感謝祭と勤労感謝の日

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 1977年11月26日、高速道路(インターステイト−94)は冷たい風と小雪が舞う天気でした。留学最初の晩秋です。頂戴していた地図を頼ってウィスコンシン州のマディソンからミルウオーキにお住まいのルロイ・ハスという元宣教師宅に着きました。感謝祭の晩餐にお招きいただいたのです。この先生はドイツ系福音派の方で、代々靴屋を生業としていたそうです。私の靴を見て「新しく良さそうな靴だね」と声をかけてくれました。「これはマディソンのモールで買いました」と説明しました。

 ハス牧師は、戦前は中国の内陸で、戦後は日本での伝道に20年あまり従事していました。ですから日本語には全く不自由しません。私も家族もまだ英語の壁がありましたので、くつろぐことができました。感謝祭の宴はさして豪華ではありませんが、賛美歌を歌い短い奨励という感謝祭の意義を語るハス牧師の言葉に聞き入りました。それから夕餉が始まりました。

 エプロンをつけたハス牧師自らが七面鳥の丸焼きにナイフをいれて、細かく切り分けます。この役割はご主人が受け持つのが伝統だそうです。肉は白い部分と灰色の部分に分けられます。白いのは味が鶏肉に似ています。灰色のは少し粘り気があります。皿に盛られた肉が手渡しされてそれを少しずつ自分の大皿に盛りつけます。七面鳥のお腹の中には、スタッフィングという乾燥させた角切りのパン、米、野菜や果物などを混ぜた詰めた中身が入っています。肉からの汁が染みて美味しいものです。

七面鳥の肉にかけるのがグレイビーソース。このソースはマッシュポテトにもかけます。そして肉に添えるのが甘酸っぱいクランベリーソースです。食事が終わるとパイやケーキがデザートとしてでます。どれもミセス・ハス手作りの品です。これにアイスクリームをのっけていただくのが習わしです。

 家の中は暖房が効いてお腹もいっぱいになり心地よい気分です。テレビでは感謝祭の日の恒例行事、アメリカンフットボールが放映されています。皆家族で感謝祭の食事をしているので、視聴率が高いのです。その夜はハス牧師のお宅に家族5人が泊まりました。初めてのアメリカでの感謝祭でした。もうあれから47年が経ちます。ハスご夫妻は既に召されています。

 11月23日が近づきました。勤労感謝の日です。 「勤労を尊び、生産を祝い、国民がたがいに感謝しあう」として1948年に制定されました。勤労感謝の日の前身は、古くから日本にある新嘗祭(にいなめさい)という祭りです。これは新米の収穫を神に感謝するための祭りで、おもに皇族が行ってきました。時代を経て、11月23日は神への感謝から労働をするすべての人への感謝の日へとなりました。

 万国に共通することは、実りと収穫という恵みに感謝する行事があることです。収穫へ感謝を示すとは、見えざる手に対して畏敬の念を表すことです。それがどのような神であれ仏であれ、感謝するという行為がなにかの形で現れます。

 なぜ感謝するのかです。それは私たちがなにかに、誰かに支えられていることに気づくからです。仏教では「知恩」という言葉があります。恩を受けていることを知るということです。そこから「布施」という与えることを意味する行為が生まれるといわれます。恩に報いることです。

 「どんなことにも感謝しなさい」という聖句があります。「ありがとう」はわたしたちの生活の土台になるものです。私は、家内にそれを素直に言葉に表わすことができません(..;)。「Thank you」は「Think of you」からきているともいわれます。「あなたのことを考えること、思うこと」が感謝の土台にあるというのです。勤労感謝の日は、大切な人々に心からの「ありがとう」を伝える日です。家族や友人、近所の人たち、働く人たちが私たちを支えてくれることに感謝をする日でもあります。

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Thanksgiving −The Legend of John Carver