有斐閣の「六法全書」を暫くぶりに広げました。北大時代に購入した50年以上も前のものです。「六法」とは、日本国憲法、民法、商法、刑法、民事訴訟法、刑事訴訟法といわれます。時が経っても「六法」は不動です。中身は少しは変わっただろうと察します。
さて、「民法典」と呼ばれる民法ですが、第1条第2項にある基本原則の条文が「信義誠実」です。これは信義則ともいわれます。第1条は3項から成ります。すなわち、
1 私権は、公共の福祉に適合しなければならない
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない
3 権利の濫用は、これを許さない
というものです。
信義則は、別称として禁反言(エストッペル: estoppel)の原則、クリーンハンド(clean hands) の原則、そして事情変更の原則ともいわれます。禁反言の原則とは、自分の言動に矛盾した態度をしてはならない、という原則です。クリーンハンドの原則とは、自ら法を尊重し、義務を履行する者だけが、他人に対しても法を尊重することと、義務を履行することを要求ができる、という原則です。そして、事情変更の原則とは、契約を結んだ後に、その契約条件をそのまま当事者に強制することが著しく不公平になる事情が生じた場合には、契約条件の変更ができるという原則です。
信義則ですが、世の中には、できるかぎりの手を尽くしても、どうしても該当する規定が見つからないことがあります。従って他に論拠がない場合には、この「伝家の宝刀」ともいうべき「信義誠実」が登場するのです。
さて、今回の東京都知事の言動です。公的資金の疑惑に関して、弁護士団は「違法ではないが不適切だ」という結論をだしています。民法の1条2項では、私的取引においては、相互に相手方の信頼を裏切らないように行動すべきであるとうたっています。さらに権利濫用の禁止である第1条3項は、外形上権利の行使のようにみえても、権利の社会性に反する場合には、権利の行使は許されない、とうたっています。
果たして今回の都知事による公金の使い方に関する疑惑と弁明は、「いつわりなく、まめやかなこと」「行き届いて懇切なさま、まじめなさま」という「信義誠実」の原則に抵触しないのかということです。「伝家の宝刀」は「違法ではないが不適切だ」ということに抜かれるのが然りと考えられます。
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