トールマンの目的的行動主義とは

エドワード・トールマン(Edward Tolman)は、認知心理学の先駆けとなった心理学者といわれます。マサチューセッツ工科大学(MIT)を卒業後、ハーバード大学 (Harvard University)で学位を取得し、カルフォルニア大学 (University of California, Berkeley) の教授になります。その後ドイツに留学しゲシュタルト心理学に触れたことが、その後の理論形成に大きな影響を及ぼしたといわれます。

トールマンは迷路走行などを使い、ネズミの学習実験に従事し、ネズミの目的的な行動を観察します。行動は常に目標に向かって生じるという説をたてるのです。いわば認知的な学習をするというのです。トールマンによれば、人は環境を認知して行動しているため、人がどのように環境を見ているのか、また行動の目的とそれを導く手立てや媒介するものを知らなければならないと主張します。こうした仲介となる変数を主張することは、ワトソンの行動主義や媒介過程を徹底的に無視するスキナーの行動主義とも異なります。それ故に「目的的行動主義」(Purposive Behaviorism) とか、ハルも研究していた「新行動主義」(Neobehaviourism) などと呼ばれることもあります。こうした理論は、ゲシュタルト心理学との親和性が強い認知説を反映しているといえます。

彼は、すべての行動は目標に方向づけられているとし、学習は目的に関わる高度に客観的な証拠事実であると述べます。外部の世界にある部分的なサイン(sign)を見出すことで、問題解決のヒントとなる「認知地図」を作成するの学習過程であるというのです。部分から全体性(ゲシュタルト)が予測されることで行動が形成し変化すると主張します。ですから行動というのは、刺激(独立変数)と反応(従属変数)の直接的な結合ではなく、その間に媒介変数としての内的過程が介在すると主張します。この学習理論は潜在的学習(Latent Learning) と呼ばれます。

行動主義は心理学に革命をもたらしましたが,ほどなくその極端な主張への反省が生まれます。トールマンの立場はゲシュタルト心理学ともを持つものであり、後の認知心理学の誕生を準備したともいえる心理学者です。トールマンは学習とは、単なる刺激によって促進されるのではなく、信念とか態度、変わりうる状況によって動機づけられ目的を果たすものだといいます。学習には外的な強化は不必要だともいいます。日本でも1990年代になって内発的動機づけの研究が盛んになりました。

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