心に残る名曲 その五十五 チャイコフスキーと日本人 その1 ロシア革命と「坂の上の雲」

「まことに小さな国が、開化期をむかえようとしている」 司馬遼太郎の「坂の上の雲」は、この文章で始まります。日本とロシアの関係を調べるとき、日露戦争は日本の近代国家の形成にどのような影響を与えたかを知る貴重な材料となります。

「坂の上の雲」は、日露戦争の開戦から講和にいたる歴史小説です。司馬が云うのですが、明治の時代は日本がまだきわめてまともな時であったと書いています。明治維新から日露戦争までの30余年を「これほど楽天的な時代はない」とも評しています。近代化によって日本史上初めて国民国家が成立し、「庶民が国家というものにはじめて参加しえた集団的感動の時代」とさえ司馬は云うのです。

「坂の上の雲」の主人公は、日本陸軍の騎兵部隊の創設者である秋山好古、その実弟で海戦戦術の創案者である秋山真之、真之の親友で明治の文学史に大きな足跡を残した俳人正岡子規の3人です。3人とも四国は松山の出身であります。秋山兄弟や子規に代表される若者達は新興国家の成長期に青春時代を送ります。なんとかして高等教育を受け、「個人の栄達が国家の利益と合致する昂揚の時代」に生きるのです。

維新から日露戦争までの30余年を「これほど楽天的な時代はない」と云ったのは、若い人々が、血縁や身分や貧富の差に縛られることなく、自らが国家を担う気概を持ち、政治や軍事、学問など各々の専門分野において邁進できた時代です。