心に残る一冊 その31 「秘太刀馬の骨」

藤沢周平の作品をいろいろと読んでいますが、この稿のあとは11月15日までしばらくお休みをいただきます。

  藤沢の小説にでてくる舞台の多くは、山形の海坂藩という架空の外様藩です。小さな藩のゆえに跡継ぎを巡る藩内のお家騒動に焦点があてられます。いろいろな策略や陰謀が巡らされるのですが、それに巻き込まれる若い剣士が登場します。我が身の保身に躍起する派閥に翻弄されつつ信念に基づき折り合いをつけて生きていきます。今の日本の政党のように党内の主導権争いを反映するかのようです。

藤沢の作品には、あまり激しい申し合いや立ち回りは描かれません。ですが「秘太刀馬の骨」という時代小説は、剣の秘業を誰が継ぐのか、どのような秘太刀なのかは読者の興味をそそります。それを求めて剣士は修行するのです。それがこの「秘太刀馬の骨」です。「秘太刀馬の骨」の業とは「相手の懐にもぐりこみ、相手の剣の下をかいくぐりつつ、首の骨を両断し絶命させる剣」といわれます。

家老の小出帯刀より、浅沼半十郎と石橋銀次郎はある任をうけます。それは六年前に家老の望月を暗殺した秘太刀「馬の骨」を探すことでした。帯刀の甥である石橋銀次朗と共に、「馬の骨」を伝承された可能性のある剣士を探し回るのです。そして不伝流矢野道場の道場主と高弟5人に死を賭して立会いを挑むのです。