心理学のややこしさ その二 「プシュケー」と解体新書

心理学の話題を取り上げるこの欄で、どうして「解体新書」が登場するのかです。説明しましましょう。「解体新書」の原本はオランダ医学書である「ターフェルアナトミア(Tafel Anatomie)」といわれます。Tafelとはパネル、Anatomieとは解剖とか解剖学のことです。「人体解剖パネル」が解体新書です。この本は1694年に刊行された『ブランカール解体書』を基にしているといわれます。このブランカールとはオランダ人の医師、Steven Blankaartのことです。

L0027151 Steven Blankaart, Venus Belegent…1685
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Title page
Venus belegent…
Stephen Blankaart
Published: 1685
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ブランカールは「人間の身体に関する辞書(Physical Dictionary)」のなかでanatomyを「身体」というように使っています。身体と心理、すなわち魂(Soul)に関連するとしています。心身が不分離であることを示唆しています。しかし、解体新書では、「魂」をどのように扱っているかは分かりません。翻訳を担当した杉田玄白などはオランダ語から日本語への翻訳は大変難儀したと察せられます。心理学の理解には及ばなかったと思われます。

1890年にアメリカのジェームズ(William James)は心理学を「精神的な生き方の現象や状態に関する科学」と定義しています。彼のは内省や哲学に基づいたアプローチであります。後にジェームズは「心理学の父」と呼ばれます。しかし、1913年頃に行動主義者といわれるワトソン(John Watson)はこの定義に挑戦します。そして行動を制御する情報の獲得に関する学問であるという主張です。今は、広く一般的な表現ですが「心や行動の科学を研究する」という定義が定着しています。

心理学のややこしさ その一 「プシュケー」といのち

心理学という学問は、誠に「ややこしい」く複雑な内容を呈しています。その発展の歴史は古代ギリシャや旧約聖書時代に遡ることができます。この「ややこしさ」を心理学という用語の語源や使い方から調べてみようとするのがこのシリーズです。

 

 

 

 

 

 

 
皆さんがご存知の心理療法とかカウンセリングの技法の数を調べてみると、あまたの療法があることに気がつきます。なんと160もあるのですから複雑です。この理由は、すべて人間の精神とか内面に分け入って悩みや苦しみを和らげるにはいろいろな方法が試みられているということです。人間そのものがいかようにも定義できる「ややこしい」存在であるからです。100人いれば100人の人が何らかの説をたてられそうです。

さて、心理学とは英語で「Psychology」。「プシコロジー」とも呼べるようですがこの単語は「P」を発音しないで、サイコロジーとなっています。ですが、「プシコロジー」と発音することもあながち間違いではないことが分かります。それは、古代ギリシアのアルファベット表記である「Psyche」は、「プシュケー」と発音さます。「Psyche」とは「息とか呼吸」を意味し、その後転じて「いのち、心、霊、魂」を意味するようになります。

Psycheは「Psuche」とも綴られていました。もともと「息とか呼吸(breath)」という意味ですが、新約聖書のキングジェームズ・ヴァージョン(King James Version: KJV)にはこの「Psuche」が105回登場します。主に魂 (soul)という言葉で使われるのは58回、いのち(life)は40回、精神(mind)は3回、心(heart)、その他という具合です。呼吸は生命の証として最も顕著なものでありますが、「Psuche」という言葉は、やがて精神や魂をも意味するようになります。 [contact-form][contact-field label=’名前’ type=’name’ required=’1’/][contact-field label=’メールアドレス’ type=’email’ required=’1’/][contact-field label=’ウェブサイト’ type=’url’/][contact-field label=’コメント’ type=’textarea’ required=’1’/][/contact-form]