暗号技術の歴史 その八 支離滅裂な書簡

Last Updated on 2025年7月16日 by 成田滋

2025年7月8日、アメリカのトランプ大統領が日本に対する関税についての書簡を送ったとのニュースがありました。ここで日本に課す新たな「相互関税」の税率を25%にすると表明しました。それに先立ち自身のSNSに日本政府宛ての書簡の文面を投稿しています。公式書簡を一国の総理に渡す前にSNSに投稿するとはなんぞや、です。でもこの日本宛の書簡の英語を解説するのも一興かと考えことにしました。SNS用の英語であることです。

 この文節には、大文字(uppercase letter)での表記が出てきます。「Trading Relationship」と「Trade Deficit」です。通常、大文字は「United States of America」 というように固有名詞などに使われます。しかし、「Trading Relationship」と「Trade Deficit」は単なる一般的な名詞です。英語はドイツ語と違って、文中で普通名詞は大文字で表記しません。トランプは、この貿易関連用語を強調したいのでしょうが、あたかもドイツ語の用法を間違って使ったのかもしれません。

 前段の文節では、貿易を「trade」と表記しましたが、ここでは「TRADE」となっています。表記の仕方が首尾一貫しません。さらに「Number One Market in the World」などどことさら強調してドイツ語の表記を引用しているかのようです。「far from Reciprocal」 「Sectoral Tariffs」といった具合に普通名詞をことさら強調している理由が判明しません。滅茶苦茶な表現です。ドイツ語の名詞には、男性、女性、中性名詞があり、文中ではすべて大文字で表記されます。トランプ政権の英語はドイツ語化しているのか?とも勘ぐられそうです。

 「with your Country」とか「As you are aware」といった口語体の文章はいけません。「with Japan」とすべきです。この書簡は公式な外交文書なので、文語体で表記すべきです。なにか個人と個人のメールのやりとりの文面のような匂いがします。一国の代表が書いた薫りは全くしません。側近の誰かが、他の文書をコピペしたに違いありません。

 この文節の出だしの文章は、「あなた方が何らかの理由で関税を引き上げる決断をすれば、引き上げの数字がどのようなものであれ、関税はわれわれが課す25%に上乗せされることになる」という意味です。しかし、公式な書簡にもかかわらず最後の文章では、「indeed, our National Security!」というように「 indeed」といった口語体を使うこと、「!」という感嘆詞を使うなどとは、異例で失礼な表現です。脅しの気配さえ感じられます。

 最後の文節、「we will, perhaps, consider an adjustment to this letter」という文章も不思議です。「 perhaps」というような思わせぶりな表現もおかしいです。「この手紙に関しては恐らく調整することを考えます」というのも滅茶苦茶な表現です。このような手紙はゴミ箱に捨ててもよいようです。

 最近、トランプ大統領の関税政策を皮肉る「TACO」という造語が生まれ、ウォール街(Wall Street)や交流サイト(SNS)で話題になっています。「Trump Always Chickens Out」で、「トランプはいつも怖じけつく」の頭文字をとった造語です。トランプは、関税に関する通告は「事実上」最終提案だと述べてきました。「最終だが、もし相手側が別の提案を提示し、私がそれを気に入ればそれに応じる」とものべています。言い換えれば「だらしないぞ・逃げる気か・勇気を出せ」のようなニュアンスもあります。関税を課すぞと脅しをかけながら、ゴールポストを変えるのが彼の手法のようです。このような慇懃無礼な通告に「とても受け入れられるような内容ではない。手紙1枚で通告することは同盟国に対して大変失礼で、強い憤りを感じる」と一国の総理が抗議するのは当然です。

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