ハーレー・ダビッドソン(Harley-Davidson) に颯爽と乗っていた先生の紹介です。お名前はルロイ・アザリンド(Dr. LeRoy Aserlind)といいます。私のウィスコンシン大学(University of Wisconsin) での指導教授であった方です。
1978年にロータリー財団(Rotary Foundation)が指定するジョージア州(Georgia)での3カ月の英語研修を終わってウィスコンシンへ車で向かいました。『U-Haul』という小さなトレーラーにわずかの家財道具を乗せて出発しました。初めての大陸での長旅でした。『Haul』とは「引っ張る」という意味です。ですから、”You haul”をひっかけた造語が『U-Haul』といわれます。ウィスコンシン州の州都マディソン(Madison) に着きました。ウィスコンシン大学の威厳のある構内に入ったとき、「果たしてここで学位をとれるだろうか、、」という不安がこみ上げてきました。かつて、新潟などで宣教されていたルーテル教会の牧師さんがマディソンで牧会をされていました。この先生には事前にウィスコンシン大学で学ぶことを知らせてありました。この方のお名前はトマス・ゴーイング(Rev. Thomas Going)といいます。ゴーイング牧師は、1958年から2000年の長きにわたり新潟市、加茂市、三条市、そして東京で宣教されます。
Bascom Hall
ゴーイング牧師は、ウィスコンシン大学教育学部(School of Education) の行動障害学科の一人、アザリンド教授に私を指導してくれるよう依頼してくださっていました。アザリンド教授は1963年にウィスコンシン大学マディソン校で博士号を取得し、その後、リハビリテーション心理学・特別支援教育学科となった行動障害学科の助教授に任命されました。 1968年に准教授、1972年に教授に昇進し、1971年から5年間学科長を務めました。1965年から1970年にかけて、アザリンド教授は米国教育省のプロジェクトを指揮し、発達障害のある生徒の教師を養成する最初のプログラムの一つを提供しました。
国吉氏は、戦時中は沖縄地方気象台に勤務されていて、気象情報を軍に提供するという仕事をされていました。悲惨な沖縄戦で九死に一生を得たご体験の持ち主です。ロータリアンとして40年以上も毎週の例会に欠かさず出席していた熱心な会員です。国吉氏は私をロータリーインターナショナル(Rotary International)の奨学生に推薦してくれました。そのお陰で約1万ドルの奨学金を貰うことができました。当時の為替レートでいえば、200万円です。それと共に嘉手納基地の米軍将校夫人クラブ(Officer’s Women Club)からも1,700ドルの奨学金が提供されました。そして1978年に家族を連れてアメリカに向かいました。
情報と暗号をめぐる実話は、小説よりも奇なり、といえます。第三代ドイツ皇帝フリードリッヒ・ヴィルヘルム2世(Friedrich Wilhelm II) は、史上最後のドイツ君主と呼ばれています。外交では一貫して帝国主義政策を推進し海軍力を増強して新たな植民地の獲得を狙います。そしてイギリスやフランス、ロシアなど他の帝国主義国と対立を深めていきます。海軍大臣のアルフレッド・ティルピッツ(Alfred Peter Friedrich von Tirpitz)が中心となり軍艦の巨大な建造計画が立てられます。海軍力の増強によってイギリスに追いつくことを目指します。不安に怯えるイギリスも追随されまいと戦艦を建造し続けます。
Friedrich Wilhelm II
その不安に油を注いだのが、イギリス人ジャーナリスト、ウィリアム・ル・キュー(William Le Queux)が1906年に発表した架空戦記、『1910年の侵攻』(The Invasion of 1910) といわれます。この作品は、1910年にドイツがイギリス本土に侵攻するという設定の筋書きです。その侵攻ルートまでが詳細に描かれ、その内容がイギリスで最も古いタブロイド紙『デイリー・メール』(Daily Mail) 紙上で連載されます。このタブロイド紙はドイツ軍の脅威を過度に煽っていくのです。
ル・キューは1909年に『ドイツ皇帝のスパイたち』(Spies of the Kaiser)と題した小説で、既に5万人を超えるドイツ人スパイがイギリス国内で暗躍していることをほのめかします。この小説の影響は一般のイギリス国民だけではなく、陸軍省作戦部の中枢にも及んでいきます。そこで1909年10月、イギリス国内のドイツ人スパイを摘発する保安局で後のM-I5とドイツの軍拡についての情報を収集する秘密活動局、後の「M-I6」が設置されることになります。これが世界で初となる常設の情報機関の誕生といわれます。
1914年に始まった第一次世界大戦で活躍したのは「M-I6」でした。戦争が始まるとイギリス海軍のヘンリー・オリバー大将(Henry Oliver)は、海軍の情報部長として「40号室」(Old Building)と呼ばれる暗号解読組織を立ち上げます。彼は、物理学者ヘンリー・ユーイング(Henry E. Ewing)ら、在野の数学者、言語学者を集めて海軍省本部の40号室で暗号解読を開始します。40号室は約15,000の無線と通信網から傍受したドイツの通信を解読したと推定されています。その中で最も有名なのは、1917年1月にドイツ外務省から発信されたドイツとメキシコの軍事同盟を提案した秘密外交通信電報です。40号室はそれを傍受し、解読します。その解読により当時中立だったアメリカを連合国に引き込み、第一次世界大戦中のイギリスにとって最も大きな諜報活動の勝利であったと言われています。
1917年1月、ドイツのアーサー・ツィンマーマン外相(Arthur Zimmermann)は、メキシコとの密約を記した暗号電報を駐メキシコ大使のハインリヒ・エカート(Heinrich von Eckardt)に通知します。内容は、当時中立であったアメリカが対独参戦する場合、メキシコは直ちに対米参戦し、その見返りとしてドイツはテキサス州、ニューメキシコ州、アリゾナ州をメキシコに割譲するというものでした。このツィンマーマン電報(Zimmermann telegram) は暗号化され、ベルリンのアメリカ大使館からイギリスを経由しワシントンに送られます。そのときのアメリカ大統領はウッドロー・ウィルソン(Woodrow Wilson)でした。イギリス海軍の解読機関40号室は、目ざとくこの通信を盗読していたのです。
Woodrow Wilson
当初、アメリカの世論はこの内容に懐疑的だったのですが、3月にツィンマーマン外相自身が記者会見の席上で電報は本物だと認めてしまいます。これはドイツ側の一大失策となります。自国の領土が隣国メキシコの脅威に晒されていることが明らかになったことは、アメリカ政府のみならず、国民世論にも激しい衝撃を与えます。こうしてウィルソン大統領は1917年4月2日、議会での歴史的な演説で、第一次大戦への参戦の決意を表明するに至ります。大戦後、ウィルソンは ヴェルサイユ条約(Treaty of Versaille) の批准とともに、国際連盟(League of Nations)の設立にも尽力します。
Dear Mr. Prime Minister, 「親愛なる総理大臣閣下」という書き出しです。ここでは、「親愛なる石破茂総理大臣閣下」とするのが公式の書き出しです。一度両者はホワイトハウスで会っているのです。まさか名前を忘れたのではないでしょうが、
It is a great honor for me to send you this letter in that demonstrates the strength and commitment of our Trading Relationship, and the fact that the United States of America has agreed to continue working with Japan, despite having a significant Trade Deficit with your great country.
この文節には、大文字(uppercase letter)での表記が出てきます。「Trading Relationship」と「Trade Deficit」です。通常、大文字は「United States of America」 というように固有名詞などに使われます。しかし、「Trading Relationship」と「Trade Deficit」は単なる一般的な名詞です。英語はドイツ語と違って、文中で普通名詞は大文字で表記しません。トランプは、この貿易関連用語を強調したいのでしょうが、あたかもドイツ語の用法を間違って使ったのかもしれません。
Nevertheless, we have decided to move forward with you, but only with more balanced,and fair TRADE. Therefore, we invite you to participate in the extraordinary Economy of United States, the Number One Market in the World by far. We have had years to discuss our Trading Relationship with Japan, and habe concluded that we must move away from these long term, and very persistent TRADE Deficits engendered by Japan’s Tariff, and Non Tariff Policies and Trade Barriers. Our relationship has been, unfortunately , far from Reciprocal. Starting on August 1.2025, we will charge Japan a Tariff of only 25% on any and all Japanese products sent into the United States, separate from all Sectoral Tariffs.
前段の文節では、貿易を「trade」と表記しましたが、ここでは「TRADE」となっています。表記の仕方が首尾一貫しません。さらに「Number One Market in the World」などどことさら強調してドイツ語の表記を引用しているかのようです。「far from Reciprocal」 「Sectoral Tariffs」といった具合に普通名詞をことさら強調している理由が判明しません。滅茶苦茶な表現です。ドイツ語の名詞には、男性、女性、中性名詞があり、文中ではすべて大文字で表記されます。トランプ政権の英語はドイツ語化しているのか?とも勘ぐられそうです。
Goods transshipped to evade a higher Tariff will be subject to that higher Tariff. Please understand that the 25% number is far less than what is needed to eliminate the Trade Deficit disparity we have with your Country. As you are aware, there will be no Tariff if Japan , or companies within your Country decide to build or manufacture product within the United States and, in fact, we will do everything possible to get approvals quickly, professionally, and routinely-In other words, in matter of weeks.
「with your Country」とか「As you are aware」といった口語体の文章はいけません。「with Japan」とすべきです。この書簡は公式な外交文書なので、文語体で表記すべきです。なにか個人と個人のメールのやりとりの文面のような匂いがします。一国の代表が書いた薫りは全くしません。側近の誰かが、他の文書をコピペしたに違いありません。
If for any reason you decide to raise your Tariffs, then whatever the number you choose to raise them by, will be added onto the 25% that we charge. Please understand that these Tariffs are necessary to correct the many years of Japan’s Tariff and non-Tariff. Policies and Trade Barriers, causing these unsustainable Trade Deficits against the United States. This Deficit is a major threat to our Economy and, indeed, our National Security.
この文節の出だしの文章は、「あなた方が何らかの理由で関税を引き上げる決断をすれば、引き上げの数字がどのようなものであれ、関税はわれわれが課す25%に上乗せされることになる」という意味です。しかし、公式な書簡にもかかわらず最後の文章では、「indeed, our National Security!」というように「 indeed」といった口語体を使うこと、「!」という感嘆詞を使うなどとは、異例で失礼な表現です。脅しの気配さえ感じられます。
We look forward to working with you as your Trading parter for many years to come. If you wish to open your heretofore closed Trading Markets to the United States, and eliminate your Tariff, and Non Tariff, Policies and Trade Barriers, we will, perhaps, consider an adjustment to this letter. These Tariffs may be modified, upward or downward, depending on our relationship with your Country. You will never be disappointed with the United State of Americas. Thank you for your attention to this matter!
最後の文節、「we will, perhaps, consider an adjustment to this letter」という文章も不思議です。「 perhaps」というような思わせぶりな表現もおかしいです。「この手紙に関しては恐らく調整することを考えます」というのも滅茶苦茶な表現です。このような手紙はゴミ箱に捨ててもよいようです。
太平洋戦争の転機になったのは1942年6月のミッドウェー海戦(Battle of Midway) といわれます。海戦の直前、米軍の暗号解読組織の貢献によって、米海軍は日本側の狙いがミッドウェー島(Midway Atoll)にあることを知り、待ち伏せによって日本海軍の4隻の航空母艦を撃沈します。当時の日本海軍の暗号は5数字暗号と呼ばれるもので、日本語の単語を5桁の数字に置き換え、それに5桁の乱数を加算することで組み立てられるものでした。暗号が複雑になりミスも生じるようになりました。米海軍の暗号解読者たちは、日本海軍の通信の中に生じるミスに着目し、それが何を意味するのかを解明し暗号を理論的に解読していきます。
第一次世界大戦後の1920年代、アメリカの暗号解読組織は、英国が既にやっていたように、日本の外交暗号を解読し始めていました。この解読組織は「ブラックチェンバー」(Black Chamber) と呼ばれました。この機関は、国務省と陸軍省が資金を拠出し、暗号研究者ハーバート・ヤードリー(Herbert O. Yardley) を責任者とするとして1919年に設立され、各国の暗号解読に取り組みます。特に大日本帝国に関わる業務に力を入れ、1920年代の同国の外交暗号のほとんどや、海軍武官、陸軍武官用の一部の暗号を解読していたようです。1921年11月に合衆国大統領ウォレン・ハーディング(Warren G. Harding) の提案により、軍拡競争を抑制し西太平洋や東アジアの安全保障問題を協議するために主要国間の海軍軍縮会議がワシントンで開催されました。会議では、主要国の保有する戦艦や空母などの主力艦の総トン数が協議されました。
Herbert O. Yardley
最初アメリカは日本の主力艦総トン数を対米6割と主張します。アメリカに少しでも追いつきたい日本は対米7割を主張し、お互いの議論は平行線をたどり始めていました。この会議では、当時の「ブラックチェンバー」が日本の公電を全て解読していました。日米の意見対立で会議が頓挫することを恐れた加藤友三郎内閣の内田康哉外相は、ワシントンの日本代表団に妥協案を送ります。その内容は、まず6割5分で米側の出方を探り、それでも駄目なら6割もやむなし、というものでだったといわれます。ブラックチェンバーはこの電報を傍受し、解読することでこの情報を入手したのです。この暗号解読情報によって日本政府の譲歩ラインが対米6割であることが明らかになると、アメリカは強気の姿勢で対日交渉に臨むようになります。結局、会議では日本は最大の譲歩案を飲まされることになり、主要国の保有する主力艦の総トン数を、米:英:日:仏:伊の比率を5:5:3:1.67:1.67として決定するのです。なお、ドイツはすでにヴェルサイユ条約(Treaty of Versailles)で大きく制限されていたので会議には参加していませんでした。
しかし、エニグマ暗号は、1930年代初頭にポーランド人(Polish)数学者のマリアン・レイェフスキの(Marian Adam Rejewski)指導のもとで解読されます。1939年、ナチスのポーランド侵攻の可能性が高まる中、ポーランド人はイギリスに情報を提供しました。イギリスは数学者アラン・チューリング(Alan M. Turing)の指揮下で、ウルトラ(Ultra)と呼ばれる秘密暗号解読グループを組織しました。ドイツは暗号装置を日本と共有していたため、ウルトラは太平洋戦争において日本軍が使っていた暗号を解読し、連合国の勝利にも貢献したといわれます。
第二次世界大戦中のイギリスの暗号解読拠点は、政府暗号学校(The Government Code and Cypher School: GC&CS)と呼ばれ、「ブレッチリー・パーク」(Bletchley Park)という場所にありました。ナチス・ドイツの暗号を解読するために使用した場所です。通信を解読することに成功し、戦争の潮目を変える役割を果たしたという評価を受けます。ブレッチリー・パークで、数学者アラン・チューリングが高度な暗号解読装置「ボンベ」(Bombe)を開発し、暗号解読の取り組みを飛躍的に進歩させました。1941年6月までに、チューリングのチームはUボートの日常的な通信を解読することに成功します。
現在、トランプ政権の中東情勢をめぐる外国人留学生のビザ制限などに対して,名門大学は法廷闘争を展開しています。この闘争は、大学側に有利な展開も予想されています。ハーヴァード大学とマサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology: MIT) は2020年に、トランプ政権の外国人留学生のビザ制限に対し連邦地裁に提訴し、一時的な勝利を収めました。司法はこれまで、政権の移民制限策に対して慎重な姿勢を示してきたため、法廷では大学側の理が通る可能性が高いと見られていました。ただし、政権がさらに法改正や規則の変更で圧力を強めると、再び法的な応酬が繰り返されることになるかもしれません。
アメリカ東部にある名門私立大学でアイビー・リーグ(Ivy League)の一つ、ペンシルベニア大学(University of Pennsylvania) は2023年12月9日、エリザベス・マギル(Mary Elizabeth Magill学長とスコット・ボク(Scott Bok)理事長の辞任を発表しました。マギル氏は大学内で強まる反ユダヤ主義への対応を巡り、批判されていました。連邦政府は、全国の大学への数十億ドル規模の資金の流れを停止すると脅迫しており、多くの大学は司法省から保健福祉省に至るまで、様々な機関からの調査に直面している。しかし、トランプ政権の大学に対する懲罰的なアプローチは、アイビー・リーグの大学で最も深刻に表れています。昨春、ガザ紛争に反対するキャンパスでの抗議運動の中心地となった同大学は、反ユダヤ主義的行為を容認し無法状態を蔓延させたという非難と学術的・政治的言論を抑圧したという非難に、数ヶ月にわたって対峙してきました。
トランプ政権が非難のターゲットとしているのは、こうしたアイビー・リーグの大学です。名門ハーヴァード大学(Harvard University)との対立も続いています。政権はハーヴァード大学に対して外国人留学生の受け入れ資格停止を通告し、反発した大学側との法廷闘争に突入しています。背景には「リベラルの牙城」と呼ばれるハーヴァード大学を狙い撃ちすることで他の大学にも「改革」を迫り、さらには中国共産党など外国の影響力を排除する意図が潜むようです。ハーヴァード大学の歴史で最初の黒人学長だったクローディン・ゲイ学長(Claudine Gay)は2024年1月2日に辞任します。その後、就任したアラン・ガーバー学長(A)lan M. Garber)はトランプ政権の政策に訴訟を起こし毅然として立ち向かっています。すなわち、トランプ政権が大学に対し課してきた一連の制裁措置、すなわち連邦研究費の凍結、留学生プログラムの停止、税制優遇の剥奪検討などに対し、訴訟を起こしています。
さらに、ヴァジニア大学(University of Virginia)のジャームズ・ライアン学長(James Ryan)が2025年6月28日に辞表を表明します。ライアンが退任を急いだ決断は、ヴァジニア大学に対する連邦政府の監視が強化されている時期に行われました。ライアンは退任の手紙の中で、「自分が学長職に留任していた場合、大学は多額の資金を失うリスクがあったことを認めます。自分の地位に留まり、連邦政府の資金削減のリスクを冒すことは、空想的なだけでなく、職を失う何百人もの従業員、資金を失う研究者、そして奨学金を失ったりビザを差し押さえられたりする何百人もの学生にとって、利己的で自己中心的に見えるだろう」と述べて辞任するのが最上であるという判断をしたのです。