米の価格高騰を考える

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Last Updated on 2025年5月7日 by 成田滋

​現在、日本では2024年の8月から「令和の米騒動」と呼ばれる米の価格高騰が続いています。価格とは需要と供給の関係で決まるものです。米の市場への供給が需要に追いつかないとき、価格が上昇するのは当然です。昔から米騒動というのは、買い占めによって価格をつり上げようとすることから起きています。令和の米騒動では、米は買い占められているのか、あるいは米が本当に不足しているのかという検証が必要です。価格を下げるための可能性について私なりに解説していきます。

🥢米の価格高騰の一般的な理由として、次のことが指摘されています。
1 天候不順と品質低下
 2023年の作況指数では101で例年並みでしたが、高温やフェーン現象の影響を受け、主要な米産地での収穫量が大幅に減少しました。​市場に出回る高品質な米の割合も減少し価格が上昇しています。 ​
2 備蓄米の放出遅れ
 備蓄米の主な目的は、国が凶作や災害時の食料供給不足に対応し、国民が安定して米を消費できる状態を維持することです。具体的には、市場価格の安定や流通の円滑化、食料安全保障の強化などが挙げられます。備蓄には100万トン程度が目安にされていて、年間20万トンを備蓄しています。今回、政府は小出しに放出するために、価格は一向に下がらないのです。備蓄米小売店に届いたのはわずか1.4%だったという報道もあります
3 買い置きと買い貯め
 外食産業の回復や訪日外国人の増加により、米の需要が増加しています。​これが供給を上回り、価格を押し上げています。さらに、米不足や価格高騰の噂による不安が広がり、卸売業者の買い置きや消費者の買い占めが増えたことも考えられます。1973年のオイルショックの時、トイレットペーパーが消えた?ときのようなしかし、米価の高騰には次のような構造的な問題があるとされています。

 現下の米価高騰には、生産調整と米の作付面積の減少という問題があります。長年続いた減反政策により、米の生産量が抑制されてきました。​その結果、需要増加時に供給が追つかない状況が生まれています。 ​かつて食糧管理法(食管法) がありました。食糧不足の下で主食である米を政府が管理統制することによって国民に安定的に供給する意図で運用されてきました。 この食管制度の下で、政府は農家から生産者米価で買い入れ、消費者へは消費者米価で売り渡すという二重価格制をとっていました。しかし、食管法は1995年に廃止されます。

 1955年以降は米の大豊作が続くようになり、米価は現状維持するという潮流に変わっていきます。1960年には生産者価格決定が生産費・所得補償方式となります。品種改良や機械化の技術進歩により、北海道や北東北周辺で農業生産を拡大し続けたため、米の自給率が100%を突破し、1967年以降は過剰米がでるほどとなります。

 1970年代になると、食生活の変化の影響で米が余るようになり、備蓄米が年間生産相当量まで達する事態も生じます。このため政府は減反政策を推進し水稲農家に作付面積の削減を対価に転作奨励金を支給します。いわゆる生産調整です。これが強化され続ける一方で、転作奨励金に向けられる予算額は減少の一途をたどります。そのため、休耕田や耕作放棄の問題が顕在化し始めます。このような問題が深刻になり、1971年に始まった減反政策は、2018年に農水省はこの政策をやめることにします。

 農水省は「水田フル活用」を謳っています。水田フル活用とは、水田を有効に活用し、食料自給率の向上を図る取り組みです。具体的には、減反という生産調整によって米作を行っていない水田を利用し、大豆や麦などの転作作物や、米粉、飼料用米などを生産することを奨励する政策です。

🥢米の価格を下げるための可能性を考えてみます。
1 生産量の増加と食料自給の意識高揚
 減反政策の見直しや農家への所得支援を強化し、米の生産量を増加させることが考えられます。​海外からの米の輸入に頼らず、国内での生産を上げるために、農家には所得を補償し、離農を防ぐことを国は努力しなければなりません。 ​もし、アメリカからの米の輸入を増やせば、日本の水稲農家は営農が難しくなるでしょう。
2 市場流通の改善
 市場を通じた流通量を増加させ、競争を促進することで、価格の安定が期待されます。​これには、流通システムの改革や情報の透明化が必要です。 ​業者の買い占めや売り惜しみを監視し、違反者には厳罰で臨むことです。

🔮 今後の見通し

 JA全農によりますと、水稲農家の数は、1970年の約466万戸から減少し続け、2020年には約70万戸と約50年間で7割まで減っています。米の生産量も1970年には1253万トンありましたが、2020年には776万トンと約50年で4割以上、減少しています。 さらに、円安やウクライナ情勢による輸入原料の価格上昇で、米の生産に必要な肥料等の価格が大幅に上昇しており、米農家の経営はますます厳しい環境になっています。このままでは米を作り続けることが難しくなる心配があります。

 水稲の生産者目線では、肥料、燃料、人件費など全部上がっていたために、かつての「米の生産単価」があまりにも低過ぎたといわれます。つまり、生産者からすれば現在の米価は望ましいものだという見解です。米の生産単価が旧来のような安価なままだと、離農も増えていくと指摘されています。農家としては、現時点のコストで今ぐらいの単価でいくと「次への投資に回せるような価格帯になった」と言っているようです。

 日本の米の自給率は非常に高く、ほぼ100%に達しています。これは、日本の食料自給率を大きく押し上げる要素の一つです。米の生産は、主に大規模な専業農家や法人が担っていますが、高齢化や後継者不足の問題も指摘されています。米の価格高騰は、天候不順や生産コストの上昇など、複数の要因が絡み合っています。​これらの要因が解消されない限り、価格の安定は難しいと考えられます。​

 今後、どのような対策が考えられるでしょうか。JA全農は次のように訴えています。すなわち、酷暑による生産量減少のリスクなどを踏まえて、国全体の生産量目標をもう少し高めに設定した上で、主食用米の生産を増産させるように水田フル活用するというものです。主食用米を作ることのメリットを広げ、もし価格低下が農家の営農継続に影響するほど大きくなってしまう場合には、農家に対する一定の補償も考えていくという政策です。

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相互関税政策への批判

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Last Updated on 2025年5月6日 by 成田滋

連日のようにアメリカのケーブル・ニュースチャンネルでは、トランプの相互関税政策が報じられています。目立つのはその批判です。その中で私が注目する二人の人物を紹介します。一人は政治アナリスト・ジャーナリストであるローレンス・オドネル(Lawrence O’Donnell)、もう一人はコロンビア大学教授のジェフリー・サックス(Jeffrey D. Sachs)です。何故彼らが注目されているのは、トランプの相互関税政策への痛烈な批判が極めて論理的であることです。

 NBCとマイクロソフトが共同で設立したMSNBCは、平日夜にオピニオン・ニュース番組を放送しています。「The Last Word with Lawrence O’Donnell」というものです。その名のとおり、アンカーを務めるのがローレンス・オドネルです。彼は1989年、ダニエル・モイニハン(Daniel P. Moynihan)上院議員の補佐官として政界入りし、上院財政委員会 (United States Senate Committee on Finance) における民主党側の長を務めます。彼は自らを「実践的なヨーロッパ社会主義者」と称しています。物腰の柔らかい言葉遣いをするテレビ・ジャーナリストとして知られています。

Scrooge in a Christmas Carol

 トランプが関税政策で攻撃の標的にしているのが中国です。中国がアメリカからの関税に対する報復措置を撤回しない場合、中国製品に対してさらに50%の追加関税を課すと脅迫しています。これが実施された場合、アメリカ企業が中国から特定の製品を輸入する際に最大104%の税金がかかるというものです。オドネルは、こうしたアメリカと中国の報復措置について次のようにコメントしています。すなわち、アメリカは中国から衣料やさまざまな生活用品を輸入しています。最大の消費月である11月の感謝祭、12月のクリスマス・シーズンは家族や友人への贈り物、子ども達への玩具の購入が増えます。しかし、追加関税によってこうした品が中国から輸入されない場合は、アメリカのサプライチェーンや小売業、そして消費者は大打撃を受けるというのです。

 オドネルは、チャールズ・ディケンズ(Charles J. Dickens)の小説「クリスマスキャロル」(A Christmas Carol)を引用します。ケチで冷酷なスクルージ(Scrooge)が、クリスマスの夜に3人の幽霊に導かれ、過去・現在・未来のクリスマスを見せられることで改心する物語です。オドネルは、トランプを称して「関税のスクルージ」(Tariff scrooge) と名指して次のように言います。
‘Tariff scrooge’ Trump is already killing U.S. jobs and has the worst 100-day polling ever.
関税のスクルージであるトランプはアメリカ人の雇用を奪い、就任100日で過去の大統領に比べて最も支持率が低い。

 オドネルはさらに次のように糾弾します。「トランプは関税はアメリカ消費者の価格上昇にはつながらないと主張し、密かに貿易協定を交渉している「ふり」をしている。それ故に「経済無知」という烙印を押されている。」

 トランプの相互関税政策を鋭く批判するのが、ジェフリ・サックス(Jeffrey D. Sachs)という国際経済学者です。彼は、コロンビア大学地球研究所長(Earth Institute at Columbia University)として、気候変動や貧困問題といった地球規模の問題に積極的に発信し、29歳でハーヴァード大学の教授となり経済学の領域を超えてその知見は世界的に知られています。国際貿易論の分野で業績を上げ、ラテンアメリカ(Latin America)、東欧、ユーゴスラビア(Yugoslavia)、ロシア政府の経済顧問を歴任しています。特にボリビア(Bolivia)、ポーランド(Poland)、ロシアの経済危機への解決策のアドバイスや国際通貨基金(IMF)、世界銀行(World Bank)、経済協力開発機構(OECD)、世界保健機関(WHO)、国連開発計画等の国際機関を通じた貧困対策、債務削減、エイズ対策等への積極的な活動を行っています。

 トランプは、貿易赤字は他国が何らかの形でアメリカを搾取していると主張しますが、サックスはこの見解は間違いで、アメリカの貿易赤字は、支出が所得を上回っているからであるというのです。言い換えれば、アメリカの総消費と投資は国民総生産(GNP)を上回っているというのです。なぜアメリカは所得を上回る支出をしているのかという問いに対して、サックスは、中国とは異なり、アメリカの貯蓄率が非常に低いからだと断定します。民間部門と公共部門の両方で貯蓄率が低く、その最も顕著な事実は、連邦政府が巨額の赤字を抱えていることだというのです。従って、貿易赤字についてのトランプの関税措置は、経済的主張によっては全く正当化されないと主張します。貿易赤字は、アメリカの巨額の財政赤字と低い民間貯蓄の結果であるにも関わらず、アメリカは自国の経済政策の失敗を他国のせいにしており、一方的な追加関税には根拠ががないと断定します。

Magna Carta-大憲章

 サックスは、「トランプ政権の主張は議会で検討されることも、公の場で議論されることもない。これは大統領令(executive order)として発布されたものであり、多国間主義だけでなく合衆国憲法にも違反している」と明言します。合衆国憲法第1条第8項は、関税の権限を大統領ではなく、議会に明確に与えています。それ故に、このような一方的な関税賦課に対しては、その合法性を問う複数の裁判が行われています。今回の措置に経済的正当性を見出すことは困難であり、世界中の金融市場も同様で、金融市場はパニックに陥る懸念があります。とりわけアメリカと中国との関税措置に関する報復合戦は、世界経済へダメージを及ぼす懸念となっています。

 ここで思い起こす史実は、1215年にイングランドで制定されたマグナ・カルタ (Magna Carta)です。別名大憲章と呼ばれ、人権思想の起源とされています。マグナ・カルタは国王の徴税権の制限、教会の自由、都市の自由、通商の自由、不当な逮捕の禁止を謳います。国王といえでも議会の議を経ずに課税は出来ない、と解釈されるようになり、法の支配と議会政治の原則が成立したところに意義があります。マグナ・カルタの精神はやがて、アメリカのイギリスからの独立を支えた思想的基盤となるのです。トランプは今や合衆国ではキングー国王と揶揄されています。あたかも絶対王政を敷いているかのような言動です。

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科学者の頭脳流出は起こるか

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Last Updated on 2025年5月6日 by 成田滋

トランプ大統領のハーヴァード大学などへの研究費の削減や凍結、非課税資格の取り消しは、科学者の海外流失、才能流出につながるでしょうか。そうであれば、どのような国に流失する可能性が高いでしょうか。日本にもアメリカなどから科学者はやってくるでしょうか。本稿はこの課題を取り上げます。

 トランプ大統領(在任期間:2024~2028年)によるハーヴァード大学などへの研究費削減や、全体的な科学予算の削減提案は、多くの懸念を呼んでいます。このような動きが継続的に行われた場合、科学者の頭脳流失、いわゆる「ブレイン・ドレイン」(brain drain)の一因になりうると言えます。なぜ科学者の海外流出が起こりうるかには、いくつかの理由事情があります。科学者、特に若い研究者にとって研究費の安定した供給、研究の自由度、キャリア機会が非常に重要です。アメリカでこれらが脅かされると、他国でのポジションや資金支援を求めて移動する動機が生まれます。

Max Planck

 科学者が流出しやすい国のことです。彼らが流出先として選ばれやすい国には以下のような特徴があります。十分な研究資金と制度的支援がある国のドイツ、例えばマックス・プランク研究所(Max-Planck-Institute: MPI) )、カナダ国立衛生研究所(Canadian Institutes of Health Research : CIHR)、カナダ自然科学・工学研究会議(Natural Sciences and Engineering Research Council of Canada: NSERC) などは充実した研究助成を行っています。しかも、ビザ制度が比較的柔軟で移民も認める国々です。カナダ、オーストラリア、EU諸国は研究者向けビザ制度が整っています。流出先として選ばれやすい国として英語が通用しやすいことです。英語圏であれば、アメリカからの移動も心理的ハードルが低いのです。

 日本は科学者の受け皿となりうるか?という問いですが、受け入れ先の例として、理化学研究所(RIKEN)や国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) などの公的機関が上げられるでしょう。理化学研究所の研究組織所属職員は2,820人で、そのうち外国人研究員は474人となっています。こうした研究機関は、世界レベルの研究支援を行っていることや外国人特任研究員などの制度で研究者も受け入れています。また沖縄科学技術大学院大学(Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University: OIST)は,教職員1101名中、72ケ国からの外国人が517名を占めています。大半の研究員は任期制です。ノーベル賞受賞者も輩出している研究力も有しています。ですが期限付きの特任研究員が多いのも気になります。

理化学研究所

 このように、日本は一定の魅力を持つのですが、以下のような受け入れはかなり難しい課題もあります。それは、研究者の待遇、つまり長期的なキャリアパスが不透明なことです。さらに、雇用制度の柔軟さや研究の自由度に課題があると感じる研究者もいます。日本の大学は、文科省の補助金を受けているため、大学として自由度が限定されています。外国人教官にとって大事な終身雇用制度のテニュア(tenure)も貧弱です。しかも組織が硬直なため、外国人研究者には居心地は決して良くはないのです。日本語の壁や子弟の教育にも不安があります。私生活や行政手続きにおいてストレスとなります。

結論
 ひと昔前までは、旧東ドイツやソビエト連邦などからの頭脳流出が多かった歴史があります。最近ではヨーロッパからアメリカへの技術者の流出が問題となっており、EU諸国では高度技術者移民を獲得する政策に力を入れています。 中国やインドも頭脳流出が激しく、アメリカやカナダ、オーストラリアに毎年多くの人が移住をしています。そして、今やその反対の現象が起ころうとしています。

 大学や研究所によって開発され、そこで得られた特許によってもたらされる経済効果は膨大なものとなります。医薬品の特許は、他の特許に比べて重要性が高いのです。頭脳流出は、人材の損失だけでなく、経済成長の鈍化や技術開発の遅れ、イノベーションの停滞など、様々な負の影響を及ぼす可能性があります。トランプ政権下の研究費削減の動きは、若手研究者の海外への移動を促す可能性があります。流出先としては、研究環境が整ったカナダやドイツなどが有力です。日本も一部の先進研究分野では受け入れ先となりえますが、言語や制度面でアメリカの研究者が諸手を挙げて日本を選ぶという状況にはありません。

 科学研究への資金援助が削減される中、EU=ヨーロッパ連合は研究者を受け入れるため5億ユーロ、日本円にしておよそ815億円を投じると明らかにしました。フランスのマクロン大統領もアメリカからフランスに拠点を移す研究者に対し、1億ユーロ、日本円でおよそ163億円の支援策を発表しました。

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トランプ政権を相手取り訴訟

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Last Updated on 2025年5月4日 by 成田滋

ハーヴァード大学(Harvard University) は4月21日、トランプ政権を相手取りボストンの連邦地方裁判所(U.S. District Court in Boston)に訴訟を起こしました。研究資金の凍結は違憲かつ「完全に違法」であると主張し、裁判所に対し22億ドル(約3150億円) 以上の研究資金の返還を求めるのです。この訴訟は、裁判所に対し、資金凍結を取り消し、既に承認された資金の流れを再開し、連邦法に定められた手続きに従わずに現在の資金を凍結したり、将来の資金提供を拒否したりする政権の試みを阻止するよう求めています。

 アラン・ガーバー学長(Alan Garber)は、大学コミュニティへのメッセージの中で、今回の訴訟は、ハーヴァード大学のガバナンス、雇用、入学方針の変更、そして学生、教職員の見解の監査などを通じて「視点の多様性」を確保することを求める政府の要求を大学側が拒否したことを受けて、トランプ政権がとった措置がきっかけとなったと述べています。

John Harvard

 ガーバー学長は、4月11日付の政府からの書簡に記載されていたこれらの変更は押し付けがましく、「大学に対する前例のない不適切な統制」を課すものだと主張します。ガーバー学長は、トランプ政権の一部の関係者が4月11日以降、書簡は誤って送付されたと主張していることも指摘しています。しかし、その後の政権の発言や行動は、それを裏付けるものではないと述べています。

 ハーヴァード大学がホワイトハウスの要求を拒否してから数時間後、政権は22億ドルの資金凍結を発表し、さらに強硬な姿勢を強め、ハーヴァード大学の免税資格の剥奪と留学生の教育への脅威を検討していると表明します。さらにガーバー学長は、政権はさらに10億ドルの資金凍結を検討していると述べています。

 4月22日にガーバー学長は「先ほど、資金凍結は違法であり、政府の権限を超えているため、停止を求める訴訟を起こしました」と述べます。さらに「懲罰的措置を講じる前に、連邦政府は我々が反ユダヤ主義とどのように闘っているか、そして今後もどのように闘っていくかについて、我々と話し合うことを法律で義務付けられています。ところが、4月11日に政府が要求した内容は、我々が誰を雇用し、何を教えているかをコントロールしようとするものです。」と抗議するのです。

Harvard College in 1769

 ハーヴァード大学の訴状によると、憲法修正第一条(First Amendment)は、イデオロギー的均衡を強制しようとする政府の干渉から言論の自由を保護し、政府が法的な制裁やその他の強制手段を用いて好ましくない言論を抑圧することを禁じています。訴状はまた、政府の「凍結先行」戦略が、公民権侵害の疑いのある研究資金受領者に対する手続きを定めた法律に違反していると主張しています。規定の手続きは、自主的な交渉から公式の聴聞会へと進み、その後、調査結果が発表されます。そして、調査結果が公表されてから30日後に始めて資金提供を停止することができることになっています。

 「これらの致命的な手続き上の欠陥は、被告の突然かつ無差別な決定の恣意的で気まぐれな性質によってさらに悪化しています」と訴状は述べています。訴状は、政府側の急速なエスカレーションについて説明しています。2月に、複数機関からなる反ユダヤ主義対策タスクフォース(Antisemitism Task Force)からの最初の調査の後、大学当局と大学関係者は4月下旬にキャンパスへの公式訪問を予定するとしました。

Memorial Church

 しかし、3月下旬、ハーヴァード大学は、大学とその関連病院への総額87億ドルの研究助成金の見直しを通知する書簡を受け取ります。4月3日、ハーヴァード大学は資金提供の継続を確保するための条件のリストを受け取り、最終的に4月11日にそれらの条件を具体化した書簡を受け取ります。過度で広範囲にわたる要求を含むこれらの詳細に対して、ハーヴァード大学側が拒否し、ガーバー学長がハーヴァード大学は独立性や憲法上の権利について妥協しないという声明を出すのです。

 ガーバー学長は、トランプ政権の行動は、ガン、感染症、戦場での負傷に関する重要な研究を危険にさらしていると述べます。訴訟では、資金が流動的であるため、疾患の研究に用いられる生きた細胞株や、連邦政府の助成金に縛られている研究者の雇用などについて、難しい決断を下さなければならないと指摘します。資金が回復されない限り、ハーヴァード大学の研究プログラムは大幅に縮小される懸念を表明しています。

「政府の過度な介入の影響は深刻で長期的なものとなるだろう」とガーバー学長は述べています。「医療、科学、技術研究を無差別に削減することは、アメリカ国民の生命を救い、アメリカの成功を促し、イノベーションにおける世界のリーダーとしてのアメリカの地位を維持するという国家の能力を損なうことになる」ガーバー学長は、反ユダヤ主義との闘いはキャンパス内でまだ行われていないことを認めています。

Memorial Hall

 ハーヴァード大学はすでにその方向でいくつかの措置を講じていますが、ガーバー学長によると、反ユダヤ主義および反イスラエル偏見対策タスクフォース(Task Force on Combating Antisemitism and Anti-Israeli Bias)と、反イスラム教、反アラブ、反パレスチナ偏見対策タスクフォース(Task Force on Combating Anti-Muslim, Anti-Arab, and Anti-Palestinian Bias)がまもなく完全な報告書を発表する予定としています。ガーバー学はこれらの報告書を「強烈で痛みを伴うもの」(hard-hitting and painful)と評し、具体的な実施計画を伴う提言が含まれているとも述べています。

 「ユダヤ人でありアメリカ人である私は、反ユダヤ主義の高まりに対する正当な懸念があることを深く理解しています。この問題に効果的に対処するには、理解、意図、そして警戒が必要です」とガーバー学長は述懐しています。「ハーヴァード大学はこの取り組みを真剣に受け止めています。法律上の義務を完全に遵守しながら、憎しみとの戦いに対して引き続き緊急に取り組んでいきます。これは私たちの法的責任であるだけでなく、道義的責務でもあります。」

 ハーヴァード大学は敢然と次のように宣言しています。「どの政党が政権を握っているかに関わらず、いかなる政府も私立大学が何を教えられるか、誰を入学させ、雇用できるか、そしてどのような研究分野や探究分野を追求できるかを指示すべきではない。」

私が知っている英語の略語 その十一 挨拶やお礼のとき

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Last Updated on 2025年5月3日 by 成田滋

英語では、単語の頭文字を取ってつなげた略語を「abbreviation」と言います。いろいろな文書やメールで略語はよく使われます。英語の省略の仕方には、いくつか種類があります。 単純に1つの単語を短くした shortening(短縮)や contraction(短縮形)、いくつかの単語で構成されたフレーズの頭文字をつなげた initial(頭文字)、そしてacronym(頭字語)です。こうした略語は、案内状とか礼状など、短い文章でよく使われます。

RSVP: repondez s’il vous plait

 フランス語なのですが、何故か英語化しています。「ご返答をお願いします」という意味です。結婚式やお祝いの招待状の最後に「お返事をお待ちしています」、RSVPという略語を付けます。主催者が参加者数を確定するものですから、こうした案内状を貰ったときは返事をだします。ちなみに、「ASAP」という略語もメールや会話で使われます。「as soon as possible」の略語で、出来るだけ早く(至急)返事をください、という意味です。

Congrats/grats: congratulations

 「おめでとうございます」という略語です。お祝いを伝えるとき、友人や親戚などの間のSNSやメールではしばしば使われます。目上の人や年配者にはこうしたくだけた表現は避けたほうが無難です。

Typo: typographical error

 「誤字」という意味です。誰もがキーボードを使うと、綴りが間違えがちになります。手書きではそのようなことは少ないです。Typoはかつてのタイプライター上での誤字の名残のようです。タイプライターでの誤字は、白いテープの上で打ち直すのがしばしばでした。

BCC: Blind Carbon Copy

 「ブラインド・カーボン・コピー」は電子メールの宛先指定の一種で、他の受信者に知らせずに複製を送信する先を指定することです。受信者には誰をBCCに指定したかは分からないようになり便利です。CCは「Carbon Copy」であることはご存じのとおり、複数の人々に一つのメールや書類を送るときの略語です。

Et al. :

 「et al.」は、科学論文などで使われる省略形です。ラテン語の“et alii”が英語となっています。「et al.」は、「~など、~他」を意味する「et alii」の省略形で、文中でほかの研究を引用する際に、複数の著者名や関連文献などを省略する場合に使います。

FAQ: Frequently Asked Questions

 「よくある質問」と訳されています。FAQは、組織や企業、大学のWebサイトやヘルプページに掲載され、顧客やユーザーからの問い合わせが多い質問と回答をまとめたものです。FAQページを設けることで、ユーザーが自分で回答を見つけ、問い合わせる手間が省けます。これにより、ユーザーが自己で疑問を解決し、受け側は問い合わせの負担を軽減する目的があります。FAQとQ&Aには違いがあります。FAQは頻繁に寄せられる質問と回答をまとめたものであり、Q&Aは、質問と回答のセットで、ユーザーからの問い合わせの頻度に関係なくまとめたものです。

私が知っている英語の略語 その十 子どもと親の間のフレーズ

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Last Updated on 2025年5月2日 by 成田滋

面前で直接的な表現を避けたいときがあります。例えば手洗いに行く時です。小さな子どもが母親に「トイレに行きたい」とせがむとき、母親が訊くフレーズです。もちろん、親しい間柄でも使うのがこれです。

NO1・NO2:

 NO1はおしっこ、NO2はうんちのことです。日本でも「大」や「小」を使うことがあるのと同じ感覚のようです。ついでに、アメリカではトイレをBathroomというのが一般的です。アメリカの家庭のトイレは、バスルームと一体になったユニットとなっています。Restroomという言い方もあります。イギリス英語ではtoiletですが、アメリカ英語ではtoiletは便器を意味します。

 注意したい英語の表現です。日本では「トイレを貸してください」といいます。これを直訳すると「May I borrow your baathroom?」です。こんな英語はお笑いもので全く通じません。トイレを貸して、というときは「May I use your bathroom?」といいましょう。

Yum: Yummy

 これは非常にくだけた言い方ですが、使って欲しい略語です。私たちは「美味しい」というときは「delicious」を使います。もちろん間違いではありません。大人同士の会話です。「It’s yum!」とか「It’s yummy!」は今では一般的に成人も気軽に使います。Yumは「実に美味しい」といったニュアンスがあります。また、感情や興奮を表す際にも使われることがあります。是非使って欲しい略語です。

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私が知っている英語の略語 その九 「サマータイム」

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Last Updated on 2025年5月1日 by 成田滋

ウィスコンシン州に住んでいたとき、何度か失敗したことがあります。その一つを紹介します。いつものよう日曜日のルーテル教会の礼拝に出かけました。ところが、すでに礼拝は終盤にさしかかっていたのです。一時間時計が進む「サマータイム」(summer time)を知らなかったのです。サマータイムが3月の第二日曜日に開始し、11月の第1日曜日に終わることに、長年慣れているアメリカ人は間違うことはありません。サマータイムは「Daylight Saving Time」と呼ばれていいます。

DST : Daylight Saving Time

 1年のうち日中の時間が長くなる夏の始まりの時期に、日中の明るい時間を有効利用するため、時計を通常よりも進めることで、日が暮れる時刻を遅らせる制度のことです。Wikipediaによりますと1784年にアメリカの博学者ベンジャミン・フランクリン(Benjamin Flankline)がロウソクを節約するために、起床時間を太陽が出ている時間に合わせようというアイデアを提唱したとされます。1908年、カナダのオンタリオ州ポート・アーサー(Port Arthur)において、世界で初めてサマータイムが導入されたとあります。

George V. Hudson

 初めてサマータイムを提唱したのは、ジョージ・ハドソン(George V. Hudson)というイギリス生まれのニュージーランドの昆虫学者です。全国規模で実施したのはドイツ帝国とオーストリア=ハンガリー帝国(Austria-Hungary)で、第一次世界大戦時に石炭の消費量を減らすため、1916年4月30日に開始します。それ以来、多くの国でサマータイムが幾度も実施され、イギリスとその同盟国のほとんど、およびヨーロッパの多くの中立国もすぐさまこれに追随したようです。ロシアと他の数か国は翌年まで待機し、アメリカは1918年にサマータイムを採用します。特に1970年代の石油危機以後に普及したのがサマータイムです。2007年以降、アメリカとカナダの大部分では、3月の第2日曜日から11月の第1日曜日まで、一年のほぼ3分の2の期間、サマータイムを実施しています。

 以前は、夏時間の期間に入るまたは終わる度に手動でコンピュータに内蔵されている時計の時刻を合わせていました、近年のオペレーティングシステムは、自動的に内蔵時計を修正する機能を持っているので、時間を修正する必要はありません。日本では、GHQの指令により「夏時間法」が制定され、昭和23年から26年までの4年間実施されました。当時は、戦後の復興期で電力不足という事情もありました。資源の節約や健康増進を図ろうとしたのです。ですが過重労働とか慣習の 変更を好まないなどの理由により廃止となりました。

 日本学術会議は、2018年11月に「サマータイム導入の問題点: 健康科学からの警鐘」を発表し、次のような提言をしています。

サマータイムは、生物時計の機能を損ね、その結果睡眠不足を起こし、睡眠障害のリスクを高め、急性心筋梗塞の発生率を高める。諸外国に比べ睡眠時間の短い我が国では、健康を障害する可能性が高いサマータイムの導入は、見合わせるべきである。サマータイムは、通勤通学時の暑さや、就寝時間帯の室内温度の上昇などをもたらし、家庭内熱中症のリスクを高める。暑さによる健康被害の増大が予測されるサマータイムの導入により、多くの国民の健康を危険にさらすべきでない。

 日本学術会議は以上のような警告を発していますが、 先進国は一向にサマータイムを廃止しようとしません。健康科学からの警鐘は、果たして科学的な事実に基づいているのでしょうか。一体、日本学術会議のメンバーは、サマータイムを経験したことがあるのでしょうか。

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