北方領土を考える その八 アイヌと北海道旧土人保護法

北方領土や北海道をもっと知るためには、どうしてもアイヌ語やアイヌ文化を知る必要があると考えています。北海道の市町村の名前はおよそ八割がアイヌ語に基づくといわれます。現在の地名は、アイヌ語で呼ばれていた地名がカタカナなどで記録され、類似する音の漢字が当てはめられたものです。

アイヌ社会においてはアイヌ語を文字表記しなかったようです。現在では北海道アイヌ協会が教科書で使用したラテン文字表記がある程度知られています。カタカナ表記はラテン文字の近似的な発音を表したものです。

道央の白老町にアイヌ民族博物館があります。ここにはアイヌ民族の歴史が伝えられています。アイヌの社会の特徴の一つとして、活発な交易を行っていたことが、近年明らかにされつつあります。13世紀後半の中国の資料には、黒竜江、アムール川下流域に勢力を伸ばしてきた「元」と、交易上のトラブルが原因で交戦したと記録されています。17世紀初頭のキリスト教宣教師の記録にも、北千島産の高価なラッコ皮をもたらす道東のアイヌや、中国製の絹織物を運ぶ天塩のアイヌの来航により、松前が繁栄している様子が記されています。また津軽海峡を渡って、自由に和人社会との交易も行われていました。

北海道旧土人保護法というのがありました。この法律は「貧困にあえぐアイヌの保護」が目的とあります。和人(シャモ)の進出や開拓政策のためにその生活圏を侵食され,窮迫するアイヌの人々に対し,土地の確保と農耕の奨励,教育の普及などを目的として制定された法律です。旧土人とは1878年の開拓使の達しによって統一されたアイヌに対する呼称です。農業に従事するアイヌに対して1万5000坪以内の土地を無償で払い下げること,土地の売買や譲渡、質入れを禁止することが規定されます。アイヌの集落には小学校を設置すること,などが法律の骨子ですが、結果的に次のようなことも強いられます。
・アイヌ固有の習慣や風習の禁止
・日本語使用の義務
・日本風氏名への改名による戸籍への編入