Last Updated on 2025年5月24日 by 成田滋
今アメリカの大学は夏休み。そこに降ってわいたようなニュースです。数カ月後に授業が始まるまで、入学が許可された海外からの新入生や留学生は、トランプ政権によって「留学生受け入れ資格を取り消されるかもしれない」という事態です。特に、ハーヴァード大学はその渦中にあります。ハーヴァード大学に在籍する留学生は約6,800人。在学中の留学生は転校しなければ、アメリカでの滞在資格を失うかもしれないようです。それに対してハーヴァード大学は5月22日に国土安全保障省(Department of Homeland Security)が出したビザの剥奪?という措置が合衆国憲法修正第1条および適正手続きの権利などを侵害しているとして、マサチューセッツ州の連邦地方裁判所に訴状を提出しました。
今回のトランプ政権の外国人留学生に対する発表は、2020年に「オンライン授業のみの大学に在籍する留学生は、ビザの維持ができず、アメリカから出国しなければならない」というトランプ政権の方針に関連しています。これはCOVID-19によるパンデミック下での対応でしたが、ハーヴァード大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)が提訴し、連邦地裁が一時差し止めの判断を下したという経緯があります。
日本からの留学生約100人を含め、留学生が約6,800人もいるハーヴァード大学にとって彼らの授業料は、重要な資金源となっているはずです。どの大学も留学生を積極的に受け入れる理由は、多額の授業料収入があるからです。トランプ政権はその収入源を絶とうとしています。税制上の優遇措置を中止するとも発表しています。それにもまして、ハーヴァード大学をはじめとする大学が「留学生受け入れ資格を取り消される」という事態が起きた場合、頭脳流出(brain drain)が起こる可能性は非常に高いといえます。このような頭脳の流出は、他の英語圏のエリート大学には優位性を与えることになります。
少し遡って4月14日にトランプ政権は、ハーヴァード大学に対して、多様性重視のプログラム(Diversity, Equity & Inclusion:DEI)の廃止を迫っています。これは、ハーヴァード大学やコロンビア大学の多様性を重視した学生選抜、反ユダヤ主義の活動に関与した学生への処分を求め「学生・交流訪問者プログラム」(Student and Exchange Visitor Program)の認定の取り消しを伝えるのです。すでに130以上の大学で1000人以上の留学生のビザが取り消しにあっているという報道もあります。
ハーヴァード大学の研究に対する圧力は酷いものがあります。ハーヴァード大学に対して、トランプは22億ドル(3200億円)の助成金を凍結し、マサチューセッツ州の医療研究向けの助成金10億ドル(1400億円)の差し止めも検討しています。科学誌ネーチャー(Nataure)によりますと、研究プロジェクトが停止されれば、研究者の約1600人の75%が海外への移動を考えているとあります。さらにアメリカ航空宇宙局(NASA)に対して研究予算の半減を提示しています。海洋大気庁 (National Oceanic and Atmospheric Administration: NOAA)の職員を20%削減する計画も発表されています。そうした事情を背景としてか、EU=ヨーロッパ連合の委員長を務めているウルズラ・フォンデアライエン(Ursula von der Leyen)は、5億ユーロ(8億1,000万円)という科学者を招聘するパッケージを発表しています。
アメリカの大学には、世界中から優秀な学生が集まっています。ハーヴァード大学のような大学では、博士課程や研究職に進む留学生も多く、科学技術・医学・経済などの分野で将来有望な人材が多数含まれています。アメリア人のノーベル授業者の4割は外国移民です。滞在資格が剥奪されれば、彼らは母国か他国、例えばカナダ、イギリス、ドイツなどへ移るでしょう。頭脳流出によるアメリカの研究・技術革新への影響は甚大です。多くのイノベーションやスタートアップは、留学生を含む研究者やエンジニアによって支えられています。
特にSTEM分野(科学・技術・工学・数学)では留学生の存在は欠かせません。彼らがアメリカを去れば、研究開発力の低下や経済競争力の喪失につながります。ハーヴァード大学には日本人研究者はおよそ150人が働いています。彼らも日本の硬直した運営組織である大学や研究機関ではなく、海外の研究機関を選ぶと考えられます。 多くの中国人家庭でさえ、子弟をイギリスや香港を進学先として検討し始めているようです。ただ中国の最も裕福な家庭は、他よりもアメリカの大学教育が依然として超富裕層への一定の引力や影響力を持っているといわれています。
