女性の生き方 居眠り磐音 江戸双紙 その六 お艶と大山詣

20150624000150_233962 oyama_afuri10 624c38a9両替商、今津屋吉右衛門のお内儀がお艶です。あまり体が丈夫でなく子もできません。吉右衛門やおこんは常日頃心配しています。番頭の由蔵には、今津屋の跡継ぎがないことが気掛かりです。

体調が思わしくなり、お艶は大山詣を決意し、夫や磐音、おこんらと出掛けるのです。雨降り山といわれる大山、古くから相模国はもとより関東総鎮護の霊山として崇敬を集めてきた1,250mの山です。そこに阿夫利神社があります。古来より雨乞い信仰の中心地としても広く親しまれてきた神社です。

磐音は、激しい雨をついて厳しい岩場をお艶を背負って不動堂まで登っていきます。お艶は念願の大山詣を果たし、磐音にいうのです。

「坂崎さま、私は生涯坂崎さまの背の温もりを忘れません。」

その帰り、伊勢原宿の子安村でお艶は病状が進み、もはや江戸に戻ることが難しくなります。お艶の死期が近いことを吉右衛門は知ります。堪らずむせび泣くおこんに吉右衛門はいいます。

「おこん、人はだれも死ぬ。それはこの世に生を受けたときからの理です。なんの哀しいことがありましょうか。そう考えながらお艶のかたわらで、ゆったりした時を過ごしてみようかと考えました。」

死と向き合うのは人の尊厳に満ちあふれる姿といえましょう。背けず、真っ直ぐに生と死を受けとめる姿に神々しさすら感じます。

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女性の生き方 居眠り磐音 江戸双紙 その五 おきねの死

22d3b1f2 image0-131 toufu_pic坂崎磐音は幼なじみと一緒に江戸で直心影流佐々木玲圓の道場で修行します。共に藩に戻ると陰謀に巻き込まれ、自身の許嫁である小林奈緒の兄を上意によって討ち取ることになってしまいます。傷心の磐音は藩を去り再び長屋暮らしを始めます。

両国東広小路にある楊弓場を経営するのがおきねです。そこに賭け事を挑む男が現れます。五十両を賭けて店をのっとろうとするのです。そこに今津屋の用心棒などで生計をたてる磐音が、相談にのっておきねを次のように励まします。

「勝負は背負っているものが多い者が負ける。なあに相手も人間、失敗することもあろう。勝ち負けは時の運だ」といって勇気づけます。

磐音は、おきねが矢場荒らしからとられた五十両を取り返します。大晦日、おきねは磐音に「休みがとれたらご馳走しましょう」と約束しますが、殺されてしまいます。やり場のない怒りと悲しみにくれた磐音はその仇をうちます。そして磐音はいいます。

「おきね、馳走になりはぐれたぞ、、」

今津屋の大番頭、由蔵は磐音があちこちからの依頼に助勢して飛び回ることに呆れています。
由蔵 「磐音様は今一つ欲がございませぬな」
磐音 「はあ、困ったものです」
由蔵 「ご当人がさようなことでどうなさる」

ですが由蔵は、おこんにも劣らず磐音の情に厚い人格と金銭感覚の淡泊さにぞっこん惚れ込むのです。

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女性の生き方 居眠り磐音 江戸双紙 その4 長屋の女衆と金兵衛

10875058 11033830 PDVD_027-14a03金兵衛長屋の木戸に長屋の女達が集まってきます。金兵衛の妻、おのぶは二年前に流行り病で亡くなります。おこんが十三歳のときです。長屋の女衆、金兵衛、そしておこんの対話です。

「おのぶさんが亡くなって二年が過ぎたね。」
「一時、金兵衛さんはがっかりしていたけど、最近また元気を取り戻したようじゃないか。」

付け木売りのおたねが言い出した。
「東広小路の楊弓場の年増のを口説いているって話かい。」
「あら、おたねさんも承知かえ。」

そこに嘘っぽい空咳が響いて金兵衛が現れます。
これこれ、年端のいかない娘にまで、あらぬ噂を立てるんじゃないよ。」
「あら、おなっつあん、私も知っているわよ。」
「こらっ!」
「おめえ、あらぬ噂は信じるんじゃないよ。」
「長屋の噂なんぞ、千に一つもほんとうのことはないからな。」
「相手がいるのなら、後添いを貰ってもいいのよ。」
「気が寒いで元気をなくすより、新しいお嫁さんを貰って若返えれば。」
「おこん、なんてこと言うんだ。私はなにも、、、、」
「あーあ、女と小人は養い難しだ。」

「おこんちゃん、大家さんを屁って心にもないことを言うなんて、娘も苦労するね。」
「あら、おいちおばちゃん、私本心よ。」
「本心だって?」
「私、近々奉公にでるの。だから、お父っつぁんを独り残して行くのが一番気がかりなの。誰かお父っつぁんの所へお嫁がきてくれると安心なんだけどな。」
「おこんちゃん、おまえさんはできた娘だよ。」
「鳶が鷹を生むってこのことだね。」

金兵衛は、娘おこんの前で空威張りをしてはその威厳を保とうとします。ですが、おこんは父親の独り暮らしを心配して、嫁さんをもらっては、とづけづけ言うのです。金兵衛はおこんの言葉にぐさりと響きます。同時におこんの成長に目を細め、やがて婿がきて孫ができることを夢見ています。
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女性の生き方 居眠り磐音 江戸双紙 その3 ちゃきちゃきの深川っ子

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Wooden bridge by Katsushika Hokusai, color woodcut, 1830-1833

Wooden bridge by Katsushika Hokusai, color woodcut, 1830-1833

c65fc1383559e536c1d5777c46df471d財政難に陥っている関前藩のために、磐音は江戸に関前藩直轄の物産所を設け海産物を売りにだすという提案をします。それまで仲買人が中心となって海産物を扱い、賄をもらう一部の武士だけが潤っていたのです。廻船貿易の提案が実行されて、舟で運ばれてきた海産物が江戸で人気が高まり経営は軌道に乗っていきます。

深川っ子おこんは両替商の今津屋で奉公しています。おこんが外出して蕎麦屋で休んでいるとそこに金比羅屋の用心棒が現れます。赤銅色に焼けた水夫達がおこんを見つけ、「酌をしやがれっ!」と迫ります。おこんが断ると「女郎屋に叩き売ろうか!」と罵声を発したときのおこんの啖呵です。

「へん、ふざけっちゃいけないってんだ。こっちは深川六間堀で産湯を使ったちゃきちゃきの深川っ子だ。薄汚いお前なんぞの酌をする今津屋のおこん様に考え違いをしやがったか。背に彫った金比羅様がお泣きになっておいでだよ。明後日出直してきやがれ! 馬鹿野郎!」

こんな啖呵を切り、「あら、いやだ。私としたことが怒りに任せて地を出してしまったね」と慌てて顔を赤らめるのです。

本当に気っ風がよくてすかっとします。でも今津屋では礼儀作法にたけ、人の機微を解し、主人や番頭が絶大な信頼を得て奥の努めを果たしています。彼女は、気が利いて周りの女中にも親切で、普段は決して叱ったり大声を上げることはありません。

おこんが深川や両国界隈を歩くと、男衆が振り返りなんとか近い寄りたいと腕をこまねくのです。おこんは、磐音に首ったけなのですから、そこらの男に媚びを売ることはありません。

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女性の生き方 居眠り磐音 江戸双紙 その2 金兵衛の娘

149288_30555main 江戸は深川六間堀の通称「金兵衛長屋」の大家がおこんの父、金兵衛です。坂崎磐音もこの長屋に住んでいます。夏でもどてらを着ていて、娘からも「どてらの金兵衛さん」と呼ばれています。連れ添いのおのぶは既に他界しています。口は少々悪いのですが、生来気がよく、店子からも慕われています。「大家と言えば親も同然、店子と言えば子も同然」というのは落語定番の台詞です。

おこんは今小町と呼ばれる別嬪です。「鳶が鷹を生んだ」という評判になるほどの美人です。今津屋に女中として長年奉公し、若いながら奥向きの一切を任されるほどの信頼を得ています。気っ風がいい深川娘です。

金兵衛は浪人暮らしの磐音をかばっています。早く娘が嫁に行き、孫をみたい、みたいと言っています。おこんが密かに磐音に想いを寄せているのを知らず、あれこれと見合いの工作しては、おこんに叱られ見合い計画はおじゃんになりしょんぼりするのです。娘の磐音への想いを父親はまだ存ぜぬのです。
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