貨幣論 その4 商品貨幣論とは

商品貨幣論の論拠は、「お金の価値はもともと商品そのものの価値から生まれる」という考え方です。古典派経済学や一部の貨幣史研究で広く語られてきた説明です。本稿では商品がなぜ貨幣として考えられたか、その考えがなぜ論拠として不十分といわるかを整理します。

 商品貨幣論の根拠は、主に 歴史観や交換の理論、金属貨幣の存在から説明されます。要は物々交換から貨幣が生まれたという説明です。大昔は米と魚などで物々交換をしていました。しかし交換することは運搬や時間がかかり誠に不便でありました双方の欲求が一致しないと交換は成立しません。必そこに交換しやすい商品が媒介になるという状況になります。それが塩であったり貝であったりするのです。こうして、最終的に 金銀などが 自然に貨幣化するのです。

1923年発行のレンテンマルク硬貨

 金銀は保存性や希少性、そして分割可能で持ち運びやすいという特徴があり、商品として価値があるため貨幣になったと説明されました。金貨は金として価値があり、銀貨は銀として価値があるからです。アメリカの人類学者でデヴィッド・グレーバー(David Graeber)は、「負債論─貨幣と暴力の5000年」という著作のなかで、人類学研究では、純粋な物々交換社会はほぼ確認されていないと主張します。つまり、歴史的に多くの貨幣は国家の税制度と結びついて成立したというのが定説となっています。例えば国家が税を貨幣で支払わせるとか、国家が貨幣を発行することにより貨幣需要が生まれるという立て付けです。

 ところで現在の貨幣の大半は、銀行預金であり電子マネーであり中央銀行が発行する通貨です。これらの通貨は、商品価値を持たないのです。貨幣価値 ≠ 商品価値という式となります。その代わり、現代の多くの研究では貨幣 = 債務(I owe you: IOU)と考えられています。IOUは通常、債務を認める非公式の信用証書のことであり、 貨幣とは「誰かの支払い義務」ということになります。つまり、IOUとは、自分が相手に対して何か(お金、物品、サービス)を渡す義務があることを認める債務の承認であり、貸し手側から見れば、そのメモは「将来何かを受け取れる権利(債権)」ということです。私たちが銀行に預けている「預金」は、実態としては「銀行が預金者に対して発行したIOU」となります。通帳の数字は、銀行があなたに対して「あなたが求めた時に、いつでもその額の現金を支払う義務があります」と約束している証拠です。

 商品貨幣論には深刻な欠陥が指摘されています。その一つは、前述してきたように貨幣が交換手段を起源として生じたという歴史的な根拠がないことだといわれます。もっとも商品貨幣論には、紙幣がどうして貨幣として流通しうるのかを説明できないという見方があります。金貨や銀貨であれば賃金属片としての価値があるとはいえなくもないのですが、紙幣は紙片に過ぎず、その経済的価値はほぼないに等しいのです。一万円札の印刷代は20円といわれるほどです。そこで主流派経済学者は紙幣の存在を商品貨幣論によって説明するために、人々が紙幣に貨幣として価値があると信じているから、紙幣は貨幣として価値があるという論法を持ち出さざるをえなるのです。

 しかし、この論法は紙幣を貨幣として受け入れる々人々がいるからだ、ということを暗黙のうちに前提しています。商品貨幣論には貨幣が計算単位であることについて誤解があるようです。主流経済学の理論では、金貨などの賃金属片の価値は市場における交換によって定まり、それが価値の標準となり計算単位となると主張します。タバコ一箱を例にとりますと、市場における交換を通じてその価値が定まり、それが標準となり計算単位となればタバコ一箱でも貨幣になりうるというのが商品貨幣論です。

 市場には無数の商品があり取引されています。無数の交換レートが発生しうるというのが商品貨幣論です。しかし、現実の貨幣経済における取引はそのようになっていません。これは商品貨幣論が誤りであることを示しているのです。ちなみに、かつて金本位制という貨幣の価値を金の価値に固定することで安定させようとする時代がありました。紙幣の価値を金の保有量と結びつけ、銀行券をいつでも金と交換できることを保証する制度でした。しかし、日本は1931年12月に金本位制を停止し、金兌換がなくなりました。貨幣と金の交換価値は政治的な権威によって決定されたのです。市場が決めたのはありません。その後、1942年に日本銀行法によって管理通貨制度へ移行し、今日の通貨制度の基礎が作られました。商品貨幣論は消滅したといえます。

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