Last Updated on 2025年3月24日 by 成田滋
アメリカ版の世俗的な完璧主義(secular perfectionism) が広く影響を及ぼしたとはいえ、前世紀アメリカで最も顕著だったのは、宗教的熱意による改革でした。宗教的な熱意が常に社会的な向上と結びついていたわけではありませんが、多くの改革者は、社会悪を治すことよりも魂を救うことに関心を寄せていました。
日曜学校組合(Sunday school union)、家庭宣教師協会(Family Ministry Teachers Association)、聖書・トラクト協会などに積極的に参加し、多額の寄付を行った企業家たちは、利他主義的な考えから、組織が社会的改善よりも精神的な向上を強調し、「満足する貧者(contented poor)」の教義を説いていたことから、そのような行動をとったのです。つまり、宗教心の強い保守派は、宗教団体を利用して自分たちの社会的偏向を強化することに何の問題も感じなかったといえるのです。
他方、急進派はキリスト教を社会活動への呼びかけとして解釈し、真のキリスト教的正義は、独りよがりで強欲な人々を怒らせるような闘争の中でしか達成されないと確信していました。ラルフ・エマーソン(Ralph Emerson)は、個人の優位性を主張した代表といえます。かれは思想家、哲学者、作家、詩人、エッセイストとして活躍し、コンコードの賢者とも呼ばれ、講演者や演説家としてアメリカの知的文化を先導する発言者となります。
エマーソンによれば、人間の大きな目標は、物質的条件の改善ではなく、人間の精神の再生ということでした。そして彼は超越主義(Transcendentalism)を唱道します。1820年代後半から1830年代にかけてアメリカ東部で発展した哲学運動です。超絶主義とも言われます。英語では「乗り越える」を意味する「transcend」という語に由来します。
Wikipediaによりますと超越主義とは「客観的な経験論よりも、主観的な直観を強調する。その中核は、人間に内在する善と自然への信頼である。他方、社会とその制度が個人の純粋さを破壊しており、人々は本当に「自立」して独立独歩の時にこそ最高の状態にある」とあります。
ヘンリー・ソロー(Henry David Thoreau)もエマーソンを師と仰ぎ、薫陶を受けた思想家です。エマーソンやソローらの改革者たちは、同じ志を持つ理想主義者と団結して新しい社会モデルを実践し、主張することに矛盾を感じませんでした。エマーソンらの精神は、同じような考えを持つ独立した個人による社会活動を通じて復活し、強化されることになったのです。
エーマソンは奴隷制について宣言します。「私は奴隷制を排除しなければならないと考える。さもなくば自由を排除することになる」と、その夏マサチューセッツ州のコンコード(Concord))の集会で語り、奴隷制を人間の不正行為の例であると糾弾します。
