Last Updated on 2025年5月14日 by 成田滋
合衆国の公的医療保険制の最後の稿です。「オバマケア(Obama Care)」という言葉がしばしばニュースとなりました。通称アフォーダブルケア法(Patient Protection and Affordable Care Act: ACA)と呼ばれ、合衆国第111議会で制定され、2010年3月にバラク・オバマ大統領(Barack Obama) によって署名された合衆国の連邦法のことです。2010年修正の医療・教育改革法(Health Care and Education Reconciliation Act of 2010)と合わせて、1965年にメディケアとメディケイドが可決されて以来、合衆国の医療制度において最も重要な内容の見直しと適用範囲の拡大を意味する医療保険制度です。
ACAという法律の主要条項は2014年に施行されます。2016年までに無保険者の割合はほぼ半減し、2,000万人から2,400万人が追加でカバーされたと推定されています。同法はまた、医療費の抑制と質の向上を目的とした多くの医療提供システム改革も実施しています。この法律が施行された後、雇用者ベースの保険プランの保険料を含め、医療費全体の増加は鈍化していきます。
保険によるカバーが増えたことは、メディケイドの加入資格の拡大と個人保険市場の変化を伴っています。両者ともに新たな支出をし、その財源は新たな税金とメディケア・プロバイダー料金とメディケア・アドバンテージの削減の組み合わせで賄われています。行政管理予算局(Office of Management and Budget) の報告書によると、この法律は主に高額所得者の上位1%に課税し、所得分布の下位40%の家族に平均で約600ドルの給付金を提供することで所得の不平等を削減しようとするものです。
この法律は、メディケア、メディケイド、雇用者市場の既存の保険制度を大きく強化するものといわれます。保険会社は、既往症や年齢を除く人口統計的状況に基づいて請求することなく、すべての申請者を受け入れるようになります。結果として法律は個人が保険に加入すること、または罰金/税金を支払うことと、保険会社は保険者のそれまでの健康状況に基づいて保険加入を拒否することは禁止されます。
ACAの目指すのは日本の国民健康保険のような「公的保険」ではなく、従来の個人が民間の健康保険を購入する枠組みの中で、保険会社に価格が安く購入しやすい保険の提供や、既往症などによる保険摘要の差別などの禁止あるいは緩和を課すものです。健康保険を購入していない個人には確定申告時に追加税を科すことで、今まで保険購入をためらっていた階層に購入を促すものです。
ACAでは2010年から2020年にかけて様々な施政が謳われてきました。2010年1月1日より、新たに以下の様々な大きな変更が加えられています。
1 保険者は以前の健康状況に基づいて保険加入を拒否することは禁じられます。また全ての被保険者に対し、同じ年齢・同じ居住地区であれば同等の保険料を設定しなければならず、年齢・以前の健康状況で差をつけることは禁じられます。ただし、喫煙者は例外です。本改革以前は、初めて健康保険を購入する場合、既往症や購入以前からの妊娠は保険適用外とされることがありました。その状態は改善されました。
2 保険が標準でカバーしなければならない保障範囲(Essential health benefits)が定められました。被雇用者保険、メディケア、メディケイド、その他の公的制度でカバーされない無保険者は、承認を受けた民間保険に加入するか、罰金を払わなければなりませんでしたが、2019年以降は廃止されました.。これは歳入庁の定めによる金銭的困難者、宗教団体の一員ならば除外され、低収入者には補助金を給付できる条項が定められています。
3 全ての州に医療保険交換所が開設され、個人や小規模事業者は、そこで保険内容を比較し保険を購入することができるようになります。連邦政府の定める貧困線の100%〜400%低収入の個人・家庭は保険交換所での購入時に連邦政府より補助金が受けられます。貧困線の133%〜150%の場合、その保険料は補助金が付くと収入の3-4%ほどになります。2013年度の年収$45,960未満の個人や$94,200未満の4人家族は、追加で税額控除を受けるか、また取引所から毎月保険者に送金するかで選ぶことができます。小規模時事業者は補助金を受給できます。
4 メディケイド制度が拡張され、対象者は収入が連邦政府の貧困線で133%の個人・家族まで引き上げられました。また障害の無い成人、補助者のいる児童にも適用されます。メディケイド資格の上限は貧困線の138%の者と設定され、その5%については所得に関係なく資格を得ることができます。さらに子ども医療保険プログラム(SCHIP)の受給要件が簡素化されました。
5 50人以上の従業員を抱えフルタイム雇用者に医療保険を提供しない事業者は、もしそのフルタイム雇用者らの医療保険加入に対して政府が税控除などの形で補助金を出していたならば、事業者は税制上の罰金を払わなければなりません。
オバマケアのまとめ
合衆国の診療は自由診療が基本となっています。高額な医療費に備え、各自が民間の保険会社と契約しますが、低所得者は保険料の支払いが困難となることや、医療費のかさむ慢性病患者等は更新を拒否されたりする弊害があり、医療の恩恵を享受できない国民が少なからず存在しています。アメリカの自己破産の6割は医療費が原因とされます。さらに医療費が原因で破産した者の8割は医療保険に入っていたとも言われています。高額な医療費と質の悪い保険のため、身体的のみならず、経済的にも病気や怪我に苦しめられるのがアメリカ市民の一断面です。
2017年1年に大統領に就任したトランプは、大統領選挙の選挙公約にてオバマケアを廃止するとしていましたが断念しました。オバマケアがその理念に反してあまり支持されなかった理由に、全国民に加入を義務付け、違反すると年収の2.5パーセントにあたる罰金を支払わなければならず、保険料支払いが難しい低所得者には、所得に応じた補助金がもらえるが、補助金給付は増税を招き、納税者は不満を募らせた経緯があります。保険料も大幅に値上がりし、妊婦検診や小児医療など特定の年齢層に限られる医療や薬物治療カウンセリングなど特殊なサービスを受けるための保険料も支払わなければならなくなりました。
さらに、健康状態の良くない低所得者の保険加入が増えた結果、保険金の支払いが急激に膨らんだという経緯もあります。オバマケアでは、保険会社は病歴を理由に保険加入を拒否することはできず、保険会社の支払いが急増し、保険料負担の高騰で中小企業は悲鳴を上げ始めたともいわれています。オバマケア導入前から任意で医療保険に加入し税金を納めていた白人中間層が割を食った不満がオバマケアが支持されなかった理由ともされています。オバマケアの主目的は無保険者の削減であり、医療費の抑制ではありません。2014年の導入以降、無保険者の割合は大幅に減少し、合衆国の国民皆保険制度の実現に大きな役割を果たしています。.
