認知心理学の面白さ その二十八 スタンレー・ミルグラムとアドルフ・アイヒマン

スタンレー・ミルグラム(Stanley Milgram)は、1933年にニューヨーク(New York)のユダヤ人の家系に生まれます。両親はハンガリー(Hungary)の出身で、ニューヨークに移民してブロンクス(Bronx)でパン屋を経営したようです。ブロンクスは、もともと移民の人々が住み着いた街。アイルランド人(Irish)、イタリア人(Italian)が多い所といわれます。ユダヤ人も多く、1900年代の前半の一時期はユダヤ人区として知られたところでもあります。

  さて、ミルグラムという研究者のことです。彼は1954にニューヨーク市立大学クイーンズ校(CUNY)を卒業します。この大学は通称、Queens Collegeと呼ばれます。その後はハーヴァード大学から心理学の学位を取得します。さらに1959-1960年には、プリンストン大学(Princeton University)でソロモン・アッシュ(Solomon Asch)と一緒に人間の同調性について研究します。

ミルグラムは、ナチスの戦争犯罪人とされたアドルフ・アイヒマン (Adolf Eichmann)の裁判に注目します。アイヒマンは、戦後はアルゼンチンで逃亡生活を送りますが、1960年にイスラエル諜報機関モサド (Mossad)によって逮捕されます。1961年4月から人道に対する罪や戦争犯罪の責任などを問われて裁判にかけられた人物です。20世紀のドイツ人には生得的になにか異なったものがあるという見方がありました。そのせいでしょうか、彼らはホロコスト(Holocaust)のようなおぞましい犯罪に荷担することに向いていたというのです。しかしアイヒマンはいいます。「自分はただ命令に従っただけだ」。