2017年11月18日に本ブログにて「心に残る一冊 その35 白薔薇は散らず」という拙稿を投稿しました。162頁の小さな佳作です。この本の原題は「Die Weisse Rose」。翻訳の出版社は白水社で定価が150円とあります。1961年、私は北海道大学の一年次にドイツ語を勉強し始めました。そのとき出会った本です。日本語や英語と違い、名詞にジェンダーがあるのがドイツ語です。表題から薔薇という単語が女性名詞であることも納得したものです。
第二次大戦下のドイツで国家社会主義政権への抵抗運動を始め、やがて処刑されたハンス・ショル(Hans Scholl)と妹ゾフィー・ショル(Sophie Scholl)の記録です。ヒトラーが政権をとった時、ハンスは15歳、ゾフィーは12歳。そして二人はヒトラー青年団(Hitler Youth)に加入します。この青年団はナチスによる学校放課後における地域の青少年を教化する組織です。第二次世界大戦が始まると、ハンスも戦争に狩り出され、ロシア戦線にも出征します。
ハンスはやがて、ドイツ人でユダヤ系の詩人であるハインリッヒ・ハイネ(Heinrich Heine)の詩などが禁じられたことなど、ナチスの理念と行動に疑念を抱くようになります。ハイネは、ドイツ・ロマン派を代表する詩人で思想家です。自由と平等を理想とする政治思想を強く抱き、検閲制度や専制政治、宗教的抑圧に反対していきます。彼の思想は、詩的感性と鋭い社会批評、政治的関心、自由主義的な立場を融合させたといわれます。ハイネは検閲や迫害を逃れてフランスへ亡命し、ドイツ国外から母国を批評した先駆者ともいわれます。ナチスが彼の書を焚書した際に「本を焼く者は、やがて人をも焼くことになる」という名言が伝えられています。
ミュンヘン大学(Ludwig-Maximilians-Universität München) 医学部の学生になったハンスは、友人や哲学教授のクルト・フーバー(Kurt Huber)を相談役として、「個人の権利と自由、各人の自由な個性の発達と自由な生活への権利」を主張していきます。そして反戦運動のメンバーとして会議に参加することとなります。地下での抵抗と反戦の訴えを「白薔薇通信」というチラシで密かに訴えます。この運動は、政治的な結社でも武装闘争でもありませんでした。
ミュンヘン市内やミュンヘン大学構内で配布された白薔薇通信は次のような文章で始まります。
「何よりも文化民族にとって相応しからぬ事は、抵抗することもなく、無責任にして盲目的な衝動に駆り立てられた専制の徒に「統治」を委ねることである。現状はまさに、誠実なドイツ人は皆自らの政府を恥じているのではないか?」
白薔薇通信の最後のビラの一説です。
「言論の自由、信教の自由、そして犯罪者的暴力国家から市民を擁護すること、これが新しきヨーロッパの基礎である。諸君、抵抗運動を支持せよ。このビラを複写し配布されよ!」
「愕然としてわが民族はスターリングラードの人的消耗を眺めている。33万人のドイツ男子は第一次大戦伍長の天才的戦略によって無意味かつ無責任に、死と破滅に駆り立てられた。(略) 我が民族は国家社会主義によるヨーロッパの奴隷化に抗して、進軍を開始せんとする、自由と名誉の新しき信念に身をたぎらせつつ。」
参考書 ハインリッヒ・ハイネ 【歌の本】 岩波新書
