政治教育の意義 その4 ボイテルスバッハ・コンセンサス

ドイツの平和教育や政治教育を語る上で、法律以上に実質的な拘束力を持つのが「ボイテルスバッハ・コンセンサス(Beutelsbacher Konsens)」という教育原則(ガイドライン)です。1876年に旧西ドイツのボイテルスバッハで開かれた政治教育の専門家会議で確立された、政治教育における最も重要な3つの原則のことです。政党や教育関係者の議論によって確立されたもので、現在も厳格に守られています。

岡 裕人 (著)

① 教え込むことの禁止:
教師が自分の政治的意見や「これが正しい平和の形だ」という価値観を生徒に押し付け、教え込むこと(インドクトリネーションーindoctrination)は厳しく禁止されています。生徒が自立的に判断する権利を奪ってはならないという規制です。

② 異論のあるものは論争的に扱うこと:
社会や政治の場で意見が分かれている問題、例えばウクライナへの武器供与の是非、NATOの役割、軍事抑止力 vs 非暴力主義などは、学校の授業でも「意見が分かれている状態のまま」提示しなければならないというルールです。教師が一方の立場、例えば完全非暴力のみだけを正解として教えてはなりません。

③ 生徒自身の利害関心の重視:
生徒が自分自身の政治的状況や利害を分析し、主体的に政治や平和のプロセスに参加できるように支援しなければなりません。

 ボイテルスバッハ・コンセンサスとは、ナチス・ドイツによる全体主義的な政治宣伝であるプロパガンダへの猛省から生まれたもので、現代でも民主主義社会における主権者教育の国際的な指針とされています。

 これには3つの絶対的な原則があります。

 連邦軍の学校訪問を巡る議論と規制があります。平和教育の現場で、近年特に法法的・政治的な議論の的となっているのが「連邦軍の広報官(Jugendoffizier:青少年担当将校)による学校訪問」です。

 安全保障政策や平和維持活動について説明するために将校が教壇に立つことがあります。これに対し、「学校が軍の採用活動やプロパガンダの場になっているのではないか」という批判が根強くあります。

 しかし、ここでもボイテルスバッハ・コンセンサスが適用されます。将校が授業を行う場合、教師が必ず同席し、軍の視点だけでなく、NGOや非暴力の紛争解決などの平和団体の視点も同時に、あるいは別の機会に紹介することで、論争性というバランスを保つことが法的に求められます。

 まとめとしてドイツにおける「原則」の本質に関してです。ドイツの法律や教育原則における規制は、「特定の政治的テーマを教えてはならない」という一検閲的な規制ではありません。むしろ、「特定の価値観だけを正しいと教え込むこと」を厳格に規制しています。過去の全体主義への反省から、「何が本当の平和か」を生徒自身が多様な視点から批判的に考え、議論できる力を養うことこそが、ドイツの平和教育の核心となっています。

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