Last Updated on 2025年6月21日 by 成田滋
今アメリカ議会の公聴会で、トランプ大統領の命令で「不法移民摘発」と「国境の内側での犯罪取締」を行う連邦機関が、不法滞在者の摘発し強制送還していることを非難し論議されています。大統領が議会の承認なしに不法滞在者一斉強制送還を命じたのは違法ではないかという指摘です。
この大統領の行為に対して、異議を唱える議会議員は、「ヘイビアス・コーパス(Habeas Corpus)」という原則を強調するのです。「ヘイビアス・コーパス」とは、不当に拘束されている人の身柄を裁判所に提出させ、その拘束の合法性を審査させるための令状、またはその制度のことです。Wikipediaによると 「不当な拘束からの解放を目的とする、人身の自由を保障するための重要な制度」とあります。別名、人身保護令状と呼ばれています。ラテン語 Habeās Corpusでは「身柄を提出すべし」あるいは「身柄を持参すべし」を意味します。
アメリカ合衆国の法制度において、大統領の権限、議会の役割、そして憲法で保障された「ヘイビアス・コーパス」の原則が交錯するこの問題は、合衆国憲法の根幹に関わります。合衆国憲法 第1条 第9節には次のように謳われています。
「公共の安全が要求する場合を除き、「ヘイビアス・コーパス」の特権は停止されてはならない。」
つまり、戦争・反乱などの非常事態を除いては、政府は勝手に人を拘束できず、裁判所の審査を経る必要があるという強力な人権保障の柱です。大統領は、連邦移民法(Immigration and Nationality Act)などに基づいて、移民・関税執行局(Immigration and Customs Enforcement: ICE)などの連邦機関に不法滞在者の摘発・退去を命じることができます。しかし、大統領の権限は法律に基づいて行使されるべきであり、法の適正手続き(due process)を無視することはできません。仮に、大統領命令で移民を拘束・送還する場合でも、当事者が裁判所に対して「ヘイビアス・コーパス」を請求する権利は奪えません。
大統領は議会の立法によって権限を与えられた範囲内でのみ行動可能です。退去命令や拘束などを行うにあたり、議会の承認なしに恣意的に行えば、司法手続き違反や人権侵害という憲法違反になる可能性があります。特に、「ヘイビアス・コーパス」の停止は議会の特別承認が必要であり、大統領単独ではできません。
現在の論点ですが、不法滞在者が「ヘイビアス・コーパス」を通じて不当拘束を訴えることができるかです。答えはイエスです。合衆国憲法の下で、市民でない外国人であってもアメリカ国内にいる限り、一定の憲法上の権利(自由権)は保護されます。
大統領が議会の承認なしに一斉強制送還を命じた場合、違憲かどうかです。答えは、その可能性が高いといわれます。法の適正手続きを踏まえずに行えば、裁判所により違憲判決が出されることが考えられます。結論からいえば、大統領は議会の定めた法律に基づいてのみ不法移民の摘発・退去を命じることができます。「ヘイビアス・コーパス」の権利は憲法で守られており、大統領が一方的に無視することはできません。議会の承認なしに、その権利を停止したり、大規模強制送還を命じることは、憲法違反の疑いが極めて高くなります。
