライド(Bonnie and Clyde)みたいにコンビを組もう」という彼女の言葉にレオンは戸惑いもします。マチルダの熱意に押され、レオンはマチルダに戦術の初歩を伝授するのです。マチルダは学がないレオンに読み書きを伝授することにり、奇妙な同居生活を始めた二人は、やがて互いに信頼しあうようになります。

ある時、マチルダはスタンスフィールドが麻薬取締局の捜査官であることを突き止め、密売組織の背後には麻薬取締局が絡んでいたのを知ります。マチルダはピザの宅配員を装い麻薬取締局に侵入しますが、スタンスフィールドに早々に察知され逆に捕まってしまいます。マチルダの置き手紙を元にレオンは早速麻薬取締局へ乗り込み、拘束されていたマチルダを救出します。

全てはレオンの仕業であると確信したスタンスフィールドは翌朝、市警の特殊部隊を総動員してレオンの住むアパートに突入。マチルダも特殊部隊によって保護されます。レオンは激しい銃撃戦を掻い潜りマチルダを脱出させることに成功します。レオン自身は負傷した突入部隊員を装って脱出を試みますが、スタンスフィールドに見破られ倒れます。レオンは、スタンスフィールドに「マチルダからの贈り物だ」と言って、スタンフィールドに手榴弾の安全ピンを握らせます。レオンの体を調べるとジャケットの下には多数の手榴弾が隠されています。その瞬間、大爆発が起こります。

一人残されたマチルダは、レストランの店主レオンの雇い主であるトニー(Tony)に殺し屋の修行をさせて欲しいと頼むのですが断られます。トニーを介して、レオンの遺産は彼の意志により少しずつマチルダに渡されることになります。マチルダは学校への再入学が認められ、レオンが大事に育てていた観葉植物を学校の庭に植えるのです。