泥棒の演目はいくつもあるが、その代表ともいえるのが「夏泥」。今の暑い時期に笑いたくなる噺である。夏のある日、貧乏長屋で男がふんどし一枚で寝ている。そこにやってきたのが盗人。おきまりのおどしで金を要求する。だが、男、貧乏三昧で死のうとしていたと告白する。食べるものがない、店賃の抵当(かた)に道具箱を持っていかれた、道具がなくて仕事ができない、着るものもないなど泥棒に身の上話をして「さあ、殺してくれっ!」と開き直られる。盗人は「声がでかいよ、」とうろたえてしまう。
困った泥棒、なにか食うものを買えといって小銭を男に渡す。だが、道具がないので仕事にでられないという。泥棒はさらに男に銭を差し出す。ところが質屋から道具を請け出すには利息が必要だといってさらに銭を搾り取る。おまけに仕事に出掛けるには仕事着が必要だといって、「この裸姿では仕事にでられない。、、貰った銭は返す、、さあ、殺せ!」と懇願する。困った泥棒、ますます深みに入っていく。まんまと金を泥棒からせびった男、、別れ際に「また来年の夏に入ってくれや、、」この泥棒は慈善事業をしたようだ。それがなんとも可笑しく共感を呼ぶ。
「締め込み」の舞台もまた長屋。戸締まりされていない長屋に賊が忍び込む。ヤカンが火にかかっていて、急いで物色した衣類を風呂敷に包む。そこへ部屋の主の男が帰ってくる足音が聞こえる。泥棒はとっさに台所の床板を上げ、縁の下に潜り込んで身を隠す。男は泥棒が残した風呂敷包みを認め、「古着屋が見本に置いて行ったのだろうか」とつぶやきながら開ける。風呂敷の中に女房の服が入っていることがわかる。
「女房は、俺の知らぬ間に間男をして、荷物をまとめて駆け落ちをしようとしているのだ」と勘違いし、激怒する。そこに女房が帰ってきて、組むつもたれつの大喧嘩となる。罵倒しあうが、女房の言い分に言い返せなくなった男は、そばにあったヤカンを投げつける。ヤカンのお湯が縁の下に隠れる泥棒のうえに注がれる。堪らなくなって泥棒は飛び出て、風呂敷包みは自分が作ったと白状する。男と女房は「お前が正直に話してくれなければ、俺たちは別れるところだった」と泥棒に感謝する。そして3人で酒を酌み交わす。
「締め込み」のサゲは読者に想像していただこう。