認知心理学の面白さ その四十六 ロフタスの記憶の研究

フロイド(Sigmund Freud) は、心には受け入れられない、もしくは苦痛をもたらす考えや衝動を「抑圧」という無意識のメカニズムとして説明します。このメカニズムによって自覚されない領域に隔離することで自分自身を守ろうとする傾向があると主張します。こうしたトラウマ的なできごとの記憶が意識的な再生の手の届かないところに貯蔵される、つまり抑圧されたという見解は多くの人に受け入れられました。

しかし、戦後のいわゆる「認知革命」によって、脳がどのように情報を記憶へと処理するかについて新しいモデルを示唆するような研究が進みます。すでにこのブログで取り上げたシャクター(Daniel Schacter)の記憶(memory)と忘却(amnesia)に関する研究もそうです。

エリザベス・ロフタス(Elizabeth Loftus)という研究者を紹介します。彼女はアメリカの心理学者です。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で数学と心理学の学士号を得、その後スタンフォード大学 (Stanford University)で学位を取得します。彼女の研究ですが、それまで主流とされた抑圧された記憶の回復ということに疑問を持つようになります。

彼女は記憶の再生への誤りについていろいろな実験をします。例えば、自動車事故の動画を見せて、目撃証言の正確さを調べます。その結果、判明したことは被験者がどのようなできごとを報告するかは、実験者からどのような言い方で問いかけられるかによって重大な影響を受けるということでした。「事故を起こした車の速度はどの位だった?」と尋ねられるとしますと、問う言葉の中に事故を形容する「ぶつかった」、「衝突した」、「大破した」などの言葉が使われたかによって、答えに大きな幅があることが判明し、さらに被験者に「事故のあとにガラスの破片はあったか?」と尋ねられます。ここでも車の速度を問うのにどのような単語が用いられたかに応じて答えは違ったのです。