ハルと新行動主義心理学

ハル (Clark Hull)は学習心理学を専門とし、20世紀中葉において最も影響力の大きかった心理学者の1人といえます。その方法は、観察しうる現象を数量的なデータで測ることを重視することです。確かに、数字を示すことは研究が科学的であるかを問われるときには非常に役に立つ便法です。その延長上で心を研究すること、すなわち目に見えない対象をなんらかの方法で測定するならば、見えない心も科学的な研究が可能ではないかというのがハルの主張です。見えないものを数値化するとは大変な作業なのですが、、

ハルの方法は新行動主義 (neo-behaviorism) と呼ばれています。学習の理論を数学的に厳密化すること、また精神分析の諸概念を学習理論に統合することを目指します。先に仮説を立て、実験による検証をする仮説演繹法を導入し、行動や学習の過程を数式で表すという便法です。後にハルは催眠の研究にも業績を残しています。

ハルの貢献は、刺激と反応の間に介在する人間内部の諸要素、有機体(organism) を考慮する新行動主義を提唱します。有機体の内的要因、別称認知要因として有機体の論理的構成概念を新行動主義に持ち込むこむのです。それによって認知心理学の有り様をこの「方法論的行動主義」によって導こうとしたことです。認知過程という目に見えない心の働きを行動のデータに基づいて分析するという方法は、方法論的行動主義がなければ生まれなかったかもしれません。ですが、なぜ同一の刺激や状況において個体は異なる反応を示すのかに答えるのは簡単ではありません。

心理学の研究対象に心とか魂とか意識を持ち込んだハルにも、もしやして矛盾があったのではないか思われるふしもあります。それは客観的に測定することが科学の条件であると考える狭い意味での科学という定義からすれば、彼の方法論的行動主義は、はたして行動主義なのかということです。ハルは、方法論的行動主義は科学の分野に位置づけられることに期待していたと考えられます。

後述するドナルド・マイケンバウム (Donald Meikenbaum) による認知的行動療法は、遡ればハルの影響を大いに受けているといえます。かつては水と油といわれた認知と行動の定義を統合するような論を提起します。

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