「保守的」あるいは「伝統的」という語は、文脈によっては、礼拝や神学において保守的あるいは伝統的ではあっても、福音派と呼ばれるグループとは様々な点で見解を異にする場合に用いられることもあります、プロテスタント内で「保守的」あるいは「伝統的」と評される者がいたとしても、それがそのまま福音派と同義であるとはいえません。また、「保守的」と「伝統的」は時に対立概念にもなりうると理解すべきです。
福音派についてしばしば形容される「保守的」とは、多くの場合「伝統的」という意味とは相反しています。福音派はむしろ礼拝様式などの文化的要素に関しては、従来の教派に見られる伝統性を不純で旧教的なものと見なして否定し、簡素化し現代化する傾向が強いのです。「保守的」でありながら「非伝統的」といえるでしょう。
アメリカに拠点を置くのが、ルター派の一派であるミズーリ・シノッド(Missouri Synod)やウィスコンシン・シノッド(Wisconsin Synod)です。ミズーリ・シノッドの正式名称は、The Lutheran Church—Missouri Synod、略称LCMSと呼ばれ、全米で200万人以上の信徒をもち、聖書の権威や伝統的な教えを大切にしています。ウィスコンシン・シノッドの正式名称は「ウィスコンシン福音ルター派教会、略称Wisconsin Evangelical Lutheran Church:WELCで、アメリカにある保守的な古ルター派教会のひとつです。聖書の無謬性を厳格に信じる伝統的な立場をとっています。こうしたルーテル教会は、思想的には保守的で福音派と共通する面が多いのですが、礼拝様式などの面では改革派の影響を受けたドイツのルター派よりも伝統的であり、福音派のグループとは距離を置いているのが特徴的です。
また、広義のプロテスタントとも見なされうる聖公会(Anglican Church)のうち、「アングロ・カトリック」とも呼ばれるハイ・チャーチ(High Church)では、ローマ・カトリックから受け継いだ「伝統的」でありながら「非保守的」な例です。他方、ハイ・チャーチの対義語でありプロテスタント的な要素が強いロウ・チャーチ(Low Church)と呼ばれるグループでは、その逆のケースもあります。
ハイ・チャーチの「High」という言葉は、教会の権威や聖礼典(sacramento)の価値を「高く評価する」ことに由来します。歴史的な教会の伝統や使徒継承を重んじ、カトリック教会に近い華やかな衣装、香を焚く、聖餐式の強調などの儀式を大切にします。他方、ロウ・チャーチの「Low」 という言葉は、教会の権威や儀式の重要性を最小限に留めることに由来します。16世紀の宗教改革の精神を強固に受け継ぎ、儀式よりも「聖書のことば」や「個人がキリストとどうつながるか」を最優先します。形式的な儀礼を避け、説教を中心に据えた簡素な礼拝を行うのが特徴です。福音派の教会は、ロウ・チャーチなのですが基本的には「中道の教会」を自認します。それでも他のプロテスタント諸教派に比べれば伝統的な面が強いといえましょう。
現代的な立場から伝統的と保守的の違いを記してこの稿の終わりとします。伝統的とは、昔から受け継がれてきたものを重視することです。たとえば、お祭りとか歌舞伎の仕草などです。他方、保守的とは、今あるものを急激に変えず、現状を維持することを重視することです。別な例でいえば「伝統的な結婚観」といった場合は、 昔からある結婚の形式や価値観を大切にする、という意味です。
他方「保守的な結婚観」とは、結婚や家族のあり方を大きく変えることに慎重で、従来のあり方を維持しようとする、という意味です。ここが重要で、伝統的だからといって必ずしも保守的とは限りません。たとえば、伝統文化を大切にしながら、新しい技術や社会制度を積極的に取り入れる人は「伝統的」ではあっても、必ずしも「保守的」ではありません。逆に、「昔からの伝統」そのものを特に重視していなくても、社会の急激な変化を避けたいという考え方なら「保守的」と呼べます。
まとめると伝統的とは「昔から続いているものを大切にする」ことであり、保守的とは「今あるものを大きく変えないようにする」ことといっておきましょう。



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