Last Updated on 2025年5月7日 by 成田滋
現在、日本では2024年の8月から「令和の米騒動」と呼ばれる米の価格高騰が続いています。価格とは需要と供給の関係で決まるものです。米の市場への供給が需要に追いつかないとき、価格が上昇するのは当然です。昔から米騒動というのは、買い占めによって価格をつり上げようとすることから起きています。令和の米騒動では、米は買い占められているのか、あるいは米が本当に不足しているのかという検証が必要です。価格を下げるための可能性について私なりに解説していきます。
🥢米の価格高騰の一般的な理由として、次のことが指摘されています。
1 天候不順と品質低下
2023年の作況指数では101で例年並みでしたが、高温やフェーン現象の影響を受け、主要な米産地での収穫量が大幅に減少しました。市場に出回る高品質な米の割合も減少し価格が上昇しています。
2 備蓄米の放出遅れ
備蓄米の主な目的は、国が凶作や災害時の食料供給不足に対応し、国民が安定して米を消費できる状態を維持することです。具体的には、市場価格の安定や流通の円滑化、食料安全保障の強化などが挙げられます。備蓄には100万トン程度が目安にされていて、年間20万トンを備蓄しています。今回、政府は小出しに放出するために、価格は一向に下がらないのです。備蓄米小売店に届いたのはわずか1.4%だったという報道もあります
3 買い置きと買い貯め
外食産業の回復や訪日外国人の増加により、米の需要が増加しています。これが供給を上回り、価格を押し上げています。さらに、米不足や価格高騰の噂による不安が広がり、卸売業者の買い置きや消費者の買い占めが増えたことも考えられます。1973年のオイルショックの時、トイレットペーパーが消えた?ときのようなしかし、米価の高騰には次のような構造的な問題があるとされています。
現下の米価高騰には、生産調整と米の作付面積の減少という問題があります。長年続いた減反政策により、米の生産量が抑制されてきました。その結果、需要増加時に供給が追つかない状況が生まれています。 かつて食糧管理法(食管法) がありました。食糧不足の下で主食である米を政府が管理統制することによって国民に安定的に供給する意図で運用されてきました。 この食管制度の下で、政府は農家から生産者米価で買い入れ、消費者へは消費者米価で売り渡すという二重価格制をとっていました。しかし、食管法は1995年に廃止されます。
1955年以降は米の大豊作が続くようになり、米価は現状維持するという潮流に変わっていきます。1960年には生産者価格決定が生産費・所得補償方式となります。品種改良や機械化の技術進歩により、北海道や北東北周辺で農業生産を拡大し続けたため、米の自給率が100%を突破し、1967年以降は過剰米がでるほどとなります。
1970年代になると、食生活の変化の影響で米が余るようになり、備蓄米が年間生産相当量まで達する事態も生じます。このため政府は減反政策を推進し水稲農家に作付面積の削減を対価に転作奨励金を支給します。いわゆる生産調整です。これが強化され続ける一方で、転作奨励金に向けられる予算額は減少の一途をたどります。そのため、休耕田や耕作放棄の問題が顕在化し始めます。このような問題が深刻になり、1971年に始まった減反政策は、2018年に農水省はこの政策をやめることにします。
農水省は「水田フル活用」を謳っています。水田フル活用とは、水田を有効に活用し、食料自給率の向上を図る取り組みです。具体的には、減反という生産調整によって米作を行っていない水田を利用し、大豆や麦などの転作作物や、米粉、飼料用米などを生産することを奨励する政策です。
🥢米の価格を下げるための可能性を考えてみます。
1 生産量の増加と食料自給の意識高揚
減反政策の見直しや農家への所得支援を強化し、米の生産量を増加させることが考えられます。海外からの米の輸入に頼らず、国内での生産を上げるために、農家には所得を補償し、離農を防ぐことを国は努力しなければなりません。 もし、アメリカからの米の輸入を増やせば、日本の水稲農家は営農が難しくなるでしょう。
2 市場流通の改善
市場を通じた流通量を増加させ、競争を促進することで、価格の安定が期待されます。これには、流通システムの改革や情報の透明化が必要です。 業者の買い占めや売り惜しみを監視し、違反者には厳罰で臨むことです。
🔮 今後の見通し
JA全農によりますと、水稲農家の数は、1970年の約466万戸から減少し続け、2020年には約70万戸と約50年間で7割まで減っています。米の生産量も1970年には1253万トンありましたが、2020年には776万トンと約50年で4割以上、減少しています。 さらに、円安やウクライナ情勢による輸入原料の価格上昇で、米の生産に必要な肥料等の価格が大幅に上昇しており、米農家の経営はますます厳しい環境になっています。このままでは米を作り続けることが難しくなる心配があります。
水稲の生産者目線では、肥料、燃料、人件費など全部上がっていたために、かつての「米の生産単価」があまりにも低過ぎたといわれます。つまり、生産者からすれば現在の米価は望ましいものだという見解です。米の生産単価が旧来のような安価なままだと、離農も増えていくと指摘されています。農家としては、現時点のコストで今ぐらいの単価でいくと「次への投資に回せるような価格帯になった」と言っているようです。
日本の米の自給率は非常に高く、ほぼ100%に達しています。これは、日本の食料自給率を大きく押し上げる要素の一つです。米の生産は、主に大規模な専業農家や法人が担っていますが、高齢化や後継者不足の問題も指摘されています。米の価格高騰は、天候不順や生産コストの上昇など、複数の要因が絡み合っています。これらの要因が解消されない限り、価格の安定は難しいと考えられます。
今後、どのような対策が考えられるでしょうか。JA全農は次のように訴えています。すなわち、酷暑による生産量減少のリスクなどを踏まえて、国全体の生産量目標をもう少し高めに設定した上で、主食用米の生産を増産させるように水田フル活用するというものです。主食用米を作ることのメリットを広げ、もし価格低下が農家の営農継続に影響するほど大きくなってしまう場合には、農家に対する一定の補償も考えていくという政策です。
