懐かしのキネマ その97 【チャイナ・シンドローム】

原題は「The China Syndrome」といって、原子力発電所の取材中に事故に遭遇し真実を伝えようとする女性リポーターの活躍サスペンス映画です。1973年7月に公開されますが、たったの12日後にスリーマイル島(Three Mile Island)原子力発電所事故が発生します。ずさんな発電所管理の実態に気づき、事故を防ぐために命を懸ける原発管理者や不祥事を揉み消そうとする利益優先の経営者との対立を描いた問題作でもあります。「チャイナ・シンドローム」とは、 冷却装置の事故で、核燃料が高熱によってメルトダウンして放射能などが原子炉の外に漏れ出すことを意味する用語です。

アメリカの地方テレビ局の女性リポーター、キンバリー・ウェルズ(Kimberly Wells)は、原子力発電所のドキュメンタリー特番の担当となり、カメラマンのリチャード・アダムス(Richard Adams)とともにベンタナ(Ventana)原子力発電所の取材に赴きます。中央制御室を二人が見学中、原子力発電所は何らかのトラブルを起こしたような振動を発します。そこは撮影禁止の場所だったのですが、アダムスは密かにそのときのコントロールルームの様子を撮影していました。

後日、そのフィルムを原子力の専門家に見せると、専門家からはこれは重大な事故が起きる寸前であったと伝えられます。技師で制御室の責任者のジャック・ゴデル(Jack Godell )が計器の表示間違いに気づき、危ういところで大惨事を免れていました。ゴデルは過去の安全審査資料を調べ直し、トラブルに繋がる重大な証拠を発見します。検査にかかる費用を削減するため、定期検査の結果に不正が施されていたのをゴデルは発見するのです。

危機感を訴えるゴデルですが、原発管理者側は原子力発電の安全性を信じて疑わず、多額のコストがかかる検査など不要であるとして、ゴデルの訴えをはねつけます。そこでゴデルはキンバリーを通じ、検査に不正が施されていることをマスコミを通じて世間に告発しようとします。しかし、会社側から自分がねらわれていることをカーチェイス(car chase) で知ります。

ゴデルは追手を振り切って原子力発電所に駆け込みますが、原子炉が一刻の猶予もない状態まで進行しているのを知ります。そして制御室からテレビ中継を通じて原発事故に繋がるトラブルを世間に告発するか、制御室からの操作で汚染物質をばら撒き発電所を使用不能にすると叫びます。原発管理者側は警察の突入部隊を呼び出し、またいつでもテレビ中継を中断できるよう、電力供給を断つための工作活動を開始します。キンバリーによるテレビ中継が始まった直後、原発管理者側によって電力供給が絶たれ、原発事故が発生します。警報の作動により深刻な事態を悟ったゴデルは死に物狂いで原子炉の停止を試みますが、彼は警察の突入部隊によって射殺されます。しかし、ゴデルの努力で原子炉は停止します。

原発管理者側は駆けつけたテレビ中継の取材に対し、一連の騒動はゴデルが酒に酔って錯乱して起こしたものであると主張し、原発が安全であることを強調して事故の隠蔽を図ります。しかしゴデルの同僚のテッド・スピンドラー(Ted Spindler)はテレビ中継の前でゴデルを擁護する発言を行い、キンバリーも視聴者に対してゴデルの正当性を訴えるのです。

懐かしのキネマ その96 【クロコダイル・ダンディ】

オーストラリア(Australia) で製作された映画は珍しいのですが、その1つがこの【Crocodile Dundee】です。コメディ映画ですが、十分娯楽作品として楽しめます。この映画の後に【Crocodile Dundee II】も製作されます。

スー・チャールトン(Sue Charlton)は、父親が経営するニューズデイ(Newsday)という新聞社の記者です。リチャード・メイスン(Richard Masons) という男性と付き合っています。彼女は、取材でウオークアバウト・クリーク(Walkabout Creek)という北オーストラリアの小さな部落を訪れ、そこでマイケル. J(Michael J)、別名クロコダイル・ダンディ(Crocodile Dundee)という先住民(bushman)に会おうとします。 クロコダイル・ダンディはワニに片足をもぎとられたことがある、という噂の人物です。

ウオークアバウト・クリークに着きますが, ダンディに会うことができません。そこで、彼女はそこのバーでダンディのビジネス共同経営者というウオルター(Walter Reilly)に会います。 その夜、スーはダンディに会います。しかし、ダンティの足は片足ではありませんが、大きな切り傷を持っています。ダンディは自分で「咬まれた愛の印」(love bite)と呼んでいました。スーがダンディと踊っているとき、カンガルー狩をする男達から「クロコダイルハンター」とからかわれます。ダンディは一発のパンチでグループのリーダーを倒すのです。

スーが始めてダンディをみたとき、それまでいわれていた伝説的な人物とは違った印象を受けます。人なつこい性格と立ち振る舞いなのです。水牛をてなずけ、アボリジニー(aboriginal)の踊りに加わり、素手で蛇を殺し、カンガルー狩の人間を酒場で追い出すなどの行為にスーは驚きます。

スーはオーストラリアの奥地に入ったときのことです。スーは一人でライフル銃を持参して沼地にやってきます。大きなワニに襲われます。ダンディはそっと後を付け、そのワニを撃退するのです。スーはやがてダンディに好意を抱くようになります。

やがてスーはオーストラリアでの取材の延長でダンディをニューヨークへ招待します。 ダンディはニューヨークの街でアメリカ人の行動や習慣に困惑します。ポン引きや強盗等に遭遇するのですが撃退します。二人は気心が合いキスをする仲となります。スーの父親の家で、彼女とダンディの訪問を祝うパーティが開かれます。スーの以前の恋人リチャード(Richard)がスーにプロポーズをします。リチャードが以前の自己中心的で酒で酩酊する時期かあったことをスーに打ち明けるのです。スーはいやいやながらポロポーズを受け入れます。

ダンディはスーの婚約にがっかりし、アメリカ国内を旅することにします。やがてスーは自分は結婚しないことに決心し、ダンディを追って地下鉄の駅に向かいます。プラットホームの乗客の混雑でダンディを見つけることがきません。しかし、乗客が彼女のメッセージを次々にリレーしてくれます。ダンディは 梁をつたってスーのところにかけより抱擁を交わします。乗客等は喜びの拍手で二人を祝福するのです。

懐かしのキネマ その95 【三十四番街の奇蹟】

1947年に制作されたファミリーストーリーが(Miracle on 34th Street)です。サンタクロース(Santa Claus) は実在するか否かの考え方が主題です。舞台はニューヨーク(New York)マンハッタン(Manhattan) 三十四番街のスクェアに位置する百貨店メイシーズ(Macy’s)の旗艦店です。クリスマス商戦の開始を告げる感謝祭(Thanksgiving)の仮装パレードの準備中に酔いつぶれたサンタ役を叱りつけた老人ークリス・クリングル(Kris Kringle)が人事係のドリス(Doris Walker)の判断で代役を努めます。パレードは成功、芸達者な彼はユーモアと思いやりによって、おもちゃ売り場で子どもたちの人気者になります。メイシーズもクリス人気に便乗します。

しかし、クリスはドリスとの面接の際に、自分が本当にサンタだとする彼は妄想癖があるとみなされてしまいます。そこでメイシーズ専属の医師ソーヤー(Granville Sawyer)に彼の診察をさせた結果、異常はありません。ソーヤーは妻と不仲でそのことを診察中にクリスに指摘され苛立ち、彼に異常があると偽りの診断をし、今すぐに精神病棟に入れたほうがいいと進言します。だが、クリスが入所している老人ホームの医師ピアース(Pierce) は彼には異常がないとして精神病棟に入れる必要はないと主張します。

その直後にメイシーズで働いている若い従業員のアルフレッド(Alfred) が子どもたちに親切すぎることを理由に、ソーヤーがアルフレッドに精神障害であると発言したことをクリスは知り、憤った彼はソーヤーを非難して杖でソーヤーの頭を叩いてしまいます。そして、ソーヤーの企みでクリスは精神病棟に閉じ込められるのです。

過去の痛みからサンタクロースを信じられないドリスと、彼女の心を知る健気な娘スーザン(Susan) は老人が二人にとってかけがえのない存在だったことを知ります。クリスにとってもスーザンがサンタクロースを信じてくれることが何よりの望みでした。クリスが本当のサンタクロースであると訴えて裁判が開かれます。

ドリスの隣人で弁護士のフレッド(Fred Gailey)はクリスの弁護をかって出ます。事件はクリスが精神的に正常かどうかで争われるのです。正直な老人を助けたいニューヨークの人達は街角の店先やアパートのベランダに「私たちはサンタクロースを信じます」というオピニオンボードを掲げ始めます。裁判はクリスの主張が不利なまま進行します。法を曲げられない判事のハーパー(Harper)は「奇蹟が起こらない限り」老人を助けられないだろうと密かにフレッドに伝えます。そして結審の日を迎えのです。

判事ハーパーの机の上に弁護士のフレッドが、郵便局で刻印された山積みの郵便物を置きます。すべて「サンタクロース様」という宛名書きです。判事はこうした手紙を見て,クリスはサンタクロースであると宣言するのです。

懐かしのキネマ その94 【頭上の敵機】

第二次対戦中、1942年の秋はイギリスにおけるアメリカ空軍が最も苦戦した時代といわれます。ドイツ空軍による迎撃で多くの爆撃機が撃墜され、乗組員を失うのです。それを映画化したのが【頭上の敵機】(Twelve O’Clock High)です。イギリスのアーチベリー飛行場(Air Force Station Archbury)は、アメリカ空軍第918爆撃隊 (918th Bomb Group) の基地です。在英爆撃隊の司令官プリッチャード将軍(General Pat Prichard) は、ドイツの戦力の源泉となっている軍需工場を壊滅させるために、危険と知りつつも指揮下の部隊に昼間爆撃を敢行させるのです。

第918爆撃隊は航空士ツィンマーマン中尉(Col. Zimmerman)の誤算により、敵の集中攻撃を受けて、4分の1以上の未帰還機を出します。この爆撃隊は、「ツキに見放された部隊」(bad luck group)と呼ばれます。温情家だった隊長のダヴェンポート大佐 (Colonel Keith Davenport) は、これを味方の不運として表沙汰とせずにいましたが、指令部付きのサヴェージ准将(General Savage) は、親友である大佐の心境を見るに忍びず、率直にプリッチャード司令官にダヴェンポート大佐の更迭を進言します。

こうして、918爆撃隊はサヴェージ准将が代わって指揮をとることになります。サヴェージは隊の士気が著しく弛緩していることを知ります。責任を感じたツィンマーマン中尉は自殺してしまいます。その他の責任者に対し彼は容赦なく賞罰を課し、全員に猛訓練を要求します。ダヴェンポート大佐のときと全く違うサヴェージの対応に、搭乗員の間に激しい不満が湧き起こり、転属を申し出る者が多数のぼります。隊付の古参であるストーヴァル副官(Major Stovall)の骨おりによって、転属騒ぎは次第に収まっていきます。

サヴェージは出撃の都度、先頭機で指揮をとり、部隊の責任者として全力を尽くします。その意気が隊員に行き渡り、918爆撃隊の成果は目立って上昇するとともに、転属希望を撤回する者が続出します。手傷い攻撃をうけたドイツは戦闘機を増強してこれに立ち向かい始めたので、米空軍の消耗も増加の一途を辿ります。918爆撃隊も例外ではなく、ドイツ軍の戦闘機や高射砲にさらされます。サヴェージは次第に精神的にまいり、ダヴェンポートの心境が始めてわかるような苦しい立場に追いこまれます。部下を死地に追いやる悩みに追われながら部隊に任務命令を与えなければならなかったからです。

こうした心身ともに彼に襲いかかる激務のため「戦闘ストレス反応」を起こし、ついにドイツ奥地にあるベアリング製造工場への爆撃行の先頭機に搭乗できないほどに疲労してしまいます。爆撃を終えた帰還機の爆音をサヴェージは1つ、2つと数えます。21機のうち19機が帰還してきます。それを確認したサヴェージは安心したかのように深い眠りに就くのです。

懐かしのキネマ その93 【眼下の敵】

【眼下の敵】(The Enemy Below)は、 1957年制作の作品です。第二次大戦中の南大西洋が舞台です。ドイツのUボート (U-boat) 狩りをやっていたアメリカの駆逐艦ヘインズ号(USS Haynes) のマレル艦長(Commander Murrell)は着任以来自室に閉じこもりきりでした。そこで乗組員たちは彼が民間出身のため船酔いで苦しんでいるのだろうと噂し合っています。しかし、彼は彼が着任する直前乗っていた貨物船が魚雷攻撃(torpedo)を受け、愛する新妻が自分の前で死んでいくのを見て憔悴していたのです。

ある日、駆逐艦のレーダーがUボートを捕らえます。初めて彼は乗組員の前に姿を現わし、夜通しの追跡を始めます。一方Uボートの艦長フォン・ストルバーグ(Von Stolberg) は、味方が手に入れた敵の暗号書を本国へ持ち帰るという重大な使命をもっていました。彼は沈着で勇敢な男でしたが、2人の息子を戦争で失い、無益な戦争を呪っていました。こんな2人が海上と海面下で虚々実々の駆け引きを始めます。

しかし、お互い一面識もないもかかわらず、いつしか2人の心にはそれぞれの戦術について、尊敬の念が沸いてくるのです。再び行動を開始したUボートは、とっときの魚雷4本で見事ヘインズ号を射止めます。直ちに浮上したストルバーグ艦長は、マレル艦長に5分以内に離艦するよう要求します。これを見たマレル艦長は全員を退艦させ、自らも離艦すると見せかけ、最後の力をふりしぼってUボートに体当たりを敢行します。

2隻の艦は沈没しそうになります。その中で敵味方の別なく、海上では彼我の乗員たちが助け合います。全員の脱出を認めて離艦しようとしたストルバーグ艦長は、永年の部下で副官であったシャウファー(Heini Schwaffer)の姿が見えないのに気がつきます。水につかった艦内からシャウファーを救い出したストルバーグ艦長は、これ以上の救出が無理なことを知って艦橋に残ります。そしてUボートに仕かけられた時限爆弾の爆発を待つのです。その時、マレル艦長からストルバーグ艦長へロープが投げられます。2人の海の男の心は今やはっきりと交わり合います。傷ついたシャウファーをロープにむすびつけるストルバーグ艦長、これを引くマレル艦長、この2人のところに生き残った両艦の乗組員が殺到します。

翌日、救援にやってきたアメリカ駆遂艦の甲板で、ストルバーグ艦長とマレル艦長が立ち会い部下の葬儀が行なわれます。ドイツ乗組員により副官の遺体が海に葬られるのを全員が厳粛な気持で見送るのです。

懐かしのキネマ その92 【八十日間世界一周 】

フランスの作家、ジュール・ヴェルヌ(Jules Verne)の同名小説【Around the World in 80 Days】を原作とする映画です。主人公が20,000ポンドの賭けに勝利するため、気球・鉄道・蒸気船などを利用して80日間での世界一周を目指すのです。日本を含む世界各国の多彩な風景をカラー撮影で楽しめるアドヴェンチャー映画でもあります。主演のフォッグ役(Fogg)には、イギリス紳士的風貌の持ち主である名優デヴィッド・ニーヴン(David Niven)、パスパルトゥー役(Passepartout)には「カンティンフラス」(Cantinfla)の愛称で知られた世界的コメディアンのマリオ・モレノ(Mario Moreno)、アウダ妃(Princess Aouda)をシャーリー・マクレーン(Shirley MacLaine)が演じていいます。


1872年、英国人紳士のフォッグ(Phileas Fogg)は、80日間で世界一周ができると宣言します。リフォームクラブ(Reform Club)という社交場にて4名の懐疑的なメンバーとで当時の価値で2万ポンド、今の価値で1,800万ポンドで賭をするのです。80日後の丁度その夕方8時45分に社交場に戻れるかどうかです。

パスパルトゥーという下男を連れ、フォッグは大枚をはたいて目指す目的地へより早く到着するために蒸気汽船などを借り上げます。出発地点はパリで、ラコンケッタ(La Coquett)という気球に乗り込みます。山越えの汽車のトンネルがふさがれたのを知ったからです。二人はスペインにやってきます。パスパルトゥーは奇妙な闘牛士となり牛と闘います。

次はイタリアのブリンディジ(Brindisi)に行きます。ところがフォッグはイングランド銀行(Bank of England)から4,900万ポンドの金を盗んだという疑いをかけられスコットランド警察(Scotland Yard)の警部フィックス(Fix)に追われます。フィックスはスエズ運河(Suez Canal)の近くの英国領の港町で二人を待ち受けるのです。逮捕を逃れた二人はインドに着きます。そこでアウダという女性を知ります。夫の葬式で、彼女は火葬用の薪の上で生け贄にされようとします。計略を思いついたパスパルトゥーは、薪の中から突然起き上がり、夫のふりをして恐怖におびえている僧たちを尻目にアウダを助けだすのです。

香港に到着します。パスパルトゥーは追いかけてくる警部フィックスの計略で阿片を吸わされ、意識朦ろうとなりながら、どうにか横浜行きの蒸気船に乗り込みますが、主人のフォッグに船の出航が繰り上げになったことを伝えられませんでした。フォッグは日本への移動手段が絶たれたことに気づきます。彼は次の目的地である横浜へ向かう船を探し、小さな水先案内船を見つけ、船長に大金を握らせてフォッグとアウダ、そして警部フィックスは横浜経由でサンフランシスコ行きの大型船の出発地、上海へ向かいます。洋上で時化に遭うも横浜にたどり着きます。そこでフォッグは、サーカス団の団員としてアメリカへ渡ろうとしていたパスパルトゥーを偶然に発見するのです。

サンフランシスコで一行はニューヨーク行きの大陸横断鉄道に乗り込みますが、列車がインディアンの襲撃を受けます。襲撃でパスパルトゥーと他の2人の乗客が人質として拉致されますが、フォッグは旅よりもパスパルトゥーの救出を優先し、砦の近くの兵士たちとインディアンの集落に向かい、無事人質たちの解放に成功します。

12月21日に一行はイギリスのリバプール(Liverpool)へ到着します。警部のフィックスは横浜で受け取っていた逮捕令状をもってフォッグを逮捕してしまうのですが、本物の銀行強盗は3日前に逮捕されていたことを知ります。フォッグは急いでロンドンへ向います。そして賭で決めていた予定から5分遅れた午後8時50分にロンドンへ到着します。フォッグは賭けに負けたと思い、フォッグは下男のパスパルトゥーに、翌日にアウダとの結婚のために、教会での式の準備を依頼します。

ところがパスパルトゥーは結婚式の日は、復活祭(Salvation)の日曜日であることを告げられます。そこでフォッグは日付変更線(international date line)により、一日遅れていることに気が付くのです。そして期限の8時45分前にリフォームクラブへ行き、自分が賭に勝ったことを宣言します。そこへパスパルトゥーとアウダがリフォームクラブにやって来ます。そこにいた紳士連中は驚愕します。なぜなら、それまでクラブは長い間女人禁制だったからです。

懐かしのキネマ その91 【レオン 】

1994年のフランス・アメリカのアクション映画【レオン 】(The Professional)を紹介します。アクションとはいえ、貧しい境遇の中で生きる少女と一人暮らしの男との助け合う姿を描く名作です。

ニューヨーク(New York)で孤独に生きるイタリア系移民のレオン(Leon) は、プロの殺し屋(hitman)として日々を送っていました。ある日、「仕事」帰りのレオンはアパートの隣室に住む12歳の少女マチルダ(Mathilda)と知り合います。マチルダは実父であるジョセフ(Joseph)から虐待を受けています。

その翌日、ジョセフの麻薬密売組織の「商品」を横領したことを見抜いた麻薬取締局の捜査官のスタンスフィールド(Norman Stansfield)とその同僚らがジョセフの部屋に押し掛け、ジョセフと一味は銃撃戦となります。マチルダの家族は4歳のマイケル(Michel) も含め皆殺しにされますが、マチルダは運良く難を逃れ、とっさに隣室のレオンに助けを求めます。レオンはしばし逡巡した後に彼女を保護するのです。

レオンに共感を覚えるマチルダは、弟の復讐のため殺しの技術を教えてほしいとレオンに頼みます。「ボニーとクライド(Bonnie and Clyde)みたいにコンビを組もう」という彼女の言葉にレオンは戸惑いもします。マチルダの熱意に押され、レオンはマチルダに戦術の初歩を伝授するのです。マチルダは学がないレオンに読み書きを伝授することにり、奇妙な同居生活を始めた二人は、やがて互いに信頼しあうようになります。

ある時、マチルダはスタンスフィールドが麻薬取締局の捜査官であることを突き止め、密売組織の背後には麻薬取締局が絡んでいたのを知ります。マチルダはピザの宅配員を装い麻薬取締局に侵入しますが、スタンスフィールドに早々に察知され逆に捕まってしまいます。マチルダの置き手紙を元にレオンは早速麻薬取締局へ乗り込み、拘束されていたマチルダを救出します。

全てはレオンの仕業であると確信したスタンスフィールドは翌朝、市警の特殊部隊を総動員してレオンの住むアパートに突入。マチルダも特殊部隊によって保護されます。レオンは激しい銃撃戦を掻い潜りマチルダを脱出させることに成功します。レオン自身は負傷した突入部隊員を装って脱出を試みますが、スタンスフィールドに見破られ倒れます。レオンは、スタンスフィールドに「マチルダからの贈り物だ」と言って、スタンフィールドに手榴弾の安全ピンを握らせます。レオンの体を調べるとジャケットの下には多数の手榴弾が隠されています。その瞬間、大爆発が起こります。

一人残されたマチルダは、レストランの店主レオンの雇い主であるトニー(Tony)に殺し屋の修行をさせて欲しいと頼むのですが断られます。トニーを介して、レオンの遺産は彼の意志により少しずつマチルダに渡されることになります。マチルダは学校への再入学が認められ、レオンが大事に育てていた観葉植物を学校の庭に植えるのです。

懐かしのキネマ その90 【アラビアの女王】

20世紀初頭、イラク(Iraq)とヨルダン(Jordan)両国の国境線を決めてイラク建国の立役者となり、“砂漠の女王”と呼ばれたイギリス人女性ガートルード・ベル(Gertrude Bell) の生涯を描いた映画【Queen of the Desert】です。【アラビアのロレンス】と同様、中東における列強の植民地支配の駆け引きに疑問を抱いて活躍した女性の物語です。

ガートルードはイギリスの富裕な両親の娘です。頭脳明晰だった彼女はロンドンのクイーンズ・カレッジ(Queens College)で進んで教育を受けます。当時、ベル家のような社会階層の女子教育はもっぱら個人的な家庭教師によって担われていました。さらに珍しいことに彼女は17歳でオックスフォード大学(Oxford University)に進んで、近代史を勉強します。

ガートルードは、ロンドンのエリート層が楽しむ社交生活に関心がありません。舞踏会、レセプション、特権的な会合に出席することは嫌いでした。有意義な人生を求めていたガートルードは、テヘラン(Tehran)で外交官をしていた叔父のところへ行くことを決心します。中近東の国に魅了されるだけでなく、ヘンリー・キャドガン(Henry Cadogan)という大使館の書記官と恋に陥ります。彼は知的な読書家であり熱心なスポーツマンで、ガートルードと同じく歴史に興味を持っていました。2人は惹かれあうようになり、ガートルードは求婚を受けます。しかし、両親は結婚相手として認めず、そのロマンスは長続きしません。

ガートルードは、持ち前の好奇心と博識によって中近東の国々の歴史を調べ、著作に専念していきます。アラビアを広範囲に旅し、アラビア語(Arabic)、ペルシャ語(Persian)、フランス語、ドイツ語に堪能になり、イタリア語とオスマン語 (Osmanlıca)を話するすようになります。彼女の知識と築いた人脈により、探検や地図作成を行い、イギリス帝国の政策立案に大きな影響力を持つようになります。アラビアのロレンスといわれたロレンス(Thomas.E.Lawrence)、オスマン帝国領事であったチャールス・ドーティワイリー(Charles Doughty-Wylie)らに出会います。やがて、共に現在のヨルダンやイラクのハーシム朝(Hashim Dynasty)を支援していきます。

彼女は、中東各地を旅して築いた部族の指導者たちとの絆から、独自の視点で中東の将来を考えていきます。そしてイラクにおける近代国家の確立とその運営に役割を果たしていきます。彼女の思想はイギリス政府関係者から高く評価され、絶大な力を発揮していきます。彼女はその後、「国王陛下の政府の代表でアラブの人々が愛情に似たものを覚えた数少ない一人」と評されるようになります。

1921年3月、カイロ(Cairo)でイギリスの植民地大臣チャーチル(Winston Churchill)の主宰により、ガートルード・ベル、コックス(Percy Cox)、そしてロレンスなどの「東洋学者」の選りすぐりのグループを招集してオスマン帝国の分割とイギリスの委任統治、イラクのような新興国家の境界を決定するためのカイロ会議 (Cairo Conference) が行われます。この会議でベル、コックス、ロレンスは第一次大戦中にアラブの反乱の扇動者で、フランスによってダマスカス(Damascus)を追放されていたファイサル(Faysal)をイラク国王とし、その兄のアブドゥッラ(Abdullah) をヨルダン(Jordan) の首長とした新国家の建設を精力的に推進します。

懐かしのキネマ その89 【理由なき反抗】

親の子に対する無理解や無関心といったテーマ性が多くの共感を呼んだのが【理由なき反抗】という映画です。大人や社会に対しての不満のはけ口を探していた当時の若者の姿を描いた作品です。

親の都合でロスアンジェルス(Los Angels) に引っ越してきた17歳の少年ジム(Jim Stark)は、真夜中に路上で泥酔していたところを警察に連行されます。彼は、そこで夜間外出で保護を受けた少女ジュディ(Judy)や、仔犬を撃ち殺したといって連れてこられたプレイトウ少年(Plato)と知り合います。3人はそれぞれ説諭され帰宅を許されます。 ジムの一家は転居続きで、つい最近この街へ来たばかりでした。彼の父親は意志薄弱で、家庭は気の強い母親がとり仕切っています。

翌朝、新しい学校であるドーソン・ハイスクール (Dawson High School)へ登校の途中、ジムはジュディに会います、彼女は不良学生のバズ(Buzz)、ムーズ(Moose)、クランチ(Crunch)らと一緒でした。その日の午後、学校の校外学習でプラネタリウムに出掛けたのですが、不良仲間に目をつけられたジムは彼らのリーダーのバズに喧嘩を売られるのです。2人はプラネタリウムの建物の外でナイフを手に喧嘩を始めますが守衛に見つかり止められたため、その夜チキン・ラン(Chickie Run)と呼ばれる度胸試しをすることになります。

崖の周りに少年たちが集まり、ジムとバズは、盗んだ中古自動車に乗って崖に向かってフル・スピードで車を走らせる命がけのチキン・ランが始まります。ジュディやバズの不良仲間が見守る中、ジムは巧く落ちる直前に車から脱出しますが、飛び出しそこねたバズは、自動車ごとそのまま谷底へ落ちていきます。呆然自失となったジムはプレイトウとジュディとともに家へ戻ります。 ジムは警察へ届けようとしますが、両親は激しく反対します。

両親を振り切って警察に出向いたジムは、少年保護係レイ(Ray)の不在を知り、警察を出て、ジュディを連れ秘かにプレイトウに教えてもらった空き家へ行きます。ムーズとクランチはジムが警察に届けるのを恐れ、プレイトウを脅してジムの居所を知ります。プレイトウはジムに警告するため、父親の拳銃を持って家を飛び出していきます。プレイトウも空き家に着ます。プレイトウを1室に残し、ジムとジュディとは空き家の別室で激しい抱擁を重ねます。

やがてジムを追うムーズたちが空き家を見つけます。一人で残されたプレイトウが見つかり追い回されます。 信頼しかけたジムとジュディに一人にされ、見放されたと思い込んだプレイトウはパニックに陥り、家から持ち出した拳銃を追手に放ち、クランチを撃ちます。間もなく空き家についた灯りに巡回中の警官が気付き、ジムの家族やプレイトウのメイド、少年保護係のレイも駈けつけます。ジムとジュディは近くのプラネタリウムに駈け込んだプレイトウを制止しようとします。

半狂乱のプレイトウはジムに拳銃を向け、警官に射殺されるのです。ジムの両親は死体に寄りすがって泣き叫ぶ我が子を慰め、この悲劇によってお互いを理解し合うのです。

懐かしのキネマ その88 【欲望という名の電車】

原題【A Streetcar Named Desire】は、劇作家テネシー・ウイリアムズ(Tennessee Williams)の傑作といわれます。それを基にした名画です。港湾都市ニューオーリンズ(New Orleans)のうらぶれた下町が舞台です。「欲望通り行き」(Desire)と表示された路面電車から、孤独な未亡人ブランシュ・デュボワ(Blanche DuBois)が降り立ちます。ブランシュは、父の死と共に南部の家を失い、アルコールに身を持ち崩して、妹ステラ(Stella)が結婚しているニューオーリンズのフランス街 (French Quarter) の家にやってきます。

ステラの夫スタンリー・コワルスキー(Stanley Kowalski) は粗暴な男で、カードと酒に狂ってはステラに暴力を振るうのですが、それでも彼女はこの男に全身を捧げています。そのような妹夫婦の日常を見るにつけ、ブランシュはスタンリーのカード仲間ミッチ (Mitch) に次第に関心を持つようになります。ミッチは母と2人暮らしの純情な独身者で、真面目にブランシュとの結婚を考え始めます。彼女もミッチに、年若の夫を失った暗い過去を打ち明けて、将来への希望を語るのです。しかしスタンリーは街の仲間から、ブランシュは17歳の少年を誘惑するなど大変なあばずれで、故郷を追われてきた女だということを聞き出して、ミッチにぶちまけます。

ブランシュの誕生日にミッチは顔を見せず、しかもスタンリーは彼女に贈り物として故郷へ帰る片道切符を渡します。その夜ステラが俄かに産気づき、スタンリーと病院に出かけたあと、ブランシュは訪ねてきたミッチに結婚を迫りますが、彼はもはやその言葉に動かされはしません。夜更けて帰ってきたスタンリーはブランシュが1人妄想に酔っているのを見ると暴力で彼女を犯します。完全に発狂したブランシュは、紳士が自分を迎えに来たという幻想を抱いて、精神病院へ送られていくのです。

懐かしのキネマ その87 【草原の輝き】

原題は【Splendor in the Grass】といいます。青春映画の代表作の一つともいわれています。ここで紹介することにします。1928年、カンサス(Kansas) に住むバッド(Bud)と、ディーン(Dean) は高校3年生。ディーンの母親は保守的な倫理観の持ち主で「男は尻軽な女を軽蔑する、そういう女とは結婚したがらない」というのが信条で、母親にバッドを会わせづらいディーンです。

バッドの父で石油業者のエイス(Ace) は息子がフットボールの選手であることが大自慢で、イェール大学(Yale University) に入れたがっていますが、バッドには父親の期待が心の負担になっています。父は理解あるように振舞うのですが、本能的には暴君で、姉のジェニー(Ginny)が家出して堕落してしまい、大学を追われたのも、こんな父がたまらなかったからです。バッドはひたむきなのだが、ジェニーはそれを受けとめてくれないのです。父は「女には2種類あって、時々気晴らしに遊ぶ女と、結婚する女だ。感情に任せて、責任取らされるようなことはするな」と口癖で言っています。そんなことでイライラした気持を、バッドは折にふれて乱暴な行動で爆発させるのです。ついに同級生でコケティッシュな女性の誘惑に負けてしまいます。

青春の悩みに苦しんでいるディーンはこの事件でショックを受け、ワーズワース(Wordsworth)の詩の授業の途中に教室を抜け出し、川に身を投げるのです。滝に落ちかける手前で、救助に飛び込んだバッドのおかげで死を免れたディーンは精神病院に入院します。父の希望通りイェール大学に入ったバッドは、勉強にも身が入らず、酒ばかり飲み、あげくにアンジェリーナ(Angelina) というイタリア娘と結ばれてしまいます。大学は退学寸前のところまできています。

おりしも、1929年の世界大恐慌(Great Depression)がやってきます。エイスは恐慌からの大打撃を隠して息子に会い、女をバッドの寝室に送り込んだりします。その夜窓から飛びおりて自殺するのです。ディーンは病院で知り合ったジョニー(Jonny)という若い医師と婚約します。退院してから、ディーンはバッドが田舎へ引込んで牧場をやっていることを知り訪ねて行きます。バッドがアンジェリーナとつつましく暮らしているのに接し、2人は穏やかな気持ちで再会するのです。

懐かしのキネマ その86 【エデンの東】

原題は【East of Eden】といい、旧約聖書(Old Testament) の創世記(Genesis) に登場するカイン(Cain)とアベル(Abel)の物語を下敷きにしたジョン・スタインベック(John Steinbeck)の同名小説を映画化した作品です。創世記における最初の夫婦であるアダム(Adam)とイヴ(Eve)の息子がカインがです。カインは農業に従事していましたが、彼の捧げた作物を神は喜ばず、神はカインよりもアベルを寵愛します。嫉妬によりカインは弟を殺します。後にカインは人類最初の殺人者として呪われます。

1917年、アメリカ合衆国カリフォルニア州(California) サリナス(Salinas)が舞台です。アダム・トラスク家(Adam Trask)には二人の息子がいます。キャル(Cal) とアーロン(Aron)です。キャルは反抗的で野性的です。他方アーロンは忠実で真面目な子どもです。アーロンにはアブラ(Abra Bacon)という恋人がいます。キャルは、秘密を探っていました。無賃乗車して、モントレー(Monterey)の港町でいかがわしい酒場を経営している中年女性ケート(Kate)を尾行していたのです。彼女が、死んだと聞かされている自分の母かもしれない人物だったと思っていたからです。

ある日、キャルは「父から愛されていないのではないか」という自分の悩みを兄、アーロンの恋人であるアブラに打ち明ける。すると、彼女も同じ悩みを抱えていたことがあったことをキャルに打ち明け、二人の心が近づいていきます。キャルは父アダム(Adam Trask)の企画していたレタスの冷凍保存に使用される氷を屋外に滑らせ砕いてしまいます。そのことで父から聖書の一説を引用した叱責を受ける中、「自分のことを知りたい、そのためには母のことを知らなければ」と母のことを問い質すのです。アダムは母との不和を話し、彼女は死んだということを伝えます。キャルはケートの店に向かい、彼女と直接対面するも話には応じられず追い返されてしまいます。その後、キャルはアダムの旧友である保安官から両親が結婚した時の写真を見せられ、ケートが自分の母だと確信するのです。

アダムは商取引で失敗し、損失を蒙り一家の財産がなくなります。キャルが軍隊に大豆を大量に卸すことによって得た利益、15,000ドルを得て感謝祭の日にそれを父アダムに渡そうとするのですが、戦争に悪感情を抱き、戦争を利用して大金を得たことをアダムは叱責して金を受け取りません。アーロンとアブラが婚約を伝えたように清らかなものが欲しかったと告げるのです。キャルは大声で泣き「父さんが憎い」と叫んで出て行きます。嘆くキャルをアブラが慰めているのを目撃したアーロンは激昂し、アブラにキャルのところに行くなと厳しい口調で伝えます。それに対してキャルは父への憎しみがいつしか兄への憎しみに変わり、母であるケートの酒場にアーロンを連れていき初めて彼に母と対面させます。驚いたアーロンを母と二人きりにさせてキャルが帰宅します。

アダムにアーロンの行方を問われたキャルは「知らないね、僕は兄さんの子守りじゃないんだ」と返し、ケートが家を出た理由にも触れて父との決別を告げます。アーロンは、最も軽蔑する女が自分の母であったことを知って激しいショックを受け、自暴自棄になってその日のうちにヨーロッパ戦線に出征します。そして終戦の前年に戦死してしまいます。

アブラは自分の心の中にキャルがいることに気づき、心臓発作で病身のアダムのベッドの傍で必死に看病します。そしてキャルが父の愛を求めていたことを語り、キャルに何か頼み事をしてほしい、そうでないと彼は一生ダメになってしまうと訴えます。アブラは、絶望して病室に入りたがらないキャルを説得して父のベッドで再び許しを請うように促すのです。アダムの目が訴えるようになり、キャルがアダムの口元に耳を寄せると、微かな声で「代わりの看護婦は要らない。お前が付き添ってくれ」と告げるのです。確かな言葉で父の愛を知ったアブラとキャルとは涙します。そしてキャルは父のベッドの傍らに座るのです。

懐かしのキネマ その85 【スリ】

原題は「PICKOCKET」。「スリ」という意味です。1960年にフランスで作られた名画です。社会の中で行き場を見失った貧しく寡黙な一人の青年が、スリという行為に生きがいを求め、その所業にのめりこんでいく一方で、現実の営みから離脱し、人としての感情も希薄になっていく様を描いた作品です。フランス映画はアメリカ映画と違った風趣があります。是非観ていただきたい作品です。

貧しい大学生ミシェル(Michel)は、母から離れ安アパートで暮しています。ふとしたきっかけで、ロンシャン競馬場(Longshan Racecourse)で、女性のバッグから金をスリ取ります。自分にスリの才能があることを発見します。一度は刑事に捕まったものの、証拠不十分で釈放されますが、再び他人の財布を狙い出します。母にその金を届けた時、隣室の娘ジャンヌ(Jeanne)に会います。小才のきく真面目な友人ジャック(Jacques) に、ミシェルは仕事の世話を頼みます。

ミシェルは、仕事へ行く地下鉄でスリの犯行を目撃し惹き付けられます。練習ののち最初の犯行は成功します。時には失敗しますが、ジャックと喫茶店にいる時、かつて尋問されたペレグリ警部(Pelegri)に会います。彼はミシェルになぜか目をつけています。やがてその手口は、仲間を引き込んだ組織的なものになっていきます。本もののスリが彼をアパートの出口で待っています。見込まれた彼は種々の手口を教えられ銀行の前でスリをし、駅では三人で組んでかせいでいくのです。

ミシェルの母が亡くなります。葬儀にはジャンヌも参列しています。警部のペレグリがアパートを訪ね、盗んでいたお金を所持していたことを伝えます。彼はその金がミシェルが稼いだものと考えます。しかし、ミシェルを告訴しません。

カメラは「スリ」の行為について、その手の動きをクローズアップさせ、青年と仲間が連係プレーで繰広げる数々の華麗なる手口を流れるようとらえています。青年の淡々と抑揚のないモノローグを朗読し、若干の台詞のやり取りがあるだけです。その台詞も棒読みに近い語りかけですで、登場人物たちの動きも必要最小限にとどまっています。フランス映画の名作といえるのではないでしょうか。

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懐かしのキネマ その84 【カッコーの巣の上で】

原題は【One Flew Over the Cuckoo’s Nest】といいます。この題名の意味は少し勉強しないと理解できそうにありません。荒筋を紹介することにします。主人公のマクマーフィー(Patrick McMurphy)は刑務所の重労働から逃れるために、偽って精神病院に入院してきます。向精神薬を飲んだふりをしてごまかし、ラチッド婦長(Mildred Ratched)の定めた病棟のルールに次々と反抗していきます。グループセラピー(group therapy) などをやめてテレビでワールドシリーズを観たいと主張し、他の患者たちに多数決を取ったりなどします。最初は患者たちは決められた生活を望むのですが、マクマーフィーのやり方に賛同するようになります。

他の患者と無断で外出しボートに乗せて、マクマーフィーの女友達とともに海へ釣りへ行ったりします。こうした反抗的な行動が管理主義的なラチッド婦長の逆鱗に触れ、彼女はマクマーフィーが病院から出ることができないようにしてしまいます。ある日患者が騒動を起こした際、止めようとしたマクマーフィーも一緒に、お仕置きである電気けいれん療法(electroconvulsive therapy) を受けさせられてしまいます。マクマーフィーは、しゃべることのできないネイティブアメリカン(native American)であるチーフ(Chief)とともに順番を待っていますが、実際は彼がしゃべれないフリをしていることに気づき、一緒に病院から脱出しようと約束します。しかしチーフは、自分は小さな人間だとその誘いを断るのです。

クリスマスの夜、マクマーフィーは病棟に女友達を連れ込み、酒を持ち込んでどんちゃん騒ぎを始めます。一騒ぎ終わった後の別れ際になって、ビリー (Billy)が女友達の一人を好いていることに気がつきます。ビリーはマクマーフィーに可愛がられています。マクマーフィーは、女友達にビリーとセックスをするよう頼み込み、二人は個室に入っていきます。二人の行為が終わるのを待っている間、マクマーフィーは酒も廻りつい寝過ごしてしまいます。翌朝、乱痴気騒ぎが発覚し、そのことを婦長からビリーは激しく糾弾され、母親に報告すると告げられます。そのショックでビリーは自殺してしまいます。マクマーフィーは激昂し、彼女を絞殺しようとします。婦長を絞殺しようとしたマクマーフィーは他の入院患者と隔離されてしまいます。

チーフはついに逃げ出すことを決意し、マクマーフィーを待っています。戻ってきたマクマーフィーは病院が行った治療ロボトミー治療(lobotomy)によって、もはや言葉もしゃべれず廃人のような姿になっています。チーフはマクマーフィーを窒息死させ、窓を破って精神病院を脱走するのです。

懐かしのキネマ その83 【追想】

1956年制作の歴史ドラマ映画です。ロシア帝国(Russian Czar)のアナスタシア皇女(Anastasia Romanov)が実は生存しているという伝説を下敷きにして作られた映画で原題は【Anastasia】となっています。

10代の若き皇女アナスタシアを含めて、ロシア皇帝ニコライ2世(Tsar Nicholas II) の一家が十月革命(Russian Revolution)の後に赤軍のボリシェヴィキ(Bolsheviks) によって殺害されたと推測されてから10年が経過します。ロシア革命で反ボリシェヴィキである白軍(White Russian) の将軍ボーニン (General Bounine)はニコライ2世が4人の娘のためにイングランド銀行(Bank of England)に預金した1000万ポンドのロマノフ家の遺産に目をつけます。ボーニンは街で出会った記憶喪失(amnesia)の女性アンナ・ニコル(Anna Nicholas)を、生存が噂されるアナスタシア皇女に見立てて遺産を手に入れようと、彼女に各種のレッスンを施して「本物」らしく仕立てます。

デンマーク(Denmark)で甥のポール公(Prince Paul) と余生を過ごす皇太后フェドロヴァナ(Empress Marie Feodorovna)は、アンナと涙の対面をします。ふとした妙な咳から皇太后は彼女が本物のアナスタシアであることに気付いたのです。資産目当てでボーニンに協力するポール公とアンナの数週間後の婚約発表も決まるのですが、ボーニンのアンナへの想いも「本物」になってしまい、二人が愛し合うという誤算が生じてしまいます。

ポール公とアンナの婚約発表当日、披露の場にボーニンとアンナの姿はありません。孫娘が行方不明となる事態に、全てを承知していた皇太后は「芝居は終わった。家にお帰りください」と招待客に告げるためにポール公を伴って会場に向かうのです。

懐かしのキネマ その82 【お熱いのがお好き】

1958年に製作されたコメディ映画の傑作の一つといわれます。原題は【Some Like It Hot】。なんといってもマリリン・モンロー(Marilyn Monroe)が、酒場で「I Wanna Be Loved by You」を歌う場面が一世を風靡します。偶然殺人事件を目撃してしまった2人のバンドマンは、追われる身になります。カツラと化粧を施し女性バンドの中に潜り込み、ギャングの目を欺こうとすることからシーンは始まります。

1929年2月のシカゴの麻薬街です。ジョー(Joe)というサキソフォーン(saxophone)演奏者とジェリー(Jerry)というベース(double bass)演奏者がいます。2人は、ギャングスターであるスパッツ(Spats Colombo)が経営するもぐり営業の酒場で働いています。チャーリー(“Toothpick” Charlie)という男の密告で警官が酒場を強襲します。ジョーとジェリーは逃走します。二人は、チャーリーが聖ヴァレンタインデイ(St. Valentine Day)の虐殺のように、撃たれてしまうのを目撃します。スパッツとギャング仲間は2人が逃走したことを知ります。ジョーとジェリーは街を抜け出し、変装してジョセフィーンとダーフィン(Josephine and Daphne)と名乗り、スウィートスー&シンコペーター(Sweet Sue and her Society Syncopators)という女性バンドに潜りこみます。そこで2人は、女性歌手でウクレレ奏者であるシュガー・ケイン(Sugar Kane)に出会います。

ジョーとジェリーは変装しながらもシュガーに惚れていきます。シュガーは、ジョーに自分を利用しようとした男性のサキソフォーン奏者と縁を切っていると伝えます。そして、フロリダ(Florida) で優しそうで眼鏡をかけた百万長者の男と出会いたいというのです。フロリダヘの列車の中で、禁止されたパーティが開かれ、ジョセフィーンとダーフィンはシュガーと親密になります。しかし、女性の変装をしており、シュガーに言い寄ることができないのが残念です。

マイアミ(Miami)に着くと、ジョーは二度目の変装をして、自分は百万長者でシェル石油の御曹司だといってシュガーに求婚します。彼女には無関心を装うのです。そこに百万長者でマザコンの年いった男、オズグッド・ジュニア(Osgood Fielding III)がダーフィンを追いかけ回します。ダーフィンが断るたびにオズグッドの食欲は増すといった塩梅です。オズグッドは自分のヨットでのシャンパンディナーにダーフィンを招待します。

ジョーはジェリーをオズグッドの相手をさせておいて、自分がオズグッドのヨットにシュガーを載せて楽しみます。ヨットの上で、ジュニアに変装したジョーは、自分には心理的なトラウマがあってインポであるが、自分を癒してくれる女性なら喜んで結婚するとシュガーに言い寄るのです。

シュガーはジュニアの精力をかなり掻きたてます。他方、ダーフィンはオズグッドとタンゴ「ラ・クンパルシータ(La Cumparsita)」を終日踊るのです。ジョーとジェリーがホテルにもどると、ジェリーは、ダーフィンに扮した自分にオズグッドが求婚したのでそれを受け入れたというのです。オズグッドの計略を暴いて、即時に離婚し多額の慰謝料をせしめるつもりであることも語ります。

ホテルでは「イタリアオペラのフレンド」(Friends of Italian Opera) と題する会議が開かれます。実はこの集まりは、リトル・ボナパルト(Little Bonaparte)という大物の出席による全米の犯罪組織の集会です。その会場で、スパッツとその一味は、長い間探し続けていたジョーとジェリーを発見します。恐れた2人はバンドを辞め、ホテルから去ろうとします。ジョーは、シュガーに打ち明け、自分は父親の選んだ女性と結婚するためにベネズエラ(Venezuela) に行かなければならないと告げます。

ジョーとジェリーは犯罪組織の晩餐会でテーブルの下に隠れスパッツから逃れます。リトル・ボナパルトはスパッツとその一味を晩餐会で殺します。ジョーとジェリーはその場の目撃者となりホテルから逃れます。ジョセフィーンに変装したジョーは、ステージ上で失恋の悲しみを歌うシュガーを見上げます。そしてステージにのぼり、シュガーにキスをします。シュガーはようやくジョーがジョセフィーンであり、ジュニアであることを知ります。

ジェリーはオズグッドに彼のヨットでジョセフィーンとダーフィンをつれ出すようにと説得します。シュガーは、演奏しているステージを飛降りて、今しもジェリー、ジョー、オズグッドを乗せて出帆するオズグッドのヨットに飛び乗るのです。 ジョーはシュガーを欺いていたこと、彼女の意に添えなかったことを謝ります。シュガーもジョーと別れると伝えます。一方、ジェリーは、ダーフィンとオズグッドが結婚できない理由が喫煙と不妊症のためであるといいます。オズグッドはジョーとジェリーを解雇します。そして、自分はダーフィンと結婚するつもりだと主張します。憤慨したジェリーはかつらをとり、自分は男であると宣言します

懐かしのキネマ その81 【捜索者】

原題は【The Searchers】。南北戦争で南軍(Confederacy)に従軍したイーサン・エドワーズ(Ethan Edwards)は終戦後、テキサス(Texas) で牧場を営む弟アーロン・エドワーズ(Aron Edwards)の許に戻ってきます。出迎えたのはアーロンやその妻マーサ(Martha)、18歳の娘ルシイ(Lucy)、14歳になる息子ベン(Ben) 、9歳の娘デビー(Debbie) です。他にチェロキー族(Cherokee)との混血で、一家がコマンチ族(Comanches)に皆殺しにされたため引取られた若者マーティン・ポウレイ(Martin Pawley)にも会います。

翌日、牧師も兼ねるテキサス警備隊長(Texas Rangers) サム・クレイトン大尉(Captain Sam Clayton) の一行がやって来きます。隣人の牧場主ジョーゲンセン(Lars Jorgensen)の牛がインディアンに盗まれたので追跡するためです。イーサンとマーティンは隊に加わります。出発した捜索隊は途中、白人男子を家から誘い出すためのコマンチ族の仕業と知り、二隊に別れて捜索します。その間、エドワーズ(Edwards) 一家は皆殺しされ、ルシイとデビーは誘拐されます。犯行はコマンチ酋長スカー(Scar) と部下の仕業です。捜索隊はコマンチ族を追跡しますが劣勢のため退却します。復讐の念に燃えるイーサン、マーティンそしてルシイと愛し合っていた20歳になるブラッド・ジョーゲンセン(Brad Jorgensen) の3人だけ追跡を続けることになります。

数ヵ月後、3人はコマンチ族に追いつき、イーサンはルシイの死体を発見し埋葬します。インディアン宿営地近くでそれを知ったブラッドは狂気のようにコマンチ族目掛けて馬を飛ばし、非業の最期を遂げます。イーサンの敵慨心は更に硬くなります。やがて捜索2年目も過ぎイーサンは、デビーと血縁もないマーティンに平和な生活へ戻れとすすめるのですが、彼はきき入れません。その頃、イーサンは交易所の経営者から、報酬と引換えにデビーの居所を教えてもらいます。イーサンとマーティンは、誘拐されているデビーは酋長スカーと北方の保留地に向ったと聞いて直ちに出発します。やがてコマンチ族の交易所に立寄った時、マーティンはコマンチ娘ルック(Look)に惚れ込まれてしまい、珍妙な夫婦ができるのです。イーサンは酋長スカーらの居所を聞き出します。姿を消したルックは軍隊に襲撃された集落で死体となって発見されます。

アメリカ西南部を踏破した二人は、ニュー・メキシコ地帯(New Mexico) でメキシコ人エミリオ(Emilio)の案内から遂に目指すスカーの許に着辿り着きます。白人を憎悪するスカーです。その天幕には一人前の娘に成長したデビーの姿があります。ですが彼女は二人に気がつきません。怖気づいたエミリオは、スカーは全部知っているのだと言い立去ります。二人が去りあぐんでいる処に駆けよったデビーは「私は今ではコマンチです。帰って下さい」と言います。拳銃を手にしたイーサンはコマンチの狙撃に傷つき、マーティンの助けで辛うじて牧場へ戻ります。

折しも牧場では、警備隊員チャーリイとローリイの結婚式が行われようとしています。怒ったマーティンは花婿と拳銃で応酬し、結婚式はおじゃんとなります。やがてクレイトン指揮の警備隊はスカーのキャンプを急襲し、単身潜入したマーティンはデビーを救いスカーを射殺します。長年コマンチの許で暮したため、白人に敵意を持つようになったデビーをイーサンは殺そうと決意します。デビーを追いつめて銃口を向けますが、無邪気な表情に射つのを止め、馬上に抱き上げてブラッドの牧場に帰り着きます。愛するマーティンを迎えるローリイ。ジョーゲンセン夫人の胸にすがるデビー。6年間の使命を果したイーサンは満足気に一人去って行くのです。

懐かしのキネマ その80 【アパートの鍵貸します】

ビリー・ワイルダー(Billy Wilder)監督・脚本による都会派コメディの代表作が【The Apartment】です。主演のジャック・レモン(Jack Lemmon)は、アメリカ映画界最高の喜劇俳優といわれています。共演したのは、シャーリー・マクレーン(Shirley MacLaine)です。

1959年12月、あるニューヨークの大きな保険会社の19階の大部屋でC.C.バクスター(Bud” Baxter)、通称バドは勤めています。勤続3年と10ヶ月、礼儀正しく、数字に強く、だが、押しには弱い彼の週給は94ドル70セントでした。家賃月額85ドルの独身向けアパートに住む彼には一つの秘密がありました。それは、不倫の密会をする情事の場所として自分の部屋を会社の上司4人に又貸ししていたのです。バドは、出世の足掛かりを求めて部屋を貸し、そのため毎夜遅く帰る生活をしています。ある日、シェルドレイク(Sheldrake)人事部長に呼び出され、彼にも部屋を貸すことになります。課長補佐に昇進したバドは会社のエレベーター係のフラン(Fran Kubelik)をデートに誘うのですが、実は彼女はシェルドレイクの愛人でした。、バドはフランとのデートの約束をすっぽかしてしまいます。

会社でのクリスマス・イブのパーティで、フランはシェルドレイクの秘書・オルセン(Miss Olsen)から彼の女性遍歴を聞いて落ち込みます。また、バドはふとしたことからフランがシェルドレイクの愛人であることに気付き、ショックを受けます。シェルドレイクに部屋を貸したバドはバーで閉店まで時間をつぶすのです。シェルドレイクと別れ話になったフランは、彼が帰ったあと睡眠薬自殺を図ります。帰宅したバドは倒れているフランを見つけると、隣の部屋のドレイファス医師(Dr. Dreyfuss) を呼んで介抱します。翌日、フランの看病のため、会社を休んだバドですが、フランを迎えに来た義兄のカール(Karl) にバドがフランの自殺未遂の原因だと誤解されて殴られる始末です。

翌日、出社したバドは、シェルドレイクにフランを引き取ると持ち掛けようとします。シェルドレイクは解雇したオルセンに女性関係をばらされて離婚することになったと打ち明け、バドを部長補佐に昇進させるのです。大晦日、スポーツクラブに泊まっていたシェルドレイクはフランと過ごすため、バドにアパートの鍵を要求しますが、バドは要求をはねつけて会社を退職し、アパートから引っ越す準備を始めます。

レストランでの新年パーティでフランは、シェルドレイクからバドが会社を辞めたと聞き、彼の気持ちにようやく気付くと、彼のアパートに急ぎます。一人でシャンパンを開けていたバドのもとにフランがやってきます。そこで、バドはフランに愛を告白するのです。フランはそれに答えず、バドにトランプを配り、カードゲームに誘うという結末です。

懐かしのキネマ その79 【北北西に進路を取れ】

原題は【North by Northwest】という1959年に製作されたスパイスリラー作品です。世界的名監督のアルフレッド・ヒッチコック(Alfred Hitchcock)が監督しています。

1958年、ニューヨーク市のホテルのバーにいる2人の凶悪犯が、探しているジョージ・カプラン(George Kaplan)をポケットベルで呼ばれるのを聞きます。そこに居合わせた広告会社の重役ロジャー・ソーンヒル(Roger Thornhill)は、カプランと間違えられ誘拐されて、ロングアイランド(Longisland)のタウンゼント(Lester Townsend)という不動産屋の邸宅に連れて行かれ、スパイのフィリップ・ヴァンダム(Phillip Vandamm)に尋問されます。ヴァンダムはソーンヒルの抗議を無視し、さらに酔っぱらいの運転事故に見せかけて殺そうとします。ソーンヒルは、母親と警察に事情を話しますが、納得させることができません。警察は彼をタウンゼントの家に連れ戻し、そこにいた女性は彼が彼女のディナーパーティーで酔って現れたと言います。

ソーンヒルは釈放され、拉致されたホテルに戻ってキャプランの正体を確かめようとします。しかしホテルの客室にカプランが宿泊している形跡はあっても、カプラン当人を見た者は誰もいません。そのうち邸宅にいた手下たちが追ってきたことを知ってソーンヒルはホテルから逃走し、タウンゼントが国連で演説する予定と聞いたことを思い出します。そして今度はタウンゼントを追って国連本部へ向かいます。ところが国連のロビーで会ったタウンゼントは、邸宅にいた男とは別の人物です。2人が噛み合わない会話をしていると、そのタウンゼントの背中に手下のひとりが投げたナイフが突き刺さります。ソーンヒルは、殺人容疑者として大きく報道されてしまうのです。

架空の人物とも知らず、なおもカプランを追い求めるソーンヒルは、シカゴに向かう特急寝台列車「20世紀特急」(20th Century Limited to Chicago)に乗ります。その車内でイヴ・ケンドール(Eve Kendall)という女性と親しくなります。彼女はソーンヒルがお尋ね者であることを承知していて、彼を自室に招き入れてかくまうのです。ところが同じ列車にヴァンダム一味も乗っていて、実はイヴは彼らと通じていたのです。シカゴに着くと、イヴはカプランと連絡をとったと言って、ソーンヒルを郊外の広大な平原に向かわせます。しかし、その平原でいつまで待ってもカプランは現れず、そのかわり農薬を散布していたはずの軽飛行機が襲いかかってきます。平原を縦横に逃げるソーンヒルを追い回すうち、軽飛行機は通りかかったタンクローリーに衝突して炎上してしまいます。

ともかく、この映画は、スパイスリラーですから、いろいろとハラハラする場面が満載です。たとえば、ラシュモア山(Mount Rushmore)の頂上への逃走劇です。指先で山にぶら下がるイヴをソーンヒルは手を伸ばして彼女を引き上げます。ソーンヒルとケンドールが山を下るとき、彼らはパークレンジャーによって打たれる凶悪犯を眺めます。その後の経緯は見てのお楽しみですが、ソーンヒルは新しくソーンヒル夫人となったイヴを電車の上段に引き込みます。その後、列車はトンネルに入るという結末です。

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懐かしのキネマ その77 【エビータ】

ミュージカル『エビータ』(Evita)をもとにした1996年のアメリカ映画です。アルゼンチン(Argentine)のファーストレディ(First Lady)であったエバ・ペロン(María Eva de Peron)を描いています。フアン・ペロン(Juan Domingo Peron)大統領と結婚し、後に政治にも介入するようになります。アルゼンチン国内では人気が高く、民衆は親しみをこめてエビータ(Evita)と呼んでいました。Evitaを演じたのはマドンナ(Madonna)です。

ペロンは軍人で、1943年6月のクーデター以降、労働組合の支持を得て徐々に勢力を増していきます。1944年1月のサンフアン大地震(San Juan Earthquake)の救済コンサートでエバとペロンは出会い、愛人として、かつ共に権力を目指すようになります。エバは上流階級の社交界にも顔を出すようになっていきます。しかし、その出自から軍部や上流階級どちらからもひんしゅくを買うようになります。

1945年のクーデター (Coup detat) によりペロンは一時拘束されますが、エバはラジオ番組や演説を通じて働きかけ、ペロニスト(Peronists) の民衆もペロンの釈放を求めて続々と首都ブエノスアイレス(Buenos Aires) に集結します。解放されたペロンはエバと正式に結婚。「労働者の味方」を演出してさらに人気を上げ、エバはついに26歳にしてアルゼンチンのファーストレディとなります。ペロンが大統領に就任した際、大統領官邸カサ・ロサダ (La Casa Rosada)のバルコニーで、エバは「アルゼンチンよ泣かないで」Don’t cry for me Argentina)を歌います。

エバは財団基金の名のもと集めた寄付で、ディオール ((Christian Dior) の服や毛皮、宝石などで華やかに着飾って、「レインボー・ ツアー」(Rainbow Tour)と銘打ってヨーロッパ各国を歴訪します。さらに婦人参政権運動をすすめ、貧しい人々を助けるエヴァ・ペロン財団(Eva & Peron Foundation) を設立するなど、精力的に活動を続けます。しかし、特権階級が独占していた富を吸い上げ、奔放な施策で貧困層の不満のガス抜きをしますが、問題の根本的な解決には至らず、アルゼンチンの混乱は続きます。鉄の意志のような振る舞いで、夢を実現してきたエバも、病に襲われ33歳で亡くなります。葬儀は国民葬で執り行われました。人生を激しく生きた稀有な女性といわれています。