ウィスコンシンで会った人々 その117  人情噺 「火事息子」 その2 火事と喧嘩

さて、本題の火事と喧嘩である。神田は質屋伊勢屋の一人息子の藤三郎。なぜか小さいときから火事が好きでしょうがない。いってみれば火事道楽である。やがて町火消しになろうとして町内の鳶頭のところへ頼みに行くが断られる。藤三郎は体中に刺青をしたりして素行がよくないので、家からは勘当されている。

鳶頭は町火消という民間の消防団の頭もしていた。藤三郎は別の町火消のところへ行っても、すでに鳶頭から回状がまわっていて断られる。火消しになるためには厳しい条件があった。藤三郎はそれに合わず、仕方なく火消屋敷の人足になる。

ある北風が強く日。伊勢屋の近くから火事が出た。質蔵の目塗りをしようと左官の親方に頼むが、手が回らないという。さいわい質蔵は風上であるが、それでも、質蔵に火が入っては一大事と質蔵に目塗りをすることになった。主人は高い所を怖がる番頭を蔵の屋根へ上げ、丁稚の定吉に土をこねさせ屋根へ放り上げる。だが番頭は片手で半てんを押さえている。怖がって土を上手く受けとめれない。顔に土が当たって顔に目塗りをしている有様だ。

これを遠くから見ていた一人の火消しのような者が屋根から屋根を伝わってきてくる。そして番頭の帯を折れ釘に結ぶ。これで番頭は両手が使えるようになる。ようやくのことで目塗りが終わる。幸い風が止んで鎮火。そこに火事見舞いの人たちが入れ替わり立ち替わり伊勢屋にやってくる。火事見舞いではササが振る舞われる。

火事見舞いだが、紀伊国屋からは風邪をひいた旦那の代わりに倅もやって来た。伊勢屋は自分の息子と比べ羨ましく、思わず自分の息子の愚痴も出る。そこへ番頭がさっき手伝ってくれた火消しが旦那に会いたいと言っていると取り次ぐ。旦那は店に質物でも置いてあるのだろうと思い質物を返すようにと言うが、番頭は口ごもってはっきりしない。

よくよく聞いてみると火消しは勘当した倅だというのだ。もう赤の他人なんだから会う必要はないという旦那を、番頭は「他人ならお礼を言うのが人の道ではないか」と諭され、それも道理と一目会って礼を言おうと台所へ行く。

かまどの脇に短い役半てん一枚で、体の刺青をだした息子の藤三郎がいる。お互いに他人行儀のあいさつを交わすが、息子の刺青を見て、折角大事に育てた親の顔へ泥を塗るような姿だと嘆く。

旦那 「お引取りを、、」
藤三郎 「それではこれでお暇を」
と言うが二人を番頭が引きとめ、おかみさんを呼ぶ。奥から猫を抱いたおかみさんが出てくる。火に怯えずっと抱いたままだという。

番頭 「若旦那がお見えでございます」 
おかみさん「猫なんか焼け死んだって構やしない」

と猫を放り出す。せがれの寒そうななりを見たおかみさん、蔵にしまってある結城の着物を持たせてやりたいと涙ぐむ。

旦那 「こんな奴にやるくらいならうっちゃってしまったほうがいい」
おかみさん 「捨てるぐらいならこの子におやりなさい」
旦那 「だから捨てればいい、わからねえな、捨てれば拾って行くから」
おかみさん 「よく言っておくんなさった。捨てます、捨てます、たんすごと捨てます」

おかみさん 「この子は粋な身装も似合いましたが、黒の紋付もよく似合いました」
おかみさん 「この子に黒羽二重の紋付の着物に仙台平の袴をはかして、小僧を伴につけてやりとうございます」
旦那 「こんなヤクザな奴にそんな身装をさしてどうするんだ」
おかみさん 「火事のおかげで会えたから、火元に礼にやりましょう」

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