懐かしのキネマ その66 【ハンナ・アーレント】 

2012年のドイツ(Germany)・ルクセンブルク(Luxemburg)・フランス(France)合作の伝記ドラマ映画【ハンナ・アーレント】 (Hannah Arendt) を紹介します。ドイツ系ユダヤ人の哲学者であり政治理論家であったハンナ・アーレントの思想や伝記を描いた作品です。私はユダヤの歴史に興味がありましたので、この映画を神田の岩波ホールで観ました。以下、映画の要旨です。

ハンナ・アーレントはかつてドイツに生まれ育ちます。ナチスが政権を獲得しユダヤ人迫害が起こる中、フランスに亡命しシオニズム (Zionism)の政治思想家ブルーメンフェルト(Kurt Blumenfeld) に導かれ、反ユダヤ主義の資料収集やドイツから他国へ亡命する人の援助活動に従事します。親独のヴィシー政権(Régime de Vichy)によって抑留されますが、間一髪で脱走し米国に亡命します。その後、ニューヨーク大学(New York University) 教授として、夫ハインリッヒ(Heinrich)や友人で作家のメアリー・マッカーシー(Mary McCathy)らと穏やかな日を送っていました。

1960年5月に、ブエノスアイレス(Buenos Aires)で亡命生活をしていたナチス(Nazis) の元高官アイヒマン(Adolf Eichmann)がイスラエル(Israel) の諜報特務庁、モサド(Mossad)によって誘拐され、エルサレム(Jerusalem)で裁判を受けることとなります、ハンナはニューヨーカー誌(The New Yorker)の特派員として、裁判を傍聴することになります。

ユダヤ人として、ナチスの被害者の1人として傍聴した裁判でしたが、アーレントは被告アイヒマンが大量殺人を指揮したとは思えぬ凡庸さに当惑するのです。他方で裁判での証言から、当時のユダヤ人社会の指導者たちが、消極的にではあったのですが、ナチの政策に協力していたことまで明らかになってゆきます。イスラエルから帰国したアーレントは、『イエルサレムのアイヒマン–悪の陳腐さについての報告』(Eichmann in Jerusalem: A Report on the Banality of Evil)を発表します。膨大な裁判資料と向き合いながら、鬼畜のようなナチ高官と思われていたアイヒマンは、自らの役職を忠実に果たしたに過ぎない小役人であると断定します。同時に、ユダヤ人社会でも抵抗をあきらめたことでホロコースト(Holocaust)の被害を拡大したこと、アイヒマンの行為は非難されるべきだが、そもそもアイヒマンを裁く刑法的な根拠は存在しないこと等をニューヨーカーの記事として掲載するのです。この報告は、大論争を巻き起こしアーレントへの批判が向けられます。

アーレントの記事はユダヤ人社会の感情的な反発を招き、彼女の著作を知らぬ者も「ナチスを擁護するものだ」と激烈な批判を浴びせます。アーレントは大学から辞職勧告まで受けるのです。誤解を解き、自説を明らかにするため、ハンナは特別講義を行います。「アイヒマンは、ただ命令に従っただけだと弁明した。彼は、考えることをせず、ただ忠実に命令を実行した。そこには動機も善悪もない。思考をやめたとき、人間はいとも簡単に残虐な行為を行う。思考をやめたものは人間であることを拒絶したものだ。私が望むのは考えることで人間が強くなることだ。」講義は学生たちの熱狂的な支持を得るのですが、他方で、古い友人のハンス・ヨナス(Hans Jonas) は彼女に背を向け、教室を後にするのです。

アーレントは記事の中で、イスラエルは裁判権を持っているのか、アルゼンチンの国家主権を無視してアイヒマンを連行したのは正しかったのか、裁判そのものに正当性はあったのかなどの疑問を投げかけます。その上で、アイヒマンを極悪人として描くのではなく、ごく普通の小心者でとるに足らない軍人に過ぎなかったと描きます。

成田滋のアバター

綜合的な教育支援の広場

懐かしのキネマ その65 【ホーム・アローン】 

『ホーム・アローン』(Home Alone)は1990年公開で、ひょんなことから家族旅行で置いてきぼりとなった8歳の少年が、2人組の泥棒を撃退するコメディ作品です。

シカゴに住む裕福な家庭で、子沢山の大家族でもあるマカリスター家(McCallister family) は、クリスマス休暇を利用して家族総出のパリ旅行を計画します。旅行出発の朝、停電によってセットしていた目覚まし時計がリセットされてしまい、全員が寝坊してしまいます。家族は慌てて空港へと向かうのですが、屋根裏部屋で寝ていた少年ケビン・マカリスター(Kevin)が1人家に取り残されてしまいます。ケビン頭の回転が早く悪戯好きなので、周りからはトラブルメーカー扱いされています。

ケビンはうるさい家族がいなくなった事を喜び、1人暮らしを満喫します。しかし、段々と寂しくなっていきます。その頃、泥棒コンビ、ハリーとマーヴ(Harry and Marv) はクリスマス休暇で誰もいなくなった家を狙っていました。二人は、事前の情報収集によってマカリスター家にも目をつけていたのです。道中でケビンがいないことに気づいた家族は、家に戻ろうとするも、クリスマス期間中でほとんどの飛行機は満席状態だったので、大人数の移動は困難でした。そこで母ケイト(Kate)は一人別行動を取り、シカゴへ向かう楽団のワゴンに便乗して帰宅を試みます。

泥棒に家が狙われていることを知ったケビンは、家に大人がいるように見せかけ、家を守ろうとします。当初はうまくいき、泥棒コンビに一泡吹かせます。泥棒コンビは騙された報復も兼ねて計画通りマカリスター家に盗みに入ろうとします。また、実はマカリスター家の隣家には怖い雰囲気を漂わせている老人マーリー (Marley)が住んでいたのですが、ケビンは彼に助けを求めようとしません。そして家族がいなくなった原因が自分だと考えケビンは後悔します。

クリスマス当日。ケビンは家を泥棒から守るべく、日用品などで家中に様々な仕掛けを作り、泥棒たちを迎え撃つ準備を整える。そして教会へ赴くと自分が悪かったと認め、家族を帰して欲しいと願う。また、そこでマーリーと出くわし、最初は怯えるものの、会話を交わしていくうちに彼への誤解を解く。

その後、ケビンは家に侵入してきた泥棒たちに仕掛けた罠で酷い目に合わせます。子ども相手だと泥棒2人は油断し、狡猾なケビンの罠で泥棒たちを苦しめられます。家を脱出したケビンですが、泥棒たちに捕まってしまいます。その時、隣人のマーリーが現れ、泥棒たちを殴りつけて気絶させケビンを助け出します。翌朝、母親や家族も帰宅しケビンと再会を喜ぶのです。

懐かしのキネマ その64 【シェーン】

雄大な自然が広がる西部開拓時代のワイオミング(Wyoming)を舞台に、流れ者シェーン (Shane) と開拓者一家の交流や悪徳牧場主との戦いを描いた名作西部劇が【Shane】です。

合衆国の内戦である南北戦争が終わった頃です。入植者のジョー・スターレット (Joe Starrett) は妻マリアン (Marian)、幼い息子ジョーイ(Joey) とともに地道に開拓作業に励んでいました。しかし、横暴な牧場主ライカー (Ryker) によって一家の平和が脅かされつつありました。この地域一帯を昔から支配してきた牧場主ライカ―たちは自分らの既得権益を守ろうと、入植者たちを追い出そうと日々嫌がらせをしてきていたのです。

ジョー家族の前に、シェーンと名乗る流れ者のガンマンが現われます。一家は紳士的で献身的なシェーンをすぐに気に入り、しばらくの間家に迎え入れることを決めます。その一方で、ジョーとマリアンはシェーンが凄腕のガンマンであることにうすうす感づいていました。ガンマンの夢を持つジョーはシェーンに強い憧れを抱くようになり、彼との時間に夢中になっていきます。シェーンも、ジョーの仲間の開拓者たちとも友情を育んでいきます。しかしライカーの暴力は日ごとにエスカレートしていき、ついに開拓者の1人が殺し屋に命を奪われてしまきますいます。ライカーとの話し合いに向かおうとするジョーを止めたシェーンは、たった1人でライカー一味に立ち向かうのです。

その後、身の危険を守るため、ジョーら入植者たちは可能な限り集団行動をとることを決めます。そして、女子どもを連れて入植者たちが街に出たときのこと。再びライカ―の一団から無礼な言葉をかけられたシェーンは、その態度に暴力で応えることを決めます。大勢の男相手と殴り合いをするシェーンに加勢しようと、途中からジョーも参戦。二人は日頃の恨みを晴らすには十分な報いをライカ―の部下たちに与えることに成功します。

そして、シェーンが酒場を出ようとしたとき、「危ない!」というジョーイの声に反応し、シェーンは物陰に潜んでいた手下に気づきます。シェーンはすぐに最後の手下を撃ち殺し、隠れていたジョーイと再会します。ジョーイの前に立ち、いつもの笑顔に戻り、「気にするな」と声をかけ、馬にまたがります。シェーンがここから旅立とうとしていることに気づきます。旅立つ理由を尋ねられ、シェーンは「一度でも人を殺せば、元には戻れない」と答え、こう付け加えました。「強くまっすぐな男になれ」とジョーイの頭をなでると、シェーンは旅立ちます。ジョーイは去り行く後ろ姿に大きな声で言葉をかけ続けます。”Shane, come back! Shane!”

懐かしのキネマ その63 【ジャイアンツ】

原題は「Giant」。テキサス(Texas) に広大な土地を持つ牧場主ジョーダン・ベネディクト2世(Jordan Benedict Jr)が、東部の名門の娘レズリー(Leslie Lynnton)を妻に迎えます。初めてのテキサスに彼女はその途方もない広さに驚き、東部とはあまりにも異なる人間の気質と生活習慣に戸惑います。夫の姉ラズ(Luz)の冷たい視線にも苦しめられますが、レズリーは持ち前の粘り強い性格でそれを乗り越えていきます。

このレズリーに密かに心を寄せるのが、ひねくれる若い牧童のジェット・リンク(Jett Rink)です。彼は自分に対する唯一の理解者であったラズがレズリーの持ち馬から落ちて亡くなり、遺言で土地の一部を残してくれたことを知ります。ジョーダンは自家の農地が分割されることを嫌い、相場の2倍でその権利を買い取ることを申し出ますが、ジェットは断り自分の土地に賭けてみるのです。

ジェットはテキサスに油田ブームが到来したことを知り、自分の土地でも石油が出ると信じ、土地を抵当に石油の採掘を始めます。資金が底を尽きかけたときついに油田を掘り当て、吹き出した原油を全身に浴びた姿で、泥酔してベネディクト家に乗り込みます。そしてレズリーに馴れ馴れしい態度を示すジェットは、ジョーダンに殴られます。ジェットは彼を殴り返し、そのままトラックで立ち去ります。

歳月は経過し、米国でも屈指の大富豪になったジェットは、私財を投じて病院建設などの慈善事業を展開し名士の仲間入りを果たします。ジョーダンは本業の牧畜業がうまくいかなくなり、自分も石油事業に乗り出し巨万の富を得ますが、成り上がり者ジェットの成功を苦々しく思っています。やがてジェットは巨大なホテルを建設し、その祝賀パーティにベネディクト一家を招待します。ジェットの富に張り合うためジョーダンはダグラスDC機を購入しパーティ会場に一家で乗り込むのです。しかしながら祝賀パレードで娘のラズ2世が、自分に断りもなしにジェットをたたえる王女役でオープンカーに乗っているのを見て不機嫌になります。ホテルで息子のジョーダン3世のメキシコ人の新婦が人種差別を受けたこと発端として、ホテルの祝賀パーティの席で両者は対決の時を迎えます。

パーティの帰り、自家用車でジョーダンがふと立ち寄った白人のテキサス男が経営するレストランで、経営者がメキシコ人を差別して追い出そうとする場面に遭遇し、意見をしたことから両者は殴り合いのけんかとなります。大男同士の激しい殴り合いの結果、ジョーダンは打ちのめされてしまいます。帰宅後、ジョーダンはソファでレズリーの膝枕で横になり、レズリーは彼の行動をほめるのです。そして白人の孫とメキシコ人との混血の孫を満足げに眺めるのです。

懐かしのキネマ その62 【カサブランカ】

1941年、親ドイツのヴィシー政権(Régime de Vichy)の管理下に置かれたフランス領モロッコ(Morocco) の都市カサブランカ(Casablanca)を舞台とした戦争とロマンスの映画です。ドイツの侵略によるヨーロッパの戦災を逃れた人の多くは、中立国のポルトガル(Portuguese)経由でアメリカへの亡命を図ろうとしていました。

主人公であるアメリカ人のリック(Rick Blaine) は、カサブランカで酒場「カフェ・アメリカン」(Rick’s Cafe American)を経営しています。彼には、パリが陥落する前に理由を告げずに去った恋人イルザ・ラント(Ilsa Lund)がいます。イルザはその酒場にやってきます。イルザはリックとのパリの思い出の曲『アズ・タイム・ゴーズ・バイ』(As Time Goes By)を弾くようにピアニストに頼みます。そこにリックが現れます。

イルザの夫は、ドイツに併合されたチェコスロバキア人(Czechoslovakia) のドイツ抵抗運動の指導者ヴィクター・ラズロ(Victor Laszlo)です。ラズロは現地のオルグと接触、カサブランカからの脱出のチャンスをうかがっていました。サブランカ警察署長のルノー(Captain Louis Renault)は計算高い男で、流れに逆らうように異郷のカサブランカで生きるリックに共感していました。リックは、かつてスペインのレジスタンスに協力していました。ルノーはリックに対して、ラズロには関わるなと釘を指します。現地司令官であるドイツ空軍のシュトラッサー少佐(Major Strasser)は、ラズロをカサブランカ市内に閉じ込めます。
イルザはリックに会い、夫を助けられるのはリックしかいないと、必死に協力を懇願します。というのは、リックは闇屋からヴィシー政権の発行した通行証を譲り受けていたからです。そしてイルザは通行証を渡そうとしないリックに銃口さえ向けるのです。しかしイルザは引き金を引くことが出来ず、2人はお互いの愛情を確かめ合うのです。

リックは、ラズロとイルザが通行証を欲しがっている事実をルノー署長に打ち明け、現場でラズロを逮捕するようにと耳打ちします。手柄を立てるために、約束の閉店後の店にやってきたルノーです。しかしリックの本心は、2人を亡命させるためにルノーを空港まで車に同乗させて監視の目を欺くことにありました。シュトラッサーを射ち殺してでも彼女を守ろうとするリックです。

愛を失っても道義を貫こうとしたリックを前にして、実はレジスタンスの支援者であったルノーは、自由フランスの支配地域であるフランス領赤道アフリカのブラザヴィル(Free French in Brazzaville)へ逃げるように勧めて見逃すことにするのです。リックとルノーの二人は戦時下にあって「この狂った世界を終わらせなければならない」と意気投合します。イルザとラズロを載せた飛行機は宵闇の中へ消えていきます。

懐かしのキネマ その61 【ゴッドファーザー】

原題も【The Godfather】です。ゴッドファーザー(Godfather)と呼ばれるマフィア(Mafia)のドンを中心に、その抗争と家族の営みを描いた素晴らしい人間ドラマで、最高のギャング映画の大作です。「Mafia」とは、組織犯罪集団の代名詞といわれ、排他的かつ強力な団結力を持つ組織のことです。

シシリー(Sicily)からアメリカに移住し、一代で財を成したのがドン・ヴィト・コルレオーネ(Don Vito Corleone) です。自分を頼りにする者には愛と権力、知力で十分に報いるのです。それがゴッドファーザーとしての義務であり、尊厳となっていました。そしてニューヨークを牛耳るイタリア系マフィアの頭領となります。ヴィトの長女コニー(Connie)が結婚することになり、邸宅で盛大なパーティが開催されます。堅気の道を歩もうと従軍した三男マイケル(Michael), も、恋人ケイ(Kay Adams)と祝福に駆けつけてきます。その後日、麻薬を商売とするソロッツォ(Sollozzo)からの誘いを断ったヴィトが、ソロッツォの部下に銃撃されてしまいます。何とか一命を取り留めた父の窮地を救うため、ひとり堅気な人生を送ろうとしていたマイケルはマフィアの世界へ足を踏み入れるのです。それを機に、ニューヨークは抗争の場と化していきます。

意識を回復するもまだ体調は万全ではないヴィトは跡継ぎとなるソニー (Sonny)の死にショックを受けつつ、犯罪一族タッタリア(Tattaglia) との手打ちを決めます。コルレオーネに次ぐ勢力を誇るバルジーニ(Barzini)が仲介役となって五大ファミリーの会合が開かれ、その場でヴィは麻薬取引を部分的に認めつつ、残る息子マイケルの身の安全を要求し、タッタリアとの講和が結ばれます。その帰途、ヴィトは彼の顧問であったトム(Tom Hagen)に今回の騒動の黒幕はバルジーニ(Barzini)だと指摘します。

ヴィトは帰国したマイケルを正式にファミリーの跡継ぎにすることを決め、自らは相談役として退きます。若く新参のマイケルに不安を覚える部下たちも多い中、マイケルは5年以内にファミリーを合法化して一部のシマは譲ると言い、また有能ですが平時の人材と目する義兄トムを遠ざけ、ファミリーの仕事をしたがっていた義弟カルロ(Carlo)を抜擢します。加えてマイケルはケイと再会して結婚し、2人の子どもをもうけるのです。

ヴィトは、ゴッドファーザーとして家族の者達に次のような教えを伝えるのです。
 「家族を大切にできないやつは、本当の男じゃない。」
 「権力があるところには、必ず責任もある。」
 「注意深く、男は一瞬でも油断してはいけない。」

懐かしのキネマ その60 【市民ケーン】

映画『第三の男』(The Third Man) などでの個性的な演技で名優として知られ、映画監督としても数々の傑作を残したのがオーソン・ウェルズ(Orson Welles)です。ウィスコンシン州ケノーシャ(Kenosha)の出身です。子ども時代の彼は、詩、漫画、演劇に才能を発揮する天才児と呼ばれ、同時に自由奔放な性格で、周りとの人間関係に問題があったようです。今様でいえば発達障害だったのかもしれません。

ウェルズは、25歳で始めてメガホンをとり、映画『市民ケーン』(Citizen Kane)を製作します。この作品で数多くの斬新な撮影技法を駆使します。例えば、超クローズアップ、CGの無い時代にネオン看板を上下に切っておいてカメラが通り抜ける瞬間持ち上げ手法、画面全てに焦点を合わせる撮影技法パンフォーカス、低い視点から仰角気味に撮影するローアングル、ヒットラー(Adolf Hitler)など歴史上の人物とフィクションの人物を一緒の映像に取り込む手法などです。こうした手法は、現在でも映画製作の分野できわめて高く評価されているようです。

「市民ケーン」(Citizen Kane)は、カリフォルニアの新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハースト(William Randolf Hearst)をモデルにした作品です。メディア界に君臨したハーストは、合衆国下院議員、ニューヨーク市長となり、さらにニューヨーク州知事の選挙にまで出馬しますが落選します。それでもライバルを蹴落とし、メディア帝国を築いていくのです。ウェルズはこの新聞王のプライベートな側面を暴き、ハースト自身を激怒させたともいわれます。「市民ケーン」は、スキャンダラスな内容を描く映画の元祖ともいわれます。こうした「実在モデル映画」の手法は、チャップリン(Charles Chaplin) の『独裁者』にヒットラーを登場させたことに似ています。ウェルズは権力者の持つ個性に強い関心を抱き、映画製作にそれを反映していきます。

懐かしのキネマ その58  【星の王子ニューヨークへ行く】

【Coming to America】は、1988年制作のこれぞというロマンティックコメディ作品です。
アフリカの王国ザムンダ(Zamunda)は、風光明媚な自然と豊富な資源に囲まれた国です。21歳の誕生日を迎えたアキーム王子(Akeem Joffer) は、過保護な両親に育てられます。父親のジョフィ・ジャファ国王(King Jaffe)によって勝手に自分の花嫁を決められてしまうような、未だに何一つ自分で決断させてもらえません。それに不満を持つ王子は、「自分の嫁は自分で見つけたい」と伴侶探しの旅に出たいと願い出ます。国王はアキームの申し出を「結婚する前に女遊びがしたい」と解釈し、息子の希望を快諾しアメリカへ送り出します。

アキームは世話係のセミ(Semmi) を連れニューヨーク(New York) のクイーンズ (Queens)にやってきます。アキームは安アパートの一室に大満足です。なぜならこれがニューヨークだ、と大いに気に入るのです。汚いアパートを借りたアキームは早速花嫁探しで酒場などを歩きますが、なかなかええ女性を見つけられません。

そんな中、慈善イベントでリサ(Lisa McDowell) という女性に一目惚れします。アキームは、セミとともに彼女の父親が経営する「McDOWELL(マクドゥーウェル)」というハンバーガーショップで「アフリカからの留学生」として働くことになります。掃除の仕方、ハンバーグの焼き方を学びます。リサには父親が決めたダリル(Darryl) という金持ちで遊びや風の婚約者がいましたが、誠実なアキームに次第に惹かれていきます。

一方、ニューヨークに女遊びをするつもりでアキームについて来たセミは、貧乏生活に嫌気が差し、部屋を改装し、贅沢な生活を始めます。しかし、部屋にリサを招きたいアキームは管理人の部屋と交換し、セミの小遣いを没収します。困ったセミは「遊興費がなくなったので100万ドルを送金して欲しい」と国王に電報を打ち、怒った国王は王妃とともにニューヨークにやってきます。

セミから事情を聞いた国王と王妃はアキームがいるリサの実家を訪れ、彼女に「アキームは女遊びをするために君を選んだだけだ」と告げます。国王はリサの父親に200万ドルで手をうとうと申し出ます。ショックを受けたリサは家を飛び出し、それを知ったアキームはリサを地下鉄まで追いかけます。誤解は解けたものの、「王子とハンバーガー屋の娘では一緒にいられない」と告げられます。アキームは「王位継承権を放棄する」と地下鉄の乗客の前で宣言するのですが、リサは地下鉄を降りどこかへ走り去ります。

帰国の日、アキームの気持ちを知った王妃は、アキームとリサの結婚を認めるように国王を説得します。「我が国のしきたりだ。どうすれば変わる?」と訊く国王に対し、「あなたが国王でしょう」と答える。結婚式の日、浮かない顔のアキームが花嫁のベールを上げると正体はリサでした。結婚式が盛大に行われ2人は結婚します。

懐かしのキネマ その57 【グッド・ウィル・ハンティング】

この映画は1997年に製作され、その原題は「Good Will Hunting」といいます。数学のノーベル賞 (Nobel Prize) といわれるフィールズ賞 (Fields Medal) 受賞者でマサチューセッツ工科大学(MIT) 数学科教授のジェラルド・ランボー (Gerald Lambeau) は、数学科の学生たちに代数的グラフ理論(Graph theory) の難問を出します。世界屈指の優秀な学生たちが悪戦苦闘する中、いとも簡単に正解を出す者が現れます。その人物は学生ではなく、大学でアルバイト清掃員として働く孤児の青年ウィル・ハンティング(Will Hunting)でした。

ランボー教授はウィルの非凡な才能に注目し、彼の才能を開花させようとします。ですがウィルはケンカをしては鑑別所入りを繰り返す素行の良くない青年でした。ランボーはウィルを更生させるため様々な心理学者にウィルを診てもらうのですが、皆ウィルにいいようにあしらわれ、サジを投げ出す始末です。ランボーは最後の手段として、学生時代の同級生ジーン・マグワイア(Sean Maguire)にカウンセリングを依頼します。ジーンはバンカーヒル・コミュニティ・カレッジ(Bunker Hill Community College)で教壇に立つ心理学の講師で、ランボーとは不仲でした。ジーンはウィルの更生のため協力することになります。

ジーンは大学講師として表面的には平凡な社会生活を送りながらも、最愛の妻をガンで亡くしたことから孤独に苛まれていました。事情を知らないウィルは当初ジーンをからかうのですが、やがて互いに深い心の傷を負っていることを知ります。それは、二人とも小さい時、親から虐待を受けて育ったということを打ち明けたからです。ジーンは、ウィルの反抗的な生き方が小さい時に受けたトラウマ(trauma) を引きずっているからだと考えます。そして次第に二人は打ち解けていきます。

ランボーは、ウィルにある仕事を世話します。そしてランボーとジーンは和解します。ジーンは大学から有給の休暇をとり出掛けていきます。ウィルの友人らは、彼の21歳の誕生日祝いとして通勤のためにシボレー車をプレゼントします。ウィルはジーンに置き手紙を書き、ランボーからの仕事を辞退して、元ハーバード大学の女学生で恋人のスカイラー(Skylar)に再会するためにカリフォルニアへ行くと伝えるのです。

懐かしのキネマ その56 【ミセス・ダウト】

原題は【Mrs. Doubtfire】といいます。サンフランシスコ(San Francisco) に、失業した声優、ダニエル・ヒラード(Daniel Hillard)という3人の子どもの子煩悩な父親住んでいます。妻ミランダ(Miranda)は、収入のない夫に代わって、やり手デザイナーとして一家の家計を担っています。帰宅しても家事に全く協力せず子ども達との遊びにかまけている夫や、自分だけが仕事に家事にと追われていることに強いストレスを感じています。

 長男クリス(Chris) の誕生日、ミランダの留守中に自宅でパーティを開き、大騒ぎを起こしたダニエルに、ミランダの堪忍袋の緒が切れます。そして彼女から離婚の意思を告げられます。生活能力のないダニエルは養育権を奪われ、週一度の限られた時間にしか子どもたちに会えなくなります。

 やがてミランダは仕事の忙しさでメイドを募集します。そのことを知ったダニエルは一計を案じ、メイクアップアーティスト(Makeup artist)の兄の手を借りて、イギリスの老婦人ミセス・ダウトファイア(Mrs. Doubtfire)にすっかり変身します。持ち前の演技力と女装で見事にミランダを騙し、メイドとして最愛の子どたちのそばにいられることになります。
 約束の時間に自宅を訪問し、上品でしっかりしたイメージを植え付け、ミランダに気に入られるのです。帰宅すると家庭訪問員に出くわしてしまうダニエルです。ミセス・ダウトファイアーとダニエルを交互に演じつつ、どうにか難を逃れます。翌日からミセス・ダウトファイアーは本領を発揮します。子ども達には笑顔で厳格に接し、だらだらと過ごさせないよう躾をしていきます。家庭のことなど一切やったことのないダニエルですが、料理本とにらめっこしつつ、夕食作りをするも当然失敗します。

 ダニエルはミセス・ダウトファイアーとして完璧に演じるべく、メイドの仕事を熱心に勉強します。子ども達の世話と夕食作りに精を出し、家族との友好と信頼を築き始めます。後日、ミセス・ダウトファイアーはミランダとゆっくり会話をする機会を得ます。そこで元夫ダニエルと離婚した本当の理由を聞くのです。3カ月後、離婚調停に出廷したダニエルは、自分から子どもを取り上げないで欲しいと必死に言葉を探します。ミセス・ダウトファイアーとして家族に近づいたこともあり、裁定は厳しいものになります。

 ミランダは新たにメイドを探し始めますが、ミセス・ダウトファイアーに勝る人物は見つかりません。その時、テレビからミセス・ダウトファイアーの声が聞こえてきます。慌ててテレビを観た家族は、そこに懐かしい顔を見ます。教育番組のホストとしてミセス・ダウトファイアーが出演していたのです。

 変装していたのはダニエルですが、架空のミセス・ダウトファイアーという人は、子ども達とミランダ、演者であるダニエルでさえも変えていったのです。ミランダはテレビ局にいるダニエルへと会いに行きます。

懐かしのキネマ その55 【ユー・ガット・メール】

今やメールは全く当たり前のコミュニケーションの手段となっています。1998年に作られたこの【ユー・ガット・メール】(You’ve Got Mail) は、メールの面白いエピソードを取り上げています。ニューヨークの片隅で、主人公のキャスリーン (Kathleen) は、母親の代から続く老舗の小さな絵本専門店「街角の小さな本屋さん」を経営しています。彼女が使うメールのハンドルネーム(handle name) は「Shopgirl」です。彼女には同棲している恋人がいるのですが、インターネットで知り合った、同じくハンドルネーム「NY152」という男とのメール交換が心の糧となっています。

そんな時、キャスリーンの店のすぐ側に、カフェを併設したディスカウントショップの書店「フォックス・ブックス」(Fox Book) が開店します。フォックス・ブックスの跡取りはジョー(Joe)といいます。コーヒーを提供して大繁盛し、代わりにキャスリーンの店は売り上げが落ちて行きます。このままでは店は潰されてしまいます。やがて、従業員は1人、2人と辞めていきます。。キャスリーンとジョーは実生活では商売敵として顔を合わせば喧嘩ばかりしています。ジョーの正体を知って、キャスリーンは怒り始め喧嘩になってしまう有様です。それでも「Shopgirl」と「NY152」はメールで嫌な事があったと語り合います。

キャスリーンがスーパーで買い物をしていると、クレジット払いができないレジに来てしまいます。ジョーが助けてくれますが、キャスリーンは不満の様子です。大型店に客を取られているキャスリーンは、「NY152」にどうすれば良いか相談します。「NY152」は死ぬ気で戦うべきだとアドバイスします。キャスリーンの店では閉店セールが開催されます。その後、キャスリーンはジョーの店に行って、本の知識の無い店員に代わって接客をします。

そんな2人ですが、家に帰れば「Shopgirl」と「NY152」として、その日にあった事をメールで報告したり、お互いを励まし合う間柄になっています。メールを通じて2人はますます惹かれ合っていきます。お互い相手の正体に気付かぬまま…。2人のメールで「NY152」は午後4時に会おうとメールをしてきます。キャスリーンは戸惑いながらも、時間だからと約束の場所へ向かいます。「NY152」は約束の時間に飼っている犬と行くことを伝えていました。キャスリーンの前に、ジョーと犬が現れます。キャスリーンはジョーで良かったと言い、ジョーは「Don’t cry,,,」とキャスリーンの涙を拭き、2人は抱擁しあいます。

懐かしのキネマ その54 【タイタニック】

1912年4月10日、イギリスのサザンプトン港(Southampton)から当時史上最大の豪華客船タイタニック号(Titanic)はニューヨーク(New York) への処女航海(maiden voyage) へと出発します。2,224名の乗客と乗組員を載せて、北大西洋のカナダの東海岸、ニューファンドランド沖(Newfoundland)で氷山と衝突します。乗客には富裕層の人々の他に、イギリス(Great Britain) やアイルランド(Irland)、スカンジナビア(Scandinavia)諸国からの大勢の移民がいたといわれます。沈没によって1,500名以上の乗客が亡くなったといわれます。

映画【タイタニック】を製作、監督したのはカナダ人のジェームズ・キャメロン(James Cameron)です。『ターミネーター』(The Terminator)、『アバター』(Avatar)などを製作しています。主演はレオナルド・デカプリオ(Leonardo DiCaprio)やケート・ウィンスレット(Kate Winslet)、そして音楽を担当したのは、ジェームズ・ホーナー(James Horner)です。

上流階級の令嬢だったローズ・ブケイター(Rose Bukater) は、その婚約者のキャルドン・ホックリー (Caledon Hockley) と未亡人となった母と共にタイタニック号へと乗船します。ローズは半ば強制された婚約に気分は晴れないでいました。ブケイター家は破産寸前で母親がホックリー家の財産を目当てにした結婚を強制したのです。タイタニックには、画家を目指しているジャック・ドーソン(Jack Dawson)という貧しい青年がいます。彼は、新天地ニューヨークでの成功を夢見て、出港直前にポーカーで船のチケットを手に入れ、友人のイタリア青年と共にタイタニックに乗船するのです。

ローズは両家の政略結婚話に嫌気がさし、甲板から飛び込み自殺をしようとします。それを発見したのがジャックです。この運命的な出会いを機に、ジャックは、ローズの部屋でスケッチ画をしてやります。こうして2人は身分や境遇を越えて互いに惹かれ合っていきます。

懐かしのキネマ その53 【天使にラブソングを】

1992年制作のアメリカ映画で原題は【Sister Act】(シスターの遍歴)です。この映画はゴスペル音楽が大変素晴らしく、ぜひ読者には楽しんでいただきたい映画です。

舞台はネバダ州 (Nevada) のリノ(Reno)です。リノのクラブ歌手であったデロリス(Deloris Van Cartier)は、マフィアのボスで愛人のラロッカ(Vince LaRocca)が殺人を犯す現場を目撃し、命を狙われて追われる身となります。彼女はサンフランシスコ( San Francisco)の下町にあるカトリック教会(St. Katherine’s Roman Catholic Church)の修道院に身を隠すことになります。そこで、新米尼僧シスター・クラレンス(Sister Mary Clarence)として迎えられます。大騒動を巻き起こしながらも聖歌隊のリーダーとして、シスターたちと歌を通じて友情を育んでいきます。

デロリスは聖歌隊でも歌手としての本領を発揮します。自身のノウハウから下手な聖歌隊を鍛え上げ、退屈な聖歌をモータウン(Motown)の楽曲の替え歌にアレンジして派手なパフォーマンスを繰り広げ、保守的で厳格な修道院長との対立をよそに、一躍町中の人気者になります。「モータウン」とは、「洗練されたソウルミュージック」といわれます。

教会は伝統的に正統な讃美歌とか聖歌を歌うところですが、シスター・クラレンスは、自身のノウハウから下手な聖歌隊を鍛え上げ、退屈な聖歌をモータウンの楽曲の替え歌にアレンジして派手なパフォーマンスを繰り広げます。ゴスペル的なリズムを取り入れ、シスター達もノリノリになっていきます。そうした歌い方が気に入らないのが、保守的で厳格な修道院長のスミス尼僧 (Dame Maggie Smith)です。やがて、いつもは閑散とした礼拝堂に大きな変化が起こります。若者らがゴスペルソングを聴きに礼拝堂に集まってくるのです。そこで歌われるソングは「Hail Holy Queen」というゴスペルです。こうして閉塞感の漂う修道院にシスター・クラレンスは改革の嵐を巻き起こしていきます。

サンフランシスコで大人気となった教会にローマ教皇(The Pope)らがやってきます。シスター・クラレンスは修道院長とも和解し教皇を迎えてのコンサートを大成功に導くのです。この時、聖歌隊は「I Will Follow Him」を歌うのです。「Him」とは神とかイエス(Jesus)のことを指します。

懐かしのキネマ その52 【タワーリング・インフェルノ 】

これを越えるパニック映画は出てこないといわれる最高傑作が【タワーリング・インフェルノ】(Towering Inferno)です。1974年作の映画です。「Inferno」とは猛火とか地獄という意味です。サンフランシスコ(San Francisco)の新名所、138階建のグラスタワー(Glass Tower) が落成式を迎えます。ビルの設計者はダグ・ロバーツ(Doug Roberts)。社長はジェームズ・ダンカン(Jim Duncan)です。ロバーツはこの仕事を最後に、婚約者と砂漠で生活をするために退職を考えています。

最上階のプロムナード・ルーム(Promenade room) に300名の来賓を招いた落成式が始まる頃、ビル地下室の発電機が故障したため、主任技師らは予備の発電機を始動させます。この時、小さな火花が走り配線に火が移ると同時に、81階にある物置室の配電盤のヒューズが発火し床に燃え広がります。ロバーツのもとに、電気系統の異常の連絡が入ります。電気系統を点検すると、配線工事が自分の設計通りに行われておらずひどい手抜きであり、配線の規格も設計したものより細いことに気付き憤然とします。

サンフランシスコ消防署の消防隊長オハラハン(Chief O’Halloran)は隊員とともに消火にあたります。設計士のロバーツと初めて顔を合わせたとき、オハラハンはロバーツに向かって吐き捨てるように言いいます。「設計屋め、設計屋は高さを競い合う」と。オハラハンはグラスタワーが炎の地獄と化し通常の消火は不可能と判断します。そして海軍のヘリコプターに空からの救援を依頼しますが、強風のためビルに近づくことができません。かろうじて近づいた一機もビルに激突して炎上します。

隣りのビルからのワイヤーを結び、救命籠で客を避難させようとしますが犠牲者を出し、いきずまります。あと15分で火がプロムナード・ルームに届くというとき、防火服に身をかためたオハラハンはヘリで屋上にたどりつくと、ロバーツと協力してプロムナード・ルームの真上にある巨大な貯水槽を一挙に爆破し放水させることにします。百万ガロンに近い水の奔流で、攻め上がってくる炎を消そうというのです。もの凄い水力に押し流されて死者もでますが、消防隊の奮闘でなんとか消火しますが、200人が亡くなります。ラストシーンの別れ際も、オハラハンはバーツに手厳しく忠告します。「今にこんなビルで1万人の死者が出るぞ!」

懐かしのキネマ その51 『ライフ・イズ・ビューティフル』

1997年にイタリアで製作された名作を紹介します。【Life Is Beautiful】というイタリア人親子の目からホロコースト(Holocaust)を描いた作品です。舞台は第二次世界大戦前夜の1939年北イタリア。ユダヤ系イタリア人のグイド(Guido)は、叔父を頼りに友人とともに北イタリアの田舎町にやってきます。陽気な性格の彼は、小学校の教師ドーラ(Dora)に一目惚れし、桁外れなアタックの末に駆落ち同然で結婚して、愛息ジョシュア(Jushua) をもうけます。ドーラはユダヤ人ではありません。やがてイタリアに駐留したナチス(Nazis)ドイツによってユダヤ人に対する迫害行為が始まり収容所に送られてしまいます。

母ドーラと引き離され不安がる5歳の息子ジョシュアに対し父のグイドは嘘をつきます。「これはゲームなんだ。泣いたり、ママに会いたがったりしたら減点。いい子にしていれば点数がもらえて、1000点たまったら勝ち。勝ったら、本物の戦車に乗ってお家に帰れるんだ」。絶望的な収容所の生活も、グイドの弁術にかかって楽しいゲームに様変わりします。周囲の子どもたちと引き離されてしまった父親たちの助けや、「シャワーの日」という実際には毒ガスで殺害する日にジョシュアがシャワーを嫌って父の言うことを聞かずベッドに隠れて助かります。ジョシュアはこうして希望を失うことなく生き延びることができます。

戦争が終わりナチスが撤退する最中、ジョシュアとグイドは逃げようとします。しかし2人がドーラを探す最中にグイドは見つかってしまいます。ゴミ箱の中に隠れていたジョシュアを怖がらせないように、グイドはジョシュアにウインクし、背中に銃を突きつけられながも、ジョシュアの前をおどけて通りすぎるのです。グイドはナチスの兵士によって、ジョシュアの見えないところで銃殺されてしまいます。

ナチスの撤退後、収容所が誰もいなくなったのを見計らい、ジョシュアがゴミ箱からトボトボと出てきます。すると父が言った「1000点取ったら戦車で家に帰れる」との言葉どおり、収容所に連合軍の戦車が現われ、若い兵士がジョシュアを抱き抱え戦車に乗せます。その兵士がジョシュアを自らのヘルメットをかぶせ、お菓子を与えます。そこでジョシュアは母を見つけ再会するのです。何も知らない母に「僕たちはゲームに勝ったよ!」と告げると母はジョシュアにキスしながら「そうよ、本当に勝ったのよ」とジョシュアを褒め讃えるのです。

懐かしのキネマ その50  【グリーンマイル】

【Green Mile】という作品は、アメリカで起こった世界恐慌(Great Depression) の1930年が舞台です。ルイジアナ州(Louisiana)の刑務所死刑囚棟でポール・エジコム(Paul Edgecomb)は看守を務めています。そこに一人の大男の黒人ジョン・コフィー(John Coffey)が送られて来ます。双子の少女を強強姦殺人したという容疑で死刑を宣告されたジョンは、その風貌や罪状に似合わないほど弱く、繊細で純粋な心を持っていました。いかつい外見に反して純真な心を持っていたジョンには触れるだけで人の病を治してしまう不思議な力がありました。


ある時、コーフィは局部を掴んだだけでポールの重い尿路感染症を治してしまうのです。彼はその後も、看守の1人、パーシー (Percy Wetmore) に踏みつけられ瀕死の重傷を負わされたネズミの命を救い、これを見た看守たちは、コーフィは不思議な力を神から授かった特別な存在なのではと考え始めます。同時にポールは、コーフィが電気椅子に送られること、それを行う自分たちは大きな過ちを犯しているのではないかと悩み始めます。

しばらくして、“ワイルド・ビル(Wild Bill)という凶悪な死刑囚が送られてきます。コーフィは刑務所所長のハルの妻・メリンダ(Melinda)から吸い取った病気をすぐに吐き出さず、パーシーに移します。パーシーは錯乱状態となってビルを銃殺し、まもなく精神病院に送られます。それからコーフィはポールの手を取って双子の少女の殺人事件の真相を伝え、ポールはビルが双子の少女を殺害した真犯人だったと知るのです

しかし、コーフィの冤罪を覆す証拠は存在せず、死刑執行が決定されます。ポールたちはコーフィに脱獄を勧めるのですが、「世界中で、今も愛を騙って人が殺されている」「毎日のように、世界中の苦しみを感じたり聞いたりすることに疲れたよ」と言いコーフィはそれを拒否して死ぬことを選びます。数日後、コーフィは電気椅子に送られポールの手で処刑されます。

懐かしのキネマ その49 【ショーシャンクの空に】

原題は「The Shawshank Redemption」という映画です。冤罪、収賄、虐待、人権、友情などが入り交じった名作です。優秀な銀行員アンディ・デュフレーン(Andy Dufresne)は妻とその愛人を射殺した罪に問われ、無実を訴えるのですが終身刑の判決が下ります。そしてショーシャンク(Shawshank) という刑務所に収監されます。最初は刑務所の「しきたり」にも逆らい孤立していたアンディですが、刑務所内の古株で調達係のレディング「レッド」(Red) はアンディに他の受刑者達とは違う何かを感じ彼が気に入ります。

レッドは、屋根を修理する屋外作業のメンバーに彼を入れます。その作業の途中、アンディがハドレー刑務主任(Captain Hadley) に相続税対策について助言したことがきっかけになり、アンディは刑務官たちの資産運用や納税書類の作成などの仕事を引き受けるようになります。こうして刑務所職員からも受刑者仲間からも一目置かれる存在になっていきます。

そんなアンディを見込んだワルデン・ノートン所長(Warden Norton)から命じられ、アンディは賄賂や裏金といったノートンの貯め込んで表に出ない金を管理するようになります。アンディは刑務所内の図書室の再建や、囚人たちの教育にも熱心に取り組みます。所長は、囚人達の社会更生を図るという名目で、彼らを労働力として野外作業をさせ始め、そこからピンハネしたり土建業者達からの賄賂を受け取り始めるのです。そしてアンディは「ランドール・スティーブンス」(Randall Stevens)という架空の人物を作り出し、その多額の不正蓄財を見事に隠蔽するのです。

一方で、アンディが出そうとした再審請求はノートンにより阻まれます。ノートンの不正蓄財の事実を知り過ぎていたために、ノートンはアンディを外に出したくなかったのです。ノートンの命令により、アンディは2カ月あまりを穴倉のような懲罰房で過ごし、ようやく外に出ることが許されます。彼は元通り、所長の会計係としての仕事を続けます。

アンディにはある計画がありました。それは脱獄です。入所してから、アンディは聖書をくりぬき、その中に隠し持っていた小さなロックハンマーでこつこつと壁をくりぬいていました。その壁の穴はレッドの調達してきた映画女優のポスターで隠されていたのです。女優のポスターが何代も世代交代したのち、ようやく脱出口は完成します。そして、アンディはついにショーシャンクからの脱出に成功します。

アンディは所長の多額の不正蓄財について告発状を新聞社へ送ります。刑務所に捜査のメスが入り、ハドリー主任は逮捕され、所長は拳銃自殺します。アンディは、ノートンが貯め込んだ裏金を銀行から全て引き出しメキシコで自由の身となります。レッドは服役40年目にしてようやく仮釈放され、アンディの伝言を信じて彼が野原の木の脇に隠しておいたお金を見つけます。そこに残されたメモを見て、メキシコ(Mexico) のジワタネホ(Zihuatanejo) へ向かいます。そして、海辺で古いボートを修理し、悠々自適の生活をおくるアンディと再会を喜び合うのです。

懐かしのキネマ その48 【スターリンの葬送狂騒曲】

イギリスやフランスで作られた歴史ドラマには、なかなか興味深いものがあります。2017年に製作されたコメディ【スターリンの葬送狂騒曲】(The Death of Stalin)もそうです。題名が凄いですね。独裁者スターリン(Iosif Stalin)の死によって引き起こされるソビエト連邦政府内の権力闘争をコミカルに、しかも辛辣に描いた作品です。ロシアで上映禁止となるほど話題を集めたブラックコメディ(Black Comedy)を紹介します。

舞台は1953年の旧ソビエト連邦です。粛清という恐怖で国を支配していた絶対的独裁者スターリンが寝室で休んでいたとき、発作を起こし昏睡状態に陥いります。卒倒したスターリンの周りに、ソビエト連邦共産党の幹部たちが次々に駆けつけてきます。粛清によって有能な医師がいなくなっていた中、経験不足の若手や引退したやぶ医者までかき集めて何とか編成した医師団と看護師が、スターリンを診察します。そして「スターリンは脳出血により右半身麻痺の状態、回復の見込みはない」という医師たちの診断に、次期最高権力者の座を狙う側近たちは驚喜します。

表向きは厳粛な国葬の準備を進める一方、その裏では側近たちが後釜を狙い熾烈な争いを繰り広げていきます。スターリンの腹心だったマレンコフ(Georgy Malenkov)、中央委員会第一書記のフルシチョフ (Nikita Khrushchev)、大粛清の主要な執行者といわれたベリア(Pavlovich Berija) が3大トップとなります。そこにソ連軍最高司令官で大戦の英雄であるジューコフ(Georgy Zhukov) までが権力争いに参戦してきます。

葬儀の当日も、スターリンの遺骸の周りに立つ幹部たちは他のメンバーに対する悪口を言い合います。ベリヤが弔問客に教会の関係者を含めたことについて、フルシチョフらは「スターリン主義に反する」とさや当てする始末です。最高司令官でジューコフと組んだフルシチョフは、マレンコフを除く他の共産党幹部の同意も取り付け、ベリヤの失脚に向けた準備を進めます。葬儀後に開かれた幹部の会議でフルシチョフがベリヤの解任を提議します。ジューコフら軍人によってベリヤは連行され処刑されます。

コント的な笑いが随所にあります。スターリンが倒れ失禁します。そこに医者を呼ぼうにも名医はすでに処刑されヤブ医者しか集められないという話、閣僚会議で互いの出方をうかがって手を挙げたり下げたりで、恐怖政治が生み出した不条理な状況を笑いとペーソスで演出する映画です。

懐かしのキネマ その47 【誰がために鐘は鳴る】

1943年にゲイリー・クーパー(Gary Cooper)とイングリッド・バーグマン(Ingrid Bergman)が主演した映画です。原作は1940年にアーネスト・ヘミングウェイ(Earnest Hemingway) が発表した長編小説【誰がために鐘は鳴る】(For Whom the Bell Tolls)で、それを映画化したものです。

1936年7月、フランコ将軍(Francisco Franco) の率いる右派将軍たちの反乱をきっかけにスペイン内戦(Spanish Civil War) が勃発します。地主、貴族、資本家、カトリック教会などの保守勢力が反乱軍を支援したため、この反乱はスペインを二分するスペイン内戦に発展します。その後、フランコは枢軸国のドイツやイタリアの支援を受けて共和国派=反ファシスト (anti-fascist) の政府勢力と戦い、最終的に反乱を成功に導きます。

この内乱下のスペインで反ファシスト軍の一員としてスペイン内戦に参加したのが、カレッジでスペイン語を教えるアメリカ人ロバート・ジョーダン(Robert Jordan) です。内乱によって自由と正義が脅かされるのを黙認できず、共和国派の義勇軍に身を投じ、ゲリラ隊を(guerrillas)率います。敵の輸送路を断つために戦略上重要な橋梁を爆破する任務を背負います。

共和国派の村長を父にもったスペイン娘がマリア(Maria)です。暴徒のために髪を刈り取られ凌辱されますが、ジプシー(gypsy) の仲間に救われ、やがてロバートに情熱を寄せ二人は恋に落ちるのです。山中の洞窟にひそむジプシーの頭目がパブロ(Pablo) です。寄る年とともに、弱気になり我が身の安全ばかりをはかり、ロバートと反目します。パブロの妻はピラール(Pilar) といい、熱烈な共和派の支持者で陽気なジプシー女です。進んで銃をとりゲリラ戦に加わります。夫に代わってジプシーの頭目となります。

ロバートはゲリラ作戦を進めていくうちに、敵の作戦が変更となり、自分の任務である橋梁の爆破が無意味になることを知るのです。しかし連絡の不備から作戦は中止されず、彼は爆破が無駄になることを知りながら橋梁を爆破し、瀕死の重傷を負い、マリアらの仲間を逃がして士官に率いられた反乱軍の一隊を待ち伏せます。

懐かしのキネマ その46 【マディソン郡の橋】

クリント・イーストウッド(Clint Eastwood) が製作・監督・主演を務めて映画です。原作はロバート・ウォーラー(Robert Waller)の小説『マディソン郡の橋』(The Bridges of Madison County) です。大人のラブストーリーで、世界的に大ヒットします。アイオワ州(Iowa)にある屋根付きの橋が小説の舞台です。

アイオワ の小さな農場で主婦フランチェスカ・ジョンソン(Francesca Johnson)は、結婚15年目で単調な日々を送っています。ある日、夫リチャード (Richard)と二人の子どもたちが子牛の品評会(Fair) のため隣州へ出かけ、彼女は4日間、一人きりで過ごすこととなります。そこへ一人の男性が現れ道を尋ねるのです。彼はウィンターセット(Winterset) に点在するカバードブリッジ(Covered Bridge)のひとつ、ローズマン橋 (Roseman Bridge)を撮りにやってきたナショナルジオグラフィック(National Geographic) のカメラマン、ロバート・キンケイド(Robert Kincaid)です。

彼の魅力に惹かれたフランチェスカは、彼を夕食に招待します。そこから距離が縮まり、二人はデートの末、許されないと知りつつ恋に落ちそのまま結ばれます。最後の夜、「一緒に来て欲しい」と誘うロバートに、フランチェスカは荷物をまとめますが、ロバートは一人で去っていきます。数日後、リチャードと共に街に出かけたフランチェスカは雨の中、彼女を見つめ立ち尽くすロバートの姿を見ます。フランチェスカは乗っていた車のドアに手をかけ、彼の許へ行こうとしますが思い留まります。

1979年、夫のリチャードが亡くなり、フランチェスカはロバートに連絡をとろうとしますが、消息はわかりません。数年後に、ロバートの弁護士からフランチェスカの手許に遺品が届きます。そこには、手紙やフランチェスカが彼に手渡したネックレスとともに『永遠の4日間』という写真集が入っています。

1989年の冬、母の葬儀のために集まった長男のマイケル(Michael)と妹のキャロリン(Carolyn) が、母フランチェスカの遺書とノートを読みます。「火葬にしてローズマン橋から灰を撒いてほしい」というものです。フランチェスカのノートには「人生の全てを家族に捧げた。せめて残りの身は彼に捧げたい」という遺志が記されています。平凡だと思われていた母親の秘められた恋を兄妹は知ることになります。ようやくその遺志を理解し、後日2人の手で、彼女の遺灰はロバートの遺灰と同様、ローズマン橋の上から撒かれます。