ウィスコンシンで会った人々 その67 吝嗇噺

以前、「ドケチ噺」を取り上げた。ケチは吝嗇ともいう。広辞苑には「吝嗇」を過度にもの惜しみをすることとある。度を越した節約ぶり、ケチのことである。かつては、落語では「三ぼう」という言葉があった。どんな観客にも不快を催させない、といわれそれぞれの語尾からとられた。

まずは「泥棒」。落語の中ではどんなに悪く言っても、自ら名乗りでて怒鳴り込んでくる泥棒はいない。次に「けちん坊」。わざわざ金を出して噺を聴き笑いに来る客にケチな人はいない。最後は「つんぼう」。耳の聞こえない者は落語を聴きにこない。今では差別語とされるが、落語の噺なのでお許しをいただこう。

▽吝嗇にまつわる小咄がいろいろとある。ケチの人間を俗に「六日知らず」という。なぜなら一般に日付を勘定するときには、「1日、2日、、」と指を折っていくが、吝嗇家は6日目を勘定しようとすると、一度握った指を開くのが惜しくなってしまうそうだ。

▽ある男の向かい側の家が火事で丸焼けになった。それを知った男は、妻に焼け跡から種火を取って来させようとした。当然、相手は怒る。男はふてくされ、「今度こっちが火事になっても、火の粉もやらん」

▽ある大店の旦那。10人の使用人を雇っていたが、節約のために5人にする。それでも仕事に余裕があるので、その5人も解雇し、夫婦だけで経営を続ける。主人は自分ひとりでも仕事が間に合う、というので妻と離縁し、最後には自分自身もいらない、と自殺してしまう。

▽ケチの親子が散歩をしていると、父親が誤って川に落ちてしまう。泳げない息子は通行人に助けを求めるが、ケチの通行人は「助けはお代次第」という。値段交渉になり、2千円、3千円、4千円と値が釣り上がっていく。沈みかけている父親が叫んでいわく「もう出すな! それ以上出すなら、俺は潜る(または、「それ以上出すぐらいなら、もう死んでしまう」)」

▽店の内壁に釘を打つことになり、主人は丁稚に、隣家からカナヅチを借りてくるよう命じる。丁稚は手ぶらで帰ってきた。隣家の主に「打つのは竹の釘か、金釘か」と聞かれ、丁稚が金釘だ、と答えると、「金と金(金属同士)がぶつかるとカナヅチが擦り減る」と言って貸してくれなかったという。主人は隣人のケチぶりにあきれ果てて、「あんな奴からもう借りるな。うちのカナヅチを使え。」

▽男は「1本の扇子を10年もたせる方法」を考案した、と言い出す。半分だけ広げて5年あおぎ、次の5年でその半分をたたんで、残りの半分を広げて使う、というものだ。男は「始末はしてもケチはしてはいかん」と評し、「わしなら孫子の代まで伝えてみせる。扇子は動かさんと、顔の方を動かす」。

▽うなぎ屋の隣に住んでいる男。飯時になると、うなぎ屋から流れてくるかば焼きを焼く匂いをおかずにして飯を食べていた。それを知ったうなぎ屋が、月末に「匂いは客寄せに使こうてるさかい、代金を支払え」と言って家に乗り込んでくる。

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ウィスコンシンで会った人々 その60 ドケチ噺

ドケチとかしみったれ、というのは落語の定番の話題になる。ケチは「吝嗇」ともいう。

吝嗇を笑う「味噌蔵」を取り上げる。
独り身の味噌屋の主人ケチ兵衛。嫁をもらうと子供ができれて経費がかかってしかたがないといまだに独身。心配した親類一同が、どうしても嫁を持たないなら、今後一切付き合いを断る、と脅したので、泣く泣く嫁をもらう。

やがて嫁さんは妊娠。臨月が来たらかみさんを実家に押しつけてしまえばいい。そうすれば費用はみなあちら持ちだ。ケチ兵衛はやっと一安心する。無事男子を安産の知らせが届いたので、ケチ兵衛は小僧の定吉をお供に出かけることにする。旦那が出かけると、奉公人一同、このチャンスにと、のみ放題食い放題、日ごろのうっぷんを晴らそうと番頭に申し出る。

なにしろ、この家では、朝飯の味噌汁が薄くて実なし。番頭が、勘定は帳面をドガチャカごまかすことに決め、寿司に刺身、鯛の塩焼きに酢の物と、ごちそうをあつらえる。相撲甚句に磯節と、陽気などんちゃん騒ぎ。そこにケチ兵衛が帰ってくる。
「片棒」の吝嗇は馬鹿息子の間抜けさを引き合いにした笑いが中心である。赤にし屋の主人ケチ兵衛は、身代を築いたケチな旦那。三人息子の誰かに跡目を継がそうかと考える。そこで息子達の金銭感覚を試すために、「もし私が明日にでも死んだらどんな葬式にするか」と質問した。

長男の金蔵は、立派な葬式を出すべきだ、と言う。通夜は二晩行い、本葬は大寺院を借り、50人の僧侶に読経させ、会葬客の食事は折り詰めでなく豪華な重箱詰めにし、東西の酒を揃え、客の帰りには交通費や豪華な引き出物を渡すべきだと言う。ところがケチ兵衛はカンカン。「そんな葬式なら自分もでたい」と呆れさせる。

次男銀蔵は、葬式はイキに色っぽくやるべきだと主張する。町内中に紅白の幕を張り巡らせて、木遣唄や芸者衆の手古舞ではじめ、ソロバンを持ったケチ兵衛そっくりのからくり人形を載せた山車や主人の遺骨を積んだ神輿を神田囃子に合わせて練り歩かせるというのだ。最後に花火を打ち上げて落下傘をつけた位牌を飛ばすといった葬式。銀蔵は怒った父親に部屋から追い出される。

三男銅蔵は質素で倹約家。「死骸はどこかの高い丘に置いて鳥葬にしよう」と言う。さすがに主人が嫌がると、しぶしぶ通夜を出す案を話す。「出棺は11時と知らせておいて、本当は8時ごろに出してしまえば、客への茶菓子や食事はいらないし、持ってきた香典だけこっちのものにすることができる。早桶は物置にある菜漬けの樽を使う。そうして臭い物には塩をまいて蓋をする。樽には荒縄を掛けて天秤棒で前後ふたりで担げるよう運ぶようにする。人手を雇うとお金がかかるから、片棒は自分が担ぐ。でも、一人では担げないからもう片棒は人を雇る。」ここでケチ兵衛が銅蔵を制し、「心配するな。片棒は俺が担いでやる」

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