教育省を停止または廃止できるか

Last Updated on 2025年6月1日 by 成田滋

 以前、この欄で「大統領令と連邦教育省の閉鎖」という話題を取り上げました。このようにトランプ政権やその他の保守派政治家が「アメリカ連邦教育省(Department of Education)の廃止」を謳っていますが、結論からいえば大統領が単独で教育省を廃止することはできません。これは、連邦議会(Congress) の承認が必須だからです。連邦教育省は、1979年に制定された連邦法(Department of Education Organization Act)に基づいて設立されました。この法律を変更または撤廃しない限り、教育省を廃止することはできません。教育省の設立は法律に基づくものであることです。教育省を廃止するには、以下のようなプロセスが必要です。

 下院か上院の議員が教育省廃止の法案を提出をします。もし上下両院で可決されるとします。それを大統領が署名すれば廃止が決まります。しかし、議会が廃止の法案を否決するとします。それに対して大統領が拒否権を発動することも考えられます。その場合、議会が再可決することによって大統領の拒否権を覆すことができます。このことによって教育省は存続することになります。このように、教育省の廃止は立法プロセスを経なければならず、議会の多数派の支持がなければ実現は不可能です。ただし、大統領は連邦政府の予算案に影響力を持っており、教育省の予算を大幅に削ることで、機能を弱体化させるという戦略は理論的には可能です。しかしこれも、最終的には議会が予算案を承認しなければならず、やはり議会の支持が不可欠です。

 過去にも教育省の廃止が議論されたことはあります。レーガン政権と第一トランプ政権のときです。ですが実際に廃止されたことは一度もなく、政治的にも現実的ではないと広く考えられています。教育は州の権限が強い分野ではありますが、連邦政府が教育支援や規制、例えば特別支援教育、タイトルIX(Title IX)、学生ローンなどに果たす役割も多く、完全廃止は非常に困難です。

 特別支援教育の分野でに有名な立法は「障がい者教育法 (Individuals with Disabilities Education Act: DEA)」です。通称、「Public Law 94-142」といわれています。障がいのある生徒一人ひとりのニーズを満たすために特別にデザインされた教育で、無償で提供されています。次にタイトルIXとは、1972年に制定されたアメリカの連邦法で、連邦政府から財政援助を受ける教育機関における性別に基づく差別を禁止するものです。具体的には、教育プログラムや活動への参加を性別を理由に排除したり、その恩恵を拒否されたり、差別を受けたりすることを禁じています。

 連邦政府が提供する学生ローンは「Direct Loan」と呼ばれています。大学などの高等教育の学費を賄うために学生自身や保護者が借り入れるローンです。奨学金と異なり将来返済義務があります。2023年9月に新型コロナのパンデミック(pandemic)の影響を受けた学生たちを救済するため3年前にトランプ政権が始め、バイデン政権が継続してきた連邦学生ローンの返済猶予(repayment deferment)が終了しました。これにより3年間学生ローンの元金と利息の返済を猶予されてきた学生たちの返済が再開されたが、返済が出来ない学生が続出し大きなニュースとなっています。

 結論としては、トランプ大統領が教育省を廃止すると宣言しても、実現には連邦議会の承認が必要です。大統領単独では法的に廃止できません。

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