懐かしのキネマ その85 【スリ】

Last Updated on 2025年1月4日 by 成田滋

原題は「PICKOCKET」。「スリ」という意味です。1960年にフランスで作られた名画です。社会の中で行き場を見失った貧しく寡黙な一人の青年が、スリという行為に生きがいを求め、その所業にのめりこんでいく一方で、現実の営みから離脱し、人としての感情も希薄になっていく様を描いた作品です。フランス映画はアメリカ映画と違った風趣があります。是非観ていただきたい作品です。

Michel

貧しい大学生ミシェル(Michel)は、母から離れ安アパートで暮しています。ふとしたきっかけで、ロンシャン競馬場(Longshan Racecourse)で、女性のバッグから金をスリ取ります。自分にスリの才能があることを発見します。一度は刑事に捕まったものの、証拠不十分で釈放されますが、再び他人の財布を狙い出します。母にその金を届けた時、隣室の娘ジャンヌ(Jeanne)に会います。小才のきく真面目な友人ジャック(Jacques) に、ミシェルは仕事の世話を頼みます。

ミシェルは、仕事へ行く地下鉄でスリの犯行を目撃し惹き付けられます。練習ののち最初の犯行は成功します。時には失敗しますが、ジャックと喫茶店にいる時、かつて尋問されたペレグリ警部(Pelegri)に会います。彼はミシェルになぜか目をつけています。やがてその手口は、仲間を引き込んだ組織的なものになっていきます。本もののスリが彼をアパートの出口で待っています。見込まれた彼は種々の手口を教えられ銀行の前でスリをし、駅では三人で組んでかせいでいくのです。

ミシェルの母が亡くなります。葬儀にはジャンヌも参列しています。警部のペレグリがアパートを訪ね、盗んでいたお金を所持していたことを伝えます。彼はその金がミシェルが稼いだものと考えます。しかし、ミシェルを告訴しません。

カメラは「スリ」の行為について、その手の動きをクローズアップさせ、青年と仲間が連係プレーで繰広げる数々の華麗なる手口を流れるようとらえています。青年の淡々と抑揚のないモノローグを朗読し、若干の台詞のやり取りがあるだけです。その台詞も棒読みに近い語りかけですで、登場人物たちの動きも必要最小限にとどまっています。フランス映画の名作といえるのではないでしょうか。

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懐かしのキネマ その84 【カッコーの巣の上で】

Last Updated on 2021年7月30日 by 成田滋

原題は【One Flew Over the Cuckoo’s Nest】といいます。この題名の意味は少し勉強しないと理解できそうにありません。荒筋を紹介することにします。主人公のマクマーフィー(Patrick McMurphy)は刑務所の重労働から逃れるために、偽って精神病院に入院してきます。向精神薬を飲んだふりをしてごまかし、ラチッド婦長(Mildred Ratched)の定めた病棟のルールに次々と反抗していきます。グループセラピー(group therapy) などをやめてテレビでワールドシリーズを観たいと主張し、他の患者たちに多数決を取ったりなどします。最初は患者たちは決められた生活を望むのですが、マクマーフィーのやり方に賛同するようになります。

Patrick McMurphy

他の患者と無断で外出しボートに乗せて、マクマーフィーの女友達とともに海へ釣りへ行ったりします。こうした反抗的な行動が管理主義的なラチッド婦長の逆鱗に触れ、彼女はマクマーフィーが病院から出ることができないようにしてしまいます。ある日患者が騒動を起こした際、止めようとしたマクマーフィーも一緒に、お仕置きである電気けいれん療法(electroconvulsive therapy) を受けさせられてしまいます。マクマーフィーは、しゃべることのできないネイティブアメリカン(native American)であるチーフ(Chief)とともに順番を待っていますが、実際は彼がしゃべれないフリをしていることに気づき、一緒に病院から脱出しようと約束します。しかしチーフは、自分は小さな人間だとその誘いを断るのです。

Mildred Ratched

クリスマスの夜、マクマーフィーは病棟に女友達を連れ込み、酒を持ち込んでどんちゃん騒ぎを始めます。一騒ぎ終わった後の別れ際になって、ビリー (Billy)が女友達の一人を好いていることに気がつきます。ビリーはマクマーフィーに可愛がられています。マクマーフィーは、女友達にビリーとセックスをするよう頼み込み、二人は個室に入っていきます。二人の行為が終わるのを待っている間、マクマーフィーは酒も廻りつい寝過ごしてしまいます。翌朝、乱痴気騒ぎが発覚し、そのことを婦長からビリーは激しく糾弾され、母親に報告すると告げられます。そのショックでビリーは自殺してしまいます。マクマーフィーは激昂し、彼女を絞殺しようとします。婦長を絞殺しようとしたマクマーフィーは他の入院患者と隔離されてしまいます。

チーフはついに逃げ出すことを決意し、マクマーフィーを待っています。戻ってきたマクマーフィーは病院が行った治療ロボトミー治療(lobotomy)によって、もはや言葉もしゃべれず廃人のような姿になっています。チーフはマクマーフィーを窒息死させ、窓を破って精神病院を脱走するのです。

懐かしのキネマ その83 【追想】

Last Updated on 2025年1月4日 by 成田滋

1956年制作の歴史ドラマ映画です。ロシア帝国(Russian Czar)のアナスタシア皇女(Anastasia Romanov)が実は生存しているという伝説を下敷きにして作られた映画で原題は【Anastasia】となっています。

Anastasia Romanov

10代の若き皇女アナスタシアを含めて、ロシア皇帝ニコライ2世(Tsar Nicholas II) の一家が十月革命(Russian Revolution)の後に赤軍のボリシェヴィキ(Bolsheviks) によって殺害されたと推測されてから10年が経過します。ロシア革命で反ボリシェヴィキである白軍(White Russian) の将軍ボーニン (General Bounine)はニコライ2世が4人の娘のためにイングランド銀行(Bank of England)に預金した1000万ポンドのロマノフ家の遺産に目をつけます。ボーニンは街で出会った記憶喪失(amnesia)の女性アンナ・ニコル(Anna Nicholas)を、生存が噂されるアナスタシア皇女に見立てて遺産を手に入れようと、彼女に各種のレッスンを施して「本物」らしく仕立てます。

デンマーク(Denmark)で甥のポール公(Prince Paul) と余生を過ごす皇太后フェドロヴァナ(Empress Marie Feodorovna)は、アンナと涙の対面をします。ふとした妙な咳から皇太后は彼女が本物のアナスタシアであることに気付いたのです。資産目当てでボーニンに協力するポール公とアンナの数週間後の婚約発表も決まるのですが、ボーニンのアンナへの想いも「本物」になってしまい、二人が愛し合うという誤算が生じてしまいます。

ポール公とアンナの婚約発表当日、披露の場にボーニンとアンナの姿はありません。孫娘が行方不明となる事態に、全てを承知していた皇太后は「芝居は終わった。家にお帰りください」と招待客に告げるためにポール公を伴って会場に向かうのです。

懐かしのキネマ その82 【お熱いのがお好き】

Last Updated on 2021年7月27日 by 成田滋

1958年に製作されたコメディ映画の傑作の一つといわれます。原題は【Some Like It Hot】。なんといってもマリリン・モンロー(Marilyn Monroe)が、酒場で「I Wanna Be Loved by You」を歌う場面が一世を風靡します。偶然殺人事件を目撃してしまった2人のバンドマンは、追われる身になります。カツラと化粧を施し女性バンドの中に潜り込み、ギャングの目を欺こうとすることからシーンは始まります。

1929年2月のシカゴの麻薬街です。ジョー(Joe)というサキソフォーン(saxophone)演奏者とジェリー(Jerry)というベース(double bass)演奏者がいます。2人は、ギャングスターであるスパッツ(Spats Colombo)が経営するもぐり営業の酒場で働いています。チャーリー(“Toothpick” Charlie)という男の密告で警官が酒場を強襲します。ジョーとジェリーは逃走します。二人は、チャーリーが聖ヴァレンタインデイ(St. Valentine Day)の虐殺のように、撃たれてしまうのを目撃します。スパッツとギャング仲間は2人が逃走したことを知ります。ジョーとジェリーは街を抜け出し、変装してジョセフィーンとダーフィン(Josephine and Daphne)と名乗り、スウィートスー&シンコペーター(Sweet Sue and her Society Syncopators)という女性バンドに潜りこみます。そこで2人は、女性歌手でウクレレ奏者であるシュガー・ケイン(Sugar Kane)に出会います。

Sugar Kane

ジョーとジェリーは変装しながらもシュガーに惚れていきます。シュガーは、ジョーに自分を利用しようとした男性のサキソフォーン奏者と縁を切っていると伝えます。そして、フロリダ(Florida) で優しそうで眼鏡をかけた百万長者の男と出会いたいというのです。フロリダヘの列車の中で、禁止されたパーティが開かれ、ジョセフィーンとダーフィンはシュガーと親密になります。しかし、女性の変装をしており、シュガーに言い寄ることができないのが残念です。

マイアミ(Miami)に着くと、ジョーは二度目の変装をして、自分は百万長者でシェル石油の御曹司だといってシュガーに求婚します。彼女には無関心を装うのです。そこに百万長者でマザコンの年いった男、オズグッド・ジュニア(Osgood Fielding III)がダーフィンを追いかけ回します。ダーフィンが断るたびにオズグッドの食欲は増すといった塩梅です。オズグッドは自分のヨットでのシャンパンディナーにダーフィンを招待します。

ジョーはジェリーをオズグッドの相手をさせておいて、自分がオズグッドのヨットにシュガーを載せて楽しみます。ヨットの上で、ジュニアに変装したジョーは、自分には心理的なトラウマがあってインポであるが、自分を癒してくれる女性なら喜んで結婚するとシュガーに言い寄るのです。

シュガーはジュニアの精力をかなり掻きたてます。他方、ダーフィンはオズグッドとタンゴ「ラ・クンパルシータ(La Cumparsita)」を終日踊るのです。ジョーとジェリーがホテルにもどると、ジェリーは、ダーフィンに扮した自分にオズグッドが求婚したのでそれを受け入れたというのです。オズグッドの計略を暴いて、即時に離婚し多額の慰謝料をせしめるつもりであることも語ります。

Josephine, Sugar & Daphne

ホテルでは「イタリアオペラのフレンド」(Friends of Italian Opera) と題する会議が開かれます。実はこの集まりは、リトル・ボナパルト(Little Bonaparte)という大物の出席による全米の犯罪組織の集会です。その会場で、スパッツとその一味は、長い間探し続けていたジョーとジェリーを発見します。恐れた2人はバンドを辞め、ホテルから去ろうとします。ジョーは、シュガーに打ち明け、自分は父親の選んだ女性と結婚するためにベネズエラ(Venezuela) に行かなければならないと告げます。

ジョーとジェリーは犯罪組織の晩餐会でテーブルの下に隠れスパッツから逃れます。リトル・ボナパルトはスパッツとその一味を晩餐会で殺します。ジョーとジェリーはその場の目撃者となりホテルから逃れます。ジョセフィーンに変装したジョーは、ステージ上で失恋の悲しみを歌うシュガーを見上げます。そしてステージにのぼり、シュガーにキスをします。シュガーはようやくジョーがジョセフィーンであり、ジュニアであることを知ります。

ジェリーはオズグッドに彼のヨットでジョセフィーンとダーフィンをつれ出すようにと説得します。シュガーは、演奏しているステージを飛降りて、今しもジェリー、ジョー、オズグッドを乗せて出帆するオズグッドのヨットに飛び乗るのです。 ジョーはシュガーを欺いていたこと、彼女の意に添えなかったことを謝ります。シュガーもジョーと別れると伝えます。一方、ジェリーは、ダーフィンとオズグッドが結婚できない理由が喫煙と不妊症のためであるといいます。オズグッドはジョーとジェリーを解雇します。そして、自分はダーフィンと結婚するつもりだと主張します。憤慨したジェリーはかつらをとり、自分は男であると宣言します

懐かしのキネマ その81 【捜索者】

Last Updated on 2024年12月31日 by 成田滋

原題は【The Searchers】。南北戦争で南軍(Confederacy)に従軍したイーサン・エドワーズ(Ethan Edwards)は終戦後、テキサス(Texas) で牧場を営む弟アーロン・エドワーズ(Aron Edwards)の許に戻ってきます。出迎えたのはアーロンやその妻マーサ(Martha)、18歳の娘ルシイ(Lucy)、14歳になる息子ベン(Ben) 、9歳の娘デビー(Debbie) です。他にチェロキー族(Cherokee)との混血で、一家がコマンチ族(Comanches)に皆殺しにされたため引取られた若者マーティン・ポウレイ(Martin Pawley)にも会います。

翌日、牧師も兼ねるテキサス警備隊長(Texas Rangers) サム・クレイトン大尉(Captain Sam Clayton) の一行がやって来きます。隣人の牧場主ジョーゲンセン(Lars Jorgensen)の牛がインディアンに盗まれたので追跡するためです。イーサンとマーティンは隊に加わります。出発した捜索隊は途中、白人男子を家から誘い出すためのコマンチ族の仕業と知り、二隊に別れて捜索します。その間、エドワーズ(Edwards) 一家は皆殺しされ、ルシイとデビーは誘拐されます。犯行はコマンチ酋長スカー(Scar) と部下の仕業です。捜索隊はコマンチ族を追跡しますが劣勢のため退却します。復讐の念に燃えるイーサン、マーティンそしてルシイと愛し合っていた20歳になるブラッド・ジョーゲンセン(Brad Jorgensen) の3人だけ追跡を続けることになります。

数ヵ月後、3人はコマンチ族に追いつき、イーサンはルシイの死体を発見し埋葬します。インディアン宿営地近くでそれを知ったブラッドは狂気のようにコマンチ族目掛けて馬を飛ばし、非業の最期を遂げます。イーサンの敵慨心は更に硬くなります。やがて捜索2年目も過ぎイーサンは、デビーと血縁もないマーティンに平和な生活へ戻れとすすめるのですが、彼はきき入れません。その頃、イーサンは交易所の経営者から、報酬と引換えにデビーの居所を教えてもらいます。イーサンとマーティンは、誘拐されているデビーは酋長スカーと北方の保留地に向ったと聞いて直ちに出発します。やがてコマンチ族の交易所に立寄った時、マーティンはコマンチ娘ルック(Look)に惚れ込まれてしまい、珍妙な夫婦ができるのです。イーサンは酋長スカーらの居所を聞き出します。姿を消したルックは軍隊に襲撃された集落で死体となって発見されます。

アメリカ西南部を踏破した二人は、ニュー・メキシコ地帯(New Mexico) でメキシコ人エミリオ(Emilio)の案内から遂に目指すスカーの許に着辿り着きます。白人を憎悪するスカーです。その天幕には一人前の娘に成長したデビーの姿があります。ですが彼女は二人に気がつきません。怖気づいたエミリオは、スカーは全部知っているのだと言い立去ります。二人が去りあぐんでいる処に駆けよったデビーは「私は今ではコマンチです。帰って下さい」と言います。拳銃を手にしたイーサンはコマンチの狙撃に傷つき、マーティンの助けで辛うじて牧場へ戻ります。

折しも牧場では、警備隊員チャーリイとローリイの結婚式が行われようとしています。怒ったマーティンは花婿と拳銃で応酬し、結婚式はおじゃんとなります。やがてクレイトン指揮の警備隊はスカーのキャンプを急襲し、単身潜入したマーティンはデビーを救いスカーを射殺します。長年コマンチの許で暮したため、白人に敵意を持つようになったデビーをイーサンは殺そうと決意します。デビーを追いつめて銃口を向けますが、無邪気な表情に射つのを止め、馬上に抱き上げてブラッドの牧場に帰り着きます。愛するマーティンを迎えるローリイ。ジョーゲンセン夫人の胸にすがるデビー。6年間の使命を果したイーサンは満足気に一人去って行くのです。

懐かしのキネマ その80 【アパートの鍵貸します】

Last Updated on 2024年12月31日 by 成田滋

ビリー・ワイルダー(Billy Wilder)監督・脚本による都会派コメディの代表作が【The Apartment】です。主演のジャック・レモン(Jack Lemmon)は、アメリカ映画界最高の喜劇俳優といわれています。共演したのは、シャーリー・マクレーン(Shirley MacLaine)です。

1959年12月、あるニューヨークの大きな保険会社の19階の大部屋でC.C.バクスター(Bud” Baxter)、通称バドは勤めています。勤続3年と10ヶ月、礼儀正しく、数字に強く、だが、押しには弱い彼の週給は94ドル70セントでした。家賃月額85ドルの独身向けアパートに住む彼には一つの秘密がありました。それは、不倫の密会をする情事の場所として自分の部屋を会社の上司4人に又貸ししていたのです。バドは、出世の足掛かりを求めて部屋を貸し、そのため毎夜遅く帰る生活をしています。ある日、シェルドレイク(Sheldrake)人事部長に呼び出され、彼にも部屋を貸すことになります。課長補佐に昇進したバドは会社のエレベーター係のフラン(Fran Kubelik)をデートに誘うのですが、実は彼女はシェルドレイクの愛人でした。、バドはフランとのデートの約束をすっぽかしてしまいます。

会社でのクリスマス・イブのパーティで、フランはシェルドレイクの秘書・オルセン(Miss Olsen)から彼の女性遍歴を聞いて落ち込みます。また、バドはふとしたことからフランがシェルドレイクの愛人であることに気付き、ショックを受けます。シェルドレイクに部屋を貸したバドはバーで閉店まで時間をつぶすのです。シェルドレイクと別れ話になったフランは、彼が帰ったあと睡眠薬自殺を図ります。帰宅したバドは倒れているフランを見つけると、隣の部屋のドレイファス医師(Dr. Dreyfuss) を呼んで介抱します。翌日、フランの看病のため、会社を休んだバドですが、フランを迎えに来た義兄のカール(Karl) にバドがフランの自殺未遂の原因だと誤解されて殴られる始末です。

翌日、出社したバドは、シェルドレイクにフランを引き取ると持ち掛けようとします。シェルドレイクは解雇したオルセンに女性関係をばらされて離婚することになったと打ち明け、バドを部長補佐に昇進させるのです。大晦日、スポーツクラブに泊まっていたシェルドレイクはフランと過ごすため、バドにアパートの鍵を要求しますが、バドは要求をはねつけて会社を退職し、アパートから引っ越す準備を始めます。

レストランでの新年パーティでフランは、シェルドレイクからバドが会社を辞めたと聞き、彼の気持ちにようやく気付くと、彼のアパートに急ぎます。一人でシャンパンを開けていたバドのもとにフランがやってきます。そこで、バドはフランに愛を告白するのです。フランはそれに答えず、バドにトランプを配り、カードゲームに誘うという結末です。

懐かしのキネマ その79 【北北西に進路を取れ】

Last Updated on 2024年12月31日 by 成田滋

原題は【North by Northwest】という1959年に製作されたスパイスリラー作品です。世界的名監督のアルフレッド・ヒッチコック(Alfred Hitchcock)が監督しています。

1958年、ニューヨーク市のホテルのバーにいる2人の凶悪犯が、探しているジョージ・カプラン(George Kaplan)をポケットベルで呼ばれるのを聞きます。そこに居合わせた広告会社の重役ロジャー・ソーンヒル(Roger Thornhill)は、カプランと間違えられ誘拐されて、ロングアイランド(Longisland)のタウンゼント(Lester Townsend)という不動産屋の邸宅に連れて行かれ、スパイのフィリップ・ヴァンダム(Phillip Vandamm)に尋問されます。ヴァンダムはソーンヒルの抗議を無視し、さらに酔っぱらいの運転事故に見せかけて殺そうとします。ソーンヒルは、母親と警察に事情を話しますが、納得させることができません。警察は彼をタウンゼントの家に連れ戻し、そこにいた女性は彼が彼女のディナーパーティーで酔って現れたと言います。

North by Northwest

ソーンヒルは釈放され、拉致されたホテルに戻ってキャプランの正体を確かめようとします。しかしホテルの客室にカプランが宿泊している形跡はあっても、カプラン当人を見た者は誰もいません。そのうち邸宅にいた手下たちが追ってきたことを知ってソーンヒルはホテルから逃走し、タウンゼントが国連で演説する予定と聞いたことを思い出します。そして今度はタウンゼントを追って国連本部へ向かいます。ところが国連のロビーで会ったタウンゼントは、邸宅にいた男とは別の人物です。2人が噛み合わない会話をしていると、そのタウンゼントの背中に手下のひとりが投げたナイフが突き刺さります。ソーンヒルは、殺人容疑者として大きく報道されてしまうのです。

架空の人物とも知らず、なおもカプランを追い求めるソーンヒルは、シカゴに向かう特急寝台列車「20世紀特急」(20th Century Limited to Chicago)に乗ります。その車内でイヴ・ケンドール(Eve Kendall)という女性と親しくなります。彼女はソーンヒルがお尋ね者であることを承知していて、彼を自室に招き入れてかくまうのです。ところが同じ列車にヴァンダム一味も乗っていて、実はイヴは彼らと通じていたのです。シカゴに着くと、イヴはカプランと連絡をとったと言って、ソーンヒルを郊外の広大な平原に向かわせます。しかし、その平原でいつまで待ってもカプランは現れず、そのかわり農薬を散布していたはずの軽飛行機が襲いかかってきます。平原を縦横に逃げるソーンヒルを追い回すうち、軽飛行機は通りかかったタンクローリーに衝突して炎上してしまいます。

Mt. Rushmore

ともかく、この映画は、スパイスリラーですから、いろいろとハラハラする場面が満載です。たとえば、ラシュモア山(Mount Rushmore)の頂上への逃走劇です。指先で山にぶら下がるイヴをソーンヒルは手を伸ばして彼女を引き上げます。ソーンヒルとケンドールが山を下るとき、彼らはパークレンジャーによって打たれる凶悪犯を眺めます。その後の経緯は見てのお楽しみですが、ソーンヒルは新しくソーンヒル夫人となったイヴを電車の上段に引き込みます。その後、列車はトンネルに入るという結末です。

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懐かしのキネマ その77 【エビータ】

Last Updated on 2021年7月21日 by 成田滋

ミュージカル『エビータ』(Evita)をもとにした1996年のアメリカ映画です。アルゼンチン(Argentine)のファーストレディ(First Lady)であったエバ・ペロン(María Eva de Peron)を描いています。フアン・ペロン(Juan Domingo Peron)大統領と結婚し、後に政治にも介入するようになります。アルゼンチン国内では人気が高く、民衆は親しみをこめてエビータ(Evita)と呼んでいました。Evitaを演じたのはマドンナ(Madonna)です。

Eva Peron

ペロンは軍人で、1943年6月のクーデター以降、労働組合の支持を得て徐々に勢力を増していきます。1944年1月のサンフアン大地震(San Juan Earthquake)の救済コンサートでエバとペロンは出会い、愛人として、かつ共に権力を目指すようになります。エバは上流階級の社交界にも顔を出すようになっていきます。しかし、その出自から軍部や上流階級どちらからもひんしゅくを買うようになります。

1945年のクーデター (Coup detat) によりペロンは一時拘束されますが、エバはラジオ番組や演説を通じて働きかけ、ペロニスト(Peronists) の民衆もペロンの釈放を求めて続々と首都ブエノスアイレス(Buenos Aires) に集結します。解放されたペロンはエバと正式に結婚。「労働者の味方」を演出してさらに人気を上げ、エバはついに26歳にしてアルゼンチンのファーストレディとなります。ペロンが大統領に就任した際、大統領官邸カサ・ロサダ (La Casa Rosada)のバルコニーで、エバは「アルゼンチンよ泣かないで」Don’t cry for me Argentina)を歌います。

“Don’t Cry for Me Argentina”

エバは財団基金の名のもと集めた寄付で、ディオール ((Christian Dior) の服や毛皮、宝石などで華やかに着飾って、「レインボー・ ツアー」(Rainbow Tour)と銘打ってヨーロッパ各国を歴訪します。さらに婦人参政権運動をすすめ、貧しい人々を助けるエヴァ・ペロン財団(Eva & Peron Foundation) を設立するなど、精力的に活動を続けます。しかし、特権階級が独占していた富を吸い上げ、奔放な施策で貧困層の不満のガス抜きをしますが、問題の根本的な解決には至らず、アルゼンチンの混乱は続きます。鉄の意志のような振る舞いで、夢を実現してきたエバも、病に襲われ33歳で亡くなります。葬儀は国民葬で執り行われました。人生を激しく生きた稀有な女性といわれています。

懐かしのキネマ その76 【ブレイブハート】

Last Updated on 2024年12月31日 by 成田滋

原題は【Braveheart】というアメリカ映画です。スコットランド(Scotland) の独立のために戦った実在の人物ウィリアム・ウォレス(William Wallace) の生涯を描いた歴史映画です。スコットランドは現在はグレートブリテン及び北アイルランド連合王国(United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland:UK)に属しますが、1707年まではスコットランド王国として存続しました。UKの通称はイギリスとか英国と呼ばれます。

West Highland

13世紀末、イングランド王(England)エドワード1世(EdwardI) の過酷なスコットランド支配に対して、ウィリアム・ウォレスは、スコットランド民衆の国民感情を高めて抵抗運動を行います。家族を殺害されるも、難を逃れたウォレスは、成人して彼は故郷に戻り、そこで幼なじみのミューロン(Murron)と恋に落ち、結婚します。しかし彼女はイングランド兵の手によって殺害されます。ウォレスは復讐を決意し、圧政に苦しむスコットランドの民衆の支持によって、抵抗運動は高まっていきます。

1297年のスターリング・ブリッジの戦い(Battle of Stirling Bridge)でウォレスらは、イングランド軍に勝利をおさめます。ウォレス率いる反乱軍は連勝を重ね、逆にイングランド領のヨーク(York) を占領します。エドワード1世は講和しようと息子の妻イザベル( Isabelle) をウォレスの元に送ります。彼女はウォレスに魅了され、イングランドへの侵攻を止めるように進言します。しかし、ウォレスは独立の好機ととらえ、スコットランドの王位継承者と目されるロバート・ザ・ブルース(Robert the Bruce) をはじめとする貴族層にも蜂起を促します。ですが、権益を保持したい貴族たちは土壇場でウォレスを裏切り、1298年のフォルカークの戦い(Battle of Falkirk) でイングランド軍に大敗を喫します

その後も辛くも生き延びたウォレスは行方を眩まし、各地でゲリラ戦を展開し、エドワードの支配への抵抗運動を継続しますが、1305年にイングランド軍に捕らえられ、大逆罪で有罪となります。ロンドンで行われた公開処刑では慈悲を乞うことを拒否し、【祖国の自由を】と叫びながらウォレスは息絶えます。ブルースに率いられたスコットランドの勇士たちは果敢に戦い、バノックバーンでの戦い(Battle of Bannockburn)でイングランド軍を破り自由を勝ちとるのです。

懐かしのキネマ その75 【レフト・ビハインド】

Last Updated on 2021年7月16日 by 成田滋

原題は「Left Behind」。新訳聖書「ペテロの手紙」(First Epistle of Peter)に「万物の終わりが近づきました。ですから、祈りのために心を整え身を慎みなさい」という聖句があります。「Left Behind」とは「取り残される者」という意味です。【レフト・ビハインド】という映画は、万物の終わりが近づいたという「終末」にまつわる預言が描かれた作品です。

映画は、何の前触れもなく、世界各国で数百万もの人々が消失するという異常事態が発生することで幕が上がります。各種通信網やエネルギー網などのシステムはダウンします。さらに消失を逃れた人々は不安に駆られて混乱し、一部は暴徒化してしまいます。

パイロットのレイフォード(Rayford Steele) が操縦するジャンボジェット機内でも同様の消失現象が起きます。副機長のクリス・スミス(Chris Smith)、客室乗務員のキミー(Kimmy)、そして搭乗していた子どもたち全員が、着ていた衣服を残したまま姿を消します。消失しなかった乗客たちはパニックになって、なぜこんな現象が起きたのかと騒ぎ立てます。

レイフォードは自分が知る情報はすべて乗客に伝えると何度も言います。彼は地上と無線や携帯電話で連絡を取ろうとしますが、つながりません。ようやく連絡がついたときには、世界中で消失現象が起き、そのためにパニックが起きていることを知らされます。その後すぐに、パイロットが消失したジェット機がレイフォードの飛行機の飛行経路に近づいてきます。レイフォードはかろうじて上空での正面衝突を避けますが、エンジンにダメージを受け、燃料の流失が始まります。レイフォードはニューヨークへ引き返す決断を下します。

地上では、レイフォードの娘、クローイ(Chloe Steele)が父親の救難要請を携帯電話で聞き、飛行機が墜落してしまったと思ってしまいます。その後、クローイは親交のあるブルース・バーンズ牧師(Rev Bruce Barnes)に会うために、ニュー・ホープ教会(New Hope Church) へと向かいます。バーンズ牧師は神が自らを信じる者を天国へ導き、残された者たちは終末の日を迎えることになると主張する牧師でした。バーンズ牧師は「自分が説教する内容を本気で信じていなかったために、自分は取り残されてしまった。」とクローイに告白します。

その頃、副機長と客室乗務員が残した所持品を調べていたレイフォードもバーンズ牧師と同じ結論に至ります。レイフォードは、客室乗務員のハティー (Hattie Durham) に妻アイリーン(Irene Steele)が熱心なキリスト教の信者になってしまったことを打ち明けます。レイフォードは、ハティーと情を交わしていたのです。その話を聞いたハティーは、レイフォードが結婚している事実すら知らなかったために激怒します。しかし、やがて落ち着きを取り戻したハティーは、無事着陸できるまで乗客をなだめて落ち着かせようと努力します。

クローイは自殺しようとします。そこに飛行機の乗り合わせていた記者のバック(Buck William)から電話がはいります。レイフォードは、クローイに、すべてのニューヨーク付近の空港は閉ざされ,道路も車で一杯であること、燃料が尽き始めていることを伝えます。クローイは捨てられているトラックを使い、建設中の道路の資材を取り除き、一時しのぎの滑走路にしようとします。コンパスのアプリを使い、着陸地を指示します。レイフォードはなんとか道路に着陸し、乗客を救うのです。辺り一面火の海が広がります。バックは「これはまさに世界の終わりだ、、」とつぶやくのですが、クローイは「これが世界の始まりなのだ、、」と答えるのです。

懐かしのキネマ その74 【グリーンブック】

Last Updated on 2021年7月15日 by 成田滋

人種差別が色濃く残る1960年代のアメリカ南部を舞台に、黒人ジャズピアニストとイタリア系白人運転手の2人が旅を続けるなかで友情を深めていく姿を、実話をもとに描いた作品が【Green Book】です。「グリーンブック」とは、黒人用旅行ガイド本の代名詞です。

Tony Lip & Don Shirley

舞台は1962年のニューヨーク(New York)です。人気の高級ナイトクラブで用心棒をしているトニー(Tony Lip)は、クラブが改装のため閉鎖になりしばらくの間、無職になってしまいます。トニーは、南部でコンサートツアーを計画する黒人ジャズピアニストのドクター・ドン・シャーリー(Dr. Don Shirley) のボディガード兼運転手として雇われることになります。当時は人種差別が根強く残り、「黒人専用ホテル」があったり、白人と同じレストランで食事をすることさえ制限される時代です。

粗野で無教養ですが口が達者で、何かと周囲から頼りにされているのがトニー。教養はあるものの気難しいドンというように、2人の出自も性格は反対です。黒人差別が色濃い南部へ、あえてツアーにでかけようとするドンと、「グリーンブック」 を頼りに、トニーはその旅に同行することになります。この2人がまるで違う価値観のもと衝突しながらも次第に友情を築いていきます。

アラバマ州(Alabama)バーミンガム(Birmingham) での最後の演奏会の夜、ドンは、白人専用のカントリークラブ内の食堂へ入ることを拒否されます。カントリークラブはドンに演奏を依頼していたのです。トニーは支配人と喧嘩となり、ドンは食事を拒否されたので、演奏はしないと宣言します。トニーとドンはカントリークラブを出て、黒人のブルースクラブに行って食事をします。そこでドンはピアノを演奏し、ショパンのエチュードホ短調 (Etude in E minor)を弾きます。2人は、クリスマスイブのためにニューヨークへ戻ろうとします。トニーは夕食を共にしようとドンを招待しますが、ドンは招待を断り自分の家に帰っていきます。1人で家で坐るドンですが、トニーの家へ行こうとします。そしてトニーの家族から大歓迎を受けるのです。

懐かしのキネマ その73 【アメリカン・スナイパー】

Last Updated on 2021年7月14日 by 成田滋

クリントイーストウッド (Clint Eastwood)が監督した1人の苦悩する狙撃手(sniper)の自叙伝を実写化した作品です。原題も【American Sniper】です。

クリス・カイル (Chris Kyle) はテキサス州(Texas) に生まれます。父親から鹿狩の技術を仕込まれながら育ちます。ロデオ(rodeo)に明け暮れていたカイルは、アメリカ大使館爆破 (U.S. Embassy Bombings)事件をきっかけに海軍へ志願します。30歳という年齢ながら厳しい訓練を突破して特殊部隊シールズ(U.S. Navy SEALs) に配属され、私生活でも恋人タヤ(Taya) と共に幸せな生活を送るカイルです。

Chris Kyle

間もなくアメリカ同時多発テロ事件を契機に戦争が始まり、カイルもタヤとの結婚式の場で戦地への派遣命令を貰います。イラク戦争(Iraq War) で狙撃兵として類まれな才能を開花させたカイルは、多くの戦果から軍内で「伝説的人物(Legend)」と称賛されると共に、敵からは「悪魔」と呼ばれ懸賞金をかけられていました。

テロ組織アルカイダ(al-Qaeda)を率いるザルカーウィー(Abu Musab al-Zarqawi) を捜索する作戦へと参加したカイルは1,000m級の狙撃を得意とする元オリンピック射撃選手の敵スナイパー「ムスタファ」(Mustafa) と遭遇し、以後何度も死闘を繰り広げるのです。繰り返される凄惨な戦いのなかで親友のビグルス(Ryan Biggles)は戦傷により視力を失い、戦争に疑問を感じ始めたマーク・リー(Marc Lee) は戦死し、強い兄にあこがれて海兵隊に入隊した弟はイラク派兵で心に深い傷を負って除隊します。

同僚や弟が戦場で傷付き、倒れゆく様を目の当たりにし、徐々にカイルの心は心的外傷後ストレス障害(PTSD) に蝕ばまれていきます。戦地から帰国するたびに変わっていく夫の姿に妻のタヤは苦しみます。人間らしさを取り戻してほしいと嘆願するタヤの願いもむなしく、戦地から帰国するたびにカイルと家族との溝は広がっていきます。

4度目の派遣でイラクに戻ったカイルたちは敵の制圧地帯に展開し、防護壁の工兵を射殺したムスタファの姿をついに捉えます。1,920mの距離からビグルスへの思いを込めて放った1発の銃弾はムスタファを貫ぬき、敵陣の包囲網を辛くも突破します。除隊して帰国したカイルですが、数々の戦果を挙げながらも心に傷を負っています。戦地の記憶に苛まれて一般社会に馴染めない日々を送ります。やがて医師の勧めで始めた傷痍軍人(wounded veterans)たちとの交流を続けて少しずつ人間の心を取り戻していくのですが、、、、

懐かしのキネマ その72 【ダイ・ハード】

Last Updated on 2024年12月31日 by 成田滋

英語の題名は【Die Hard】。「最も不運な場所に居合わせる、最も不運で簡単には死なない男」が、ニューヨーク市警(New York City Police Department)のジョン・マクレーン刑事(John McClane)です。「世界一ついてない男」と揶揄されていますが、マクレーンは気にしません。マクレーンは、クリスマスイブに別居中の妻ホリー(Holly) に会うためロサンゼルス (Los Angeles) にやって来ます。そしてホリーが勤めている日系企業のナカトミ商事(Nakatomi Corporation)で、彼女と再会しますが、2人は口論を交わしてしまいます。

その日に企画されたクリスマス・パーティに2人は、手配したリムジンの陽気な運転手アーガイル(Argyle)の運転で、会場のナカトミ・プラザビルに向かいます。突如、ドイツ人のハンス・グルーバー(Hans Gruber)とその部下たちが、重武装で乱入してきます。パーティーの出席者全員が彼らの人質になります。マクレーンは脱出し難を逃れます。

John McClane

強盗らの目的は、厳重なセキュリティーにより保管されている6億4千万ドルの「無記名債券」(bearer bonds)でした。マクレーンはグルーバーらが占拠するフロアから脱出し、火災報知機を作動させますが、グルーバー一味が報知器の誤作動だと通報したことによって、いったん出動した消防隊は引き返してしまいます。次にマクレーンは一味の一人から奪った無線でロサンゼルス市警察に通報します。しかし、ロス市警はマクレーンが有線ではなくわざわざ無線を使って通報してきたこと、報知機の誤作動を起こしたナカトミ・プラザだったことから、イタズラだと疑って取りあいません。

しかし、その最中に銃撃戦が始まったことで、直近のパトロール警官に見回りを指令します。そこでマクレーンは、確認のためにナカトミ・プラザを訪れたアル・パウエル(Al Powell)巡査部長のパトカーへ、倒した一味の死体を落として異常事態を知らせるのです。一味からの銃撃も受けたパウエルは市警本部に応援を要請します。

マクレーンは、こうして手強いテロリストにたった1人で立ち向かうのです。ジョークを用いて敵を倒していく姿は、無鉄砲な一面もあります。偽造された身分証明書を見抜いたり、煙草の銘柄から出身国を推測するなどと、刑事としての洞察力が優れています。屋上やコンピュータ室での銃撃戦でゲリラ戦を展開したり、即席爆弾を作り戦術面や工作面でも高い技術を持つ刑事として描かれます。ただのアクション映画ではありません。

懐かしのキネマ その71 【パイレーツ・オブ・カリビアン】

Last Updated on 2024年12月31日 by 成田滋

【Pirates of the Caribbean】は、「ジュラシック・パーク」とか「インディ・ジョーンズ」と同様に、ストーリーが奇想天外で文句なく楽しめる娯楽映画です。海賊の伝説や民話に基づいて製作されたこうした映画は、私たちには必要な栄養剤というか睡眠剤のようなものです。あれこれ難しいことを考えず楽しんで観ましょう。

物語はジャック・スパロウ(Jack Sparrow)を中心に展開します。ジャックは、七つの海の伝説の海賊であり、カリブ海 (Caribbean Sea) の不敵なスターです。道徳観とか正義感があるのかわからないキャプテンで、自己宣伝と利己主義の達人でもあるジャックはこうした性格のために何度も勝ち目のない戦いを強いられます。ジャックの初恋の相手は海であり、2番目は最愛の船<ブラックパール号(Blak Pearl) でした。

ジャックはハリケーンの最中の海賊船で誕生したという設定です。10代の頃から冒険を求めて密航したりして、やがて「キャプテン・ジャック・スパロウ」として知られるようになります。ジャックは伝説のコルテス(Cortes) の剣を探し求める冒険で寄せ集めの乗組員を率いて航海に出ます。若き海賊だった頃に悪名高いスペインの海賊ハンター、アルマンド・サラザール(Armando Salazar)を魔の三角海域に閉じ込めます。サラザールはスペイン海軍の高位の軍人として海賊狩り用の強力な戦艦サイレント・メアリー号(Silent Mary)のカピタン(Captain) を務めていました。彼は何年にも渡って海を恐怖に陥れ数千の海賊を殺害したのですが、ジャックがこの海賊殺しを陥れて謎めいた魔の三角海域で死に追いやるのです。サラザールを阻止できたのは、伝説の秘宝<ポセイドンの槍(Poseidon’s Trident)でした。

他方、幽霊船に捕らわれた父ウィル(Will)を救うために息子のヘンリー(Henry)が探していたのもポセイドンの槍でした。そして、その在処を示す日記を持つのが美しき天文学者のカリーナ(Karina)です。宿敵のバルボッサ(Barbossa)を交え、それぞれの思惑が絡み合う中、危険な冒険の旅が始まります。果たしてジャックの運命は如何?

懐かしのキネマ インターミッション 映画と英語との出会い

Last Updated on 2021年7月9日 by 成田滋

その2 「The Sound of Music」

父は国鉄に勤めていました。そのため転勤は2年毎にあります。名寄の次は、最北端の稚内への移動です。稚内に米軍のレーダー基地があってそこに米兵が駐屯していました。英語の先生に連れられて始めて基地に入りました。そこでやったのはバラックのペンキ塗りのアルバイトです。それが終わると、飲み物が振る舞われました。得体のしれない黒い色のおかしな味をした液体です。今思えば、コカコーラでした。米兵は中学校の体育館やグランドでバスケットや野球の練習をしていました。なんと背の高い人種なんだろう、と思いました。稚内ではもう一つの出来事があります。始めて「洋画」を観たのです。【戦場に架ける橋】というのです。それからは親に隠れての「洋画浸り」の「不良」となりました。

The Trapp Family

時代は経て1964年の頃の札幌です。洋画好きな私に忘れられない思い出があります。【The Sound of Music】を名寄中学校で一緒だった女性と札幌劇場で観たときです。なるべく字幕を見ず、台詞に神経を集中させました。その頃、駅前通りには路面電車が走っていていました。苗穂方面に向かう電車の停留所前にパーラーIshidayaがありました。映画の興奮を冷ますためにIshidayaに入り、しばらくしてから彼女を駅まで見送りました。

懐かしのキネマ インターミッション-映画と英語

Last Updated on 2024年12月31日 by 成田滋

その1 「Jack and Betty」               

巣ごもりの中、27インチのMacでいろいろな映画をみる機会がありました。そして映画鑑賞の遍歴を振り返っています。今もロマンス、喜劇、西部劇、ミステリー、SF、ミュージカル、冒険、歴史など節操がないほどいろいろなジャンルのものを楽しんでいます。

戦争が終わったとき、私は美幌のど田舎におりました。樺太から引き揚げてきたとき、親戚がそこにいたからです。やがて始めて見るトラックに乗った米兵がやってきました。美幌には旧陸軍の航空隊がいました。その飛行場に進駐してきたのです。トラックからはチューインガムが投げられ、それを競って拾ったものです。

「レーション」と呼ばれる携行食を父が貰ってきました。勤務する美幌駅には進駐軍の将校用の車両が停まっていました。そこから手に入れたようです。レーションにはカンパン、コーヒー、タバコが入っていました。すべて缶詰です。パイナップルの甘さには驚きました。なにせ砂糖がまだない頃です。美幌といえば、NHKで英語会話講座を22年間も担当した松本亨氏の生まれ故郷です。

やがて父の転勤で美幌から名寄に移りました。名寄中学校では始めて英語を習いました。今の子どものように幼稚園から勉強するなんて考えられない頃です。幸い私は良い先生に出会いました。この先生の名前は藤田??。髭と眉が濃く声はバリトンでした。藤田先生の発音は、まるで真っ白の紙に滴が垂れるように、私の耳には実に新鮮でズンズンと伝わってきました。

使った教科書は「Jack and Betty」。なんともクラッシックなタイトルではありませんか。表紙にはジャックとベティがさっそうと歩いています。私の英語の勉強法は、文章をそらで覚えることでした。なぜかスラスラと頭に入るのです。昔の英語の指導というのは、教科書を教師が読みそのあとに子どもが復唱するというものです。復唱をなんどもなんどもやると、文章が脳にすり込まれるのです。その頃本屋で手にした「洋書」を見ながら、鼻をクンクンさせて、異国の香りにも浸りました。

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懐かしのキネマ その70 【ドクトル・ジバゴ】

Last Updated on 2021年7月7日 by 成田滋

『ドクトル・ジバゴ』(Doctor Zhivago)は、1917年のロシア革命(Russian Revolution)の前後における人間ドラマです。1965年にアメリカとイタリアで製作されます。監督は「戦場に架ける橋」や「アラビアのロレンス」のメガホンをとったデヴィッド・リーン(David Lean)。出演はオマー・シャリフ(Omar Sharif)とジュリー・クリスティ (Julie Christie)です。 原作はロシアの作家、ボリス・パステルナーク (Boris Pasternak)による大河小説『ドクトル・ジバゴ』です。

19世紀末の帝政ロシア。ユーリー・ジバゴ (Yuri Zhiivago)は、医学の勉強を続けるかたわら、詩人としても知られるようになります。幼い頃両親を失い、科学者グロメーコ (Gromeko)にひきとられた彼は、その家の娘トーニャ (Tanya Komarova)を愛していました。2人の婚約発表のパーティーの日、近所の仕立屋の娘ラーラ(Lala)は、弁護士コマロフスキー (Victor Komarovsky) の誘惑から逃れるため、彼に発砲するという事件を起こします。彼女は帝政打倒の革命に情熱をもやす学生パーシャ (Pasha) を愛していました。

Lala and Yuri

1914年、ロシアは第1次大戦に突入し、ジバゴは医師として従軍します。野戦病院で看護婦として働らくラーラに再会した彼は、彼女がすでにパーシャと結婚したのを知り、自分もまた家庭を持っていたのですが、ラーラへの愛を捨てることができなくなります。それにパーシャは戦死したとの報告も入っていました。その頃ロシアは内戦が激しくなり、ジバゴはモスクワの家族のもとへ帰ります。革命軍の手に落ちたモスクワ(Moscow)は、飢えと物資の不足にあえいでいました。

Lala

ジバゴが、革命軍のリーダーで義兄のエフグラフ (Yevgraf)に初めて会います。義兄の勧めもあって、田舎で休養することにした彼は、旅の途中で白軍のスパイと間違えられ、赤軍の将校に尋問されます。この将校は、戦死と報じられていたパーシャでした。パーシャはすっかり変わり、革命へ邁進する男になっていました。ジバゴは、ラーラとの愛も再燃し幸せの日を田舎ですごしていました。ある日突然、彼はパルチザンの一隊にとらえられます。妻に2人目の子供が生まれると知り、ラーラと別れる決心をした直後のことでした。しかし彼は脱走し、ラーラのもとに帰りますが、2人の関係を知った妻が、子どもをつれて、パリに亡命したと告げられます。今や亡命者の夫となったジバゴと、すでに追放の身となっていたパーシャの妻ラーラの前に、コマロフスキーが現れます。彼は2人に危険がせまっていると再三話し、ついに身重のラーラをつれて極東に去ります。8年後、ジバゴはモスクワの市街電車の中でラーラを見かけ必死に追うのですが、長らく患っていた心臓発作で倒れます。

何年かが過ぎます。ジバゴの義兄エフグラフはダムの建築現場で働く若い娘に出会います。彼女は、ジバゴとラーラの間にできた私生児です。彼は両親のことを若い娘に話してきかせ、ジバゴの詩集を贈りこう言いいます。「彼の仕事は党には容れられなかったが、詩を愛する人は彼を忘れない。彼ほど詩を愛した者はいなかった」と。

懐かしのキネマ その69 【戦場に架ける橋】

Last Updated on 2021年7月6日 by 成田滋

この映画は、日本最北端稚内市の映画館で父親と一緒に観た記念すべき?洋画です。その後何回も観ましたが、そのたびに、稚内のことを思い出します。原題は(The Bridge on The River Kwai)といいます。タイ王国のクワイ川 (KWAI)に架かるクワイ川鉄橋を指します。第二次世界大戦の真っ直中である1943年のタイ(Thailand)とビルマ(Burma)の国境付近にある捕虜収容所が舞台です。監督はデヴィッド・リーン(David Lean)、出演はウィリアム・ホールデン (William Holden) 、アレック・ギネス (Alec Guinness) 、そして早川雪洲です。劇中で演奏される『クワイ河マーチ』(Colonel Bogey March) も世界各国で幅広く演奏され、数ある映画音楽の中でも最も親しまれている作品の1つとなっています。

Colonel Nicholson

第二次世界大戦下、当初日本の同盟国であったタイ王国と日本軍の占領下におかれたイギリスの植民地のビルマの国境付近に、日本軍管轄の「第十六捕虜収容所」がありました。所長は斉藤大佐です。この収容所では、日本軍と対峙する連合国軍のアメリカ海軍の中佐であるシアーズ(Commander, Major Shears)を始め、捕虜となったアメリカ軍兵士が連日過酷な労役に従事していました。シアーズは、日本軍兵士に買収を試みるなど幾度となく脱出を図りますが、ことごとく失敗します。ある日ニコルソン大佐(Colonel Nicholson) が率いるイギリス軍捕虜一隊が収容所に移送されてきます。

斉藤大佐はジュネーブ条約(Geneva Convention)を無視して、イギリス軍捕虜にクワイ川の橋の建設を命じます。それに断固として反対するのがニコルソン大佐です。橋を設計するのは日本軍の技師です。ところが、川の地面が柔らかく、建設途中で倒れる始末です。斉藤大佐は自尊心を捨てて、なんとかニコルソン大佐を懐柔してイギリス軍に橋の建設をまかせるのです。収容所から脱出したシアーズ中佐が、橋梁建設を報告すると、これを阻止しよとするイギリスとアメリカは、クワイ川にウォーデン中佐(Major Warden)を隊長とする決死隊を派遣します。シアーズも同行します。

斉藤大佐とニコルソン大佐

イギリス軍捕虜が見事に建設した鉄橋の開通式の日、日本軍と決死隊が遭遇し、銃撃戦となります。かつて収容所で共に時間を過ごしたシアーズが日本兵の銃弾を浴びながら、川を渡って爆破装置に向かおうとします。そこに爆破装置を見つけたニコルソンとシアーズは対峙します。ニコルソンは「自分たちは何のために橋を建設したのだ…」と愕然とします。さらに決死隊長ウォーデン(Major Warden) の迫撃砲での射撃を喰らったニコルソンは意識がもうろうとなり、点火箱のスイッチの上に倒れここみます。丁度その時、列車が橋を通過しようとします。

イギリス軍捕虜たちの勲章とも言える橋は粉々に爆破され、橋の上の日本兵や列車の乗客が犠牲になります。シアーズやニコルソンもその犠牲となります。ウォーデンは、そばにいた現地人の女性たちに、「仲間を捕虜にしないためにはこれしか手段がなかった」と言い訳するのです。丘の上から開通式を眺めていたクリプトン少佐(Major Clipton) は、爆破後の悲惨な光景を目の当たりにして「馬鹿げている。信じられない!」と天を仰ぐのです。

懐かしのキネマ その68 【アラビアのロレンス】

Last Updated on 2021年7月5日 by 成田滋

「アラビアのロレンス」(Lawrence of Arabia)は、1962年に公開された上映時間3時間36分のイギリス・アメリカ合作映画です。アラブ独立闘争を描いた歴史、戦争映画で、民族独立に尽力した実在のイギリス陸軍少尉ロレンス (Lieutenant Thomas.E. Lawrence)の波乱に満ちた半生を描いています。監督はデヴィッド・リーン(David Lean)。主演はピーター・オトゥール(Peter O’Toole)、オマル・シャリーフ(Omar Sharif)、アンソニー・クイン(Anthony Quinn)、アレック・ギネス(Alec Guinness)らの名優です。

Sherif Ali & T. Lawrence

この映画の舞台は1914年前後のエジプト(Egypt)やアラビア半島(Arabia) です。第一次世界大戦が勃発し、アラビアはドイツと結んだオスマン帝国 (Ottoman Empire) の圧政下にありました。イギリスは、ドイツ連合軍の勢力を分散させるため、戦略家ロレンス少尉をアラビアに派遣します。イギリス陸軍カイロ司令部に勤務するロレンスは、トルコからの独立を目指す反乱軍の指導者ファイサル王子 (Prince Faisal )に会うため旅に出るのです。やがてファイサル王子の軍事顧問となったロレンスは、反乱軍の無力さを目の当たりにします。そこでロレンスは、ベドウィン(Badawin)のハリス族 (Harith) のリーダー、アリ(Sherif Ali)や黄金を探し求めるアウダ(Auda) らとともに、独自のゲリラ戦法を駆使して反乱軍を指揮し、アラビア民族をまとめあげて、見事トルコ軍を打ち破ることに成功します。トルコ軍が防衛していた戦略上の重要港湾都市アカバ(Aqaba)を攻め落とすのです。

Thomas Lawrence

ロレンスは反乱軍のリーダー、アリなどから人々の上に立つような優れた者と崇められ「エル・オレンス」(El Aurens) と呼ばれるようになります。その後も次々と勝利を収めていくのです。そして、アラブ国民から「砂漠の英雄」とうたわれるようになるのです。しかし、アラブをフランスとともに分割する方針を決めていたイギリス陸軍は、大アラブ王国を支持しその独立に奔走するロレンスは政治的に邪魔な存在となっていきます。こうして、ロレンスはアラブ人同士の争いや国同士の政治的駆け引きに翻弄されるようになっていきます。自分が軍上層部に利用されていることを知るのです。ファイサル王も「もうここには勇士は必要でなくなりました。ただ、あなたに対する私の感謝の気持ちは計り知れない」といってアラブの分割を承認するのです。こうしてアラブ民族も部族間の対立から大アラブ王国を樹立することに失敗します。

アカバ攻撃

ロレンスはイギリス陸軍の英雄として大佐に昇進させられながらも、アラブに共感する者として大きな失意を胸に抱きながらアラビアから追放されるのです。列強の植民地支配によって、今も中東情勢は不安のままです。ロレンスの理想主義をこの映画から教えられます。

懐かしのキネマ その67 【英国王のスピーチ】

Last Updated on 2024年12月31日 by 成田滋

映画フアンには見逃せない味わい深い作品です。このイギリス映画は国民と王室をめぐる話題を率直に、真摯に取り上げています。日本で国民と皇室のことを映画でオープンに取り上げようとすれば、潰されるに違いありません。ここがイギリスと日本の王室やメディアの違いです。

現エリザベス女王(Queen Elizabeth II)の父である『ジョージ6世』(King George VI) は、子どもの頃から吃音に悩んでいたといいます。国王は、全国民の前でスピーチをしなければなりません。想像を絶するストレスとプレッシャーを受けます。吃音の矯正は難しいことです。この映画【The King’s Speech】は、王の吃音の治療にあたった言語聴覚士との友情物語です。

1925年、大英帝国博覧会 (British Empire Exhibition) の閉会式で、やがて国王となるヨーク公アルバート王子 (Prince Albert, Duke of York) はエリザベス妃(Queen Elizabeth)に見守られ、父王ジョージ5世(King George V)の代理として演説を行います。しかし、吃音のために悲惨なスピーチに終わり、イギリス国民はがっかりするのです。

King George VI

エリザベス妃はアルバート王子を説得して、言語聴覚士(Speech therapist) であるオーストラリア出身のライオネル・ローグ(Lionel Logue) のロンドンのオフィスをともに訪れます。ローグは、医学の勉強をしてはきませんでしたが、独自の手法で第一次世界大戦の戦闘神経症に苦しむ元兵士たちを治療してきた経験の持ち主です。ローグは、王室に対する礼儀作法に反してアルバートを愛称の「バーティ」(Bertie) で呼びつけ、自身のことは「ローグ先生」ではなく「ライオネル」と呼ばせるのです。

ジョージ5世の死去によりエドワード8世(Edward VIII)は独身のまま国王に即位します。しかし、新王が結婚を望んでいた女性は、ウォリス・シンプソン夫人(Wallis Simpson)というアメリカ人で、離婚歴があるだけでなく2番目の夫となお婚姻関係にありました。エドワード8世は英国国教会や王室からの結婚への反対を受け、在位日数はわずか325日で退位します。これが後に「王冠よりも愛を選んだ」、「王冠を賭けた恋」と言われます。そして弟で吃音のアルバート王子が『ジョージ6世』として即位することになります。

ジョージ6世は国王の重責に、自分は今まで海軍士官しか務めたことがないとエリザベス妃に不安を吐露します。一方ヨーロッパ大陸では、アドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler)率いるナチ党政権下のドイツが台頭し、一触即発の機運となっており、大英帝国は国民の統一を促す国王を必要としていました。しかし新国王の吃音症は依然として深刻なままで、王位継承評議会での宣誓は散々なものとなります。ジョージ6世夫妻は再びローグを訪ね治療を再開します。

King George VI on Air

治療では、口の筋肉をリラックスさせる練習や、呼吸の訓練、発音の練習などを繰り返し行います。ジョージ6世はローグに吃音症の原因となった自身の不遇な生い立ちを語ります。さらに右利きでないことを罰せられ矯正されたり、乳母に虐待されたこと、X脚を矯正するためギブスまで着用させられたこと、吃音を揶揄されたことなどを打ち明けます。やがてジョージ6世とローグの間に友情が芽生えていくのです。

ナチスとの交渉にあたった首相ネヴィル・チェンバレン(Neville Chamberlain)の宥和政策は失敗し、1939年9月1日のドイツのポーランド(Poland) 侵攻を受けて、9月3日に英国はドイツに宣戦布告、第二次世界大戦が始まります。同日、ジョージ6世は大英帝国全土に向けて国民を鼓舞する演説を緊急ラジオ放送で行うことになります。緊迫した状況の中ジョージ6世は、ローグと二人きりの放送室で完璧な演説を行うのです。放送室から出てきた国王は、堂々と報道用にの原稿を読む姿を撮影し、エリザベス王妃、そしてエリザベス王女・マーガレット王女とともに宮殿のバルコニーに出て、待ち構えるロンドン市民に手を振りこたえます。その様子をローグは満足げに見守るのです。

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懐かしのキネマ その66 【ハンナ・アーレント】 

Last Updated on 2024年12月31日 by 成田滋

2012年のドイツ(Germany)・ルクセンブルク(Luxemburg)・フランス(France)合作の伝記ドラマ映画【ハンナ・アーレント】 (Hannah Arendt) を紹介します。ドイツ系ユダヤ人の哲学者であり政治理論家であったハンナ・アーレントの思想や伝記を描いた作品です。私はユダヤの歴史に興味がありましたので、この映画を神田の岩波ホールで観ました。以下、映画の要旨です。

ハンナ・アーレントはかつてドイツに生まれ育ちます。ナチスが政権を獲得しユダヤ人迫害が起こる中、フランスに亡命しシオニズム (Zionism)の政治思想家ブルーメンフェルト(Kurt Blumenfeld) に導かれ、反ユダヤ主義の資料収集やドイツから他国へ亡命する人の援助活動に従事します。親独のヴィシー政権(Régime de Vichy)によって抑留されますが、間一髪で脱走し米国に亡命します。その後、ニューヨーク大学(New York University) 教授として、夫ハインリッヒ(Heinrich)や友人で作家のメアリー・マッカーシー(Mary McCathy)らと穏やかな日を送っていました。

1960年5月に、ブエノスアイレス(Buenos Aires)で亡命生活をしていたナチス(Nazis) の元高官アイヒマン(Adolf Eichmann)がイスラエル(Israel) の諜報特務庁、モサド(Mossad)によって誘拐され、エルサレム(Jerusalem)で裁判を受けることとなります、ハンナはニューヨーカー誌(The New Yorker)の特派員として、裁判を傍聴することになります。

ユダヤ人として、ナチスの被害者の1人として傍聴した裁判でしたが、アーレントは被告アイヒマンが大量殺人を指揮したとは思えぬ凡庸さに当惑するのです。他方で裁判での証言から、当時のユダヤ人社会の指導者たちが、消極的にではあったのですが、ナチの政策に協力していたことまで明らかになってゆきます。イスラエルから帰国したアーレントは、『イエルサレムのアイヒマン–悪の陳腐さについての報告』(Eichmann in Jerusalem: A Report on the Banality of Evil)を発表します。膨大な裁判資料と向き合いながら、鬼畜のようなナチ高官と思われていたアイヒマンは、自らの役職を忠実に果たしたに過ぎない小役人であると断定します。同時に、ユダヤ人社会でも抵抗をあきらめたことでホロコースト(Holocaust)の被害を拡大したこと、アイヒマンの行為は非難されるべきだが、そもそもアイヒマンを裁く刑法的な根拠は存在しないこと等をニューヨーカーの記事として掲載するのです。この報告は、大論争を巻き起こしアーレントへの批判が向けられます。

アーレントの記事はユダヤ人社会の感情的な反発を招き、彼女の著作を知らぬ者も「ナチスを擁護するものだ」と激烈な批判を浴びせます。アーレントは大学から辞職勧告まで受けるのです。誤解を解き、自説を明らかにするため、ハンナは特別講義を行います。「アイヒマンは、ただ命令に従っただけだと弁明した。彼は、考えることをせず、ただ忠実に命令を実行した。そこには動機も善悪もない。思考をやめたとき、人間はいとも簡単に残虐な行為を行う。思考をやめたものは人間であることを拒絶したものだ。私が望むのは考えることで人間が強くなることだ。」講義は学生たちの熱狂的な支持を得るのですが、他方で、古い友人のハンス・ヨナス(Hans Jonas) は彼女に背を向け、教室を後にするのです。

アーレントは記事の中で、イスラエルは裁判権を持っているのか、アルゼンチンの国家主権を無視してアイヒマンを連行したのは正しかったのか、裁判そのものに正当性はあったのかなどの疑問を投げかけます。その上で、アイヒマンを極悪人として描くのではなく、ごく普通の小心者でとるに足らない軍人に過ぎなかったと描きます。

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懐かしのキネマ その65 【ホーム・アローン】 

Last Updated on 2021年7月1日 by 成田滋

『ホーム・アローン』(Home Alone)は1990年公開で、ひょんなことから家族旅行で置いてきぼりとなった8歳の少年が、2人組の泥棒を撃退するコメディ作品です。

シカゴに住む裕福な家庭で、子沢山の大家族でもあるマカリスター家(McCallister family) は、クリスマス休暇を利用して家族総出のパリ旅行を計画します。旅行出発の朝、停電によってセットしていた目覚まし時計がリセットされてしまい、全員が寝坊してしまいます。家族は慌てて空港へと向かうのですが、屋根裏部屋で寝ていた少年ケビン・マカリスター(Kevin)が1人家に取り残されてしまいます。ケビン頭の回転が早く悪戯好きなので、周りからはトラブルメーカー扱いされています。

Home Alone

ケビンはうるさい家族がいなくなった事を喜び、1人暮らしを満喫します。しかし、段々と寂しくなっていきます。その頃、泥棒コンビ、ハリーとマーヴ(Harry and Marv) はクリスマス休暇で誰もいなくなった家を狙っていました。二人は、事前の情報収集によってマカリスター家にも目をつけていたのです。道中でケビンがいないことに気づいた家族は、家に戻ろうとするも、クリスマス期間中でほとんどの飛行機は満席状態だったので、大人数の移動は困難でした。そこで母ケイト(Kate)は一人別行動を取り、シカゴへ向かう楽団のワゴンに便乗して帰宅を試みます。

泥棒に家が狙われていることを知ったケビンは、家に大人がいるように見せかけ、家を守ろうとします。当初はうまくいき、泥棒コンビに一泡吹かせます。泥棒コンビは騙された報復も兼ねて計画通りマカリスター家に盗みに入ろうとします。また、実はマカリスター家の隣家には怖い雰囲気を漂わせている老人マーリー (Marley)が住んでいたのですが、ケビンは彼に助けを求めようとしません。そして家族がいなくなった原因が自分だと考えケビンは後悔します。

Harry and Marv

クリスマス当日。ケビンは家を泥棒から守るべく、日用品などで家中に様々な仕掛けを作り、泥棒たちを迎え撃つ準備を整える。そして教会へ赴くと自分が悪かったと認め、家族を帰して欲しいと願う。また、そこでマーリーと出くわし、最初は怯えるものの、会話を交わしていくうちに彼への誤解を解く。

その後、ケビンは家に侵入してきた泥棒たちに仕掛けた罠で酷い目に合わせます。子ども相手だと泥棒2人は油断し、狡猾なケビンの罠で泥棒たちを苦しめられます。家を脱出したケビンですが、泥棒たちに捕まってしまいます。その時、隣人のマーリーが現れ、泥棒たちを殴りつけて気絶させケビンを助け出します。翌朝、母親や家族も帰宅しケビンと再会を喜ぶのです。