与太郎噺のひとつに「錦の袈裟」がある。通称、与太は、少々虚け者ということになっている。町内の若者たちが吉原へ遊びに行く相談をした。隣町の若い者のいでたちが凄いということが伝わったきた。それに負けてはならじと、なんとか粋な格好をして出かけようということになった。
そこで「質屋に何枚か質流れの錦の布があり、使っていいと番頭に言われているので、それを褌にして吉原へ乗り込み裸で総踊りをしよう」と決める。ところが、布が一枚足りない。仕方なく、与太には自分で工面させることにする。
与太は家へ帰ると、しっかり女房がいう。「行ってもいいが、うちに錦はないよ。じゃ檀那寺の住職にお願いしておいで。『褌にする』とは言えないから『親類の娘に狐がついて困っております。和尚さんの錦の袈裟をかけると狐が落ちる、と聞いておりますので、お貸し願います』と言って借りてきなさい」
知恵を授けられた与太、寺へやってきてなんとか口上を言って、一番いいのを借りることができる。和尚からは「明日、法事があって掛ける袈裟じゃによって、朝早く返してもらいたい」と念を押される。帰宅して女房に袈裟を褌にして締めてもらうと、前に輪や房がぶら下がり、何とも珍妙な格好になる。
いよいよ、みんなで吉原に繰り込んで、錦の褌一本の総踊りとなる。女達に与太だけが大いにもてる。「普段、殿様は羽目をはずことができないのよ。だからああして踊っているの、」などと女の間で与太はえらい評判となる。
女達 「あの方はボーッとしているようだが、一座の殿様だよ。高貴の方の証拠は輪と房。小用を足すのに輪に引っ掛けて、そして、房で滴を払うのよ」
女達 「他の人は家来ね。じゃ、殿様だけ大事にしましょうね」
翌朝、与太がなかなか起きてこないので連中が起こしに行くと、まだ与太は寝ている。
男達 「与太、、そろそろ起きな、、帰るぞ、、」
与太 「みんなが呼びにきたから帰るよ、、」
女 「いいえ、主は今朝(袈裟)は返しません」
与太 「今朝は返さない……? ああ、お寺をしくじる」