我が北海道大学合唱団OB会が「どちりなきりしたん」という合唱組曲を歌われるのを聞いて、バチカン図書館蔵の「Doctrina Christam」影印を撮ってみました。1600年刊行とあります。
「ドチリナ・キリシタン」というのは、戦国時代から江戸時代初期にかけて、イエズス会(Jesuits)の宣教師たちが日本での布教のために作成したキリスト教の初歩的な教理書(カテキズム: Catechism)です。もとは、ローマ・カテキズム(The Roman Catechism)というローマ公教要理に依拠しています。江戸時代の禁教期、キリスト教の教えを記した書籍が没収・焼却されるなか、信者たちが口伝、あるいは書き写して守り抜いたものといわれます。キリシタン史研究の権威であったc教授による校注や現代語訳は、難解な古語や宗教用語を理解するための重要な資料となっています。
「ドチリナ」は「Doctrina」というラテン語で、「教義とか教理」を意味します。「キリシタン」は、もちろんキリスト教徒で切支丹とも呼ばれていました。「ドチリナ・キリシタン」は、当時のキリシタンが知っておくべき基本的な教えをまとめた教理書です。「ドチリナ・キリシタン」は対話の問答体で書かれているのが特徴で、信者が抱く教理への質問に指導者が答える形で進んでいきます。
その教理とは「十戒: Ten Commandments」という守るべき10の戒律、「主の祈り」や「聖母マリアへの祈り」などの祈祷文、三位一体(Trinity) の教え、七つの大罪(Seven Deadly Sins)についての教義、そして洗礼といった儀式の秘跡のことです。ルーテル教会では、マルティン・ルターが1529年に著した「小教理問答書」(Small Catechism)が使われています。この問答書は、「ドチリナ・キリシタン」にあたります。
「ドチリナ・キリシタン」を基にした、混声と男声合唱曲があります。千原英喜が作曲し5つの作品からなります。歌詞では、キリスト教の概念を説明するために、天主(デウス)や、おらしよ(オラショ=祈り)といったキリスト教特有の語彙が表れています。海老沢は、これらキリシタン文献を読みやすく書き起こすことを精力的に行った学者です。彼の業績によって、一般の読者も戦国から江戸初期にかけて日本に定着しようとしたキリスト教の精神性や、南蛮文化の深さの一端を知ることができるようになりました。

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