第二次対戦中、1942年の秋はイギリスにおけるアメリカ空軍が最も苦戦した時代といわれます。ドイツ空軍による迎撃で多くの爆撃機が撃墜され、乗組員を失うのです。それを映画化したのが【頭上の敵機】(Twelve O’Clock High)です。イギリスのアーチベリー飛行場(Air Force Station Archbury)は、アメリカ空軍第918爆撃隊 (918th Bomb Group) の基地です。在英爆撃隊の司令官プリッチャード将軍(General Pat Prichard) は、ドイツの戦力の源泉となっている軍需工場を壊滅させるために、危険と知りつつも指揮下の部隊に昼間爆撃を敢行させるのです。
第918爆撃隊は航空士ツィンマーマン中尉(Col. Zimmerman)の誤算により、敵の集中攻撃を受けて、4分の1以上の未帰還機を出します。この爆撃隊は、「ツキに見放された部隊」(bad luck group)と呼ばれます。温情家だった隊長のダヴェンポート大佐 (Colonel Keith Davenport) は、これを味方の不運として表沙汰とせずにいましたが、指令部付きのサヴェージ准将(General Savage) は、親友である大佐の心境を見るに忍びず、率直にプリッチャード司令官にダヴェンポート大佐の更迭を進言します。
こうして、918爆撃隊はサヴェージ准将が代わって指揮をとることになります。サヴェージは隊の士気が著しく弛緩していることを知ります。責任を感じたツィンマーマン中尉は自殺してしまいます。その他の責任者に対し彼は容赦なく賞罰を課し、全員に猛訓練を要求します。ダヴェンポート大佐のときと全く違うサヴェージの対応に、搭乗員の間に激しい不満が湧き起こり、転属を申し出る者が多数のぼります。隊付の古参であるストーヴァル副官(Major Stovall)の骨おりによって、転属騒ぎは次第に収まっていきます。
サヴェージは出撃の都度、先頭機で指揮をとり、部隊の責任者として全力を尽くします。その意気が隊員に行き渡り、918爆撃隊の成果は目立って上昇するとともに、転属希望を撤回する者が続出します。手傷い攻撃をうけたドイツは戦闘機を増強してこれに立ち向かい始めたので、米空軍の消耗も増加の一途を辿ります。918爆撃隊も例外ではなく、ドイツ軍の戦闘機や高射砲にさらされます。サヴェージは次第に精神的にまいり、ダヴェンポートの心境が始めてわかるような苦しい立場に追いこまれます。部下を死地に追いやる悩みに追われながら部隊に任務命令を与えなければならなかったからです。
こうした心身ともに彼に襲いかかる激務のため「戦闘ストレス反応」を起こし、ついにドイツ奥地にあるベアリング製造工場への爆撃行の先頭機に搭乗できないほどに疲労してしまいます。爆撃を終えた帰還機の爆音をサヴェージは1つ、2つと数えます。21機のうち19機が帰還してきます。それを確認したサヴェージは安心したかのように深い眠りに就くのです。