なぜ琉球がアジアのハブになれたのか?

琉球がこれほど栄えた理由は、大きく3つあります。第一は、地理的優位性です。琉球諸島は、日本本土、中国大陸、台湾、そして東南アジアを結ぶ海のルートのちょうど要石に位置しています。季節風を利用して南下・北上する帆船にとって、絶好の寄港地だったのです。第二は、平和外交への徹底です。琉球は強力な軍隊を持たない代わりに、全方位に礼を尽くす外交を展開したことです。独自の外交文書集である『歴代宝案』には、東南アジアの国々と交わした平和的な交易の記録が克明に残されています。第三は、万国津梁という精神です。首里城正殿に掛けられていた有名な「万国津梁の鐘」には、次のような言葉が刻まれています。「琉琉球国は南海の恵まれた場所にあり、韓国、中国、日本の間にある。船を操って万国の架け橋となり、異国の産物が国中に満ち溢れている。」

(冊封使と尚王との会見 AIによる作成)

 やがて、大交易時代の終焉16世紀後半になると、琉球の中継貿易は徐々に衰退へと向かいます。原因は、ポルトガルやスペインなどヨーロッパ勢力の東アジア進出、中国(明)の海禁政策の緩和による民間貿易の活発化、そして日本国内の政情の変化でした。琉球が独占していた「独占的なハブ」としての価値が薄れていったのです。そして1609年、薩摩藩による琉球侵攻を受け、王国は日本の支配下に組み込まれつつ、中国との朝貢貿易も継続するという「二重支配」の歴史へと移り変わっていくことになります。

 1609年に薩摩藩の島津氏が軍勢を率いて琉球に侵攻した際、琉球王国は激しい抵抗の末に降伏しました。これ以降、琉球は「薩摩藩」の支配下に置かれながらも、表面上は独立国家として明、のちに清との朝貢関係を続けるという、世界史的にも極めてユニークな「日中両属」の時代を生き抜くことになります。この複雑な状況下で、琉球がどのようにして王国を維持し、生存を図ったのかです。まず前提として、この二重支配は琉球の意志だけでなく、支配する側の薩摩藩や江戸幕府の強い意向によって作られたシステムでありました。当時、徳川幕府と明・清の間に国交はなかったのですが、中国の高級な生糸や漢方薬などの物資は、日本にとってどうしても必要なものでした。

(薩摩藩が首里城へ AIによる作成)

 そこで薩摩藩と幕府は、「琉球を独立国家のままにしておき、中国と朝貢貿易を続けさせ、その利益を薩摩が吸い上げる」という戦略に変わるのでした。これが成立するためには、「琉球が日本の支配下にあることを中国に絶対に知られてはならない」という絶対条件がありました。もし知られれば、中国は激怒して朝貢貿易をストップさせてしまうからです。

 琉球を独立国家としておくためには、徹底された隠蔽工作が必要でした。中国の使者である冊封使が新しい琉球国王を任命するために首里城へやってくる際、琉球と薩摩藩は総力を挙げて日本色を隠し通したのです。例えば、普段は那覇に駐在している琉球在番奉行などの薩摩の役人は、中国の使者が滞在している間、本島北部の山奥や離島へ完全に身を隠したのです。さらに、那覇や首里の街から、日本の元号が書かれた文書、日本の書籍、日本風の衣服や髪型、さらには日本の寛永通宝など貨幣に至るまで、日本を連想させるものを一切撤去し禁止するという徹底さでありました。

 薩摩藩から琉球へ出す命令書も、中国の使者に見つかるリスクを考慮し、慶長や寛永などの年号ではなく、あえて干支で日付を記載する徹底ぶりでした。琉球国は日本の支配を受けつつも、中国の前では「自分らは独立した琉球王国である」という芝居を完璧に演じ続けたのです。こうして「偽装」を徹底したのです。

 琉球存続のために、琉球の政治家や知識人たちは、ただ利用されるだけでなく、日本にとって『独自の異国』であり続けることこそが、王国の滅亡を防ぐ唯一の道であると見抜いていました。もし琉球が完全に薩摩化してしまえば、中国との貿易資格を失い、薩摩藩のただの島々として完全に吸収されて王統も途絶えてしまうと恐れたのです。そのため、琉球はあえて「中国風の文化や独自の礼節」をより洗練させる道を選んだのです。

 17世紀後半から18世紀にかけて、摂政として活躍した羽地朝秀や蔡温らは、国家の地盤を固める改革を行いました。羽地は、薩摩藩の支配下で財政難と社会の混乱に陥っていた王国を立て直すため、初の正史「中山世鑑」を編纂し、王国の正統性を明文化するのです。同時に綱紀粛正と産業振興を目指す改革「羽地仕置」を断行したのです。 蔡温は、18世紀の琉球王国で三司官、現在の首相に相当する者として活躍した政治家で学者でした。中国の風水や儒教を取り入れた実学を駆使して、治水事業や農政や林政の改革を行い、王府の財政再建と琉球王国の近代化の基礎を築いたといわれます。

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