Last Updated on 2025年4月5日 by 成田滋
「ステルス(stealth)」という言葉が軍事分野で使われています。ステルス戦闘機といった具合です。レーダーで捕捉されにくいという性質があり、これを有する航空機をステルス機、艦艇をステルス艦と呼ばれています。ステルス(stealth)とはこっそりとか密やかという意味です。もとはといえば、「盗む」(steal)が語源となっています。コンピュータ分野では、アンチウイルスソフト類の検出を逃れる技術や、ネットワーク型の侵入検知システムをすり抜けるのもステルス技術といわれます。
近年、私たちが気づかないうちに税負担が増加する「ステルス増税」が進行しています。ステルス増税とは、税率を直接引き上げるのではなく、控除の縮小、基準の変更、新たな税の導入などを通じて実質的な負担を増やす手法のことを指します。これにより、国民が気づかないうちに手取り収入が減少するのです。政府は財源確保のためにこうした方法を採用することが多く、結果として「収入が減った」「気づかないうちに負担が増えていた」と感じるのです。後述しますが、医療保険料を上乗せして子育て支援金の財源に当てようとしています。不可解な方針です。
「ステルス増税」については、次のような具体的な事例があります。いずれも気づきにくい所得の低下につながるものばかりです。
(1) 高齢者の介護保険料の見直し
2024年4月から、高齢者の介護保険料が9段階から13段階に細分化され、所得が高い高齢者の保険料が引き上げられました。前年の所得が420万円以上の65歳以上の方が対象で、最大で年間約15万円の保険料負担となります。
(2) 後期高齢者医療保険料の引き上げ
少子高齢化の影響で、後期高齢者医療保険料も増額されています。令和4年と5年度の平均保険料は月額6,575円でしたが、令和6年度には7,082円、令和7年度には7,192円になります。
(3) 結婚・子育て資金の一括贈与非課税制度の廃止
父母や祖父母から子や孫への結婚・子育て資金の一括贈与に対する最大1,000万円の非課税措置が、利用率の低さから廃止が検討されています。
4) 退職金控除の見直し
現在、退職金に対する控除は勤続年数に応じて計算されていますが、これが見直される可能性があります。控除額が減少すれば、退職金に対する税負担が増加することが予想されます。
(5) 生命保険料控除の廃止検討
年末調整で利用できる生命保険料控除の廃止または見直しが検討されています。これにより、生命保険料の支払いに対する税負担が増加する可能性があります。
6) 給与所得控除の見直し
現在、会社員の給与所得控除は給与の30%となっていますが、これが引き下げられる可能性が検討されています。これにより所得税の負担が増えることが予想されます。
(7) 子育て支援金の新設
少子化対策の財源確保のため、医療保険料に上乗せする形で子育て支援金の徴収が予定されています。具体的には、医療保険加入者一人当たり、2026年度に月250円、2027年度に月350円、2028年度に月450円が徴収される見込みです。
(8) 復興特別所得税の延長
この税は復興は2011年の東日本大震災からの復興のための施策として設けられ、基準所得額の2.1%が源泉徴収されています。当初は2025年で徴収期間が終了する予定でしたが、2037年まで延長されました。代わりに税率が1%引き下げられたため、政府は『減税した』と強調していますが、2027年からは「防衛増税」として所得税率が1%引き上げられます。
(9) 再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)の値上げ
再エネ賦課金は、すべての家庭や企業の電気料金に上乗せされています。2030年には再エネ賦課金の単価が「3.5円から4.1円」にまで値上がりすることが予測されています。再エネ賦課金の金額は、電力会社から毎月送られる「検針票」に記載されていますが、なかなか気づきにくい税金です。
(10) 森林環境税の新設
森林環境税が年に1,000円徴収され始めました。目的が『森林整備およびその促進』と曖昧です。本当に必要かどうかも分からない税ですが、環境対策と言われると反対しづらい心理をついた巧妙な税です。
これらのステルス増税は、直接的な税率引き上げではないため、気づきにく性質があります。ステルス増税は、消費税のように大きな注目を集めることなく、深く静かに私たちの負担を増やしていきます。特に、「一時的な措置」として導入された税の延長や、新しい税の導入は、知らない間に家計に影響を与える可能性があります。税制は毎年変化するため、政府の発表やニュースを定期的に点検し、どのような影響があるのかを把握しておくことが大切です。
