心に残る一冊 その43 「ゲマインシャフトとゲゼルシャフト」

ドイツの社会学者テンニェス(Ferdinand Tönnies),が使ったゲマインシャフト(Gemeinschaft)とゲゼルシャフト(Gesellschaft)は、人間の社会関係を分析する概念として今も広く知れわたっています。ドイツ語辞書によりますと、「Gemein」とは市井の人、常民、庶民など、「Geselle」とは相棒、仲間、職人など,「schaft」は名詞・形容詞の語尾について、性質や状態が集まったものをあらわします。例えば、友達Freund にschaftが付くとFreundschaft で友情というわけです。ゲマインシャフトとは共同体組織、ゲゼルシャフトとは利益社会とか機能分化社会のことといわれます。

テンニェスによれば、人間の意志はさまざまな関係を営むとします。そこには肯定的な関係や否定的な関係があるのですが、大事なことは相互的な肯定の関係によって形づくられる集団である提起します。こうした集団はゲマインシャフトとゲゼルシャフトに区別されていきます。

まずゲマインシャフトとは、人間の根源的あるいは、自然的な状態としての人間の意思の完全な統一体であるとします。その例は、地縁、血縁、友情、家族、村落などです。こうした「共同体」は自然発生するというのです。町内会とか郷友会、自治会といった身近で緩やかな組織です。

これに対してゲゼルシャフトとは、平和的な仕方でたがいに生活していながら、本質的に結合しないで、利害関係に基づいて人為的に作られた利益社会を指します。近代社会の特徴はこのゲゼルシャフトの形成と発展にあるといわれます。その例は、大都市、国家、および世界という3つに代表されます。企業、同盟、連合体もそうです。

ゲマインシャフトとゲゼルシャフトの分化は、人間関係に及ぼした影響です。関係が疎遠になり「疎外」ということが懸念されました。今ほど地域住民の相互性が強調される時代はありません。地域コミュニティの再形成を示唆したのがテンニェスの功績といえましょう。