心に残る名曲 その十七 「楽しき狩りこそわが悦び BWV208」

バッハの作曲した「世俗カンタータ(Secular Cantata)」の一つで、通称「狩のカンタータ(Jagdkantate)」と呼ばれています。現存するバッハの世俗カンタータの中では最も古いものです。1713年2月のヴァイセンフェルス公クリスティアン(Christian von Sachsen-Weissenfels)の誕生を祝う祝典曲といわれます。全部で15曲から成ります。

「世俗カンタータ」とは、バロック時代の声楽形式で,一つの物語を構成する歌詞がアリア,レチタティーボ(recitative),重唱,合唱などからなる多楽章形式のものです。小型のオペラまたはオラトリオともいわれます。今日では教会礼拝用音楽としての教会カンタータが有名です。

ブリタニカ大百科事典によりますと、バロック時代を通じての標準的で一般的なカンタータは、世俗カンタータであったようです。第1曲 レチタティーヴォの「楽しき狩りこそわが悦び」は言葉の抑揚に忠実なので朗唱と訳されています。終曲の第15曲は「愛しき眼差しよ」という合唱となっています。

ところで、第9曲はアリア(Aria)「羊は憩いて草を食み(Adagios Sheep may safely graze)」という叙情的な朗唱です。「Adagios」とや「ゆっくり」、とか「長閑と」という曲の表現やテンポを示す音楽用語です。旋律の美しさを重視し、リコーダは牧歌的なテーマを要所で挿入し、ソプラノが伸びやかに草を食む羊を描きます。

羊とは領民をさし、牧童はクリスティアン公を示唆しているといわれています。領民の安寧を導く賢い王となるように願った曲のようです。第9曲はこのカンタータの中で最も知られているといえましょう。