私が知っている英語の略語 その二 自分でやること

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Last Updated on 2025年4月24日 by 成田滋

今は、自分でいろいろな作業をする時代です。業者に頼むと高額の請求書がきます。できるだけ自分でやることが流行しています.ホームセンターが各地にあるので、適度のスキルがあれば大抵のことは自分でやれる時代です。

DIY : Do It Yourself

 自分自身でやる、修理する、改造するという意味です。「日曜大工」ともいわれます。素人が、何かを自分で作ったり修繕したりすることです。略語の由来は、Wikipediaによると第二次大戦後、爆撃で廃墟になったロンドンで元軍人たちが「何でも自分でやろう」を合い言葉に、街の再建に取り組んだのが始まりとされます。

DIYに必要な工具

 大戦中に戦災を受けなかったアメリカにおいて、DIYは「復興」から「週末レジャー余暇の一つ」として楽しむという概念へと変化します。さらに健康的に週末を過ごす趣味へと進化を遂げます。その結果、アメリカでは、DIYを行う上で必要になる資材や工具を専門に取り扱う小売業態ホームセンターが各地に造られます。

 適当な道具とスキルがあれば、身の回りのことは自分でできるものです。もともと日曜日などの休日に趣味で簡単な大工仕事をするというニュアンスが強かったようです。DIYはより幅広い範囲で活用されています私の長男は家の修理、例えば断熱材を入れたり、玄関や車庫ドアの取り替えをやっています。世界最大のホームセンターであるホームデポ(Home Depot)から建材を買い、二人の息子達と自分で綺麗に仕上げています。エアコンも自分で取り付けています。プロ並みの出来映えです。

 私もかつて乗っていたアメ車のエンジン・オイルやラジエータ液の交換、スパークプラグの交換などの仕方を教えて貰い、自分でやったものです。DIYの人の特徴は沢山の工具を用意し、それを大切にすることです。先日、拙宅の廊下の盛り上がっていた床をボンドと容器を取り寄せて修理しました。まあまあの仕上がり具合です。

 ものづくりが盛んな新潟県三条市を舞台に、6人の女子高生がDIYを通じて「未来を切り開く最初の一歩を踏み出す」といったストーリのテレビアニメがありました。アニメや音楽の影響もあり、DIYという略語は広まり、すっかり定着した感があります。

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私が知っている英語の略語 その一 戦争と捕虜

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Last Updated on 2025年4月23日 by 成田滋

メディアではいろいろな英語の略語が使われています。本稿ではその略語の歴史や由来、エピソードなどを綴っていきます。

DMZ : Demilitalized Zone

DMZ

 「非武装地帯」とか「軍事境界線」と訳されています。韓国は首都ソウル(Seoul) から北へ車まで一時間くらいのところに南北朝鮮を分ける休戦ラインがあります。1953年7月の朝鮮戦争休戦協定により発効し、軍事境界線の周囲には南北に非武装地帯が設定され今に至っています。境界線は海上にも延伸しています。地域内には軍隊の駐屯や武器の配置、軍事施設の設置をしないことになっていますが、何百万個の地雷が敷設されています。そのため、北朝鮮は韓国攻撃のために4本の地下トンネルを掘りました。しかし、韓国軍によって発見され埋められています。

臨津江

 韓国側には臨津閣(イムジンカク)という公園があり、ここに都羅(トラ)という展望台があります。そこから北朝鮮側の景色をみることができます。臨津江という河には橋が架かり、その名は「Bridge of No Return」(帰らざる河)とよばれています。臨津閣には毎年約650万人の観光客が訪れています。地下トンネルも観光の目玉となっています。私はこれまで韓国には5度訪ねています。2回臨津閣に行き、のどかな臨津江を眺めながら朝鮮の歴史を思い起こしました。

POW: Prisoner of War

The Bridge on The River Kwai

 「捕虜」という意味です。捕虜の定義は戦争や内戦等の武力紛争において、敵の権力下に陥った者を指します。捕虜は戦時国際法で定められていて、現在では、国際法に基づいて軍人や民兵隊員など、特定の条件を満たす者にも当てはめられて保護されます。捕虜の待遇に関する1949年8月のジュネーヴ条約(第4条約)で規定されています。第13条で「捕虜の人道的待遇」が規定され、暴行又は脅迫並びに侮辱が禁止されています。捕虜を使役に使うことは認められています。

 1957年に制作された「戦場に架ける橋」(The Bridge on The River Kwai)では、捕虜となったイギリス人兵士がクワイ川の橋造りにかり出されていました。この映画は、1943年の夏頃ビルマとタイの国境付近にある捕虜収容所が舞台で捕虜のイギリス兵士と日本軍人たちの対立や交流を描いた名画です。収容所長である斉藤大佐は、収容所付近にある泰緬鉄道をバンコクとラングーン間を結ぶために、クワイ川に架かる橋を建設しようとしてイギリス軍捕虜を召集します。第二次世界大戦以前の日本では、「捕虜」を「俘虜」という用語としていました。

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文化的小児病と一政治家の発言

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Last Updated on 2025年4月21日 by 成田滋

最近の政治状況の中では、いろいろなフレーズが飛び交っています。こうしたフレーズは、迷言とか妄言とも呼ばれ、揶揄や笑いを呼んでいることに気がつきます。この有様は政情が不安であることの一つの証です。揶揄の中心にあるのは一国の総理大臣です。国際会議でスマホをいじったり、各国の首相がやってきたとき座ったまま握手をするとか、新人議員に10万円の商品券を配り、それを追求されて「自分を見失っていたところがあった」「世間の感覚と乖離があった」「そういう政治なのかい、という思いを抱かせてしまった」などの発言です。このような国会における答弁は「ひねくれたわんぱく小僧の言い訳」と批判されています。そして、こうした総理大臣の発言や態度は「小児病的」だと揶揄されるのです。

 このような小児病化状態を危惧したのは、オランダの哲学者のヨハン・ホイジンガ(Johan Huizinga)です。彼は著書「ホモ・ルーデンス」(Homo ludens)(遊ぶ人)の中で、こうした小児病化状態を」ピュエリリズム( Puerilisme–小児病)」と呼びます。Puerilismeという言葉は、ラテン語の「puer(少年)」に由来します。これを、日本では「文化的小児病」と訳されています。この単語を使ったのは評論家で東大教授であった西部邁です。著書「虚無の構造」の七章「言葉について-失語の時代」で「言葉の小児病化」についての記述があります。「文化的小児病」は、生理的小児病とは何の関係もなく、あくまで文化的な幼稚症のことを指しています。

Johan Huizinga

 ホイジンガは1933年にライデン大学学長就任演説をします。その演説は「文化における遊びと真面目の限界について」というものです。「ホモ・ルーデンス」でのルーデンス(Homo ludens)という概念はラテン語の「遊び」概念です。「ホモ・サピエンス」(Homo sapience)」「知恵のある」という概念を結び付けられています。この著作の第五章は遊びと戦争、敵に対する礼節、儀式と戦術、第七章は遊びと知識、競技と知識、そして第十章の芸術のもつ遊びの形式という箇所に注目していきます。

 ホイジンガは、社会に蔓延する小児病的な特徴を指摘しています。その小児病性を総理大臣の発言に照らして考察してみます。一国のトップである者の発言がいかに稚拙であるかがわかってきそうです。

 1 ユーモアの感覚の欠如:
  「お土産代合計の150万円はポケットマネーからの支出」「総理の仕事は天命である」「政治家は信念を持ち、嘘をつかないことが大切です」
 2 反感を秘めた言葉、ときには愛情を込めた言葉に対しても、誇張的な反応の仕方をすること:
  「そういう政治なのかい、という思いを抱かせてしまった」 
 3 物事にたちまち同意してしまうこと:
  「世間の感覚と乖離があった」「政治家は、信念を持ち、嘘をつかないことが大切です」
 4 他人に悪意ある意図や動機があったのだろうと邪推して、それを押しつけてしまうこと:
  「デモはテロ行為と本質的に変わらない」「集団的自衛権は、戦争をしかけられる確率を低くするための知恵」
 5 他人の思想に寛容でないこと:
  「総理の仕事は天命である」「絶叫デモはテロ行為と変わらない」
 6 褒めたり、非難するとき、途方もなく誇大化すること:
  「懇親会も先の総選挙の慰労を兼ねたプライベートなもの」「嘘を言ってまで当選するくらいなら、落ちたほうがいい」 
 7 自己愛や集団意識に媚びる幻想に取り憑かれやすいこと;
  「自分を見失っていたところがあった」「ゆっくり物事を考えたり、自分の自由になる時間が少し欲しい」

 本来ならば、文化的小児病はヨーロッパやアメリカ、日本など成熟した国々において取り上げられてはじめて、なるほどと理解されます。揶揄とやユーモアは、成人した国民の間で通用するからです。文化的小児病は、二つの側面があります。一つは、まじめで重要な言動と目されながら、それが全く空疎な遊びとしての性格を帯びている場合です。もう一つは、確かに遊びと目されてはいるのですが、その言動の態様からして、真の遊びとしての性格を失っている場合です。

 ホイジンガは、こうした小児病的特徴の多くは過去の各時代の中にもおびただしく見出されるとし、ある種普遍的だといいます。さらにこの症状は今日のあらゆる場に広まり、それが膨れあがって大きなうねりと化したり、エンタテインメント化し、残酷さと結びついたりしている、と警告するのです。「遊び」の文化的小児病の特徴はマスメディアによって担われているとし、政治、娯楽、スポーツ、そして家庭が、叩いたり追いかけたりして体を張った演技ーースラップスティック・ショウ(slapstick show)(ドタバタ芸)となっているというのです。

 1918年にホイジンガはアメリカ紀行を綴った「America: A Dutch Historian’s Vision from Far and Near」という本を書いています。ホイジンガはこの旅行体験をふまえて、アメリカにはピュエリリズムの特徴に関する「文明、哲学、人間関係、公の言論、社会的価値など、ありとあらゆる種類の検討材料」が揃っていると観察します。「ヨーロッパでは子どもっぽいといわれることが、アメリカではナイーヴ〔素朴〕なことである場合がたくさんあると観察し、真のナイーヴさはピュエリリズムの非難を免れるというのです。まだまだ、アメリカには「遊び」の真面目さ、厳粛さ、神聖さを伴ったフェアなものが見られると主張します。遊びには秩序(ルール)を守る心の余裕が必要であるが、アメリカにその余裕が見られるというのです。この見方には異論もあろうかと思われます。

 ホイジンガの提案する「遊び」の形式的な特徴は次のようなものです。
 1 自由な行為: 強制されたり命令された遊びは遊びではない。自発的な行為でなければならない
 2 仮構の世界: 日常生活の枠外にある。仕事や学業に結びつけてはいけない。
 3 場所的、時間的な限定性をもつ: 定められた時間と場所の範囲内で行われ終わる。一過的な行為とする。
 4 秩序を創造する: 規則(ルール)を厳守する。規則が犯されると遊びは成り立たない。
 5 秘密をもつ: 小さな秘密を作ることで魅力を高める。私的な行為であり、誰にも干渉されたり助言されることはない。

  ホイジンガの提案する「遊び」の機能面からの特徴は次のようなものです。
 1 なにかを求めての戦い: スポーツ、チェスなどの競争でスリルや目眩を楽しむ。
 2 なにかを表す演技: ごっこ遊び、音楽や演劇などで自由な創造を楽しむ。

 ついでですが、フランスの文芸批評家で社会学者であるロジェ・カイヨワ(Roger Caillois) は、遊びを「競争」、「偶然」、「模擬」、「眩暈」の4つの要素に分類しています。カイヨワはこれらを「基本範疇」と呼び、遊びの多様性を分析するのです。それぞれの遊びは〔遊戯=原初的なもの〕のレベルから〔競技=組織的・制度的なもの〕へと進化していくと考えます。カイヨワはもちろんながらホイジンガの著作を知っていたことが伺えます。カイヨワは、戦時中は反ナチ文書の執筆者・編集者としてラテン・アメリカ(Latin America)におけるナチズム(Nazism)の浸潤と戦った経歴があります。カイヨワとホイジンガは、反ファシズム(Antifascism)などの左翼的政治活動に関わることで共通しています。

Roger Caillois

 ホイジンガは、二つの機能を有する遊びには「祭祀」という性質があると主張します。祭祀とは宗教的儀式のことであり、そこには「聖的な感覚」や「厳格な規則」が存在し、それが人々を魅了するというのです。この意味は難しいのですが、キリスト教会の礼拝に出席すると荘厳さの中に恍惚のような気分を味わうことがあります。宗教的儀式の中から「厳格な規則」、つまり静粛さ、賛美歌斉唱、聖書朗読といった典礼が消え失せてしまったら、それは宗教的なものではなく、単なるお祭り騒ぎになってしまうだろうとも指摘するのです。

 「真の遊び」について、ここでは「非日常的な時間と空間で厳密なルールの下に行われるあそび」と理解しておくことにします。ホイジンガはナチスが勃興する1930〜40年代のヨーロッパのことを書いているわけですが、ナチスのおおげさな「ガチョウ足行進」のような歩調にみられるような動作は、空しい遊びとしかいいようのないものだ、と断言するのです。彼はナチス批判を行った廉で、オランダに侵攻したナチスドイツによって強制収容所に収監された経験があります。同じ制服に身を包んだ兵隊が一糸乱れぬ行進をする光景は、おもちゃの兵隊を並べて楽しむ幼児的な悦びではないかとも観察するのです。

 子どもが遊んだおもちゃの兵隊や戦車の代わりに本物を前にして、壇上のヒトラー(Adolf Hitler)もムッソリーニ(Benito Mussolini) もほのかな笑みを浮かべて引見する写真があります。独裁者には晴れ晴れしく気持ちが高揚したでしょうが、「ガチョウ足行進は、空しい贋(まがいもの)の遊びとしかいいようがない」とホイジンガはナチズムを断罪するのです。

 スポーツについてのホイジンガの考察です。スポーツは「遊び」です。たかがスポーツなのに勝ち負けで泣いたり怒ったり癇癪を起こす幼児のような反応は、遊びの堕落だというのです。こうした文化的小児病の典型、それは「勝負にこだわりすぎて、精神的なものをすっかり隅に押しこめてしまう」とも主張します。「聖なるもの」や「聖的な感覚」が薄れ、スポーツニュースも歪んだ内容となり、「遊びとまじめの混淆」する姿であるというのです。

Leiden University

 こうした精神状態は「集団組織の画一化作用のみによってもたらされるのではなく、技術の発展それ自体が文化的小児病をつくりだしている」とホイジンガは言います。当時普及しつつあったラジオのことに触れて、彼は次のように指摘します。「ラジオという機器を通じて一つの大陸を自分のものにすることができる。ボタンを押せばそれでよい。生が彼のほうにやってくる。」

 ホイジンガの眼に映った1930年代末のヨーロッパ、それは「一つの高度で豊かな文明が、発生的にみて疑念の余地なく低劣で未組織の他の文明に次第次第に席を譲り渡していく事態であったというのです。「遊びとまじめの混淆」の結果、日本に限らず世界に広がる光景を見ればよく分かるはずです。ラジオはテレビになり、テレビはインターネットへとテクノロジーは発展してきましたが、その技術の発展によって人間は果たして成熟していくだろうかと疑問を投げかけているようです。

 子どもっぽいことと呼んで当然のことなのに、一総理大臣のような高度のまじめさを装う姿は、まるでひねくれたわんぱく小僧の発言としか評価の下しようがありません。こうした政治家の発言や演説は別に珍しくもなく、また今に限ったことでもありません。

 ホイジンガが回避しようとした大衆化の道は今も延長されているようです。たとえば「大衆目当ての宣伝の作りだす流行の行き過ぎた滑稽な繰り返しの道を我々は歩いている」と主張します。遊びが日常生活のなかに侵入し、それにつれ遊びのルールは、曖昧になり、今やスマホのボタンを押しながら、現代人はこの機器やインターネットを玩具として遊んでいるのは、ホイジンガや西部邁がいう「文化的小児病」の姿かもしれません。

参考文献
「ホモ・ルーデンス」 ヨハン・ホイジンガ 講談社学術文庫、2018
「虚無の構造」 西部邁 中央公論新社、2013
「America: A Dutch Historian’s Vision from Far and Near」Johan Huizinga Harper & Row、1972
「遊びと人間」 ロジェ・カイヨワ 岩波書店、1970

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ハーヴァード大学:トランプ政権の要求を拒否

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Last Updated on 2025年4月21日 by 成田滋

トランプ政権の相互関税政策の影響は海外だけではありません。アメリカの大学へも深刻な打撃を与えようとしています。世界で最も優れた大学の一つ、ハーヴァード大学(Harvard University)もその影響を受けています。ハーヴァード大学の学生数は22,000名、そのうち大学院生は15,200名という一大研究中心の大学です。これまでのノーベル受賞者数は162名、大学が有する基金(endowment)はなんと370億ドル(5兆2,890億円)で全米第一となっています。ちなみにWikipediaによりますと日本で最も基金を有するのは慶應義塾大学で780億円です。この違いが日米の大学の実力の差を顕著に示しています。

ハーヴァード大学のエンブレム

 トランプ政権は、これまでガザ(Gaza Strip)紛争に関連する学生抗議活動へのハーヴァード大学の対応を批判してきました。トランプ大統領は、 ハーヴァード大学がキャンパス内のユダヤ人学生を反ユダヤ主義的な差別や嫌がらせから適切に保護していなかったとして、1964年公民権法第6条(Title VI of the Civil Rights Act) に違反していると非難しています。

 これに対してハーヴァード大学第31代学長のアラン・ガーバー(Alan M. Garber) は2025年4月14日、トランプ政権との補助金を巡る交渉で、学生や教員の「反ユダヤ主義的な活動」(antisemitism movement) の取り締まり強化などを求めた政権側の要求を拒否すると明らかにしました。ガーバーはユダヤ系アメリカ人であることも注目されます。トランプ大統領は、政権が推進する方針に従わない教育機関への補助金を打ち切る姿勢を示しています。 ハーヴァード大学は政権と真正面からぶつかる初めてのケースとなっています。

 パレスチナ自治区ガザ地区(Gaza Strip, Palestinian Territories)での戦争を巡り、トランプ大統領は「反ユダヤ主義」から学生を守らない大学への補助金打ち切りを明言し、ハーヴァード大を含む多数の大学に対策を講じなければ強制措置を取ると警告しました。2024年に全米に広がったガザ反戦デモの発信地となったコロンビア大学(Columbia University) は、4億ドル (573億円)相当の補助金や契約を凍結された後に政権の要求を受け入れ、パレスチナを含む中東研究のカリキュラム見直しや抗議活動の取り締まり強化を約束しました。背に腹はかえられないと考えたのでしょう。

創設者 John Harvard

 トランプ政権が推し進める改革は「法から乖離している。大学は独立性を放棄することも、憲法上の権利を放棄することもない」とガーバー学長は強調しています。 そしてハーヴァード大学は月曜日、トランプ政権による90億ドル (1兆2,888億円) の研究資金供与を脅かす要求を拒否し、政府が推し進める改革は政府の法的権限を超えており、大学の独立性と憲法上の権利の両方を侵害していると主張しました。

 ガーバー学長はさらに「どの政党が政権を握っているかに関わらず、いかなる政府も私立大学が何を教育できるか、誰を入学・採用できるか、そしてどのような研究分野や調査研究を追求できるかを指示すべきではない」と付け加えています。

 ガーバー学長のメッセージは、トランプ政権が送付した書簡への抗議です。書簡には、 ハーヴァード大学が連邦政府との資金提供関係を維持するために満たさなければならない要求が含まれていました。これらの要求には、学術プログラムや学部の監査、学生、教職員の視点、大学のガバナンス構造と採用慣行の見直しなどが含まれています。

 政府が審査している90億ドル(1兆2,888億円) には、 ハーヴァード大学への研究支援2億5,600万ドル (371億4,552円)に加え、大学およびマサチューセッツ総合病院(Mass General Hospital)、ダナ・ファーバーがん研究所(Dana-Farber Cancer Institute)、ボストン小児病院(Boston Children’s. Late Monday)など、複数の著名な病院への将来の拠出金87億ドル (1兆2,428億円)が含まれています。トランプ政権は月曜日遅く、 ハーヴァード大学への22億ドル(3,142億円)の助成金と6,000万ドル (85億7,780万円)の契約を凍結すると発表しました。

 ガーバー学長は、 ハーヴァード大学が反ユダヤ主義との闘いに引き続き尽力していることを強調し、過去15ヶ月間に実施された一連のキャンパス対策についても詳細を説明しています。さらに、人種を考慮した入学選考を廃止した最高裁判決(Supreme Court decision) を大学は遵守し、 ハーヴァード大学における知的・視点の多様性を高める取り組みを行ってきたと述べてきました。

 反ユダヤ主義との闘いにおける大学の目標は、「法律に縛られない権力の行使は、 ハーヴァード大学の教育と学習を統制し、運営方法を指示することはできない」とガーバー学長は述べています。さらに「我々は欠点に対処し、我々はコミットメントを果たし、価値観を体現するという仕事は、我々がコミュニティとして定義し、取り組むべきものである」と反論するのです。

 ハーヴァード大学は、ここ数週間でトランプ政権が標的とした数10校の一つに過ぎません。先月、教育省はコロンビア大学、ノースウェスタン大学(Northwestern University)、ミシガン大学(University of Michigan)、タフツ大学(Tufts University)を含む60の大学に対し、1964年公民権法の差別禁止条項に違反したとして強制措置を取ると警告する書簡を送付しました。さらに、政権は複数の機関の研究資金を凍結するという措置も講じました。

 大学、連邦政府、民間企業の間で強固な研究・イノベーション・パートナーシップ(innovation partnerships) が築かれたのは、第二次世界大戦の時代まで遡ります。全国の学校で実施された政府支援の研究は、数え切れないほどの発見、機器、治療法、そして現代社会の形成に貢献してきました。コンピュータ、ロボット工学、人工知能、ワクチン、そして深刻な病気の治療法はすべて、政府資金による研究から生まれ、研究所や図書館から産業界へと波及し、新たな製品、企業、そして雇用を生み出してきました。

1906年頃のキャンパス

 20253月に医学研究機関(United for Medical Research)が発表した報告書によると、生物医学研究へのアメリカ最大の資金提供機関である国立衛生研究所(National Institutes of Health: NIH)が資金提供する研究費1ドルごとに、2.56ドルの経済活動が創出されていると発表しています。報告書によると、NIHは2024年だけで369億ドル (5兆2,695億円)の研究助成金を交付し、945億ドル (13兆4,898億円)の経済活動を生み出し、40万8,000人の雇用を支えているとも伝えています。

 2025年4月7日のインタビューで、デューク大学(Duke University) 経営学准教授で、アメリカ政府と高等教育機関の数十年にわたるパートナーシップに関するワーキングペーパーの共著者でもあるダニエル・グロス(Daniel P. Gross)准教授は、大学からの研究資金の撤退はアメリカのイノベーションにとって「壊滅的打撃」だと述べています。デューク大学に移る前は ハーヴァード・ビジネス・スクールで教鞭をとっていたグロス氏は、「大学は現代のアメリカのイノベーションシステムに不可欠な要素であり、大学なしでアメリカは成り立たない」と述べています。

 ハーヴァード大学医学部( Harvard Medical School)のジョージ・デイリー(George Q. Daley)学部長は、バイオ医学は長きにわたり連邦政府との強力なパートナーシップに依存しており、そのパートナーシップはアメリカ国民の命を救う進歩という形で実を結んできたと述べました。デイリー学部長は今月、同医学部のジョエル・ハベナー(Joel Habener)教授が、糖尿病治療薬や抗肥満薬の開発につながったGLP-1に関する研究でブレイクスルー賞(Breakthrough Prize)を受賞したことを指摘しました。デイリー学部長はまた、心血管疾患、がん免疫療法、その他多くの疾患における革新的な研究にも言及し、連邦政府の補助金の重要性を指摘しています。

 「70年にわたるパートナーシップを振り返ると、政府の投資は見事に成果を上げてきた」とデイリー学部長は述べます。「 ハーヴァード大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)、そして数々の優れた病院がベンチャーキャピタル投資を引きつけ、今や製薬研究インフラが地域社会にもたらされています。これらはすべて、アメリカのバイオサイエンスの至宝です。」

 中国との競争が激化する現代において、バイオサイエンス(bio science)への脅威はさらに大きな問題となっているとデイリー学部長は付け加えます。「研究費の削減は自滅的で、経済、そしてバイオテクノロジーと医薬品分野におけるアメリカのリーダーシップにとって有害だ」とデイリー学部長は述べています。「研究費のカットは、アメリカのリーダーシップの本質を脅かすような、そして最終的にはバイオテクノロジーに巨額の投資を行っている中国のような国々との経済競争力を脅かすような形で、鉄槌が下されたように感じる」とも述べています。

 ガーバー学長は地域社会へのメッセージの中で、大学の研究が科学と医学の進歩に貢献していることを強調するとともに、独立した思考と学問の重要性を次のように強調しています。
 「思考と探究の自由、そしてそれを尊重し保護するという政府の長年のコミットメントにより、大学は自由な社会、そして世界中の人々のより健康で豊かな生活に不可欠な形で貢献することができました。私たち全員が、その自由を守ることに責任を負っているのです。

 私の印象ですが、 ハーヴァード大学などへの研究費補助の凍結という方針は、明らかに間違いであると考えます。科学研究は膨大な費用と時間と人的な資源を要する分野です。アメリカがこのような政策を続けるとすれば、世界的な競争の時代に遅れをとるばかりでなく、人類の発展にもマイナスになるはずです。

 アメリカは何十年もの間、モノづくりよりも高付加価値のソフトウエア開発にシフトしてきました。これも多くの大学機関における科学研究の果実です。ただ、多くの識者は、来年秋の中間選挙をにらみながら、トランプ関税をはじめとする通商政策の不透明感を懸念し、トランプ政権の持続性や一貫性に疑問を持っています。ハーヴァード大学の学長のコメントからうかがえることは、トランプ政権の大学への介入や研究費補助の凍結はしばらくの辛抱であると考えているふしがあることです。

参考: https://news.harvard.edu/gazette/

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定額4%の働かせ放題と給特法の問題

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Last Updated on 2025年4月15日 by 成田滋

 1971年に名称が変更され施行された「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」が大きな話題となっています。この法律は「給特法」と略されています。給特法は、公立の義務教育諸学校等の教育職員(教員)の給与や勤務条件について特例を定める法律で、教員の仕事の特殊性に基づき、給与や勤務条件について特例を設けています。

 給特法の肝は、教員に残業手当を支給しない代わりに教職調整額を支給すると定められていることです。これを携帯電話料金に譬えていえば、「定額働かせ放題法」で、定額基本料金以外の従量課金はないものの、使用できるアプリ(業務)を四つに限定するというものなのです。この一種の揶揄が労働基準法との対比で論議されているのです。

 第2次世界大戦後、労働基準法が1947年に施行され、週の労働時間は40時間、1日の労働時間は8時間までと決められました。労働基準法には、残業や休日出勤、時間外労働をさせる際には、労働組合または労働者の過半数を代表する人と書面による協定をしなければならないことが定められていました。これがいわゆる「36協定」と呼ばれる労使間の約束事です。公務員にも労働基準法が適用されていました。

 しかし、教員は職務によって拘束時間が大きく異なり、勤務時間を単純に測定することが難しく、残業手当が支払われないようなことが度々起こり、2018年9月の「埼玉教員超勤」という裁判にもなりました。そうした状況を踏まえ、教員に関しては、残業手当は支給しないこととし、代わりに週48時間以上勤務することを想定して、基本給の4%に相当する教職調整額を支給することにしたのです。つまり残業手当は支払わないが、一定額の賃金を上乗せをすることで教員の職務の特殊性に対応しようとしたのです。これが給特法です。

 給特法では、校長、副校長、教頭を除く教員には、時間外勤務手当や休日勤務手当などの残業手当を支給しない代わりに、教職調整額を支給しなければならないことになっています。教育調整額とは、教員の勤務時間の長短を問わず、働いている時間・働いていない時間関係なしに、給料月額4%が支払われるものです。このように給特法は残業手当を支給しない代わりに教職調整額を支給すると定められ、教員に時間外勤務をさせないようにする意図が含まれています。しかし、それでは教員の働き方に即さないとの理由で、給特法では政令で定める基準に従い、条例で定める場合には、教員に時間外勤務をさせることができるとされています。 

 使用者である校長などが教員に時間外勤務を命じることができる仕事は「超勤4項目」といわれます。教員の時間外勤務から「学生の教育実習の指導に関する業務」は外されています。現在、多くの教員が超勤4項目に該当しない時間外労働に従事しています。超勤4項目とは、具体的に以下の業務を指します。

 ・校外実習その他生徒の実習に関する業務
 ・修学旅行その他学校の行事に関する業務
 ・職員会議に関する業務
 ・非常災害の場合、児童、生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合

給特法が抱える問題点
 給特法の問題点は、教員が長時間の時間外勤務をしているのにもかかわらず正当な対価を受け取れていないところにあります。一律4%の上乗せ賃金で働いているというよりも、その上乗せ賃金で働かされているのです。文部科学省(文科省)が実施した教員の勤務実態調査によると、かつてよりも在校時間が減少しているものの依然として長時間勤務をしている教員が多いことが判明しています。

 ただし、文科省の立場は、給特法は、教員の職務の特殊性に配慮した法律であり、そもそもその特殊性は、教師は時間外を含め自主的に働くものであるから厳格な時間管理はなじまない、というものです。つまり、この法律は教員の勤務時間に自由な裁量がある程度確保されていることがあるのだ、という立場です。こうしたことも、教員が自発的で創造的に働く意欲をそぐなど、給特法が教員の勤務実態に合わなくなってきている、と指摘されている要因だと考えられます。

 実際の教員の時間外労働は、この超勤4項目に「該当しない」業務が大半を占めています。早朝の登校指導、入試業務、家庭訪問などの校務、さらに近年問題となっている部活動などは、超勤4項目に該当しない業務です。本来であれば、教員に命じることのできない時間外勤務であり、教員はこれらの業務を拒否することができます。

 いくら時間外労働をしても超勤手当が支給されないことから、給特法は携帯電話料金にたとえて「定額働かせ放題法」とも揶揄されています。繰り返しますがそれ故に給特法は「定額働かせ放題法」と呼ばれるのです。

 文科省はそれでも次のように主張します。つまり「現行制度上では、超勤4項目以外の勤務時間外の業務は、超勤4項目の変更をしない限り、業務内容の内容にかかわらず、教員の自発的行為として整理せざるをえない。 このため、勤務時間外で超勤4項目に該当しないような教員の自発的行為に対しては、公費支給はなじまない。」文科省はさらに、「使用者(校長)の指示」がなければ、それは教員の「自発的行為」であり、労働基準法には抵触しない」としているのです。て「定額働かせ放題法」とも揶揄されています。繰り返しますがそれ故に給特法は「定額働かせ放題法」と呼ばれるのです。

 登校指導や家庭訪問、部活動などの業務は、いずれも「使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされていた業務」に含まれるはずです。そして、これらの業務に従事している時間は労働時間に該当すると考えられます。使用者の指揮命令下に置かれていると評価されるかどうかは、教員の行為が使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされていた等の状況の有無等から、教員の厳しい勤務実態を勘案して柔軟に判断されるべきものと考えられます。

参考資料リンク
労働基準法
公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法
教員の職務について
教育職員の勤務実態調査
埼玉教員超勤裁判
・高橋 哲「聖職と労働のあいだ」岩波書店、2022年

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ChatGPTの今とこれから

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Last Updated on 2025年4月7日 by 成田滋

2025年1月、何年ぶりかで親戚や友人を訪ねるために札幌へ行きました。丁度ボストンから帰郷していた長男と一緒の旅です。東京と違って気温は低く、雪が踏み固められた歩道はツルツルです。長男が生まれた札幌の郊外を訪ねました。かつての自宅付近は開発されて住宅がびっしりと建ち並び、景色は一変しています。自宅跡を探したのですが、住所名が変わりなかなか見つかりません。郵便局があったのでそこで昔の番地を探してもらい、ようやく40年ぶりの自宅付近がわかりました。

 宿では長男は朝晩パソコンでなにやら書き物をしています。聞いてみると、勤務する大学で一次審査を通った教員の終身身分保障制度ーテニュア・トラック(tenure track)のための審査結果を書いているとのことです。アメリカの大学においては、博士号取得後、任期付きの助教授ーアシスタント・プロフェッサーは、テニュアを取得することにより研究や教育自由が保障されると同時に、経済的な安定を得ることができるのです。

 テニュアの審査では、まずは学科での推薦、テニュア委員会の設置、学部での推薦・テニュア委員会での投票、そして副学長意見書を経て学長の裁決となります。この期間、一年がかりの審査となります。もし、テニュア審査でテニュアが認められなかった場合は、基本的には更新不可能な1年間任期付きのアシスタント・プロフェッサー扱いとなり、その後は再び研究者としてテニュアトラックを求めて別の大学で職を探し再挑戦するのです。

 長男が書いているテニュア委員会への審査結果の内容を見せて貰いました。彼は候補者がテニュアにふさわしいという推薦状を書いていました。自分で書いた素稿を正確を期すために生成系のAI技術であるChatGPTを使ったというのです。自分が気がつかなかった語彙や表現のほかに、文章の正確性や一貫性、そして簡潔性などを示ししてくれるのがAIだ、というのです。文法はもちろん理路整然とした文章とするために生成系AI技術はとても参考になるというのです。

ChatGPTエンブレム

 長男は、ChatGPTが驚くほど詳細で、あたかも人間のような回答を生成することができると述べています。ChatGPTを学生への課題に使い、出力結果が優秀な生徒による回答と同レベルであることも確認しています。学術界では人間の生産性を上げることができるという声があり、大学によるとChatGPTのプロンプトエンジニア授業はすでに存在しています。研究論文の査読にもChatGPTが使われる可能性があるようです。ChatGPTは論文の冒頭や一部の節を書くことができるのです。

 今後はもっといえば、ChatGPTによって生成された査読に実在しない研究者も生まれるかもしれないというのです。ChatGPTは一見もっともらしい引用を含むコンテンツを生成できる可能性もあり、ChatGPTを共同著者として挙げていると言われています。このような懸念はChatGPTなどのAIに向けられています。

 私もある学会での2ページの発表論文についてChatGPTで抄録を作らせてみました。ChatGPTは抄録の要件である論文の目的、仮説、被験者、実験方法、そして実験結果を正確に記述していました。研究機関においては学位論文やレポートについては、生成系AIのみを使用して作成することを禁止すべきであります。ですが今後は実際にはAIの利用を検知することは困難になるだろうと察します。その対策としては書面審査だけでなく、対面での口頭審査や筆記試験などを組み合わせ本人が作成したのか検証する必要がありそうです。

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ステルス増税は狡猾な仕組み

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Last Updated on 2025年4月5日 by 成田滋

ステルス(stealth)」という言葉が軍事分野で使われています。ステルス戦闘機といった具合です。レーダーで捕捉されにくいという性質があり、これを有する航空機をステルス機、艦艇をステルス艦と呼ばれています。ステルス(stealth)とはこっそりとか密やかという意味です。もとはといえば、「盗む」(steal)が語源となっています。コンピュータ分野では、アンチウイルスソフト類の検出を逃れる技術や、ネットワーク型の侵入検知システムをすり抜けるのもステルス技術といわれます。

B-2 Bomber

 近年、私たちが気づかないうちに税負担が増加する「ステルス増税」が進行しています。ステルス増税とは、税率を直接引き上げるのではなく、控除の縮小、基準の変更、新たな税の導入などを通じて実質的な負担を増やす手法のことを指します。これにより、国民が気づかないうちに手取り収入が減少するのです。政府は財源確保のためにこうした方法を採用することが多く、結果として「収入が減った」「気づかないうちに負担が増えていた」と感じるのです。後述しますが、医療保険料を上乗せして子育て支援金の財源に当てようとしています。不可解な方針です。

 「ステルス増税」については、次のような具体的な事例があります。いずれも気づきにくい所得の低下につながるものばかりです。

(1) 高齢者の介護保険料の見直し
 2024年4月から、高齢者の介護保険料が9段階から13段階に細分化され、所得が高い高齢者の保険料が引き上げられました。前年の所得が420万円以上の65歳以上の方が対象で、最大で年間約15万円の保険料負担となります。

(2) 後期高齢者医療保険料の引き上げ
 少子高齢化の影響で、後期高齢者医療保険料も増額されています。令和4年と5年度の平均保険料は月額6,575円でしたが、令和6年度には7,082円、令和7年度には7,192円になります。

(3) 結婚・子育て資金の一括贈与非課税制度の廃止
 父母や祖父母から子や孫への結婚・子育て資金の一括贈与に対する最大1,000万円の非課税措置が、利用率の低さから廃止が検討されています。

4) 退職金控除の見直し
 現在、退職金に対する控除は勤続年数に応じて計算されていますが、これが見直される可能性があります。控除額が減少すれば、退職金に対する税負担が増加することが予想されます。

(5) 生命保険料控除の廃止検討
 年末調整で利用できる生命保険料控除の廃止または見直しが検討されています。これにより、生命保険料の支払いに対する税負担が増加する可能性があります。

6) 給与所得控除の見直し
 現在、会社員の給与所得控除は給与の30%となっていますが、これが引き下げられる可能性が検討されています。これにより所得税の負担が増えることが予想されます。

(7) 子育て支援金の新設
 少子化対策の財源確保のため、医療保険料に上乗せする形で子育て支援金の徴収が予定されています。具体的には、医療保険加入者一人当たり、2026年度に月250円、2027年度に月350円、2028年度に月450円が徴収される見込みです。

(8) 復興特別所得税の延長
 この税は復興は2011年の東日本大震災からの復興のための施策として設けられ、基準所得額の2.1%が源泉徴収されています。当初は2025年で徴収期間が終了する予定でしたが、2037年まで延長されました。代わりに税率が1%引き下げられたため、政府は『減税した』と強調していますが、2027年からは「防衛増税」として所得税率が1%引き上げられます。

(9) 再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)の値上げ
 再エネ賦課金は、すべての家庭や企業の電気料金に上乗せされています。2030年には再エネ賦課金の単価が「3.5円から4.1円」にまで値上がりすることが予測されています。再エネ賦課金の金額は、電力会社から毎月送られる「検針票」に記載されていますが、なかなか気づきにくい税金です。

(10) 森林環境税の新設
 森林環境税が年に1,000円徴収され始めました。目的が『森林整備およびその促進』と曖昧です。本当に必要かどうかも分からない税ですが、環境対策と言われると反対しづらい心理をついた巧妙な税です。

 これらのステルス増税は、直接的な税率引き上げではないため、気づきにく性質があります。ステルス増税は、消費税のように大きな注目を集めることなく、深く静かに私たちの負担を増やしていきます。特に、「一時的な措置」として導入された税の延長や、新しい税の導入は、知らない間に家計に影響を与える可能性があります。税制は毎年変化するため、政府の発表やニュースを定期的に点検し、どのような影響があるのかを把握しておくことが大切です。

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物価高と電気料金の削減

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Last Updated on 2025年4月4日 by 成田滋

今私たちの関心と懸念は物価高です。米価、ガソリン税、消費税、そして電気料金です。その中でも特に私たちの生活で心配なのが電気料金です。電気料金の内訳を調べると、「再生可能エネルギー発電促進賦課金」(再エネ賦課金)という項目があります。

 この再エネ賦課金は、2012年に制定された「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」により、日本で電気を使用しているすべての世帯や企業から、例外なく徴収されている料金のことです。発電時にCO2を排出しない再生可能エネルギーの普及や拡大をめざしています。再エネ賦課金は、その名のように再生可能エネルギーの導入を促進するために活用されるという趣旨です。

 どのような電力会社と契約していても、再エネ賦課金の支払額が変わることはありません。場所に関わらず、全国で再エネ賦課金の単価は一律に次のような式で算出されています。          

  再エネ賦課金=使用電気量(kWh)× 単価(円/kWh)

 この賦課金の計算式から分かるように、電気を使えば使うほど賦課金は上がります。再エネ賦課金は意外と取られていて、電気代の10%以上が再エネ賦課金として上乗せになっています。これは一種のステルス増税ともいわれています。単価は、再生可能エネルギーの導入予測から算出されていますが、少し複雑なのでここでは省略します。

再エネ賦課金の推移

 単価は毎年経済産業大臣(経産相)が決定し、2023年度では単価は1.40円/kWhとなり初めて減額となりました。減額になった理由として、化石燃料の価格上昇により電力の使用を国民が控え、結果として再エネ賦課金が減少したのです。右のグラフでも分かるように2024年5月の検針分から適用されている単価は3.49円/kWhとなっています。2025年5月分からも同額となります。いうまでもなく再エネ賦課金を抑える最も確実な方法は節電です。

 毎年度上がっている電気料金支払いの負担は問題視されています。新電力会社に切り替えると電気代の支払い総額が下がるケースがあります。例えば、大手の電力と契約しているとしても、新電力会社からも電力プランを取得し検討するのも一考です。それによっては再エネ賦課金を含めた総額を下げることが可能であると判明しています。

 K民主党は、「再エネ賦課金」の徴収を停止する法案を2024年3月に国会に提出しました。この法案では、電気料金の値下げを実現するために再エネ賦課金の徴収を一時停止するとしています。ただこの法案が成立する見込みは不明です。

 日経の2024年11月の報道によれば、経産省はこうしたK党の主張について「再生エネ賦課金の徴収を停止しても、再生可能エネルギーの導入拡大に必要な経費として国民負担が発生する点にも留意が必要だ」と述べています。政府は、このように当面は再エネ発電コストの低減や電力市場の安定化を進め、将来的な賦課金負担の軽減に取り組む姿勢は見せています。

 今後の物価高対策の見通しですが、この7月には参議院議員通常選挙が予定され、各党とも電気代、米価、社会保険料、ガソリン税、消費税をこれ以上値上げないか、引き下げることを公約に掲げることが考えられます。いずれにしても今般の物価高に備えるには、無駄な支出は避けるなどの節約意識の高揚が大事だと思われます。

 電気料金に関するもう一つの懸念は、酷暑とか猛暑への対策です。日本気象協会は2025年の天気傾向を発表しています。「2025年は寒冬でスタートするものの春の訪れが早く、夏は猛暑傾向が予想され、メリハリのある年となりそう」との予測です。AIによりますと「この夏は、太平洋高気圧の北への張り出しが強まり、全国的に気温は平年より高い予想。 近年続いているような猛暑となる見込み。」との見立てです。猛暑は家計の電気料金にもろに影響してきます。ただLED化したマンションなどの共用部の電灯やエレベーターなど動力に関しては、猛暑であっても電気料金の影響は少ないと思われます。

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ウィスコンシン州最高裁判所判事は民主派が当選

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Last Updated on 2025年4月3日 by 成田滋

私は1983年にウィスコンシン大学から学位を貰いました。長男も同じく同大学から学位を得ています。子ども三人やその配偶者も、ウィスコンシン大学より学士から博士号を得ました。それを合わせると9つを数えます。今、孫娘の一人も同大学でコンピュータサイエンスを学んでいます。娘二人の家族は今も州都のマディソンで暮らしています。そんな事情ですから、ウィスコンシンへの思い入れは異常な位なのです。さらにいえば、皆が民主党を支持していることを付け加えます。

ウィスコンシンの州旗 (Wikipediaより)

 2025年4月1日にウィスコンシン州最高裁判所(Wisconsin Supreme Court) 判事の選挙が行われました。今回の選挙は州最高裁判所の判事を10年の任期で選ぶものでしたが、当選したのはマディソンが位置するデーン郡の巡回裁判官(Dane County circuit judge)のスーザン・クロフォード(Susan M. Crawford)です。彼女は、ウォキショー郡​​巡回裁判官(Waukesha County circuit judge)で元州司法長官のブラッド・シメル(Brad Schimel)を破り、裁判所のリベラル派の4対3の多数派を維持することとなりました。なおクロフォードの獲得票は55.05%でした。

 現職判事のアン・ブラッドリー(Ann W. Bradley)は、30年間の裁判所勤務を経て引退することになり、クロフォードを支持すると表明していました。彼女はリベラル派とみなされ、裁判所のリベラル派の4対3の多数派に一貫して投票していた判事です。クロフォードは、ブラッドリーと同様にリベラル派の候補者とみなされ、ウィスコンシン州の民主党と民主党に所属する寄付者から支援を受けて当選しました。他方シメルは保守派とみなされ、ウィスコンシン州の共和党支持者から支援を受けました。

ウィスコンシン州

 この選挙は全国的に大きなメディアの注目を集めました。その理由は選挙戦の費用が総支出額が1億ドルに迫り、史上最も費用のかかる司法選挙となったからです。中でも選挙への関心は、ドナルド・トランプ大統領から指名された政府効率化省(Department of Government Efficiency: DOGE)の長官で億万長者のイーロン・マスク(Elon Musk)は、シメルを支援するために2,500万ドル以上を費やしたと報道されました。これが耳目を集め、選挙戦を大いに賑わす結果となったのです。

 今回の選挙は、州教育長選挙やマディソンの教育長を選ぶ一連の地方選挙と並行して行われました。このように州の判事を含め、議会議員、教育長や教育委員は市民によって選ばれるのです。当然ながら、選挙には多額の資金が必要になります。資金は企業からではなく、支持者の寄付や献金によって賄われるのです。なお、連邦裁判所判事は大統領が指名するのがアメリカの仕組みです。

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