旅のエピソード その42 「空が広い」

旅の楽しみ一つは景色と空気です。特に田舎へ行くと景色とともにその薫りも漂ってきます。今回はイタリア中部の話題です。周りをぐるりと見渡すと日本の景色と違うことに気がつきます。空が違うのです。どこへ行っても空は同じはずです。しかしどこか広いのです。

車で田舎道を走るとなだらかな丘陵にぶどう畑とオリーブ畑が見渡せます。その間に背の高い松が並んで植えられています。「これがローマの松(Pini di Roma)か」とブツブツつぶやきながら、「さて”ローマの松”の作曲家は誰だったっけ、、」 それを考えるのですがなかなか思い浮かびません。1時間くらいでようやく思い出します。レスピーギ(Ottorino Respighi) です。

イタリア中部のオルヴィエート (Orvieto) やサン・ジミニャーノ( San Gimignano) は城塞に囲まれた街です。教会の尖塔に混じって四角な塔のような建物が林立しています。大勢の観光客とともに大きな門をくぐると、「中世ってこんなところだったのか」という思いがこみあげてきます。狭い道と石畳、石造りの建物がぎっしり並んでいます。ところどころの窓際に洗濯ロープが向かいの建物の窓にむすばれ、洗濯物がぶら下がっています。花のポットもつり下げられています。時間がゆったりと流れるような風情です。

中世では明かりをオリーブ油でとっていたことがわかります。今も街には電柱は一本もないのです。この街には電気はきているのか、そんなことを考えながら小高い丘のてっぺんから緑のしたたる景色をぼんやりと眺めます。不思議ですが、どこを見渡しても高圧線や電信柱はないのです。空が広く感じたのはそのせいです。昔から下水道が発達していたので、電線は地下を走っているのです。