1971年に名称が変更され施行された「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」が大きな話題となっています。この法律は「給特法」と略されています。給特法は、公立の義務教育諸学校等の教育職員(教員)の給与や勤務条件について特例を定める法律で、教員の仕事の特殊性に基づき、給与や勤務条件について特例を設けています。
給特法の肝は、教員に残業手当を支給しない代わりに教職調整額を支給すると定められていることです。これを携帯電話料金に譬えていえば、「定額働かせ放題法」で、定額基本料金以外の従量課金はないものの、使用できるアプリ(業務)を四つに限定するというものなのです。この一種の揶揄が労働基準法との対比で論議されているのです。
第2次世界大戦後、労働基準法が1947年に施行され、週の労働時間は40時間、1日の労働時間は8時間までと決められました。労働基準法には、残業や休日出勤、時間外労働をさせる際には、労働組合または労働者の過半数を代表する人と書面による協定をしなければならないことが定められていました。これがいわゆる「36協定」と呼ばれる労使間の約束事です。公務員にも労働基準法が適用されていました。
しかし、教員は職務によって拘束時間が大きく異なり、勤務時間を単純に測定することが難しく、残業手当が支払われないようなことが度々起こり、2018年9月の「埼玉教員超勤」という裁判にもなりました。そうした状況を踏まえ、教員に関しては、残業手当は支給しないこととし、代わりに週48時間以上勤務することを想定して、基本給の4%に相当する教職調整額を支給することにしたのです。つまり残業手当は支払わないが、一定額の賃金を上乗せをすることで教員の職務の特殊性に対応しようとしたのです。これが給特法です。
給特法では、校長、副校長、教頭を除く教員には、時間外勤務手当や休日勤務手当などの残業手当を支給しない代わりに、教職調整額を支給しなければならないことになっています。教育調整額とは、教員の勤務時間の長短を問わず、働いている時間・働いていない時間関係なしに、給料月額4%が支払われるものです。このように給特法は残業手当を支給しない代わりに教職調整額を支給すると定められ、教員に時間外勤務をさせないようにする意図が含まれています。しかし、それでは教員の働き方に即さないとの理由で、給特法では政令で定める基準に従い、条例で定める場合には、教員に時間外勤務をさせることができるとされています。
使用者である校長などが教員に時間外勤務を命じることができる仕事は「超勤4項目」といわれます。教員の時間外勤務から「学生の教育実習の指導に関する業務」は外されています。現在、多くの教員が超勤4項目に該当しない時間外労働に従事しています。超勤4項目とは、具体的に以下の業務を指します。
・校外実習その他生徒の実習に関する業務
・修学旅行その他学校の行事に関する業務
・職員会議に関する業務
・非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合
給特法が抱える問題点
給特法の問題点は、教員が長時間の時間外勤務をしているのにもかかわらず正当な対価を受け取れていないところにあります。一律4%の上乗せ賃金で働いているというよりも、その上乗せ賃金で働かされているのです。文部科学省(文科省)が実施した教員の勤務実態調査によると、かつてよりも在校時間が減少しているものの依然として長時間勤務をしている教員が多いことが判明しています。
ただし、文科省の立場は、給特法は、教員の職務の特殊性に配慮した法律であり、そもそもその特殊性は、教師は時間外を含め自主的に働くものであるから厳格な時間管理はなじまない、というものです。つまり、この法律は教員の勤務時間に自由な裁量がある程度確保されていることがあるのだ、という立場です。こうしたことも、教員が自発的で創造的に働く意欲をそぐなど、給特法が教員の勤務実態に合わなくなってきている、と指摘されている要因だと考えられます。
実際の教員の時間外労働は、この超勤4項目に「該当しない」業務が大半を占めています。早朝の登校指導、入試業務、家庭訪問などの校務、さらに近年問題となっている部活動などは、超勤4項目に該当しない業務です。本来であれば、教員に命じることのできない時間外勤務であり、教員はこれらの業務を拒否することができます。
いくら時間外労働をしても超勤手当が支給されないことから、給特法は携帯電話料金にたとえて「定額働かせ放題法」とも揶揄されています。繰り返しますがそれ故に給特法は「定額働かせ放題法」と呼ばれるのです。
文科省はそれでも次のように主張します。つまり「現行制度上では、超勤4項目以外の勤務時間外の業務は、超勤4項目の変更をしない限り、業務内容の内容にかかわらず、教員の自発的行為として整理せざるをえない。 このため、勤務時間外で超勤4項目に該当しないような教員の自発的行為に対しては、公費支給はなじまない。」文科省はさらに、「使用者(校長)の指示」がなければ、それは教員の「自発的行為」であり、労働基準法には抵触しない」としているのです。て「定額働かせ放題法」とも揶揄されています。繰り返しますがそれ故に給特法は「定額働かせ放題法」と呼ばれるのです。
登校指導や家庭訪問、部活動などの業務は、いずれも「使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされていた業務」に含まれるはずです。そして、これらの業務に従事している時間は労働時間に該当すると考えられます。使用者の指揮命令下に置かれていると評価されるかどうかは、教員の行為が使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされていた等の状況の有無等から、教員の厳しい勤務実態を勘案して柔軟に判断されるべきものと考えられます。
【参考資料リンク】
・労働基準法
・公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法
・教員の職務について
・教育職員の勤務実態調査
・埼玉教員超勤裁判
・高橋 哲「聖職と労働のあいだ」岩波書店、2022年
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