ユダヤ人と私 その11 「戦場のピアニスト」

映画は、私たちが文字で学ぶ歴史を可視化してくれる不思議なメディアです。歴史の場にいなくても歴史の事実を追体験させてくれ、我々の知性や悟性を大いに刺激してくれます。

「The Pianist」という映画がありました。ここに登場するのは、第二次大戦のポーランド・ワルシャワ(Warsaw)と苦悩する市民です。破壊尽くされた街を一人の男がとぼとぼと食料かなにかを求めて歩いています。これが有名なピアニスなどとは誰も想像できません。戦争は人間を貴賤の別なく、哀れな存在としておっぽり出すのです。栄光も名誉もかなぐり捨てて食べ物をあさる人々がそこにいるのです。

「The Pianist」は、ポーランドに住み、ピアニストとして活躍していたユダヤ人ウワディスワフ・シュピルマン(Whadyshaw Szpilman)の生き様を描いています。シュピルマンは、廃墟でピックルス入りの缶詰を拾い、それを開けようとします。そこにドイツ軍将校が立っています。「お前は誰か?」、「お前の職業はなんだったのか?」とシュピルマンにきく。

シュピルマン:「ピアニストだった。」
将校:「では弾いて貰おうか。」

半信半疑の将校は、ピアノのある部屋にシュピルマンを案内します。こうしてシュピルマンはピアノに向かってしばらく沈黙し、そして意を決して弾き始めます。曲はショパン(Frederic Chopin)のバラード一番、ト短調(Ballade NO.1, G minor)。戦争の最中、将校は至福の時間を過ごすかのように聞き惚れるのです。

弾き終わると自分のマントを寒さにあえぐシュピルマンに与えます。その時からピアニストに食料を届けるのです。将校の名はウィルム・ホーゼンフェルト(Wilm Hosenfeld)。弾く者と鑑賞できる者に国籍はいりません。この瞬間に二人には戦争もありません。