心に残る一冊 その63 「オセロ」

「オセロ」(Othello)は、ウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare)の悲劇で5幕の作品です。副題は「ヴェニスのムーア人」(The Moor of Venice)となっています。

オセロはムーア人(Moors)の歴戦の将軍です。ブリタニカ百科事典によりますとムーア人とは中世期頃、イベリア半島(Iberian Peninsula)やマルタ島(Malt)、シシリー島(Sicily)などに住むマグレブ(Maghreb)と呼ばれたイスラム教徒の子孫で、アラビア語(Arabic)を話す人々の総称といわれます。

この中年の勇士は、戦場を駆け巡り赫各たる功績をたててきます。その輝く名声のために、ベニス(Venice)の国に雇われます。そしてベニスの貴族の年若い娘デズデモナ(Desdemona)と結婚します。デズデモナは父親の猛烈な反対を押し切るのです。彼女は夫のオセロを慕い愛します。

無事に結ばれた二人の結婚生活は平穏で幸せなものと読者には思われます。しかし、無残に破綻するのです。それは、オセロの腹心の部下イアーゴ(Iago)がオセロの心に疑いの念を植え付け、やがてオセロに愛する妻への嫉妬をかき立て、不貞を確信させるのです。

オセロは軍人としてその経験からも、どんな危険を前にしても冷静さを失わないかのような存在のようですが、妻への嫉妬に激しく悩みもだえる姿は、堂々たる軍人をすっかり忘れた小人のような姿になるのです。軍人としての知略には長けていても、子どものように単純で、世の中の駆け引きには疎いのです。デズデモナに対する愛情と信頼の深さ、人種差別、愛、嫉妬、裏切り、復讐、そして悔い改めなどの感情が見事にオセロの生き方に現れています。

デズデモナの貞操(chastity)を知ったオセロはイアーゴを斬りつけます。そして自分で自殺するのです。オセロの最後の科白です。

「おまえを殺す前に、くちづけしてやったな。今、おれにできることは、こうしてみずからを刺して、死にながら口づけすることだ。」