キリスト教音楽の旅 その11 オルガンの音楽

オルガンのことを話題にしますといろいろなことが思い出されます。オルガンを組み立てる行程を間近で見学できたこと、その組み立てを担当した日本で最初のビルダー辻宏氏のこと、そのオルガンの柿落で演奏を聴いたこと、そのときバッハのトッカータとフーガ ニ短調(Toccata e Fuga BWV 565)を始めて間近で聴いたこと、、、

オルガンの音楽には三つの種類があるといわれます。今回はそれを取り上げます。最初はオルガン・コラール(Organ Chorale)です。これはコラール旋律を基にしたオルガン曲の総称です。単に会衆のコラール歌唱を支えるための四声部編曲は除き、ポリフォニ(Polyphony)に作ったものというのが原則です。ポリフォニもすでに何度も説明しておりますが、多声部音楽のことで、各声部が独立した旋律とリズムを持ち、それらが調和している音楽のことです。フーガ(Fuga)はその代表といえましょう。

第2のオルガン曲はオルガン・ヒム(Organ Hymns)です。グレゴリオ聖歌の旋律を基にするオルガン曲のことです。典礼中の歌唱をオルガンの奏楽で代行するものです。マニフィカート(Magnificat)、ミサの式文の大部分がオルガンで奏されます。グレゴリオ聖歌をモテット(Motet)の作曲技法で編曲したものも指します。モテットとは、聖句を歌詞とする中世の無伴奏多声合唱曲のことです。プロテスタント教会の礼拝で歌われる讃美歌もそうです。ルター派の教会はオルガンと讃美歌なしではあり得ないことです。

第3のオルガン曲はオルガン・ミサ曲(Organ Mass)です。ミサ通常式文の各段に対応する多声的オルガン曲です。通常のミサ曲が式文の歌唱を中心とするのに対し、オルガン・ミサはオルガンによる独奏曲です。会衆が式文を唱えるのと並行して奏せられることもあります。グレゴリオ聖歌などを基にしたフーガ、モテット形式の曲が多いのも特徴です。

キリスト教音楽の旅 その10 オルガンの歴史 その4 足の技法

オルガンには足で操作するいくつかの装置が備わっています。足で鍵盤(ペダルボード)を押すのです。そこで足の技法が要求されことになります。重要なのは足鍵盤をひく足さばきです。オルガンでは足は単なる手の補助ではありません。手と同等の運動性が奏者に要求されるのです。

足鍵盤もまた、単旋律だけでなく対位法的に書かれた二重声部を奏する場合もあるのです。今はつま先とかかとを同時に用いて奏する四声部の曲もあります。対位法とはこのブログのどこかで何回か取り上げましたが、「同時に響く幾つかの旋律を、ある規則体系にしたがって組み合わせる方法」というものです。西洋音楽の根幹をなす作曲技法です。

足鍵盤

足の動きに対して坐り方も大事だといわれます。初心者はしばしばベンチに深く坐りがちのようです。そうではなく、ベンチのあまり後方ではなく、かかと足鍵盤に接する位置に坐ります。ペダルを見ずに正確に演奏するには相当の練習が要求されます。例えば、足を嬰ニ(D)と嬰ヘ(F)の間におき、黒鍵の側面に軽く触れながら隣あわせのホ(E)、ヘ、ト(G)の白鍵に正確に到着できることです。オルガン演奏には脚の長さも有利に働くかもしれません。

キリスト教音楽の旅 その9 オルガンの歴史 その3 演奏の仕方

演奏者は鍵盤の前に坐り、手と足で音色を決定するストップ(stop)と呼ばれる音栓と音高を決める鍵盤によって、風箱にある二十の弁を開閉して任意の音を得ます。鍵盤上の音域は4オクターブか5オクターブが主です。作曲者はそのオクターブで曲を作りますが、ときに11オクターブに達する曲を作ることもあります。

音色は、ストップをいくつか組み合わせてつくられます。ストップレバーは鍵盤の左右に数個から数十個も配置されているので、奏者が、演奏中に組み合わせを変えるのは大変です。そのため、以前はストップの操作のために助手が付いていました。両足を使うのは、低く太い音を出す大きな木管や金管から発音させるときです。そのために靴も特別です。奏者は木製の長いベンチに坐ります。木製なので腰を左右に移動するのが容易になります。

ふいごで風を送る姿

今日、音楽ホールや大聖堂などに設置されるオルガンは、鍵盤を弾きながら弁を自在にコントロールしている感覚がします。タンギング(tonguing)のような感じなのです。tongueとは舌のことです。リコーダーでは吹き口に舌を当てて一音一音区切るように音を出す奏法があります。空気の流れを一時的に中断し、各音の出始めを明確にするのです。オルガンのタンギングは指先で行っているといえます。

オルガンの管理ですが、パイプの内部に入ったほこりで音がよく響かなくなります。空気と接する振動面が音を放出するのを溜まったほこりが妨げるからです。そのため掃除は10年に1回位で行われます。パイプを分解して修理するオーバーホールもあります。ビルダー(builder)という職人がやる仕事です。オルガンは温度や湿度にも敏感です。礼拝前や演奏前は通常は空調を入れておきます。

オルガンビルダー

オルガンのような機能を持つ楽器は他にありません。強いていえば管弦楽くらいものです。管弦楽はそれぞれの個性をもつ一つひとつの楽器、それを一人ひとりの演奏者が奏するアンサンブルといえます。オルガンは一人の演奏者による総合楽器とでもいえます。オルガニストは奏者でありながら、音楽全体を統括する指揮者でもあるのです。

キリスト教音楽の旅 その8 オルガンの歴史 その2 その種類

15世紀頃からローマカトリック教会では、オルガンミサ曲、オルガンヒム(organ hymns)が作られていました。こうした楽曲は本来声で歌われるグレゴリオ聖歌を定旋律として用いられ、オルガンによって歌唱が交互に奏せられるようになりました。これが今日の礼拝の形式となっています。

バロック時代には使徒書(Apostle)と福音書(Gospel)との間でトッカータ(toccata)が演奏されました。トッカータはオルガンによる即興的な楽曲で、技巧的な表現が特徴の音楽です。英国国教会でも礼拝の前後に奏楽され、会衆の歌のための前奏曲(hymn prelude)が即興で演奏されます。プロテスタント教会も礼拝ではこうした奏楽形式を採用しています。

オルガンは鍵盤楽器のなかでは最も歴史が古いものです。その大きさもひざの上にのるポルタティーフ(portative)と呼ばれる左手でフイゴからパイプに空気を送り、右手は鍵盤でメロディを奏でるもの、やや大きいポジティフ(positive)という据え置き型のもの、そして礼拝堂に組み込まれる巨大なものまであります。大オルガンの場合、その複雑な構造は楽器の中では他に類をみないものとなっています。

オルガンの構造は、ふいご、あるいは送風機で起こる風、それを空気タンクで調節して一定の風圧にして送風管に送るのです。直接音を出すのは管(パイプ)です。一管で一つの音のみを発音し、音階や音程を変えることができません。それだけにオルガンは多数の管を必要とします。管は音の高さにょって並べられ、単一の音色をもつ一列だけでも楽器として成り立ちます。例えば、スズと鉛の合金で作られる金管や木管だけのものもあります。金管は二つの金属の含有量によって音色が変わるといわるほど微妙な楽器なのです。通常は金管と木管の組み合わせによって、音色や音量を得るのです。それにより多様きわまりない変化が可能となるのです。まさに楽器の王様といえるえしょう。

キリスト教音楽の旅 その7 オルガンの歴史 その1

教会で用いられる器楽の代表はなんといってもオルガンということになります。歌や合唱を支えたり、単独でも演奏されるのがオルガンです。ルター派の教会では、オルガン奏者が歌詞の意味を汲んで、各節ごとに伴奏の和声を変えることがしばしばあります。典礼におけるオルガンと奏者の役割は誠に大きいといえます。

バロック時代(baroque)ではオルガンではなく、ハープシコード (harpsichord)や弦楽合奏がみられました。現代ではピアノやギター、ドラムなども使われます。その変遷は各教派によって異なります。

ルター派教会立バルパライソ大学の礼拝堂

多くの教派のうち、オルガン音楽に重きを置いたのはルター派です。特にバロック時代ではコラール旋律を定旋律として用いたオルガンコラールが多数作曲されます。コラール前奏曲はコラール歌唱に結びつき、まさに礼拝音楽といえるものです。コラール・フーガ(coral fuga)、コラール・ファンタジア(coral fantasia)は礼拝の前後や中盤で奏せられます。こうした音楽は会衆の信仰的な情動を呼び覚ます役割もあるといえそうです。

キリスト教音楽の旅 その6 キリスト教的芸術音楽

基督教徒にとって礼拝はとても重要で、そこでは個人の信仰心が深められ、魂の成長が促される機会ともなります。教会音楽はそのためにも役割を果たします。同時に芸術的な音楽も個人の慰めや憩いの役割をもっています。キリスト教芸術もそのために作られています。

キリスト教的芸術音楽は3つに大別されると云われます。第1は例とは無関係の音楽です。たとえばオラトリオ(oratorio)をはじめ、聖句,その他、道徳的な歌詞をもつ大小の楽曲です。第2は受難曲(passion)、教会カンタータ(cantata)、モテット(motet)などの楽曲です。本来ならば典礼音楽に準じるものです。第3は本来の典礼音楽の流用ともいえるものです。たとえば大型のミサ曲(mass)、レクイエム(requiem)、聖書日課の詩篇(psalm)などの全曲、あるいは一部です。その他にも讃美歌、コラール(coral)などもそれにあたります。バッハやモーツアルトなどの大家が多くの作品をかいています。

キリスト教音楽の旅 その5 典礼的教会と音楽

典礼的教会(Liturgy church)は、礼拝の普遍性を重んじます。カトリック(Catholic)とは「あまねく」という意味ですから。従って礼拝は公式行事の中心となります。教会は、個々人の信仰を包みつつ、個人の信仰をいわば「止揚」するという考え方に立ます。祈祷、賛美の言葉は思いつきで行ってはならないのです。それらは式文や成文として礼拝式に包含されるのです。

ローマ式典礼には、長い間ラテン語(Latin)が用いられました。ラテン語は西洋文明の古典の根幹にありました。学問の世界でもそうです。従ってラテン語が礼拝で使われていたのは、教会の普遍性を示していたといえます。ローマ教会のミサ(mass)、東方教会の聖体礼儀(divine liturgy)、ルター派の聖餐式(sacrament)、英国国教会の早祷(Matins)、晩祷(Vesper)などの儀式の音楽は式文によって進められます。そこで使われるのは云うまでもなく典礼音楽のことです。

様式的にはローマ教会のグレゴリオ聖歌(Gregorian chant)のような単旋律、無伴奏のものも用いられる音楽は典礼の中で不可欠な要素であり、訓練された聖歌隊の役割が大きいのです。典礼が複雑かつ高度であるため、会衆は受動的になりがちです。そこで典礼の間に会衆の信仰心を励まし、高めるために全員で唱和する讃美歌が選ばれます。

詩篇(Psalm)、賛歌(Praise)、聖体降福式(Benediction)における聖歌、英国国教会のアンセム(anthem)やルター派のカンタータ(cantata)等は聖歌隊の分担となります。こうした音楽も会衆に理解し、歌えるような曲が用いられるのが普通です。

キリスト教音楽の旅 その4 自由教会と音楽

札幌独立基督教会と内村鑑三(二列目中央)

英国国教会とルター派教会以外のプロテスタント教会は、通常自由教会と呼ばれ、礼拝の形式化を嫌った発生的な理由により、教会暦や礼拝での式文の使用は緩やかです。特に、宗教改革後はカトリックの典礼主義への反発により、礼拝儀式や年間の宗教行事を自由化したり単純化していきます。礼拝で聖書のどの箇所を朗読するかは牧師に任され、それにそった説教や講解が重視されます。

音楽としては会衆による讃美歌歌唱が重視されます。しかし、歌唱は二義的であり礼拝の不可欠な要素ではありません。オルガンは会衆の歌唱を支援するものですが、オルガンを用いない教派もあります。自由教会の会堂に大規模なオルガンを設置されることは珍しいことです。会堂が比較的小さいこともあって、今は電子オルガンが広くゆき渡っています。従って聖歌隊も副次的な存在です。

自由教会の礼拝では信徒が証をすることも珍しくありません。信徒同士が質問をしたりコメントをすることもあります。牧師はそうした対話を奨励し補足したりします。牧師はファシリテータ(facilitator)といういわば対話の促進者となります。

現在の札幌独立基督教会

キリスト教音楽の旅 その3 プロテスタント教会

プロテスタント教会(protestant church)は、1400年代のルター(Martin Luther)やカルヴァン(Jean Calvin)以来の教会であり、さほど歴史は古くはありません。信徒数はカトリックの半分以下ですが、音楽としては多大な影響と比重を占めています。日本のプロテスタント教会の大勢はカルヴァンの改革派(Reformed church)で、ルター派の福音教会は割合としては少数です。

福音教会もカトリック教会と類似した典礼や礼拝様式を持っています。英国国教会はアングリカン・チャーチ(Anglican Church)とか聖公会といわれ、教義上はプロテスタント,儀礼や礼拝はカトリックという独自の立場をとっています。世界中に38の管区と約4,500万の信徒を有しています。日本聖公会が発足したのは1887年です。

カトリック教会は、聖書以外にも教会の伝統、教皇の権威を重視します。聖職者の祭司的特権も認めています。プロテスタントの各派はいずれも聖書を信仰の基礎に据え、教会の儀式によらず個人の信仰によって救われるという考え方に立ちます。聖職者と信徒との間に根本的な区別は認めません。その考え方を「万人祭司」(universal priesthood)といいます。

教会音楽の形態を分類するとき、典礼的教会と自由教会というように分類すると分かりやすくなります。典礼的教会とは礼拝に一定の式文を用い、その式文は教会歴によって一年間の式音楽が定められています。ローマカトリック、ギリシャ正教、英国国教会、ルター派の教会は、典礼的教会で各日曜主日の礼拝式や結婚式、葬儀に至るまで、その時朗読する聖書箇所、祈り、聖歌や讃美歌などは決められています。式文は簡素化されることもありますが、礼拝を盛大に行うときは式文に添い、音楽は礼拝そのものと不可分となっています。聖歌隊の発達はそうした伝統によっているのです。

キリスト教音楽の旅 その2 カトリックとプロテスタント

キリスト教音楽を別な角度から分類するとすれば、カトリック教会(Catholic)系、東方教会(Eastern Christianity)系の音楽とプロテスタント教会(Protestant)系音楽ということになります。東方教会の別の呼び名は正教会(Orthodox Church)、あるいはギリシャ正教会(Greek Orthodox Church)ともいわれます。

カトリック教会は、必ずしもその名称や理念が示すように普遍的とか全人類的というものではありません。例えば、1962年から1965年に開かれた第2バチカン公会議(Concilium Vaticanum Secundum))は、公会議史上初めて世界5大陸から参加者が集まり、ようやく普遍公会議というにふさわしいものになったといわれるくらいです。この公会議の大きなテーマは、カトリック教会の教義における現代化とか改革といわれます。

プロテスタント教会は宗教改革やルター派、英国国教会、カルヴァン主義諸派(長老派、改革派、会衆派)、メソジスト派、パブテスト派、自由教会各派(フレンド派、キリストの教会、ホーリネス派、救世軍、ピューリタン派)などがあります。モルモン教会は新興の教会です。以上の教会の英語名は次のようになります。少々退屈な説明となりますが、ご勘弁を。
 ルター派(Lutheran)
 英国国教会(Church of England)
 カルヴァン主義諸派(Calvinism)
 長老派(Presbyterian)
 改革派(Reformed)
 会衆派(Congregational)
 メソジスト派(Methodist)
 パブテスト派(Baptist)
 自由教会各派(Free Church)
 フレンド派(Friend)
 キリストの教会(Church of Christ)
 ホーリネス派(Holiness Church)
 救世軍(Salvation Army)
 ピューリタン派(Puritan)
 独立教会(Independent)
 モルモン教会(Church of Jesus Christ of Latter-day Saints)

ともあれ、カトリック教会は、東方諸教会やプロテスタント教会との合同礼拝や一致(Ecumenism)といったことを促進しています。キリスト教を含む諸宗教間の対話と協力を目指す運動が「Ecumenism」ということです。カトリック教会は、世界的にみて教会音楽の世界でも中心的な役割を果たしているといえましょう。