貨幣論 その3 信用創造とは

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銀行がどのようにお金を作り出すか、という過程は私どもの直感とは少し異なるため、非常に興味深い話題です。一般的には「誰かが預けたお金を、銀行が別の人に貸し出している(又貸し)」と思われがちです。しかし、現代の貨幣論、特にイングランド銀行(Bank of England) などの中央銀行も認めている見解では、「貸し出しによって預金が生まれる」と考えます。これを「信用創造(credit creation)」と呼びます。

 信用創造のステップですが、銀行が私に融資をする際、金庫から現金を取り出して渡すわけではありません。私が銀行から100万円を借りる契約をすると、銀行は私の通帳に「1,000,000」と数字を書き込みます。キーボードの入力で済むのです。この瞬間、世の中に新しい預金というマネー、100万円が誕生します。銀行の貸借対照表には借方に資産として「貸付金」が、貸方に「預金」として同額計上されます。信用創造とは、銀行は元手となる現金を持っていなくても、借り手の「返済能力」という信用を担保に、記帳だけでお金を作り出せるのです。無からの創造という立て付けなのです。

やさしい経済学と哲学から引用)

 市中銀行は無限にお金を作れるわけではありません。そこには一定のルールがあります。預金準備率という制約で、それが「準備預金制度」です。市中銀行は、預金の一定割合、例えば1%などを「準備預金」として中央銀行、日本なら日銀に預けなければならないという決まりがあります。これは中央銀行への預け入れと呼ばれます。この比率があるため、銀行が作り出せるお金の総額には理論上の上限が生じます。

 信用創造の連鎖は次にようになります。A銀行に100万円が預けられるとします。準備率が10%ならA銀行は10万円を日銀に預け、残り90万円をB会社に貸し出します。B会社がその90万円を支払いに使い、受け取った会社C会社がそれを乙銀行に預けるとしてます。乙銀行は9万円を日銀に預け、残り81万円を貸し出すという連鎖となります。このように、連鎖的に預金が膨らんでいくプロセスを指して「信用創造」と呼ぶこともあります。

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貨幣論 その2 インガムの貨幣論

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ケンブリッジ大学(University of Cambridge) の経済社会学者にジェフリー・インガム(Geoffrey Ingham)がいます。主著は 1996年論文「貨幣は社会関係(Money is a Social Relation)」と、2004年著書「貨幣の本質(The Nature of Money)」です。彼の貨幣論は、経済学・社会学・歴史学の学際的視点から貨幣の本質を根底から問い直すものといわれています。というのは、伝統的な商品価値としての貨幣論から訣別する先駆的な理論といわれるからです。その理由は以下のようなことです。

Geoffrey Ingham (ケンブリッジ大学から引用)

 インガムの貨幣論の出発点は、主流派とか新古典派と呼ばれる経済学への根本的批判から始まります。新古典派の貨幣論は、「物々交換」から貨幣が生まれたと説明します。孤立した個人が物々交換の不便を解消するために貨幣を自然発生的に生み出した、と説明します。インガムはこうした立場を歴史的根拠のない「神話」と断じます。人類学や歴史学の検証では、物々交換が貨幣に先行した社会は存在しないことを示しており、むしろ信用(credit )関係こそが貨幣より先に存在したと主張します。

 主流派経済学では貨幣は実物経済に対する「貨幣は中立的なヴェール」にすぎないと見なします。この意味は、「お金は交換の仲立ちをするだけの存在であり、お金の量を操作したところで、国全体の生産力や豊かさという本質は変わらない」というのです。「貨幣を中立的なヴェール」と宣明するのは、方法論的な出発点が物々交換モデルという虚構に基づいているからです。インガムはこれを否定し、貨幣は実物経済を根底から構造化する社会的力だと主張します。インガムの核心的な命題は、「貨幣とは、計算貨幣の単位によって表示された信用と負債の社会関係である」というのです。 貨幣は社会関係であると主張するのです。

 つまり、貨幣は「モノ(商品)」ではなく、人々の間の債権や債務の社会関係そのものと考えるのです。金貨であれ紙幣であれ、その物質的形態は本質ではなく、貨幣が「誰かが誰かに対して何かを支払う義務を負っている」という社会関係を体現していると考えるのです。現実の資本主義経済では、銀行による「信用創造(credit creation」こそが投資と生産を可能にし、貨幣は決して受動的な「ヴェール」ではなく、経済を能動的に形作る構造的な力だという主張です。

 インガムの理論は4つの基本要素からなります。第一は、計算貨幣(Money of Account)という最も根本的な概念です。インガムにとって、貨幣の最も根源的な機能は「計算単位(measure of value)」です。円、ドル、ポンドといった抽象的な価値の尺度が先にあり、その単位で表示された信用や負債が「貨幣」となるというのです。交換を可能にする「媒介手段」より、価値を計測し記録する「計算単位」こそが貨幣の本質だと強調します。これはメイナード・ケインズ(Maynard Keynes) が「貨幣の計算単位は貨幣理論の本源的概念だ」という洞察を継承したものといわれます。

 第二は、信用貨幣論(Credit Theory of Money)です。インガムは、アルフレッド・イネス(Alfred Mitchell-Innes)の貨幣の信用理論を発展させ、貨幣の発行とは負債の創造であり、銀行が貸出を行うとき、銀行の負債(預金)が新たに「創造」されると主張します。この考えは前述した信用創造とも呼ばれています。貨幣を受けとった者は「将来において財・サービスを受け取る権利」を得るのです。

 信用創造の一例を申し上げます。A銀行が100万円を借りたいというB会社に貸し出す際、手元の預金からB会社に又貸しするのではありません。単にB会社の口座に100万円と記帳するだけです。その記帳の瞬間に100万円という預金、すなわち貨幣が創造されるのです。B会社はそれによって収益を上げたとき、借りた額をA銀行に返済すると、100万円という貨幣は消滅するのです。言い換えれば預金通貨という貨幣は、民間銀行と民間企業との間に「信用ー負債」という社会関係が成立することで創造されるのです。その関係が終わると社会関係は解消されるのです。この関係では、100万円という札の束の交換という行為は全く存在しません。

(iLinkより引用)

 すべての貨幣は誰かの負債であります。そしてその「信用度」や「通用力」には階層があります。これは「負債のピラミッド(Debt pyramid)」と呼ばれます。ピラミッドの上に行くほど信用度が高く、決済の最終手段として機能します。ピラミッドの最上層は、政府や中央銀行が発行する貨幣です。紙幣、硬貨、および民間銀行が中央銀行に預けている「日銀当座預金(準備預金)」がピラミッドというわけです。日銀当座預金は、銀行などの金融機関が日本銀行に開設している原則、無利息の口座です。銀行間の決済、現金決済、および法定の準備預金を預け入れるために使用されます。

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