Last Updated on 2025年5月27日 by 成田滋
ポスドク研究者の二回目の話題です。ポスドク研究者の分布です。工学博士号取得者の85%は、最初はビジネス界や産業界に就職する可能性が高いといわれます。このように、博士課程の学生やポスドク研究者に非学術職に必要なスキルを提供することは、大学院や研究機関の重要な役割の一つともなっています。「アメリカの技術・教育・科学における卓越性に関する意味ある促進機会の創造法」、別名「アメリカCOMPETES法」は、学際的な履歴、選択した分野における深い知識、そして技術的、専門的、そして個人的なスキルを備えたアメリカの博士号取得科学者・技術者を教育するという使命のために作られます。
この法律は、国立科学財団(National Science Foundation: NSF)に対し、従来の学問分野の垣根を越えた共同研究のための豊かな環境の中で、大学院教育と研修の新たなモデルを確立し、資金を提供することを目的としています。また、学生の参加と準備における多様性を促進し、世界レベルで幅広い包摂性とグローバルな視点を持つ科学・工学系人材の育成に貢献することも目的としています。
アメリカでは、1990年代半ば以降、生命科学および医科学分野への連邦政府の資金提供が増加したため、生命科学が他の分野よりも大きな割合を占めるようになっています。ある調査によると、ポスドク研究者の54%が生命科学を専攻し、物理科学、数学、工学を専攻した研究者は28%です。2010年には、一時ビザで滞在するポスドク研究者の割合は53.6%に達します。生命科学分野は、一時ビザで滞在するポスドク研究者の割合が最も高く、 2008年では生命科学分野のポスドク研究者の約56%は一時滞在者でした。これらの一時滞在ビザを持つポスドク研究者のうち、5人に4人はアメリカ以外で博士号を取得しています。
こうした実情から、外国人博士号取得者がアメリカの研究者のポスドク研究のポストを奪っているのではないかという懸念が出されています。外国人博士号取得者の流入は、即戦力となる研究者の供給、ひいては賃金に影響を与えています。ある推計では、外国人ポスドク研究者の供給が10%増加すると、そのポジションの賃金は3~4%低下するという報告もあるほどです。
2010年、カリフォルニア州のポスドク研究者は、差別やセクハラの疑いがある場合に、正式な苦情処理手続きを通じて苦情を申し立てる権利など、より良い労働条件を確保するため、「UAW Local 5810」という労働組合を結成します。カリフォルニア州では、新規ポスドクは少なくともアメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health: NIH)のポスドク最低賃金(2019年時点で5万ドル)を受け取り、多くのポスドクはNIHのガイドラインにそって年間5%から7%以上の昇給を受けています。
2014年、ボストンのポスドク研究者は、若手研究者の視点から生物医学研究の現状に関する課題のために、「研究の未来」シンポジウムを開催しました。会議には、科学事業に関心を持つ学者とのパネルディスカッション、マサチューセッツ州選出のエリザベス・ウォレン(Elizabeth Warren)上院議員からのビデオメッセージ、トレーニング、資金調達、生物医学労働力の構造、白書の推奨事項を作成するために使用された科学における指標とインセンティブについてのワークショップが含まれていました。 この会議は、ニューヨーク大学(NYU)やシカゴ、サンフランシスコに広がり、ボストンでの2回目の会議では、データ収集、労働経済学、科学への変化を推進するための証拠に基づく政策や若手研究者の将来について議論されたといわれます。

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