Last Updated on 2025年5月28日 by 成田滋
ポスドク(Postdoctoral Researcher)とは、大学院博士後期課程の修了後に就く、任期付きの研究職のことを指します。ポスドク研究員とも呼ばれます。日本では、1990年代から始まった「大学院重点化政策」を起点として、博士課程を修了した人材が増加しますが、フルタイム職は増えず、大学院修了後のキャリアパスに問題が生じています。以前であれば、修了後そのまま大学で助手などとして採用され、准教授・教授となることができました。現在では、修了後にポスドクの期間を経たのち、大学教員などとして採用されるのが一般的です。
このポスドクは多くの問題を抱えています。その最たるものは、期限付き雇用で不安定であるという点です。博士後期課程修了後のキャリア形成過程では避けて通れないポスドクの仕事内容や給与、そしてこの制度や職種が抱えている問題はいろいろあります。現実にはポスドクの期間を数年で終えられず、長期にわたり続けざるをえない状況もあります。このポスドク問題の原因は、1990年代の大学院重点化以降、博士修了者の増加に対して正規職の増加が追い付かなかったところにあるとされています。
学術研究の道を選んだ多くの博士後期課程修了者が経験するのがポスドクですが。この研究職は、期限付きであるという点に注意が必要です。大学の教授や准教授や一部の助教は、正規職ですが、ポスドクは、1年~5年程度の任期が定められています。稀に、任期が延長される場合はありますが、この任期のうちに一定の研究業績をあげることが求められます。さらに、任期終了前に大学や研究機関の正規職や他のポスドクを探すことを強いられます。
2019年度の「ポストドクター等の雇用・進路に関する調査」によりますと、ポスドク15,591名のうち、ポスドク後の進路先として、大学教員などへ転出した事例は1,360名(8.7%)、大学以外の研究開発職への転出事例は435名(2.7%)となっています。多くのポスドクは、不安定な職から転出できていないことを示しています。
ポスドクは任期が決まっているという不安定な中で、一定の成果をあげる必要があります、正規職を含めた職探しも並行する必要がある、という緊張を抱えながらの研究となります。パートタイムのポスドクの場合、年収は100~300万円台で、週あたりの勤務日数や勤務時間が短いため、月に数万円程度になることさえあります。追加で非常勤講師の仕事を複数の大学で掛け持ちをしたとしても、研究時間を確保しながらでは収入は少なめで、勤務が短いので社会保険も適用されないことが多いでしょう。
フルタイム雇用のポスドクの給料は、年収400万円~600万円程度で社会保険もあります。ですが任期期間中に研究成果を出し、正規職を探す必要があることから、不安定な立場であることには違いありません。大学や研究機関におけるポスドクの例としては、研究活動が主な大学教員、大学独自のポスドク研究員制度、そして日本学術振興会の特別研究員があります。
大型の研究費を持つ研究所や大学研究室では、研究費を利用した雇用も可能であり、科研費などによりポスドクとして雇用され、研究の推進や成果のとりまとめなどを行う場合もあります。プロジェクト推進のために雇用されることから、基本的にはプロジェクト内容に沿った研究を行うこととなります。
ポスドク問題の原因は、大学院重点化以降の博士人材の増加に対し、ポストが増加しなかったことであると考えられています。他方で、海外ではポスドク問題というのは日本ほど大きな問題となっていません。この理由の1つとして、博士人材が民間企業などへも就職できている点が挙げられます。企業研究者に占める博士人材の割合は、オーストラリアの17.1%に対し、日本はたったの4.4%となっています。その結果、不安定なポスドク職にある優秀な日本人は海外に職を求める傾向があるのです。私もそうした日本人研究者を知っています。アメリカにはポスドクの協会(National Postdoctoral Association)があり、ポスドク同士の情報交換などで成果を上げています。
