認知心理学の面白さ その二十一 社会的学習とバンデューラ

「人は報酬と懲罰という強化をとおしてではなく、他者の観察をとおして学ぶ」という言葉は良く聞かれます。これは社会的学習理論の中核をなす考え方といわれます。学習は心の中のリハーサル(rehearsal)と他者の行動の観察したうえで、模倣することをとおして達成されるという考え方です。こうした主張をする一人にバンデューラ (Albert Badura) がいます。

バンデューラはカナダはアルバータ州(Alberta)の人口400人の街に生まれます。もともとウクライナ(Ukraina) からの移民です。高校卒業後、ユーコン(Yukon)でアラスカハイウエイ(Alaskan Highway)の維持管理の職を得ます。その頃、一緒に働く人々が飲酒やギャンブルに浸るのを目撃し、人間の生き方の示唆を得たといわれます。やがてブリティッシュコロンビア大学(University of British Columbia)を卒業し、1949年にアメリカに移住します。アイオワ大学(University of Iowa) で心理学の修士と博士号を取得し、やがてスタンフォード大学(Stanford University) で教職に就きます。

「他者の観察をとおして学ぶ」というとき、他者の行動は、適切なもしくは受け入れうる行動のモデルとして機能します。バンデューラは、私たちが他者の行動を首尾良くモデル化しうるのに必要な四つの条件を提示します。「注意」、「記憶の保持」、「記憶の再生」、そして「動機付け」です。学習には、学習者がなによりもまず行動に注意を払い、次ぎに自分が見聞きしたことをきちんと覚え、さらにその行動を自分の身体を通じて再生でき、それを行いたいと思う然るべき動機や理由、例えば報酬とか褒め言葉の期待などが必要と考えます。

バンデューラが広く知られるようになったのが、自己肯定感(Self-efficacy)とか自己統制(Self-regulation) の研究です。1997年に「Self-efficacy: The exercise of control」という著作を発表します。人とのコミュニケーションおいて、自分を肯定することと他人を肯定することが、言葉と行動にプラスの指針を与えます。「自分には価値がある」、「自分は素晴らしい存在だ」と実感できるときの興奮です。