この曲のタイトルにある12日間とは、クリスマスの12月25日から1月6日までの降誕節のことです。1月6日は顕現祭(Epiphany)と呼ばれ、イエス・キリストが神性を人々の前で表したことを記念するキリスト教の祭日を指します。ルーテル教会でも、伝統的にこの日が祝われています。バッハ(Johann Sebastian Bach)のクリスマス・オラトリオ(Christmas Oratorio)の第6部が、この日の讃美の音楽となっています。ところでオラトリオとは、独唱・合唱・管弦楽から構成される大規模な楽曲を指します。オペラとは異なり、歌手が舞台で演技をすることはありません。
“The Twelve Days of Christmas” は、ヨーロッパに16世紀頃から伝わるクリスマス・キャロルの一つです。1780年にイングランドで作られた詩が基となり、やがて1909年に民謡であった旋律にイギリスの作曲家フレデリック・オースチン(Frederic Austin) が編曲します。曲の特徴としては、12番までの歌詞のついた一種の童謡歌であることです。一定の旋律をもった2行以上からなる詩の単位(stanza)が歌い上げられ、それと共に1番ごとに積み上げられる歌詞(cumulative song)となって曲が長くなります。
12番のうちの1番、2番、3番だけの歌詞 (Lyrics) を紹介しておきます。歌詞の最後の部分は、贈り物として捧げる品が増えていくことがわかります。歌詞でいう12日の最初の日は12月25日です。そして1月5日の夜をもって待降節–アドベント・クリスマスは終わりとなります。 On the first day of Christmas, my true love sent to me A partridge in a pear tree. On the second day of Christmas, my true love sent to me Two turtle doves and a partridge in a pear tree. On the third day of Christmas, my true love sent to me Three french hens, two turtle doves and a partridge in a pear tree.
”Ave Verum Corpus”はモテット(Mottets)といわれる楽曲で、中世からルネッサンス(Renaissance)にかけて成立したミサ曲以外の世俗的なポリフォニー(polyphony)といわれる多声部の宗教曲です。モテットとカンタータ(Cantata)の違いですが、モテットは短い曲で器楽が独奏する部分がなく、絶えず伴奏として演奏されます。他方カンタータは主題にそって長い演奏が続き、独立した器楽の声部が合唱や朗唱に混じって随所に登場します。
”Ave Verum Corpus”ですが、最初は短い前奏で始まり、合唱はニ長調で、途中でへ長調、そしてニ短調へと変わり、最後はニ長調へと転調されます。たった四行のラテン語の歌詞、しかも46小節という短い曲ではありますが、柔らかい旋律と絶妙な転調によって、信仰が純化されるような味わいの響きを持ちます。モーツァルト晩年の傑作の一つといわれます。
旧約聖書のイザヤ書第7章14節には次のような預言があります。 ”見よ、おとめがみごもって男の子を産み、その名はインマヌエルと呼ぶ。” Behold, the virgin shall conceive and bear a son, and shall call his name Immanuel.「 Immanuel」とは「主がともにいる」という意味です。”bear a son” は”give birth to a son”と同じく生まれるという意味です。
この讃美歌は、「久しく待ちにし、主よとく来たりて」として訳されています。元々8世紀のラテン語グレゴリオ聖歌(Gregorian chant)です。曲は7つの詩から成っています。夕礼拝や祈り会のときに交互に歌うしきたりだったようです。その後13世紀になると5つの詩が加えられます。1851年に讃美歌の作詞者であるジョン・ニール(John M. Neale)がラテン語歌詞を英訳、それが日本に入ってきます。
この曲は捕囚の中に光を求める讃美歌であり、救い主を待ち望む歌でもあります。このように原曲が中世のグレゴリオ聖歌であるためか、旋律も和声も静かで厳かな雰囲気を醸し出しています。単旋律でも、編曲されて合唱としても歌われています。 O come, O come, Emmanuel And ransom captive Israel That mourns in lonely exile here Until the Son of God appear Rejoice! Rejoice! Emmanuel Shall come to thee, O Israel.
古代イスラエル王国第2代王ダビデ(David)の父がエッサイ(Jesse)といわれます。その出典箇所は旧約聖書(Old Testament)の中の有名な預言書イザヤ書です。その11章1節には、「エッサイの根株から新芽が生え、その根から若枝が出て実を結ぶ」とあります。ユダ族のダビデの子孫からキリストが生まれることを示唆しているのです。そのことはマタイによる福音書(Gospel of Matthew)の冒頭に「アブラハムの子孫、ダビデの子孫、イエス・キリストの系図」と記述されています。キリストの系図がダビデを通じエッサイに由来することを語るのです。
Lo, how a Rose e’er blooming from tender stem hath sprung! Of Jesse’s lineage coming, as men of old have sung. It came, a floweret bright, amid the cold of winter, When half spent was the night.
Isaiah ‘twas foretold it, the Rose I have in mind; Mary we behold it, the Virgin Mother kind. To show God’s love aright, she bore to us a Savior, When half spent was the night.
19世紀になると降臨節にはクリスマスの木が飾られるようになります。そしてたくさんのクリスマス・キャロルも作曲され歌われていきます。アンシュッツの歌詞にある “treu” とはしっかりとした、とか信仰にあふれた、という意味です。歌詞の二番目は “treu” が “grun”(緑)となっています。20世紀になってこの歌がクリスマス・キャロルとして歌われるとともに歌詞も変わっていったようでです。樅の木を形容して「凜とした葉は夏の盛りだけでなく、雪の降る冬さえも緑をたたえています」という歌詞です。 O Tannenbaum, o Tannenbaum, wie treu sind deine Blatter! Du grunst nicht nur zur Sommerzeit, Nein auch im Winter, wenn es schneit. O Tannenbaum, o Tannenbaum, wie treu sind deine Blatter!
O Holy Nightの作曲者はアドルフ・アダン(Adolphe C. Adam)というフランス人です。我が国では「オー・ホーリーナイト」と呼ばれています。アダンは1800年代の中盤に活躍し多くの曲を作ったといわれます。中でもこの”O Holy Night” (Cantique de Noel–クリスマス賛歌)というクリスマス・キャロルは特に知られています。
O holy night! The stars are brightly shining, It is the night of our dear Saviour’s birth. Long lay the world in sin and error pining, ‘Til He appear’d and the soul felt its worth. A thrill of hope the weary world rejoices, For yonder breaks a new and glorious morn. Fall on your knees! O hear the angel voices! O night divine, O night when Christ was born; O night divine, O night, O night Divine.
「誕生」はすべての人にとって喜ばしく嬉しい時です。老いも若きもその時を祝います。数あるクリスマスの歌には、古く伝統的なものから現代的(contempolary)なものまで誕生を主題とする曲がいろいろとあります。今回、紹介するのは一人の少年が太鼓を叩きながら、イエスの誕生の喜びに加わるという曲です。それが「The Little Drummer Boy」というもので、別名は「Carol of the Drum」です。
Come they told me pa ra pa pam pam a newborn King to see pa ra” pa pam pam Our finest gifts we bring pa ra pa pam pam to lay before the King pa ra pa pam pam Ra pa pam pam ra pa pam pam So to honor him pa ra pa pam pam when we come Little baby pa ra pa pam pam I am a poor boy too pa ra pa pam pam I have no gift to bring pa ra pa pam pam that’s fit to give our King pa ra pa pam pam Ra pa pam pam ra pa pam pam Shall I play for you pa ra pa pam pam on my drum Marry nodded pa ra pa pam pam the ox and lamb kept time pa ra pa pam pam I played my drum for him pa ra pa pam pam I played my best for him ra pa pam pam Then he smiled at me pa ra pa pam pam me and my drum
1977年に国際ロータリー財団より奨学金をいただき、ウィスコンシン大学に留学したときのスポンサーがロバート・ジェイコブ(Dr. Robert Jacob)という医師でした。日本語読みではさしずめヤコブ氏となります。長年ミルウオーキー(Milwaukee)の郊外で開業していました。専門は脚の整形外科。熱心なユダヤ教徒でありました。いつも住まいの側にあるシナゴーグ(Synagogue)で長老(Elder)として活躍されていました。次女がウィスコンシン大学の看護学部を卒業したとき開いたパーティに奥様とご一緒に参加してくださいました。残念なことに数年前に召されました。
キリスト教会には、それぞれに演奏したり歌ったりする音楽とそうでない音楽があります。16世紀の前半に起こった宗教改革(Reformation) をきっかけに、カトリック教会から訣別したルーテル教会には、決して演奏することのない音楽とか曲があります。「アヴェ・マリア」(Ave Maria)という曲がそうです。カトリック教会もマルチン・ルター(Martin Luther)が作曲した賛美歌「神はわが櫓」 (Ein’ feste Burg ist unser Gott) を歌うことはありません。
カトリック教会ではイエスの母、マリアを聖母として崇めています。アヴェ・マリアはマリアへの祈祷を指します。直訳すると受胎告知(annunciation)されたマリアに対して「恵まれた女よ、おめでとう、Ave Maria」と呼びかける言葉です。ルカによる福音書(Gospel of Luke)1章26-38節の記述にあります。ルーテル教会などのプロテスタント教会には、マリアを崇拝する教義がありません。
グレゴリオ聖歌(Gregorian Chant)などのミサ曲にもアヴェ・マリアは登場します。その他、祈祷のための教会音楽や祈祷文を歌詞にしたものなどさまざまな楽曲が存在してきます。16世紀スペインの作曲家トマス・ルイス・デ・ビクトリア(Tomas Luis de Victoria)やジョヴァンニ・パレストリーナ(Giovanni Pierluigi da Palestrina)、19世紀フランスの作曲家グノー(Charles Gounod)、同じく19世紀イタリアのロッシーニ(Gioachino Rossini)など多くの作曲家がアヴェ・マリアの曲を作っています
シューベルト(Franz P. Schubert)の晩年の歌曲「エレンの歌第3番」(Ellens Gesang III) がアヴェ・マリアとして知られています。この曲はもともと宗教曲ではなかったようです。ですが誰かがこの旋律にアヴェ・マリアの歌詞を付けて曲にしたといわれます。このようにラテン語による典礼文を載せて歌うことは現代でもしばしばあります。前述のグノーがバッハの「平均律クラヴィーア(Clavier)曲集 第1巻」の「前奏曲 第1番」の旋律にアヴェ・マリアの歌詞をつけて完成させた声楽曲もそうです。クラヴィーアとはオルガンを含む鍵盤を有する弦楽器のことです。読者の皆さんも必ずどこかでアヴェ・マリア聴いたことがあるはずです。
もう一つのカンタータ(Cantata)をご紹介します。カンタータとは、イタリア語「〜を歌う(cantare)」に由来し、器楽伴奏がついた単声または多声の声楽作品を指します。今回は、カンタータ第147番です。「心と口と行いと生きざまもて(Herz und Mund und Tat und Leben)」と訳されています。140番と並んで人々に親しまれる教会カンタータです。この曲を広く知らしめているのが第6曲の「主よ、人の望みの喜びよ」の名で親しまれているコラール(Choral)で、ドイツ語では”Jesus bleibet meine Freude”という題名となっています。
カンタータ第147番は、新約聖書ルカによる福音書(Gospel of Luke) 1章46〜55節にに依拠しています。礼拝での聖書日課は「マリアのエリザベート訪問の祝日」となっていて、マリアが神を賛美した詩「マニフィカト(Magnificat)」が朗読されます。マニフィカトとは、聖歌の一つである「わたしの魂は主を崇め、わたしの霊は救い主なる神を讃える」という詩のことです。全部で10曲から構成されるカンタータ第147番の一部を紹介することにしましょう。
冒頭の合唱は、”Herz und Mund und Tat und Leben”というトランペットが吹かれる快活な曲で気持ちの良い合唱フーガ(Fuga)です。フーガとは対立法という手法を中心とする楽曲のことです。同じ旋律(主唱)が複数の声部によって順々に現れます。この時、5度下げたり、4度上げて歌います。これを応唱ともいいます。少し遅れて応唱と共に別の旋律が演奏されます。これを対唱と呼びます。次のレシタティーヴォも、オーボエなど弦楽合奏を伴うしみじみした響きで演奏されます。
教会では、全ての日曜日礼拝には拝読される福音書の章句が決められています。三位一体節から数えて第27日曜日の福音書聖句は、マタイによる福音書(Gospel of Matthew)25章1節から13節となっています。この箇所では、花婿の到着を待つ花嫁の譬えを用いて、神の国の到来への備えが唱えられています。それをふまえ、真夜中に物見らの声に先導されたイエスの到着、待ちこがれる魂との喜ばしい婚姻へと至る情景を描いています。
カンタータ140番は「目覚めよと呼ぶ声あり」と呼ばれ、英語では”Wake, Arise,” ドイツ語では”Wachet auf, ruft uns die Stimme”として知られる名高い曲です。カンタータに配置される独唱はレシタティーヴォ(recitative)といわれます。レシタティーヴォは、概して大規模な組曲形式の作品の中に現れる歌唱様式といわれます。叙唱とか朗唱とも呼ばれています。楽器はホルンの他、木管と弦楽器、そしてチェンバロが使われます。カンタータ140番は次の7曲から構成されています。